転職しますよ、一般人。
迷宮が遠い……。また、話が進まない。
「探索者で宜しいですか?変更は勿論、取り消しも出来ませんよ?」
「構いません。」
夢のマッタリライフ。
その第一歩だ。
「では、今日はもう遅いので、明日ギルドカードを持って、向かって左端の、探索者ギルドに行き、手続きをして下さい。」
「わかりました。」
「探索者としての活躍、期待しております。」
期待しないで下さい。
プレッシャーに弱いんですから……。
……お腹痛くなりそう……。
サッサと、宿に行こう、宿に。
……。
……!。
そうだ、今日泊まれる宿、聞かないと。
お金足りるかな?。
「あの~。」
「はい。どうしました?。」
「オススメの宿ってありますか?。手持ちがあまり無いのですが……。」
「それでしたら、どうぞ、ギルドの二階へ。」
「二階ですか?。」
「はい。二階はギルド直営の宿となっております。因みに、ギルドランクが上がると、泊まる事が出来なくなるので、ご注意下さい。」
「因みに、宿泊料金は?」
「一泊二食付きで銀貨一枚です。」
!!!。
足りる!。
足りるぞ!。
ジョ、はいアウト~。
……。
「二食は?」
「その日の夕食と翌日の朝食です。尚、朝食後、別料金で、お昼のお弁当を販売しております。宜しければ、ご利用下さい。」
宿泊費より高くはないはず。
お昼のお弁当買おう。
この後、
宿に行く、
夕食、
就寝。
翌日、
朝食、
探索者ギルドで手続き、
お弁当購入。
そして迷宮へ。
よし。
予定表完成。
「じゃあ二階の宿に行きます。ありがとうございました。」
「お疲れ様でした。判らない事があれば、また、お気軽にご質問下さい。」
「はい、失礼します。」
*ギルド内*
「……本当に彼奴か?。」
「はい、アニキ。間違いなく。念の為、コイツも使って確認したんで大丈夫です。」
「そうか。あんなガキが、国宝級以上のお宝を持ってやがるのか。」
「[クラン]に入れてから、何時もの様にしようとしたんですが、間に合わずに……。」
「気にするな。機会は幾らでもある。どうせ、冒険者しか無いんだ。後は明日だ。念の為、見張りは付けとけよ。」
「ヘイ、アニキ。」
「さて、幾らで売れるか楽しみだ。」
*ギルド二階*
さて、やって来ました。
カードの隠蔽をあれこれ試しながら来ました。
二階です。
階段を上がった左手側が食堂かな?。
椅子とテーブルがあります。
お酒を飲んでる人は少ないですね?。
奥には、厨房が見えます。
だとすると、右手側が、宿かな?
「こんばんは。」
「おう。……見ない顔だな。新人か?。」
「はい。今日、登録しました。」
「そうか。じゃあ飯か?。それとも、宿か?。」
「取りあえず、両方です。」
「じゃあ、ギルドカードを見せてくれ。」
ギルドカード
サブ職業1:なし
ギルドランク:なし
サブ職業2:なし
ギルドランク:なし
職業スキル:なし
〔銀行預金額:0〕
「これじゃあ、わからんな。すまないが、ステータスカードの方を見せてくれ。」
ステータスカード
名前:タロー・キノモト
年齢:16
気力:100/100
霊力:20/20
職業:浪人
スキル一覧
ユニーク:なし
メインスキル:刀術LV2、歩行術LV2
サブスキル:言語学LV1
武技一覧
飛刀<燕>(ひとう<つばめ>)LV1
居合い<閃>(いあい<せん>)LV1
装備品:刀(無銘)、〔鞘(霊術:状態保持)〕
所持品:〔闇の〕風呂敷、〔拡張の〕箱籠、
流石に所持品は、持っているのに、持ってないってのは、変なので……。
さっき階段を、昇りながら試してたら出来た。
「………よし。確認した、料金は一泊二食で銀貨一枚だ。何泊するんだ?。」
「取り敢えず、一泊で。」
そう言って、銀貨を一枚渡す。
「おうよ、確かに。飯は、向こうで注文して、空いてるテーブルで食べな。ほらよ。」
そう言って渡されたのは、またもカードだった。
「……コレは?。」
「カードキーだ。ギルドカードと重ねて見ろ。」
言われた通りにすると、光のような物が、カードキーに、ギルドカードから流れた?。
???。
「コレは魔力認証と言って、個人を識別出来るものだ。これをした、カードキーでないと、部屋は開かないし、食事を注文する時にも必要だ。外に出る時は、此処に持って来てくれ。」
「わかりました。食事はまだ、大丈夫ですか?。」
「大丈夫だ。後部屋の番号は、カードキーに書いてあるからな。」
確かに、書いてある。
206だ。
その後夕食を食べ、その際、カードキーを特殊な装置に翳すと、206と書かれた小さなプレートが出て来た。どうやらコレが、食券の代わりになるらしい。
便利だ。
食後、受付のおっちゃんに、洗濯は出来るか聞くと、廊下に専用の水場が有るから、そこでしろと言われた。
部屋で、予備の着物に着替えて……、褌も替えましたとも。
水場で洗い、絞りは専用の装置が、ココにもあり、カードキーで動いた。
便利過ぎ……、カードキー。
部屋には、ハンガーが数本あり、洗った着物などを干し寝た。
疲れたから、もう寝よう。
明日は迷宮だ、頑張ろう。
部屋の灯りを消し、(コレもカードキーで……。)
おやすみ……。
朝日が入って、少し明るくなった部屋で、目を覚ました。
明るいと熟睡出来ない方なので、部屋は常に暗くしていた。
昨日は、カーテンを締め忘れていたらしい。
それで、早く起きれたから良しとしよう。
洗濯した着物を畳んで直し、まだ少し、湿った感じがするが、気にしない。
風呂敷を背負い、刀を右手に持って部屋の外へ。
何故刀を右手で持つかって?。
右手で持つのは、刀を抜きませんよ~って、合図と意思表示。
時代劇とかで、刀を抜くひと皆、左手に持ってるでしょう?
あれの逆ですよ、逆。
一般人らしく振る舞わないと、直ぐ争いになりそうだしね~、此処は……。
部屋に鍵をかけ、食堂で朝食を食べ、昨日のおっちゃんに、挨拶をして、カードキーを返した。
一階に降りて、探索者ギルドの受付に向かう。
そこそこ人が集まってるのかな?。
良く判らないが、探索者ギルドの受付前は、ガラガラだった。
また、登録に時間が掛かるから、空いてる方が良いか。
「おはようございます。本日は、どの様なご用件で……。」
「おはようございます。探索者としての登録を、お願い出来ますか?。」
「!?!?!?!?!?!。」
何か、皆固まった。
まあ、そうだよね~。
「本当に探索者として、登録しても宜しいですか?」
「構いません。」
「本当の本当に宜しいですか?。」
「はい。早くして下さい。」
「…………。」
……うわぁ、泣いてる。
「ギルドに就職して五年。初めての新人登録です!。」
「そうですか……。」
「はい。全力で、頑張ります。」
全力って……、あんた。
「そこまで力を、入れなくても大丈夫ですよ?。」
「勿論、大丈夫です。問題なしです。では、早速手続きをします。書類はお持ちですか?。」
「これ…ですか?。」
昨日の書類を渡す。
「…………。次に、ギルドカードとステータスカードをお借りできますか?。」
「……どうぞ。」
「…………。では、これより地下に移動します。此方へどうぞ。」
そう言って、受付カウンターから出て、階段の方へ歩いていく。
慌てて付いて行くと、見張りの居る階段を地下へと降りていった。
見張りの人にジロジロ見られながら、地下へ。
灯りがある為、暗くはない。
寧ろ、後ろを気にせず、早足で階段を降りる、受付のお姉さんの方が心配だ。
転ばないよな?。
長かった階段の終点、おそらく地下五階位だと思うが……。そこには、正面に扉が1つだけあった。
「あの~。ここは?。」
「……。……えっ?。此処は、『転職の間』と呼ばれています。」
「『転職の間』ですか。」
「はい。ところで、不思議に思った事はありませんか?」
「何がですか?。」
「何故、サブ職業にスキルがあるのかを。」
???。
意味が分からん?。
「そちらの説明は、受けていないようですね?。」
コクコク。
「本来、スキルはメインとなる職業のスキルのみを覚えます。」
そうなの?、知らなかった。
「メインとなる職業は、基本的に変更は出来ません。しかしながら、それが就きたい仕事に、適したスキルとは限りません。スキルの恩恵が無ければ、例え運良く、望む仕事に就く事が出来ても、長続きしません。」
「長続きしないんですか?。」
「その原因としては、事故が一番多かったみたいです。例えば、戦闘系のスキルが無いのに、護衛をしたり……。或いは、職人系のスキルが無いのに、製作中に工房を破壊したり……。」
ナニソレ、コワイナ~。
「しかしながら、そんな人々に、ある時、朗報が舞い込みました。」
「朗報ですか?。」
「はい。今から凡そ600年ほど前、1人の宮廷魔導師によって……。それが今の職業ギルドの始まりです。」
「凄いですね。」
「それはもう。当時、転職が可能なのは、王侯・貴族だけでしたから。」
「それって、良く潰されなかったね?。」
「潰すも何も、当時の『アルフォート』国王の勅命でしたから……。国王は、国民の事を考え、当時はまだ、秘匿技術であった、
転職技術の開放、
魔導技術の公開、
更には、
ギルドの設立。
この3つを行った偉大な御方なのです。」
「凄い人だったんですね?。」
「はい、そしてコレから行うのが、その『転職の儀式』です。」
お読みいただきありがとうございます。
迷宮……、本当に遠いな……。