『忘れ去るまえに』
朝のひかりのなかで
わたしは名を 風に放った
それは ひとつの夢のように
やわらかく 消えていった
ひとの涙が 頬をすべるとき
知らぬ水音が 胸の奥で
忘れかけた記憶を ゆらす
──それは 遠い丘のうえで
あなたが見た わたしの影
肩にふれた ぬくもりは
夕映えのなかの かすかな夢
誰の夢とも 知らぬまま
わたしは そっと 目をとじる
花びらが ひとひら 空に舞い
どこかへ ゆくとき
わたしもまた かたちをなくし
やがて ひそかに 咲きそめる
夢のなかで あなたは わたしを呼び
記憶のなかで わたしは あなたを探す
そのことさえ 忘れたとき
ひとは 独りになるのだろう
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