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『木こりの長者とプレスマン』

作者: 成城速記部

 あるところに木こりの男がいた。山に入って木を切ろうと思ったときに、おのに曇りがあるのに気がついて、丁寧に磨いていると、今までは気がつかなかった大木のうろを見つけた。随分大きなうろであったので、入ってみると、向こうへ抜けることができたが、そこは、もとの山ではなかった。野原を抜けると、大層なお屋敷があって、使用人たちが皆、声を上げて泣いていた。木こりの男が、どうしたのか尋ねると、年に一度、山から生き神様がやってきて、人身御供を差し出さないと、村人が皆、食われてしまう。毎年、若い娘を選んで、人身御供に出しているが、ことしは、この屋敷の娘が人身御供に出されることになっているので、皆、泣いているのだという。

 見ればきれいな娘であったので、木こりは、気の毒に思って、それじゃ、だめでもともと、俺がその生き神様を倒してやる。倒せなかったら俺が食われるから、その間にお前たちは逃げるがいい、と言ったところ、皆、喜んで、ごちそうやら酒やらをふるまってくれた。この屋敷の娘は、大層感謝して、隣に座って酌をしてくれた。もし、生き神様を倒すことができたら、俺の嫁になるかと尋ねたら、顔を赤らめて、少し考えさせてください、と答えた。

 木こりの男は、白木の棺に入ると、村人たちにかつがれて山中のお堂に運ばれ、村人たちは逃げるように帰っていった。木こりが棺の中でじっと待っていると、生き神様がお堂の扉を開けて近づいてくる。足音がするところを見ると、どうやら、手足のある生き物らしい。それでもじっと待っていると、生き神様が棺のふたを開けてきたので、木こりの男は、えいっとばかりに、おのを振るったところ、おのは生き神様の眉間に刺さって、額をぱっくり割った。額から出た血で目が見えなくなったらしく、右往左往しているのを見て、もう一撃で倒せると思ったが、おのは生き神様の額に刺さって取り戻せない。何かないかと懐を探ったところ、プレスマンがあったので、耳に突き刺したところ、聞いたこともないような気持ち悪い声で叫んだかと思うと、生き神様はどうと倒れて動かなくなった。

 月の明かりで見てみると、生き神様は、大きな猿のようであった。おのとプレスマンを回収し、生き神様の体で血をふいて、棺に戻って寝てしまった。

 夜明けを待って、村人たちは、木こりの男の様子を見に来た。木こりの男が食べられてしまっていたならば、すぐに村を捨てて逃げなければならないので、足の速い者が選ばれてやってきた。恐る恐るお堂の中を見ると、棺の中からいびきが聞こえる。いや、それより、棺のかたわらに猿の化け物が顔から血を流して死んでいる。村人たちは、棺の中の木こりの男のおのを勝手に借りて、猿の化け物の頭を何度もかち割った。お堂は、もう使われていなかったので、猿の化け物ごと焼いてしまった。

 村に戻った木こりの男は、村人から下にも置かぬもてなしを受け、屋敷の娘を嫁にもらって、裕福に暮らしました。猿の化け物を倒したプレスマンは、妻となった屋敷の娘が速記をするのに欲しいというのでやりました。



教訓:この手の話は、成功譚として語られるが、食われてしまった失敗譚も、数多くあるはずである。

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