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終章(完)

ついに最終章です。犯人の思いもかけない動機とは・・・・・・。

     終章


【四日目】


 そうですか。USBメモリーに保存されていたのは、暴力団犯罪のスクープだったのですか。やはり・・・・・松本の醜聞ではありませんでしたね。

 良二や健一に対する脅迫は私の捏造でしたからね。悠太はそんな記事は残していなかったのでしょう。

 その手紙、もう一度読ませてもらえませんか? そうです柳田さんが手に持っている手紙です。

 ありがとうございます。


  理沙へ


 この手紙を理沙が読むころには、僕は身を隠しているか、もしかしたらこの世にいないかもしれません。あの時の摘発がきっかけで、ある暴力団にマークされているからです。

 もしもの時には、先日預けたUSBメモリーを警察に提出してください。何かあれば、僕の親友の「永島竜也」に相談するのが一番です。よくしてくれるはずです。

 それともう一つ、驚かないでくださいね。ある事件を追っていて見つけたプライベートなスクープです。

 理沙は、竜也の兄である「永島裕也」の娘です。そして理沙には腹違いの姉がいます。それは、同級生の「川瀬良二」の娘である「川瀬祥子」です。詳しいことは竜也に訊いてください。

 祥子は現在山手医科大病院の医者をしています。理沙が医者になりたい、というのは、遺伝なのかもしれませんね。

 僕は、君の医者になりたいという希望を聞いて、何とか資金援助をしたいと思っていました。なぜなら、二人は同じ父親の子として生まれてきたのに、その環境に歴然たる差があるからです。世の中というものは不条理です。

 銀行のカードを同封しておきます。暗証番号は妻の携帯番号の下四桁です。入学したあとの生活費の足しにでもしてください。

 大した額ではありませんが、子どもが産まれた時に備えて貯めたものです。残念ながら子どもは産まれてきませんでした。理沙は僕にとって子どものようなものです。遠慮はいりません。

 それから、前述した「永島竜也」は僕が一番気を許せる同級生です。高校、大学と、サッカー部の同僚でした。

 もし、金銭的に困ることがあったら、竜也に相談してみてください。

 理沙の父親は行方不明ですが、その弟である竜也は、理沙の目標のためにきっと尽力してくれるはずです。

 近々クラス会があり、達也と会う予定です。僕からしっかりと伝えておきます。

 彼の家は資産家です。その家は理沙の実家なのですから、甘えて構いません。

 最後になりますが。理沙は、ここまでする僕を不思議に思うかもしれませんね。

 まず、理沙の生い立ちと僕のそれが似ているからです。他人事には思えません。

 僕の母親は、僕を産む時に子宮がんを患っていることが分かりました。僕は無事生まれてきましたが、母親は治療の甲斐もなく、その後すぐに亡くなったそうです。父親はその時から行方不明です。

 そしてもう一つ。理沙の姉の祥子は、祖父が贈収賄に絡んで不当に得たお金で育てられました。かと言って、それを糾弾することはできません。竜也は僕の親友ですからね。

 だから理沙も医者なってください。祥子と同じように医者になってください。

 それが、新聞記者の僕にできる永島家に対する糾弾です。

 でも人を羨んだり、嫉妬したりすることだけはしないでください。

 理沙は余りあるほどの可能性を持っているからです。

 必ず医者になってくださいね。成功を祈っています。

 まだまだ寒い日が続きますが、からだに気をつけて勉強に励んでください。


                         木戸悠太



 僕のからだの中には、まだ涙というものが残っていたのですね。

ティッシュを貸していただけませんか・・・・・。


 架空のリストラだけでは動機になりませんか? そうでしょうね。

なぜ昔の自分に戻ってリストラを完遂しなければならなかったか、ですよね。

 だから僕自身がよく分からないのです。僕の病気が完治で止まっていればよかったのかもしれません。完治以上に治り過ぎなければ・・・・・。

 究極なことを言えば、病気にならなかったらよかったのかも。

 そうです。「うつ病」は誰でも発症する可能性があるポピュラーな病気です。でも、その病気を重くしたのは、あの不吉なメールです。過去のことを忘れてしまうほどに「うつ病」を重症にしたのはあいつのメールです。

 昔、もう遠い昔の話です。僕が会社のリストラのプロジェクトを任されて、抑うつ状態になっている時でした。今考えると、まだ病状は軽いものだったような気がします。聡美、いや川名聡美からメールが届きました。別れのメールです。他人の精神状態を思い遣ることのない忌まわしいメールでした。

 あっ、青い閃光がまた見えました・・・・・。


 ―もうお終いにしましょう。何度話しても同じことです。二度と連絡しないでください。今までありがとう。さようなら―


 そうです。そのメールが、ただの「抑うつ状態」を重症の「うつ病」に悪化させたのです。

 それによって、繰り返し吐き気が襲い、邪悪な嘔吐物で自分のすべてを汚してしまいました。

 僕の周りのすべてのものが、壊れ始めました。

 そして、自分が培ってきた正常な精神が崩れ出しました。

 メールじゃなくて電話をしてくれたなら、こうはならなかったと思います。

 話す「言葉」ではなく、一方的な「文字」の押しつけ。

 それですべてが終わったのです。僕の今までの性格が一旦壊されたのです。その後、新しい性格が作り上げられました。僕の精神が、潜在している邪悪な性格で構成されたのです。

 そうです。そのメールのトラウマが今でも僕を襲います。何度も、何度も、襲ってくるのです。

そのトラウマが、僕を、僕を「邪悪」そのものに変えてしまったのです。

 これって犯罪じゃないのですか?柳田さん。人が人にメールを送りつけて、その人の精神を痛めつける。そして性格まで作り変える。延いては自殺に追い込む。

 それこそ、殺人行為ですよ。メールの送り主が意識していようがいまいが、そいつは犯罪者ですよ。

 僕は、自殺はしませんでしたが、異次元の世界に幽閉されました。

 それは犯罪じゃないんですか?それこそが邪悪じゃないんですか?

 ねぇ柳田さん、教えてください。その人間は犯罪者じゃないんですか?


 だから・・・・・僕は忘れないし、一生恨み続けます。

 僕は川名聡美を死ぬまで恨み続けます。

 結局、八分の八人、みんなが犯した罪ですよ。



 柳田さんは「八分の七の犯罪」というのですか?

 川名さんだけ罪を犯していない・・・・・・。

 なぜ、川名聡美だけ事件に巻き込まなかったかって?

 さぁ、どうしてでしょうね。

 それは今の僕には分かりません。

 昔の僕に訊いてください。

 遠い、遠い昔の僕に・・・・・。

                                         了

 お読みいただきありがとうございました。これは自分が聞いた話を元に書き上げたものです。こころに潜む精神的な「病」と、病に侵されても消えずに燻ぶり続ける「愛」を描きました。他にも「京王井の頭沿線殺人事件」を連載中です。何卒よろしくお願いいたします。

――保存原稿から、コピーして貼り付けたため、段落揃えが不備で申し訳ありませんでした。お詫びいたします―― 

                             【修さん】より

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