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夜中の短編(ショート) Ⅱ

作者: 惷霞 愁灯

階段を駆け上がっていく。団地の3階というのはノロノロしたエレベーターを使うよりは、足に一時の負担がかかったようが有意義だと思う。学校に設置されているそれに比べてとても急勾配だけど、二 三段飛ばして登ればエレベーターが降りてくるのを待つなんて馬鹿らしくなる。

普段は、階段を駆け上がることなんてない。今日は特別だった。1つ目の理由としては、空が雲に覆われ始めているので洗濯物を取り込まなければいけないからだ。2つ目は、親が出張で一日いないことだ。断然後者の方が心を占めている。元々片親なので一人には慣れている。けれど、普段はテレビやゲームをしたくても制限をかけられていて、決められた時間しかできない。しかし、男親は急な出張のため十中八九それをしていないと高をくくっていた。


雨がザーザーふり始めた。ピチャピチャと水たまりを踏む音が聞こえる。多分団地どうしで反響しているんだろう。この前10階に住んでる友達の家でも同じ音が聞こえたからだ。それに、普通の雨程度なら全く音は聞こえない。だからこそ、より意識的に耳に入ってくる。取り込んだ洗濯物を畳みながらベランダを眺めそんな事に現を抜かす。

お父さんのパンツはなるべく見ないでタンスに仕舞っている時、空から閃光が射した。直後、空が大きな音とともに揺れた。「きゃっ」と声を漏らし屈んでしまった。一人でいるのが少し不安になったが、電話をするというような無粋な真似はしたくなかった。それに今帰ってこられたら、夜中までテレビを見るという悲願を崩したくなかった。


時計の短針が11と12の間を指している。普段は10時に寝かされているため、少し眠いが、シャワーを浴びてテレビを見ていたら心臓がドキドキして、眠れそうにない。

ふいに隣から急にカチカチという音が鳴り、体が震えビクつく。ただ風呂を沸かそうとしていることは頭で理解していても、反射神経が加速しているようで、驚きにすくんでしまう。


突然、部屋が眩しい光に包まれた。そして秒間あけることなく暗転してしまった。さっきまで(少し怖かったので)部屋をできる限り明るくしていたのもあり、辺りが全く見えなくなってしまった。思わず座っていたソファに顔を突っ伏した。団地内でも悲鳴が響いていた。

少し冷静になり、停電だと思いゆっくりと顔をあげ真っ暗なテレビの画面を見た。

するとそこに人影らしいものが写っていた。シャワーから上がってよく拭いてない長い髪の毛が巻き上がる早さで後ろを向いた。が、部屋にも、ましてやベランダにも人はいなかった。



近くの非常用懐中電灯を使って自分のベッドに向かうことにした。心の中は恐怖でいっぱいだったが、布団の中に入ってしまえば安心感が得られると思ったから、急いで自分の部屋の掛け布団に身を包んだ。眠ってしまえば停電していようが、何の関係もないから。

眼を瞑ってから数十分が経ったと思った。停電が直る気配はなく、瞼を力むのが疲れ始めた。そんな時足元になにか気配を感じた。まるで、このまま足を引っ張ったらどこかに引きつられていかれるような。冷や汗が止まらない。体が竦んで動けない。枕越しに動悸を感じている。


唐突にコンコンとドアが鳴った。けれど私は出ることができなかった。「それ」が近所のひとでも、ましてや父親とは到底思えなかった。音は単調に、されど止むことなく私を蝕んでいった。9回ほど繰り返された後、その音は止まった。 すると一時の山場を乗り越えたように私は落ち着きを取り戻した。震えもとまり、気が付いたら足を伸ばして仰向けになっていた。多分酔っ払いか何かが自分の階と間違えたんだろうと納得した。



その矢先。 コンコンと再び音が響いた。  自分の部屋のドアから。


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