二話目【村】
いざやってみると『書く』というのは自分にとって難しいものだと言うことを思いしらされました。
あまり楽しくない文章とは思いますが、できるだけ楽しくなるよう頑張ってみようと思います。
山道を抜けて麓の村まで二人はやってきていた。
「やっとついた……」
カゴのなかの女の子は少しやつれた様な顔をしてそう言った。
その様子に男が少し心配そうに話しかける。
「大丈夫か?」
「あのさ、誰のせいで大丈夫じゃなくなってるかは解ってるよね?」
女の子の苛立つ様子に男は困ったように頭をかく。
「いや、悪かった。流石にやりすぎたとは思ってる」
「けっ、そんな言葉で今さら謝っても許されるとは思うなよ。私の心はあれで深く傷ついたんだからな。しばらく反省してやがれ」
そう言うと女の子はカゴの底に体を横たえて目を閉じる。
男はその様子に頭をかくのをやめため息をつく。女の子にこれ以上話しかけるのは諦めたらしく、ここにきた目的である村長の家を探すことにした。
あたりをゆっくり見渡すと少し離れた所に小さな店があるのが目についた。その店の人に場所を聞こうと男は歩き始めた。
……ガラゴロガラ……
カゴの下の車輪が地面を擦る音があたりに響く。あたりに人気はなく、これといった物音がしないためかいつもより大きな音に聞こえた。
「すぴゅ〜〜、くか〜〜、くぴ〜〜」
しばらく歩くとカゴのなかから寝息も聞こえてきた。
男がカゴのなかを覗き込むと熟睡している女の子の顔が見える。
「速いな……」
男は女の子の寝るスピードに対し、そう独り言を呟いたあと改めて店のほうに歩を進めた。
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「なっとうに牛乳は間違いだよ〜」
途中変な寝言が聞こえた様な気がしたが無視して男は歩き続けた。
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店員に道を教えてもらった後、二人は村長の家に向かった。挨拶とここに来た元々の用である届け物を渡して、家を出る。
「ふう………」
時間が経ったのかあたりは赤い景色に変わっていた。地平線が茜に染まっている。真上の空はまだ綺麗な水色が残っていた。
「遅ぇよーおっさーん」
「すまん、待たせた」
女の子は男が村長の家に入っていた間に起きてしまっていたようだ。男は女の子に軽く謝りながら駆け寄りカゴを押して歩きだした。
……ガラゴロガラゴロ……
しばらくまわりの風景を眺めながら女の子はカゴが揺れるのに身をまかせる。
あたりからは静かに虫の声が聞こえてきていた。西の方では夕日が少しずつ山に吸い込まれていくのが見える。
女の子は男の顔を見上げてから
「これでもうここの用は済んだの?」
そう問い掛けた。
「ああ、すぐに出発するぞ」
男が言ったことに一瞬「え」という表情をしたあと女の子は男を睨みつける。
「……おい、おっさん、まさか泊まってかねえつもりか?」
「ああ」
あたりは暗くなってきている。おそらく今から村をでても途中の山で二人が野宿することになるであろうことは誰でも想像できる。
「……おいこらおっさーん、テメェの頭は虫でもわいてやがんのか?つうかわいてるだろ?わいてるよな?」
「おい」
いきなり失礼なことを言う女の子に男は抗議しようとするが、女の子は気にせずそのまま話し続ける。
「せっっかく村に着いたんだぞ、普通少しくらいのんびりしてこうと思わねぇのか?思うだろ?」
それを聞いて男はほんの少しだけつらそうに口を開く。
「…すまない…急ぎの用でこのまま北に向かわなければならなくなったんだ。許せ」
だが男の態度にわざとらしいものを感じた女の子は、頭の中で何かをはじけとばした。
「許せぇ?許せだと…?ふざっけんじゃねえぞ!てんめぇ何日野宿したか解ってんのか!10日だぞ10日!おっさんみたいに元々心の底まで腐ってる連中なら平気だろうがそんなのと私を一緒にすんじゃねえ!私が、私がこの日をどんだけ待ち望んできたと思ってやがる!10日だぞ10日!わかってんのか!雨の日も風の日も雪の日さえも黙って耐えてお前さんについて来てやったじゃねーか!なのにどうして!?おっさんは私を人形かなにかだとでも思ってんのか!?私だってちゃんと生きてるんだぞ!だから、だから今日だけは泊まらせてくれぇ!もうこれ以上おっさんのペースに合わせてたら生ゴミになっちまうよ!そして私は鳥達につっつかれて白骨死体になって野ざらしにされるんだぁ!そしておばさまがたの井戸端会議のネタあつかいされるんだぁ!嫌だー!そんなのだけは嫌だー!だから今日だけはー!今日だけはーー!」
「村長に聞いたが、そもそもこの村に宿はない」
男がそう言うとしばらくの間、女の子は灰になっていたが気を取り直して、
「だ、だったら銭湯があるだろうが!せめて、せめて風呂にくらいははいらせてくれ!頼む!」
と言った、が
「それもない、あきらめろ」
男はにべもなく返答する。今度こそ女の子は灰になった。
「ああ…………運命はかくも私に試練なものなのか…。神すらも私を見放したか……。誰かー私に宿をわけてくれー」
「無理なものは無理だと言ってるだろう。それとあまり大きな声を出すな。近所迷惑だ」
「……」
「うるさい!おっさんもう黙れ!今回の件でおっさんに対する私の信用度はゼロだよ!ゼロ!ナッシング!」
「……あの」
「人の信用をことごとく裏切りやがって!だいたいおっさんはいつも私に対して心くばりが足りないんだ!足がないだけに足りないだ畜生!バカ!アホ!何言わせんだボケェ!」
「あの!」
「おっさん!聞いてんのか!そもそ…も?」
「あ、どうも」
二人は声がした方に顔を向けた。そこには若い女性が立っている。
「すいませんお話し中のところ…」
そう言って女性はわざわざ頭を下げてくる。男も慌てて頭を下げた。
「ああ、いえ気にしないで下さいよ。こいつが一方的に話してただけなんで…」
「ナニ?」
女の子はまだなにか話したそうな顔をしたが男は無視する。
「さきほどはどうもありがとうございました。おかげで村長の家までたどり着けました」
「いえ、どう致しまして」
男と女性は顔見知りのようだ。女の子はそれを見て男に問い掛ける。
「おっさんこの人は?」
「さっきこの人に村長の家までの道を教えてもらったんだ。お前は寝てたから知らんだろうが。ちゃんとお前も礼を言っとけ」
それを聞いて女の子は女性に頭を下げて言う。
「すいませんどうもその説はうちのバカがご迷惑おかけしました」
「コラ」
男は女の子の頭を軽くこずいた。それに対して女の子がまた騒ぎ出そうとするが男はすばやく女の子の口を塞いだ。「むーむー」と女の子は何か言おうとしたがやがて諦めた。その様子を見て女性が笑う。
「あー失礼しました。ところで何かご用だったでしょうか?」
男が問い掛けると、あ、はい、と彼女は返事し、
「あの、もしかして宿をお探しでしたか?」
と言った。
「あ、いえ今日は…」
もう泊まらない、そう伝えようとしたが、
「はい、そうです!宿探ししてます!どっかにいいところありますか!?」
男の手を引っぺがした女の子が男の言葉を遮るようにして言う。
「やっぱりそうでしたか。もし、お困りでしたら私の家に泊まりませんか?」
ニコニコと笑みを浮かべながらそう答える女性。棚から牡丹餅のような魅力的な提案ではあった。だが男は断ろうと口を開き、
「ですが急ぎ…」
「はい!宿が見つからず困ってました!泊まらせて下さい!」
男の発言は女の子によって再びかき消された。
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「おい、急ぎの用があるって言わなかったか?」
「まあ、いいじゃん1泊くらいさーそのぶん急げばなんとかなるっしょ?」
だが……しかし……などと男が何か反論をするがそのたびに女の子は大丈夫大丈夫と言って男を納得させようとする。その態度に男は観念して、
「まあ…飛ばせばなんとかなるかもしれんが」
と言ってしまう。その言葉に女の子は喜びの笑みをうかべた。
「なら大丈夫じゃん今日は泊まらせてもらおうよ」
「だが……飛ばせば、だぞ」
なぜか男は強調して同じことを言う。
「………………」
女の子の顔は一変して苦虫を噛んだようになり、うつむいて何かを考えていたが、
「……だいじょぶだいじょぶなんとかなるさ!多分!」
そう結論づけて先を歩く彼女の後に続くよう男をうながす。男は歩きだしながら、
「……あとで泣き喚いても知らんからな」
そう、女の子を不安にさせる様なことを言った。
「だいじょうぶ……だいじょうぶだから……」
……多分。ぼそっと再度、同じ言葉を付け加えるように女の子はそう言って顔をカゴの底に向ける。その表情は覗くことはできないが、きっと泣きそうな顔をしていたに違いないだろう。