夏世界
「今日の空、きれいだね」
あの日の凪咲の言った言葉。
私は今でもはっきり覚えてる。
――あれは4年前。
小5の夏だった。
「夏休みもあと一週間なんだねー」
「あっという間だよね」
私たちは「宿題」という悪魔の言葉をどこかへ蹴り飛ばし、
うきうき気分で歩いていた。
「でも今日はすっごく楽しみ。
なんたって人生初めてのキャンプだし」
「だね。おまけにお母さんたちがカメラを持つことを許してくれたしね!」
私たちは日帰りキャンプに参加するために児童館へ向かっていた。
背中にリュックをしょって、手に使い捨てカメラを持って。
「あ」
突然凪咲が立ち止まった。
上を見てしまったという顔をしている。
「ど……どうしたの?」
凪咲は私の質問には答えず、無言で空を指差した。
つられて空を見ると言葉を失った。
「……すご」
そこには一面の青が広がっていた。
雲一つない快晴が。
「あ、飛行機」
それは真っ青なキャンバスに一本の、いや二本の線を描いた。
「今日の空、きれいだね」
凪咲がそういうのも頷けるほどきれいだった。
私たちは思わず顔を見合わせた。
「せっかくだし、撮ろっか」
――小6の終わりに凪咲は転校していった。
それ以来連絡を取っていない。
ふと空を見上げた。
あの日と同じ、一面の青。
ひとつを除いて。
生徒手帳にはさんでいるあのときの写真を取り出す。
そして凪咲も同じものを見ていることを願って呟いた。
「飛行機、通らないかな」