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え?テスト…?――チェスとーッッ!!

突然だが、私は自分が賢いと思っている馬鹿だ―。



「私は自分が賢いと思っている馬鹿だ。

 私は自分が賢いと思っている馬鹿だ。

 私は自分が賢いと思っている大馬鹿だ…!」


目の前に広げている紙をわなわなと震わせながら、まじないのように私は3回唱えた。

 oh,ノオォオオオオ!!!

「shit!!って奴だわ、ありえない。ありえない。」

「…何やってんの、大丈夫?冬子?お腹痛い?」

ぐらりと傾きそうな私の背中にふわりとした優しい声がかけられる。

私の唯一の友達が、返却された答案用紙を受け取ってそのまま遠い世界へ渡ろうとしていた私の精神を連れ戻しに来たらしい。

「サイアクよひまわり。生理セイ・リーの時よりひどいわ、死にたい。」

暗い表情と無感情な声でこれ以上ない悲哀を表現しながら振り向くと、長い髪を三つ編みにした少女の綺麗な顔が、心配そうに私を見ていた。

「……そんなにひどかったの?」

寄ってきた親友、鴨川ひまわりに何も言わずに答案を差し出す。

「あら、ぴったり60点。悪くないじゃない。このテストどこのクラスも平均50点台らしいわよ?」

何が不満なのかと不思議そうな我が友に、逆に聞いてみる。

「……あんたは?」

「え?」

「ひまわりは何点だった……?」

「……82、かな。」

私から目を逸らしたひまわりの答えに、体から力が抜けて机に突っ伏した。

腕を挟むなんて軟弱な事はしない。直だ。冷たい机に容赦なく玉のお肌を貼り付ける。今の私の悲しみを表現するにはそれしかない。

「ああ、不思議。体が泥のようだわ。とても素敵な気分ってやつよ。」

「あの、お願いだから死んだ目でこっちを見ながら無表情のまま棒読みでウフフフ笑いをするのはやめて!?」

悲鳴に近い声をあげたひまわりを優しい気持ちで眺める。主に胸の辺りを。

「えっと…どうして冬子は私の胸をじっと眺めているの?」

さっと両腕で意外とある胸を隠したひまわりの姿に結論が出た。

「……駄目ね、この傷を癒すには揉むしかないわ。よし姉ちゃん!そのチチよこしな。」

「答えになっていないようで凄く答えになっているお返事を頂いたわ。――通報させてもらいます。」

笑顔のままさりげなく後ずさるマイフレンドを逃がさないために、両手をわきわきさせながら机から顔を離す。

(本気の目だ…っ!!?)

にじみ出る私のセクハラオーラにひまわりが怯えるうさぎさんと化したとき、獲物に飛びつくヘビの如くズバッと立ち上がり飛びかかろうとした私の出鼻を後ろからの奇襲が捉えた。

「うごっ!?」

スパーンと小気味いい音が私の頭で炸裂し、思わず椅子に座り直してしまった。

その私の背後から、悪意の塊のような声が届いた。

「さっきから何をやっとんだおのれは」

……こいつの存在を忘れていた。

「おのれ細目、貴様の存在を忘れておったわ…!」

頭に走る悶える痛みはそのお仕置きか…!?

一応こいつも友達に数えようと思うのでこの学校全体における私の友達はなんとか二人はいることになる。女の人生って儚い。

「それにしてもあんたねえ、一体何で叩いたのよ。デカい音させよってこっぱずかしい。」

「叩かれた時のあんたの悲鳴ほどじゃないわよ。『うごっ!?』ってもう女じゃないから。」

唇を尖らせて振り向くと、そこには美人と呼んでやらなくもない細身の少女が立っていた。

切れ長の目が特徴的な和美人といった風情の、悪びれもせずに私を見下ろす黒髪ロングストレートのこいつは瀬多海未せたうみ。昨日の友であり今日は間違いなく敵だ。

手には丸めた数学の教科書を持っていた。色んな意味で私への凶器である。

「公衆の面前で人の乳触ろうとしてるお前の方がよっぽど恥ずかしいわ。トイレでやれ、トイレで。」

「いや、私は…トイレでもやらないで欲しいな……すごく。なんでトイレかな……。」

軽く怯えの混じった儚げな面持ちで胸を隠したまま私達から顔を背けるひまわりに、海未は神妙な顔をして押し黙った。

……いや、なんか言えよ。

「……んで?どうしてあんたはそんな落ち込んでるわけ?脳筋のあんたが数学で平均より上とったんだから上等じゃない。」

「誰が脳筋よっ!」

ガタッと勢いよく立ち上がり、まさに最低な侮辱ってものに抗議する。

「あたしの事だと思うか?あんたしかいないでしょうが。」

ありえないぐらい失礼な台詞をしれっと言いやがった。

そんなこいつを至近距離で睨みながら、親指で窓の外を指す。

「ようしわかった表さ出ろ!校庭の肥やしに代えてくれるだべ!」

「……面倒だからとりあえずキャラを統一しなさいよ。」

た、溜め息までつきおったぞこの女!?

「くぅ…、これが優等生の余裕って奴か!?」

「優等生ってのは先生に嫌われてないやつの事を言うのよ。当然私は違う。」

軽く鼻を鳴らす海未。

「まあ確かにあんたはどっちかというと問題児よね。」

「あんたにだけは言われたくない。」

その言葉には手を広げ、舌を出すことで答えておく。

「ところで海未、……あんたは何点だった?」

「名前を書いてなかったから0点。」

「…………。」

「……本気で嫌そうな顔しないでくれる?」

「で、何点なのよ…!?」

「はン、100点よ。ひゃ・く・て・ん。……気は済んだ?」

がくっ、と椅子の上に崩れ落ちた私の体。

「鬱だ。死のう。」

悲しすぎて判を押したような反応しか出て来ない。教室の隅の方でなるべくコンパクトになっていたい気分。

「どうして私が60点のテストでこのテキトー女が満点なのよぅ……。」

「どうしても糞も、ペーパーテストの点で私と張り合おうなんて、学年2位の奴でもしないわよ。無駄だから。」

テストの用紙をひらひらさせながら言い切る。規定事実を言っているような表現が大変憎たらしい。

「ふわぁ、やっぱり海未は凄いねえ。」

その無駄にある自信と点数にひまわりが感嘆の声をあげた。

そう、何故だかこの海未という生き物は、めちゃめちゃ頭がいいのである。それこそ常軌を逸しているぐらいに。どうせ光合成でもしているのだろう。

「くっ!どうして私に数学のテストができないなんてマヌケな属性がついてるのよ!」

「数学に限らず筆記テストは全部苦手だろお前。」

海~未~はひどい~なー、失礼~な~♪

「うるさい!私みたいにスポーツ万能、眉目秀麗ときたら頭脳明晰ってくるのが基本でしょ?後輩の女の子に黄色い悲鳴をあげられながらお姉様お姉様言われるべきでしょう?どうしてキャラを捨ててまで必死こいて勉強したテストの点がたかが平均より10点も上回らないレベルなのよ!」

「……自分で眉目秀麗って言うなよ。」

「突っ込むところはそこだけなのかなあ……?」

どうでもよさげな海未と苦笑いのひまわり。

もっと真剣に私の悩みを聞けよ!!

「とにかく!私は完璧マックスハートの超女王様として全国美少女の憧れの的になりたいの!だから海未、私と脳みそ交換して!?」

「意外と面白いらしいわよねプ○キュア……真剣な様子だから逆に聞いてみたくなったんだけど、あんたはどうやったら人間の脳みそを交換できると思っているわけ?」

「お互いの頭に曲がるストローぶっ刺して、週末のカップルみたいにちゅーちゅーしあえば脳みそぐらい簡単に入れ替わるでしょ!!」

「仮にできたとしても真顔でそんなキモイ発想を披露できる奴と脳を交換したくない。」

「薄情者!!」

終始テンションの上がらない海未の態度にはそんな形容詞しか見当たりません!!

「もうひたすら面倒くさくなってきたから、試しに一回長距離トラックにでもひかれてみればいいじゃない。あんたなら多分死なないから。」

「あの、海未さん…?アナタは私の事を一体なんだと?」

彼女はほとんど即答してくれました。

「……ターミネーター?いや、コンボイとか…。」

(……ロボコップ、かな…?――――あっ、アイアンマンがいたわっ!!)

「どうしてかひまわりにまでバカにされてる気がするわ。そんでもってどうしてか二人共私がもはや機械生命体だと考えている気がする。――――せめて生身のヒーローで考えろよッッ!!?攻殻機動隊の素子お姉さんですら本物のサイボーグなのにメスゴリラとしか呼ばれてないんだよ?よく考えて?コンボイはないだろ!?あんな男らしすぎるフォルム花の乙女に真似できるか!!」

「素子お姉さんって……、あんな濃い人を歌のお姉さんみたいに言い切ったわね。」

「そこはどうでもいいわよ!!」

いつの間にか中心になった私の机を叩く。

「えっと、じゃあ、乙女って坂本竜馬のお姉さんの……?」

「なんでそんなマイナーな個人名を出すんだよ!!その人あだ名が土佐のお仁王様だろ!?遠回しかつわかりにくいけどびっくりするぐらい馬鹿にしてるだろ!!?乙女さんは関係ないよ!!」

「まあ、話を戻すけど、別にあんた勉強したら進学できる程度には点数とれるんだからいいじゃない。誰にだって欠点はあるわよ。あたしだって運動はからっきしだし。」

あたしの全身全霊のツッコミをさらっとスルーしやがった!!

(どうしてトーコって、そういうテストに出そうにないしょーもない歴史とかばっかり覚えてるんだろ?)

「ひまわり、この状況で黙ってモノローグで突っ込むのはすごく性格悪いと思うの私。」

しかし確かに海未のスポーツは酷い。冗談抜きで酷い。

どのぐらい酷いかと言うと、サッカーで蹴ったボールが真上に飛んで自分の頭に落ちてくるぐらい酷い。サッカーボールの物理法則を無視しているような動きにはむしろ凄まじい力学計算の必要性を感じる。

この女、スタンド攻撃でも受けているのではないだろうか?

だがそんな私の考えは無視して話は逸れる。

「そうねえ、冬子は黙っていればとても知的な美人に見えるし。私も気にすることないと思うけど。」

ひまわりの言葉に同調して海未も頷いた。

なんかひまわりの天使みたいな声で言われると聞き逃しそうになるけど、……なにげに黒いこと言われてない私?

あんまり寡黙な方じゃないんだけど、黙っていなかったらどうなの?

これからひまわりはそういうキャラで行くの?

「わかってない。わかってないわ。あんた達は何もわかっちゃいない!!そんなだからいつまでたっても戦闘員1号2号なのよ!」

「馬鹿に馬鹿にされてる感じってすごく腹立つよな。」

「冷静に考えたらランクアップして怪人って呼ばれるのはもっと嫌だよね。」

全員の会話が噛み合ってない!!もういいっ!勝手に喋る!!

「いい?完璧にこそ価値があるの。穴があっちゃダメなのよ!私の目指す所には!!パーフェクトでキラーなクイーン!!ジョジョ立ちしながら貴様見ているなッ!?溢れ出る圧倒的なカリスマ!!これこそ私のあるべき姿よ!」

「ひまわりまたそこ間違えてるわよ?」

「ああ!!ほんとだ!ありがと海未。」

二人はいつの間にか椅子を持ってきてテストの訂正を始めていた。

「聞けよッマジでッ!!」

そりゃ私も叫ぶわよ。

「聞いてる聞いてる。あんたが吉良吉影のファンだってことはよくわかった。」

「全然違うわよ。あんな変態に憧れを抱くか。それをいうならDIOの方よ。」

「あいつも十分変態じゃない。馬の上で器械体操したり、人の靴にシチュー入れたがったり。」

「いや、誤解を生むような場面のチョイスにしてもあんた悪意がありすぎるわ?」

わざわざそこ選ばなくてもよくない?確かに血が出るまで頭ぐりぐりとかやっちゃうけど。


ほんとはかっこいいのよ?DIO様少なくとも私は好きよ?

「どっちが好きでも私は別に構わないけど、そんなにミス・パーフェクトになりたいんならテストの訂正ぐらいした方がいいんじゃない?」

「ハイ。」

……ひまわりに見せている自分の答案を指さす海未に、私はすごすごと席について一緒に勉強するしかないですじゃ……。



まあ、どうせなら海未の解答を移す間に、自己紹介でも済ませておくとしよう。

私は朽木冬子クチキトーコ。巷で大人気の女子高生ってやつだ。

好きなものはひまわり。お気に入りのチョーカー。マンガ。あと美少年美少女。今欲しいものはIQ。少ないものは友達。

で、趣味はジョジョ立ちの練習。

……なに?……いいじゃない、好きなのよJOJO。







いいじゃない。ちょっとぐらい。




戦闘員1号2号の真ん中に立つトーコさんはまさしく怪人ポジですね!!

とか思って、素晴らしい考えじゃないか!!とか思った。


目がキラキラした。


後で冷静になってこの後書きを見て、きっと死にたくなるんだろうなぁー。わぁー素敵。

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