こんな告白のカタチ
「……えーっと」
放課後。
さて帰ろうかというところで、胸ポケットに入れていた携帯電話がメールの着信を告げ、画面を開いて見てみれば、『屋上に来て。待ってる』との簡潔なメッセージが書かれていた。
「……なにしてんの?」
その言葉に従って屋上に来てみれば、メールの送り主である彼女はそこにいた。
正確には、落下防止用のフェンスの外側に。
あと、一歩でも足を踏み出せば、重力に従って落下するという、危険な位置だ。
「見てわからない?」
「風を感じてみたかったとか?」
「自殺しようかと思って」
僕の叩いた軽口を無視して、思ってはいたけど口には出せなかった事をあっさりと言ってくれた。
「……あー、えーっと。なんで?」
とりあえず何か言わなきゃと思って、必死に搾り出した言葉はなかなか最悪なものだった。
「なんかさ、つまんなくて」
彼女は微笑みを浮かべて、そんな事を言った。
「それだけ?」
「うん。それだけ」
全く、なんだこの展開は。もしかしたら青春の甘酸っぱい一ページが刻まれるかと、少なからず期待していたというのに。
「最後にさ、お別れを言いたくて」
彼女はそんな事を言う。
「お別れって……マジなの?」
「うん。私はこれから鳥になります」
少しおどけた調子で、詩人めいた言葉を紡ぐ。
冗談じゃない。
「あー、あのさ」
僕は彼女をなんとか止める言葉を模索する。だけど、僕の貧困なデータベースはあまりにもありきたりで、下らない言葉しか検出してくれない。
「無駄だよ」
教室に置いてある辞書をなんで持ってこなかったんだと後悔している僕に、彼女は短く、そしてはっきりとそう言った。
「止めても、無駄だから。お願いだからさ、止めないで欲しい」
その言葉には確固たる意思が存在していた。
ここから飛ぶという、そんな馬鹿げた意思が。
僕は、自殺というものに関して言えば最高に下らないものだと思っているし、死にたい奴は勝手に死ねば良いとも思う。
だけど、その相手が、僕の好きな女の子の場合は、やっぱり勝手が違うだろう。
僕は好きな人が幸せならそれで良いと、格好良く諦められるほどに器量が大きく無いし、かといって想いを口に出す勇気も無い臆病者だ。
「だけど」
だから。
「僕は君に死んで欲しくない」
これは僕のエゴなんだろう。
「どうして? 私が死んでも、君には何も関係ないじゃない」
彼女は残酷で冷酷な言葉を僕にぶつける。
「関係無い事は無いさ」
だって、僕は。
「君の事が、好きだから」
精一杯の勇気を振り絞って言った告白に、彼女は少し驚いたような表情で、だけど優しい微笑みをすぐに浮かべて。
「ありがとう」
と。
そう、言った。
それが、彼女の最後の言葉だった。
* * * * *
「っていう夢を見た」
僕は屋上で、今朝見た夢の話を彼女にした。
「なんていうか、ロマンチックなのかそうじゃないのか微妙な内容だね。っていうか何で私が自殺なんてしなきゃいけないのか、そこら辺が謎だよ。君からすれば、私はそんな儚いイメージで成り立ってるのかな? 酷く心外だけど」
「…………」
なかなかの酷評だった。僕の心は崩壊寸前。
「それに――」
彼女は優しい笑顔で、辛辣な言葉を続けた。
「――告白としては、最低だね」
初投稿で禁断の夢オチ。
やっちまったと思う前に、やってやったと思う俺は多分もうダメなんだろう。




