1. どんな美女にも秘密がある
軽く読めるものを目指して。どこまでもデコボコな二人の、息の合わない青春をお楽しみください。(全5話くらいになるかと……)
私、小池志麻子には、何もかもが正反対の幼馴染がいます。
スポーツ万能でスタイル抜群。おまけに美人の社長令嬢。その名も、西園寺響子。
私と同じ学校に通う17歳。花も恥じらう高校2年生。
それに比べて私ときたら、運動音痴で背は低いし、その上美人でなくてメガネちゃん。そして、これでもかととどめに貧乏で。
……うう。自分で言っておいて気分が落ち込んでくるこの格差。比較はこの辺にしても宜しいでしょうか。
しかし! そんな一見完璧美少女の響子様にも欠点というものはあるもので、それが唯一私が彼女に勝れる重要ポイントでもあるのです。
例えば、定期考査の数日前のある日。
「美人……美人…………美人………………?」
放課後の教室。机を突き合わせ私と対峙した響子嬢は、しなやかな指で鉛筆を弄びながら悩ましげに国語の課題プリントを見つめます。
決して自分の美しさを誇示したい訳ではありません。何せ彼女は無自覚美人ですので。そして、大抵悩んだ末に飛び出すのが、
「………志麻子ぉぉぉ。小池志麻子さまぁぁぁ、わたくしめにご助力を~」
てな感じに、無駄に甘えた声。無駄に私を称え崇めるのも、彼女の癖でして。
「薄命。美人薄命ね」
「おおっ!! なーるほどね。『美人百命』っと」
……ほう。ずいぶんと長く生きる美人だこと。
「美人、は・く・め・い、ね。百ほどの命では無くて、薄い命。それじゃあ、全国の美人さんもびっくりだわ。ついでに、『佳人薄命』も一緒に覚えて」
「ふむふむ」
まったく分かっているのかいないのか。と、いうかそれくらいの四字熟語……。
ここまで茶番にお付き合いいただきました皆さまお疲れ様です。そしてとっくにお気づきでしょう。
お待たせいたしました。そう彼女、実はお勉強ができません。全くできません。彼女がひとたび口を開けば、「超絶美人西園寺響子」像は一瞬にして瓦解します。それほどに、それはそれは、お勉強ができません。
「まあ、あなたの場合、かなり太く長く生きていけそうだけどね。特に理由は無いけど」
「ん? 何か言った?」
「……何も」
さて。気を取り直して、考査へ向けてのお勉強をば。
机に向かい数分。聞こえてくるのは耳に清かな、器楽部のロングトーン。そして遠くから響くのは、運動部の勇ましくも爽やかな掛け声の応酬。そんなどこにでもある放課後の日常。
の、はずが!
「んー。うーん。うぬぅー」
そこに入り混じるは我らが響子様の低いうめき声。
「…………響子さん。どこが分からないのかしら?」
言って御覧なさいな、と目線は机上に、鉛筆を持つ手は止めることもなく促す私。次にくる言葉なんて分かっているのですから。
「ええと、ぜ・ん・ぶ?」
「……了解」
はい。何が分からないのか分からない、という例のやつですね。
しかもこれ、彼女の場合本気で言っているので要注意です。嫌味でもおふざけでもなく、至って純粋な発言。
「じゃあ、始めから説明してあげるから、良く聞いておくように。一回しか言わないからね」
「はーい」
そして、おまけに小首を傾げて、
「ありがとっ! 持つべきものは頭の良い幼馴染だね!」
己が細長い首を最大限に美しく見せるショートカットをはらりと揺らし、何の淀みのない瞳でそう言ってのけるのです。
響子の無邪気にして破壊力抜群の笑顔に正面から向き合って、正常でいられるのはきっと私だけ。彼女とは、かれこれもう十数年の付き合い。慣れっこですから。
ただし時折、
「ううん。頭の良い幼馴染であれば良い訳じゃないの。志麻子じゃなきゃイヤ、かな?」
と、満面の笑みでとどめの一撃を見舞われます。もう、こんな不意打ちをされたら、さすがの私でもメロメ……っと、そうではなくて!!
放課後の誰もいない教室で、仲睦まじく二人でお勉強。傍から見れば可憐なる乙女たちの会合に、誰もが微笑みをこぼすところでしょう。
まあ、実際は。
「えっ!? 嘘っ!?」
「ん? どうかした?」
「あ、うん。えーと、何これ日本語? ……いとお菓子?」
「……う、うん。日本語、というか古語かしら? ……いとをかし、のことを言ってるのかな?」
とか。
「えっ! 志麻子、もう一回! もう一回やって!!」
「あ、うん。良い? ここは、この公式を使って――――」
「こう……しき?」
「…………」
とかとか。
「えっ!?」
「そこは教科書のここに載っているから参考にして」
「えっ!? 何で何も言ってないのに、私の分からないところが分かったの!? さっすが志麻子!! 持つべきものはやっぱり頭の良い幼馴染だよね! んー、っていうか志麻子じゃなきゃイヤなわけで……」
落ち着いて響子。それ、さっきも聞いたから。二回目は感動が薄いわ。
「それにしても、私の頭の中までまで分かるのは志麻子だけだよー。ありがとっ」
「うん」
そうね。あなたの考えてることが分かる人なんていないでしょうね。良くも悪くも。
「もうあれじゃない? 私達って、えーと…………ぎし……ぎしん、ぎしんあんき? だっけか」
……ええと。
「……それはきっと、以心伝心ね」
今褒めたばかりの親友を疑ってどうする。というか、そんな言葉を知っいたことが奇跡に近いです。意味は分かっていないようだけど。
「そうそう、そうなのよ。いしんでんしん! ……で、何の話してたんだったか?」
「………………」
とかとかとか!
……と、まあ、テスト前となるとこんなお間抜けなやり取りが毎度毎度ある訳なのです。