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第三章:再構築という選択
季節が変わり、体調も少しずつ整ってきた頃。水瀬は、母と散歩に出かけるようになる。風のにおい、咲いた花、遠くの子どもの声――それらが、かつての“成果”よりも豊かで、自分に優しいものだと感じるようになる。
だが心の奥に、問いがある。
「未来だけを見て生きることに、意味があるのか?
社会復帰を“正解”としなければ、私は誤っているのか?」
母が静かに言う。
「未来を見なくてもいい。今日を感じて、生きてるなら、それでいいんじゃない?」
水瀬は答えを出さない。ただ、自分の“感じ方”を信じてみることにする。
それは哲学者たちが問い続けた「真理」ではない。
けれど確かに、“生きる実感”だった。
水瀬はかつてのようには戻らない。戻らないという選択を、自分で選ぶ。
社会が定義する「回復」ではなく、自分の輪郭で選ぶ「再構築」を始めるのだ。