思春期ながい
自意識過剰な男に、腹が立った。遠くに住む友達の家に泊まりに行った夜のことだ。夜遅く、俺は腹が減ってしまい、いろいろあって一人で外食することになった。見慣れない街を、スマホのマップを見ながら、ワクワクして歩いていた。そんな時、事件が起きた。
スマホのマップから目を離し、前を見ると、前方に一人の女が歩いていた。俺も男だ。女が夜道に一人で歩いていて、後ろに男がいる。そのような状況になった時、女が不安を感じ、警戒することは理解しているつもりだ。俺だって、女に生まれていたら確実に警戒するだろう。
しかしここから、人々が助け合う、愛に満ちたこの社会を、ほんの少しだけ乱す者が現れたのだ。
俺がスマホ片手に道を歩いていると、コートを着た男が後ろから早歩きで俺を追い抜かし、女のところに行き、こう言ったのだ。
「後ろ気をつけてね。」
その時、俺は警戒させてしまった、怖がらせてしまったかと思い、少し焦ったり、悲しくなったりと感情がグルグルしていたが、平然とスマホを見ながら取り繕った。 そして女と道を外れ、一人道を歩いている状況になった。その時生まれたのだ。イライラの感情が。
イライラの感情が生まれる前に、まず自分を疑うことから始めた。俺はそういう性格だ。服装はどうだ?姿勢、立ち振る舞いはどうだろうか?黒のスニーカー、シンプルなグレーのズボン、暗い緑の上着。普通だ。いや、まてよ、寝癖がひどかったから被った黒い帽子。しかも、俺は髪が長い。不自然に見えたか?いやしかも今は夜だ。夜に帽子をかぶる、これは不自然にみえるか。姿勢、歩き方は普通だ、いや、歩くの俺遅いんだよな。先輩に「寒い時は早く歩くもんだろ」みたいな事言われたな。いや、まずスマホずっといじるのはおかしいか?いや、そうでもないか。
いや、待てよ。あの男はなんだ?
まず、俺の記憶から一番に飛び出してきたのは音だ。
「後ろ気をつけてね」
後ろ?夜道に気をつけて、ではない。俺個人に対して言った言葉か?それにしても、声が大きかったな。俺の後ろに歩いていた人たちにも聞こえる声量だったな。悲しいな。ワクワクしてご飯食べに行こうと歩いていたのに、女が夜道を警戒するとかじゃなくて、俺、不審者扱いされたのか?
YouTubeを見てお腹が減ったんだよな。外国人が日本食を食べて感動するやつ。カツ丼を美味しそうに食べるやつ。
いや、まてよ、後ろ気をつけてね言うのは勝手やけど、すぐ女追い抜かしてたやん、あいつ。
というか急に話しかけてくるやつの方が不審者じゃないか?いや、さすがに知人か。じゃあ一緒帰れや!危ない存在がいるんだろ?後ろに。なんだよ…
でも、靴紐結んで俺が追い抜かすのを待ってたんだよな、女の人。信用されてるのは男のほうか?なんなんだろう。もう疲れた。寒いし、お腹減ったし。とりあえず「後ろ気をつけてね」はクソだな。ファックだ。