一話目【旅の途中の山道で】
初めての投稿になります。いたらない点や誤字脱字などで気分を害してしまった場合はすいません。
……ガラガラガラガラ……
森の中の道を四角いカゴの形をした手押し車を押しながら男が歩いていた。
男は無精髭を生やしており、ほどよく引き締まった体をしている。背中には袋を背負っており、腰にはつばのない刀を帯びていた。
……ガラガラゴロガラ……
男は特にまわりの景色を眺めたりはせず、ただ黙々と前を向いて歩き続けている。
やがて、道は少しずつ山道の様になっていき、右は急な上り斜面───というより絶壁───、左は険しい崖になっていた。また、崖の下からは水の流れる音も聞こえてきている。
そんな谷の中腹に差し掛かったころ、
「……ぅん」
男が押してるカゴの中から微かな声が漏れた。
「起きたか?」
男はカゴの中に声を掛ける。
「……ぁぅ?」
カゴのなかの女の子らしき人物はまだ少し寝ぼけているがかまわず男は続けて語りかける。
「まだ村には着かない。もう少し寝てて構わないぞ」
「……うにゅう……」
女の子は眼をこすりながら身を起こした。まだ少し頭が左右に揺れている。しばらく前方を見ながらボーッとした後、間延びした声で男を呼んだ。
「……おっさ〜ん」
「ん?」
「バーカ」
…ガラ…ガラ…ガ……
男はゆっくりと立ちどまり、今しがた声が聞こえてきたカゴのなかを覗き込んだ。
男の視点からだとその人物の後頭部が見てとれる。
木漏れ日に照らされて淡く光って見える腰のあたりまで伸びた髪が見えた。さっきまで寝てたせいか、ところどころ寝癖が跳びはねくしゃくしゃになっている。
「………………」
さて、どうするかと少しの間、男は考える。
「あれー?進まんのー?おっさーん」
「そうだな」
……ラガラゴロガラ……
また男は歩き始めた。
「なんだかもう山になってたんだねー、あとどれくらいで着くかなー?」
……ガラガラガラ……
「んあ?おーいおっさーん崖に近づいてるよー危ないよー?」
……ガラ……ラ……
「そうそう一度止まってから方向を変えて……」
クイッ
「………ろ?……おっさーん何だか左に傾いてる気がするよー危ないよー?…………おーいおっさーん聞こえてるー?無視すんなー、このままいくとヤバイよー落ちるよー私落ちるよー?」
男は返事をせず黙って少しずつカゴを崖の方に傾けている。
「ねー聞こえてるー?頼むから返事してー、というかこれ以上傾けないでー、マジで危ないからさー、ねー危ないって三回言ったよー、おーい聞こえねーのー?聞こえねえのかー?聞こえねーんだなー?よーし、バカーアホー」
グイッ
「スイマセンゴメンナサイ!私が悪うございました!だからこれ以上は勘弁してぇ!許してぇ!」
男は何も言わず黙々と傾け続ける。
「チクショー!コラー!やめろー!やめてくれー!ヤメレー!シャレになってねーぞコラー!!」
男からは返事がない。
「何か言えやー!って、え!ちょっともう無理!待って!マー!アーー!ギャーーー!ラリルレリョリリャルラーーー!!ワーーーー!!」
───────
「ゼェ……ハァ……グスン……あうう……もうオヨメに行けない」
「…………………」
(……少しやりすぎたか)
そう思い、男は謝ろうとする。
「すまな「おっさんのバカ……アホ……いっぺんしねハゲ……」
……………………。
グイッ
「ヤメレーーー!!」
非常に大きな声が山に響き渡った。