エピローグ
世界が、静止していた。
戦闘の余波も、破壊の痕跡も、すでに存在しない。
ここはレイグレンが即席で作り上げた、何もない空間だ。
その中心に、二人が立っていた。
白髪蒼眼の少女――ノルン。
そして、灰髪の男――レイグレン。
ノルンが先に口を開く。
「彼は頑張ったさ」
軽く、いつもの調子で。
「精々煉獄止まりの魂を、天国に招待するんだから。
報いとしても十分だろう?」
既に自力での治療を終えたレイグレンは、黙ってノルンを見る。
その視線は少々冷えたものだ。
「煉獄に天国ねえ…」
薄く嗤う。
「それ、貴方が勝手に作った箱を
そう呼んでるだけじゃないですか」
ノルンの表情が固まった。
「……………」
レイグレンも、続けない。
「……………」
沈黙が落ちる。
何もない空間だからこそ、沈黙だけが重い。
やがてノルンが、小さく息を吐いた。
「……君、痛いところを突くね」
レイグレンは肩をすくめる。
「そういうのは信じない性質でしてねえ。
でもまあ……貴方の言葉に嘘は無いでしょう」
言葉は柔らかい。
内容は、鋭い。
ノルンは視線を逸らさない。
「……人は誰しも、幸福を追い求めて生きるものさ」
間髪入れず、言い切る。
「ゴールが幸福なら、良いじゃないか」
レイグレンは一瞬だけ、口元を歪めた。
肯定でも否定でもない、厄介な笑み。
「……そうですねえ。
救われた本人が満足なら、それが正解ですか」
言い方が、徹底して他人事だ。
「ただ――」
ほんの少し、声が低くなる。
「それを『天国』と呼ぶのは、貴方の自由。
そう呼ばないのも、私の自由でしょう」
ノルンは、何も言わなかった。
訂正もしない。弁明もしない。
ただ、淡々と結論だけを置く。
「彼は救われる。それでいいじゃないか」
そう言い残し、ノルンは霞となって世界から消えた。
残るはただ、瞳の奥に狂気を宿した呪具師が一人。
◇ ◇ ◇
――その頃の天童大貴。
天国という名の、望む限りの幸福が無限に湧き出る世界。
苦しみはない。不安もない。
失敗も、後悔も、存在しない。
欲しいものは手に入る。
望んだ景色が出てくる。
そして、あらゆる行為が、誰からも責められない。
「うっひょぉぉおおお!!」
天童の声が、弾けた。
「神様ありがとう!!」
天童大貴は、満面の笑みで叫ぶ。
そこには、迷いも疑いもない。
彼が欲しかった救いは、確かにそこにあった。
FIN
本編ラスボスには勝てなかったよ…END でも天国行きでハッピー
本作は『紫華の付与師』世界における外伝IFにあたります。
本編を未読でも読める構成ですが、既読の場合、一部の人物や概念の解像度が上がります。




