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7 近衛騎士団長ルビエ・ハルド

 ――近衛騎士団長ルビエ・ハルド。

 剣聖レリフ・ハルドの妹であり、中央軍の中でも、精鋭中の精鋭である王直属の近衛騎士団の団長を若くして、努める女傑である。


 幼少期は、ハルド家の者として、剣聖レリフ・ハルドとともに修行をし、アスール王国の王都にある、レイル士官学校を首席で卒業し、中央軍の所属となった。

 基本的に、士官学校を卒業した貴族は、その貴族が領有している地域が属する方面の軍に、所属することが慣例となっている。


 例に漏れず、ルビエも王都の貴族であるため、中央軍に所属することになった。そして、これも慣例であるが、士官学校を首席で卒業した者は、最初の配属先が、近衛騎士団になることがほぼであった。例外も、存在するが、それは、歴代で剣聖レリフ・ハルドだけであり、彼は、卒業後、すぐに軍を辞めてしまったためである。


 そして、士官学校で首席だった者は、3年ほど近衛騎士団で鍛え上げられ、中央軍の別の部隊の小隊長になることが常であった。そして、様々な規模の指揮官を経験し、最終的には、将官になるという道筋が、中央軍の中での常識であった。


 だが、ルビエは、近衛騎士団に配属されるという点では一緒であるが、そこからの進展が通常とは異なっていた。ルビエは、20代中盤にして、近衛騎士団の団長を拝命することとなった。

 それも、王が直接、ルビエを指名しての拝命であった。通常、中将などの高級将官以外の人事に、アスール王は、口を出さないにも関わらずである。


 その要因は、王都レイル近郊で年一回、1ヶ月かけて行われる、レイル軍大会でルビエが個人戦と指揮官としての資質を競う団体戦で、優勝したためである。

 レイル軍大会では、単純なトーナメント形式で武勇を競う個人戦と、小部隊同士を率いて戦う団体戦に別れている。


 個人戦は、各方面軍で腕に覚えのある者が、階級に関係なく出場するため、各方面軍で選抜されてはいるが、参加者は300人を超える人数が参加する。対して、団体戦は、階級が士官以上の出場であり、各方面軍で、予備選考を行い、方面軍ごとに10組が出場し、それぞれ別の方面軍から選抜された組と対戦を行うという方式である。


 そこで、ルビエは、団体戦に先駆けて行われる個人戦で、圧倒的な実力で優勝した。続く団体戦でも、ルビエ率いる小部隊が、一人の損害も出さず、優勝した。そして、その当時、レイル軍大会を観戦していたアスール王の目に留まり、異例の抜擢ではあるが、ルビエが近衛騎士団の団長となった訳である。






 そんな異例の経歴を持つルビエとアリアは、アスール山脈の中腹にある屋敷の外の広場に出て、対峙していた。

 そのような状況で、アリアはその手に、木剣を持っていた。対して、ルビエは木製の槍を模した木槍を持っていた。


 「じゃあ、審判役は僕がやるから、僕の合図で始めてね!」


 アリアとルビエが居る位置より、少し離れた位置で、そう言った。


「兄上、私はいつでも、大丈夫です!」


「私も大丈夫です」


 二人の準備を確認したレリフは、掛け声とともに挙げていた右腕を下した。


「それじゃ、始め!」


 レリフの掛け声を聞いた瞬間、アリアは一気に踏み込み、ルビエの胴元を狙った。アリアの作戦は、先手必勝であった。何かされる前に、一気に勝負をつける。アリアはそう考え、ルビエに一気に肉薄した。


(これなら、いける!)


 アリアの踏み込みの速さに、ルビエが驚いた顔をしているのが、アリアに見えた。しかも、ルビエはまだ、木槍を構えたまま、動いていない。アリアは、勝利を確信した。そして、アリアの木剣が、ルビエの胸に吸い込まれるている様子が、レリフにも見えた。これで、勝負が決まったかのように思えた。


「……ほう。中々、速いな」


 ルビエが、そう言うのが、アリアの耳に聞こえた。その瞬間、アリアは弾き飛ばされていた。アリアは、自分が弾き飛ばされたことは認識していたが、ルビエがどのようにして自分の攻撃を弾いたのかが、分からなかった。だが、次の瞬間、その理由を嫌というほど思い知ることとなった。


 アリアは弾き飛ばされ、体勢を立て直そうとしたが、そこに、ルビエの突きの追撃が襲う。

 何とか、剣で防御出来たが、さらに、体勢を崩されてしまった。


(突きが速過ぎる! 私の攻撃が、ギリギリで弾かれたのはこれが原因か!)


 アリアが、何とか体勢を立て直そうと、苦し紛れで剣を振るが、簡単に弾かれてしまう。そして、怒涛の連撃がアリアを襲う。


「いつまでも、防戦一方では、私に勝てないぞ!」


 ルビエは、そう言うと、さらに突きの連撃を加速させる。もはや、アリアは、ルビエの突きを何とか、受けきることで精一杯であった。


(それは、分かってるけど、突きが速過ぎて、攻撃が出来ない!)


 そして、アリアは、距離を取ろうと、連撃の一瞬の隙をついて、後ろに跳んだ。


「そこだ!」


 ルビエの声とともに、一際、鋭い突きがアリアを襲う。アリアは、後ろへ跳んでいる最中であったため、それをまともに受けてしまった。

 そして、アリアの木剣が、宙を舞い、コンという音とともに地面に落ちた。


「そこまで!」


 二人の決着がついたのを見届けたレリフは、そう言った。






「大丈夫か?」


 木剣を弾き飛ばされて、地面に転がっていたアリアに、ルビエは手を差し出した。

 ルビエは、その手を握ると、立ち上がった。そんな二人の元に、レリフが近寄って来た。


「どう、ルビエ? 僕が、弟子に取った理由、分かったでしょ?」


「はい、兄上の言う通り、理由が分かりました。ここまでの素質を持っているとは、正直、驚きました」


「うん、うん! ルビエの突きを何度も受けきれる人間なんて、少ないからね! 大体の人は、ルビエの突きの一撃で倒されちゃうからね! それじゃ、ルビエ、僕は弟子を育てるので忙しいから帰って!」


「いえ、帰りません! 私は決めました! この子に、私も槍を教えます!」


「いや、アリアちゃんの師匠は、僕だけで十分だって! 大体、ルビエ、僕より全然弱いでしょう! そんな人に、アリアちゃんが教わってもしょうがないと思うんだよね!」


「言いましたね、兄上! もう、とうの昔に、私が兄上を超えているということをお見せしなければならないようですね!」


 ルビエは、そう言うと、木槍をレリフに向かって構えた。


「へぇ~、それは、面白いことを言うね! アリアちゃん、ちょっと、木剣貸して!」


「分かりました。どうぞ」


「ありがとう!」


 レリフは、そう言うと、アリアから木剣を受け取って構えた。


「それでは、いきますよ! 兄上!」


 レリフが構えを取ったことを確認したルビエは、凄まじい速さで、突きを繰り出した。先ほどのアリアとの訓練での突きと比較しても、圧倒的に速かった。アリアの目には、かろうじて、ルビエの突きが見えた。


「いや~、相変わらず、速いね!」


 レリフは、そんなことを言いながら、ルビエの突きを笑いながら、防いでいた。


「まだまだ!」


 ルビエは、レリフに突きを防がれたことを気にせず、突きの連撃を繰り出していた。

 そして、レリフとルビエは、屋敷の広場から森の中に移動しながら、戦いを繰り広げていた。

 その内に、森の深くに移動しているのか、アリアの視界から、二人が見えなくなった。遠くの方で、木剣と木槍が間断なく打ち合う音しか、聞こえてこない。


「……とりあえず、朝食、食べに戻ろう」


 アリアはそう言うと、屋敷の中に戻って行った。


『あの二人って、人間にしては強過ぎない?』、『そうですな、お嬢様』という空耳が聞こえた気がしたが、それを無視して、アリアは屋敷の中を歩いて行った。






 レリフとルビエが、戦いを始めて、早半日。外は、すっかり暗くなっていた。

 アリアが、夕食を作り終えて、二人を待っていると、屋敷の門の開く音が聞こえた。

 その音を聞いたアリアは、屋敷の門へ向かった。そこには、ボロボロになった、レリフとルビエが立っていた。見るからに、疲れている様子であった。


「……アリアちゃん、夕食一緒に作れなくてごめんね。ちょっと、思ったより長引いたよ」


「いえ、大丈夫です、師匠。もう、3人分の夕食を作って、いつでも食べれる準備をしておきました」


「……ありがとう。それじゃ、すぐに食べるね」


 レリフはそう言うと、いつも食事をする部屋にフラフラしながら、入って行った。


「……すまない」

 

 レリフの後ろにいたルビエが、一言、アリアに言って、これまたフラフラしながら、レリフの後ろについて行った。二人が、部屋に入るのを確認した後、アリアも、その部屋に入って行った。




「いや、満腹、満腹! 生き返ったよ!」


「私も生き返りました!」


 レリフとルビエが、黙って食事をし、食べ終えたあと、そう言った。


「結局、どちらが勝ったんですか?」


「それは、もちろん、僕だよ! ただ、ルビエが前に戦った時よりも、強くなっていてビックリしたよ!  少し手こずったよ!」


「今度こそは、兄上に勝つつもりでしたが、敵いませんでした。次、戦う時は、勝ちます!」


 どうやら、勝利したのは、レリフらしい。負けたルビエには、落ち込んだ様子が見られなかった。


「それじゃ、ルビエ。僕が勝ったことだし、大人しく、明日、帰ってね!」


「いいえ、帰りません! 私も、この子に槍を教えます! 兄上、一人では心配です!」


「……はぁ。もういいや。また、ルビエと戦って、疲れるのは嫌だからね。アリアちゃん、申し訳ないんだけど、ルビエから槍も教わってくれないかい?」


「分かりました」


 こうして、アリアは、剣だけでなく、槍も教わることになった。

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