表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/46

39 アスール王国南部防衛戦②

 ――王都レイルの王城の王の間での、軍議が終了してから、1週間が経過した。その間、アスール王国軍は、各方面軍の部隊を集めた8万の軍勢を、南部の大都市バースに集結させていた。また、西方軍からはアリア率いるアリア隊が、バースに到着していた。


 西方軍は、アルテリオ帝国軍に備えるために、バースに送った部隊は、アリア隊のみであった。そのため、西方軍のほとんどが、アンティークで防御準備を開始していた。バースでは、8万の軍勢が、総司令官マイロの下、防御陣地を作成していた。


 この1週間、アルテリオ帝国軍がバースに攻め寄せることはなかった。だが、ルール公国では、国民が虐殺されているという報告が、密偵より、もたらされていた。『なぜ、そのような無意味なことをするのか?』と、報告を受けたマイロは、疑問を口にしていた。


 アルテリオ帝国軍の不可解な動きに、嫌な予感がしたマイロは、アスール王メギドを通じて、レファリア帝国に5万の援軍を求めた。この要請を快諾したレファリア帝国の皇帝レオンは、バースに5万のレファリア帝国軍を向かわせた。その中には、レファリア帝国軍の大将であるアランと皇帝親衛隊の隊長のダリルも含まれていた。


 レファリア帝国を出発したレファリア帝国軍は、2週間後に、バースに到着する予定であった。そのような状況で、アリア隊は、防御陣地の作成をしていた。アスール王国軍内で、アリア自身とアリア隊の強さは有名になっていたので、アリア隊がバースに到着すると、兵士達の歓声をもって迎えられた。


 そうした状況で、アリアが防御陣地の作成から帰ると、アリアの天幕の前に、レリフが立っていた。レリフは今回、嫌な予感がすると言って、アリアについて来ていた。


「アリアちゃん、お疲れ!」


「……師匠。今日は何をやっていたんですか?」


「寝てたよ!」


「……そうですか。たまには、防御陣地の作成を手伝っていただいても良いんですよ?」


「いや、疲れるから、嫌だね!」


「……分かりました。それでは、私は天幕で仮眠をとりますので、失礼します」


「了解! それじゃ、僕も天幕に戻るね!」


 レリフはそう言うと、自分の天幕に戻っていった。アリアがバースに到着してからというもの、レリフは、基本的に、自分の天幕で寝ていた。それを、少し、(うらや)ましいなと思いながら、アリアは自分の天幕の中に入った。


 そして、天幕の中にアリアが入ると、なぜか、フルーレが椅子に座っている姿が目に入った。アリアは、階級が中佐であり、小部隊といえども、立派な指揮官の一人であったので、大きめの天幕を使用しなければいけなかった。そのため、数人が天幕の中に入っても、余裕があるほど広かった。


 そんな天幕の中に、フルーレが、自分で持ってきたであろう椅子に座っていた。そして、いつの間にかエリゴルとエイルがフルーレの(そば)に立っていた。


「フルーレさん! どうしたんですか!?」


 アリアは、驚きの声を上げた。今まで、フルーレがアリアの天幕に現れたことがなかったためである。


「いや、気になることがあってね。今回の戦争は、アリアの近くにいるから、それを伝えようと思って、アリアの天幕で待っていたのよ」


「そうなんですか。それは、私が戦闘をしている時も、近くにいるということですか?」


「そうね。ただ、アリアの戦闘の邪魔にはならないようにするから安心して」


「分かりました」


「そういうことだから、よろしくね」


 フルーレはそう言うと、次の瞬間には消えていた。エリゴルとエイルとフルーレが座っていた椅子も消えていた。


(気になることって、何だろう?)


 アリアはそんなことを思いながら、横になり、仮眠をとり始めた。






 ――アリアがバースに到着してから、1週間が経過していた。とうとう、アルテリオ帝国軍が動き出したようであった。バーズから離れたところに、アルテリオ帝国の大軍が迫ってきている様子が、バースの城壁から確認が出来た。


「とうとう、アルテリオ帝国軍が来たようだ! このバースを守りきるぞ! 突撃!」


 バースの城壁の上からマイロがそう言うと、ルビエ率いる近衛騎士団を先頭にしたアスール王国軍が出撃をした。銅鑼の音が鳴り響き、ついに、始まったかとアリアは思いながら、アリア隊とともに、出撃をした。


 そして、数分後、アルテリオ帝国軍に対して、アスール王国軍は突撃していった。


「何だ、こいつら、おかしいぞ!」


 マグヌスの叫んだ声がアリアに聞こえた。アリアもマグヌスと同じことを思っていた。アスール王国軍がアルテリオ帝国軍に突撃してから、数分後。アリア隊も、突撃をしている状況であった。


(アルテリオ帝国軍からは、何も感じない! 声も上げないし、無表情で攻撃をひたすらしてくる! まるで、感情がないみたいだ!)


 アリアはそんなことを思いながら、アルテリオ帝国軍の兵士を斬っていた。アリアの周りでは、既に数十人以上のアルテリオ帝国軍の兵士が倒れていた。だが、死を恐れていないのか、アルテリオ帝国軍の兵士はアリアに攻撃をし続けた。


 そのような状況で、アスール王国軍は1日中、アルテリオ帝国軍と戦った。アスール王国軍に、多数の被害が出ていたが、アルテリオ帝国軍はそれ以上の損害が出ているはずであった。だが、アルテリオ帝国軍の勢いは止まらなかった。


 夜になる頃には、アスール王国軍は、完全にアルテリオ帝国軍に押されていた。何とか、前線を保っているが、いつ崩れてもおかしくない状況であった。アリアもアリア隊を指揮しながら、必死に戦ったが、勢いが増すアルテリオ帝国軍に押されていた。


 そして、朝になる頃には、アルテリオ帝国軍の攻撃の前に、アスール王国軍の前線は完全に崩壊し、生き残った部隊が次々と、バースに逃げ帰っていた。既に、バースの周辺の防御陣地にも、アルテリオ帝国軍が襲いかかっていた。


 アリア隊は、殿(しんがり)として、近衛騎士団とともに、最後まで戦い続け、何とか、バースに撤退することが出来た。バースの外では、アルテリオ帝国軍とバース守備隊との戦闘が繰り広げられているようであった。


「ルビエ、アリアちゃん、お疲れ!」


 バースに撤退したアリアとルビエは、バース城に報告に向かう途中、レリフと出会った。レリフの服は、血塗れであった。一目で激戦を潜り抜けて、バースに帰還したことが分かるような服装であった。


「師匠! 今日は、どこで戦っていたんですか?」


「いや、アリアちゃんとルビエも感じたと思うけど、なんか、アルテリオ帝国軍の様子がおかしかったから、それを指揮してる指揮官って、どこにいるのかなと思って、探してたんだよ!」


「それで、見つかったのですか?」


 ルビエが槍を持ちながら、レリフにそう言った。レリフは、自分の剣をクルクルと回していた。


「いや、それがさ、どれだけ、探してもいなかったんだよ! アルテリオ帝国軍の司令官がいそうな場所まで、頑張っていったけど、いなかったよ! というか、アルテリオ帝国軍の後続の部隊が延々と来ている状態だったよ! しかも、兵士かと思いきや、武器だけ持った一般人みたいな感じだったよ!」


「……誰の命令もなしに、アルテリオ帝国軍は攻撃をしていて、しかも、後続の部隊は武器を持っただけの一般人だということですか? 何だか、頭が痛くなってきました……」


 アリアはそう言いながら、レリフの方に顔を向けた。相変わらず、レリフは剣をクルクルと回していた。


「アリアちゃんがそうなるのも無理はないよ! 僕も、驚いたからね! ただ、どちらにしも、アルテリオ帝国軍の兵士は、人形になったみたいに、ひたすら、突っこんでくるだけだけど、その量が多過ぎるよ! このバースも、多分、1週間は持たない気がするな!」


「……そこまで、アルテリオ帝国軍は多いのですか。兄上が言いたいことは分かりました! そのことも指揮所でまとめて報告しておきます! アリア! 行くぞ!」


「分かりました、ルビエさん!」


 二人はそう言うと、バース城へ向けて、走り出した。そんな二人の様子をレリフは、剣をクルクルと回しながら、見送った。






 ――アリアとルビエが走り出して、数分後。二人はテメレ城にある指揮所のある部屋に到着していた。その部屋の中には、総司令官マイロを中心とした、将官達が忙しそうにしていた。


「おお! アリア、ルビエ! 殿、ご苦労であった! おかげで、多くの部隊がバースに到着することが出来た! 本当に、感謝する!」


 マイロは二人に、そう言った。周りいた将官達も口々に感謝の言葉を言っていた。


「マイロ王子にお褒めいただき、光栄です!」


 ルビエは、マイロの言葉にそう返した。アリアは、ルビエの隣で静かにしていた。


「それほどの活躍だったのは、間違いない! それでは、報告をしてくれ!」


「ハッ! 私とアリアの部隊で、殿をしていましたが、アルテリオ帝国軍の勢いは凄まじく、近衛騎士団の団員の数人が、負傷しており、戦線に復帰するのは難しい状況です。ですが、近衛騎士団としては、十分に今後の戦いを行える状態です!」


「アリア隊は、多少、負傷している者もいますが、戦闘を行える状態です」


「分かった! 甚大な損害が出なくて良かった! それでは、自分の部隊に戻ってくれ!」


「マイロ王子、お待ちください! 私の兄が、今日、アルテリオ帝国軍の陣地の奥深くまでいったようなのですが、そのことについて報告してもよろしいでしょうか?」


「……剣聖殿の姿が戦場に見えないと思ったら、アルテリオ帝国軍の陣地の奥深くまでいっていたのか。分かった! 剣聖殿は、この指揮所に来ないだろうから、ルビエが報告してくれ!」


「分かりました! 今日、私の兄は、アルテリオ帝国軍の兵士の様子がおかしかったため、その指揮をしている指揮官を、1日かけて探したようですが、見つからなかったようです! また、アルテリオ帝国軍の後続の部隊は、武器だけを持った民間人で構成されており、それもかなりの数がいるようだと、私の兄は言っていました! 兄の見立てでは、このバースは、1週間以内に、陥落する可能性が高いということでした!」


 ルビエの報告の後、部屋の中が騒がしくなり始めた。マイロは、考え込んでいるようであり、黙ってしまった。そして、数分後、口を開いた。


「……剣聖殿が言うのだから、間違いはないのだろう。だが、にわかには信じられないな。ロナルド、この状況をどう見る?」


 今回の作戦において、参謀長に任命されたロナルドが、口を開いた。


「確かに、私が戦場を見た感じでも、指揮官はいなかったように感じました。ただ、指揮官がいない状態でも、アルテリオ帝国軍の兵士は死を恐れず、ひたすら大軍で突撃をしてくるのは分かりきったことです。そして、アルテリオ帝国軍がこのまま休息をとらず、バースを攻め続けると仮定するなら、1週間以内に、間違いなく、陥落するでしょう」


「……ロナルドもそう思うか。では、バースで籠城するのは、あまり良い案ではない気がするが、ロナルドはどう考える?」


「私もそう思います。バースを包囲されてしまえば、ここにいるアスール王国軍は動けなくなってしまいます。そうなってしまえば、我らの軍は、死を待つのみとなってしまいます。そこで、アルテリオ帝国軍の侵攻を抑えつつ、その間に、王都レイルで防御準備をするしかないと考えられます」


「……やはり、それしかないか。ロナルドの案の他に、この局面を打破出来そうな案を考えついて者はいるか?」


 ロナルドの言葉を聞いたマイロはそう言うと、部屋の中を見渡した。だが、部屋の中の将官達は、うつむいてしまっていた。


「……厳しいな。もし、これで王都レイルが陥落すれば、我が国は終わりだ。だが、現在のアルテリオ帝国と和睦を結ぶのは、不可能であろう。ここは、ロナルドの案しかなさそうだな。分かった! ロナルドの案を採用する! そのための準備を迅速に行え!」


「ハッ!」


 マイロの言葉に、将官達は返事をすると、準備に取りかかった。アリアとルビエも、その準備に取りかかるために、指揮所となっている部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ