あーかい部! 36話 黒ねこ
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
「……、」
あさぎはソワソワしていた。
「あさぎが1番か、早いな。」
ひいろ入室。
「なんだひいろか……。」
「なんだとはなんだ。」
「ごめんごめん、安心したって意味。」
「安心?……ああ、まだ今朝のこと引きずってるのか。」
「引きずってるって程じゃないけどさ、やっぱり警戒しちゃうんだよね。」
「黒ねこに横切られたからって、本当にみんな不幸になってたらもうとっくに駆除されてるはずだぞ。」
「野良犬も駆逐されたもんね。」
あさぎは、黒ねこに前を横切られると何か悪いことが起こる……という迷信を気にしている様だ。
「それに横切られた方がまだマシだろう。」
「もっと酷いことがあるの?」
「ワタシと目を合わせたねこは回れ右して逃げていくぞ?」
「無敵じゃん。」
「迷信が本当ならな。」
「ひいろは迷信とかオカルトは信じないタイプかぁ……。」
「まあ、そうだな。目に見えて触れられるものを大事にしたい。」
「そう言われると私が馬鹿みたいじゃん……。」
「いや、星の大河に引き裂かれた宇宙の恋人や、キスで解ける呪いなんかに想いを馳せられる感性だって、立派なものだと思うぞ?」
「人のことロマンチストみたいに言うじゃん。」
「違うのか?」
「そりゃ、目の前の恋人とよろしくすることにフォーカスする官能小説家様からすればロマンチストなんじゃない?」
「人のこと現金なやつみたいに言ってくれるな。」
ちょっとの間、あさぎとひいろはお互いを睨み合い沈黙した。
「……って、このまま険悪になったら黒ねこの思う壺だな。」
「危ないところだった……。っていうか、黒ねこが不幸にしてるのかな?」
「わからないが、横切るかどうかを決めるのは黒ねこだろう?」
「確かにそうだね……。」
「まあ黒ねこの心中なんて人間にはわからないけどな。」
「でも黒ねこになったらウッキウキで嫌いな人の前反復横跳びしちゃうかも。」
「性格終わってるな……。」
「ひいろはやりたくならないの?」
「不幸を望む程人を憎んだことはないな。」
「くっ、良い子め……!」
「あとねこの体格じゃあ反復横跳びしても横切れないんじゃないか?」
「確かに……!?」
「……。」
「どうしたのひいろ、急に考えこんで。」
「いや、『黒ねこ』と『横切る』、どっちが不幸の条件なのかと思ってな。」
「『黒ねこが横切る』から不幸になるんじゃないの?」
「そうとも限らないぞ?部屋の中で黒光りする素早いヤツが前を横切ってみろ、不幸だろう?」
「それはやだなぁ……。」
「信号待ちしてる時に目の前で車が水溜りを跳ねてみろ、水がかかって不幸だろう?」
「不幸だなぁ……。でも言いたいことはわかったよ。」
「そうか。」
「……で?検証でもするの?」
「それもいいが、人を巻き込むのは違うだろう。」
「じゃあ、私たち自身で検証するのは?」
「そう都合よく黒ねこがいるところなんて
「あるんだなぁこれが。」
あさぎは得意げにスマホの画面をひいろに見せた。
「なるほどネコカフェか!」
「どう?これから。」
「是非同行しよ……、あ。」
ひいろはカバンの中を漁るような仕草をして言葉に詰まった。
「ひいろ?」
「……すまない。今日は行けそうにない。」
「ええ!?なんで。」
「今日はサングラスの持ち合わせがない……。」
「『サングラスの持ち合わせ』なんて言葉、初めて聞いたんだけど……。」
「仕方がないだろう。サングラスがないと動物には逃げられるし、子どもが泣く。」
「冗談じゃなかったんだ……。」
「ネコカフェには、また機会を改めて行かないか?」
「うん。……はぁ。」
「すまない。」
「いや、そうじゃなくて……迷信、当たったなあって。」
「迷信?」
「ひいろとネコカフェ行き損ねた。」
「そうか?ワタシはあさぎとネコカフェに行く約束ができて幸せだがな。」
「……迷信も幸不幸も、気の持ち用ってことかぁ。」
「だな。」
あーかい部!(4)
あさぎ:はぁ……投稿完了。
白ちゃん:テンション低いわね
きはだ:お、思春期か?思春期か!?
白ちゃん:同い年でしょうが
あさぎ:ネコカフェ行き損ねた
ひいろ:機会を改めて2人で行こう
きはだ:ああ!?ずるいぞ抜け駆けだあっ!
ひいろ:きはだも行きたいのか?
きはだ:めっっちゃねこ好きなんだぞ
あさぎ:知らなかった
きはだ:白ちゃんが
白ちゃん:おい
あさぎ:心中お察しします
白ちゃん:察するな察するな
ひいろ:白ちゃんもねこに逃げられるタイプなのか?
きはだ:『も』から醸し出される悲壮感
白ちゃん:私が近づくとみ〜んな情けない声をあげて逃げるか隠れちゃうのよね
あさぎ:鳩の群れとかもサーッと散るんですよね
白ちゃん:あの愚妹なんでも喋りやがるな
ひいろ:じゃあこんど4人でネコカフェ行くか?
白ちゃん:いいの!?
きはだ:やったー
あさぎ:賑やかになるね
きはだ:にゃんこの断末魔でなぁ!
白ちゃん:丁重に扱いなさい
きはだ:ところでなんでネコカフェの話になったのぉ?
あさぎ:黒ねこの迷信を検証しようって流れになってね
ひいろ:ネコカフェなら黒いのもいるだろう
あさぎ:で、今朝黒ねこに横切られた私は見事にネコカフェに行き損ねたってわけ
白ちゃん:お店閉まってたの?
ひいろ:いや、ワタシがサングラスを持っていなくてな
白ちゃん:サングラス?なんで?
ひいろ:目を隠さないと動物に逃げられるし子どもが泣くんだ
きはだ:なんかもう呪われてない?
ひいろ:呪いとかは信じないから大丈夫だ!
あさぎ:それだと白ちゃん先生も色々隠した方がいいかも……
きはだ:まずはフルフェイスのヘルメットに
ひいろ:近づくと逃げられるなら身体も隠さないとだな
ひいろ:白ちゃん着ぐるみ持ってるか……?
白ちゃん:あるわけないでしょ!
あさぎ:じゃあ大きめのトランクケースにでも……
白ちゃん:ねこじゃないんだから