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29 レファリア帝国動乱⑧

 ――レファリア解放軍が、反攻を開始してから7日が経過した。皇都アスローンへの攻撃準備が完了したレファリア解放軍は、攻撃を開始した。当初、皇都アスローン周辺に配置されていたレファリア帝国軍が、抵抗をしたが、レファリア解放軍の攻撃の前に、1日と持たず、皇都アスローンへ撤退して行った。


 やはり、ミナスを焼き払われたことが影響しているのか、皇都アスローンの周辺で抵抗を続けていたレファリア帝国軍の動きは鈍かった。対して、レファリア解放軍は、アスール王国から食料と軍需物資が送られて来ているので、士気が高かった。


 そうして、レファリア解放軍は、皇都アスローンを包囲することとなった。その段階で、レオンは、皇都アスローンへ向けて、包囲している陣地から降伏を呼びかけた。


「もう、レファリア帝国軍に勝ち目はない! 今後のレファリア帝国のためにも、降伏してくれ!」


 レオンは、そう叫んだが、皇都アスローンの城壁から、矢を射かけられた。周りの兵士が、すぐに鉄の盾で防いだため、レオンにケガはなかった。どうやら、レファリア帝国軍は、降伏せず、皇都アスローンで籠城戦を行うようであった。


 こうなると、レオンに出来ることはなかった。レオンは、皇都アスローンへの攻撃をレファリア解放軍に命じた。そして、レファリア解放軍の兵士が、声を上げながら、皇都アスローンの城壁へ突撃を開始した。皇都アスローンから、矢が雨のように降り注ぎ、多数のレファリア解放軍の兵士を倒していた。


「ここを、攻め落とすのは、相当、大変だぞ!」


 中央軍を率いているロナルドが、中央軍の指揮所がある天幕の中でそう言った。その天幕から、皇都アスローンを攻撃している様子が見えるが、そもそも、矢の雨の前に、近づくことさえ出来ていなかった。アリア率いる近衛騎士団は、ここぞという時に、動かしたいとロナルドが考えていたため、指揮所の近くの天幕で待機していた。


 アリア自身は、ロナルドがいる中央軍の指揮所で待機していた。アリアからも、皇都アスローンへの攻撃の様子が見えたが、厳しいなと感じた。アンティーク奇襲戦で、アルテリオ帝国軍10万以上の猛攻撃を耐えたアンティークの城壁より、皇都アスローンの城壁の方が高かったため、これを陥落させるのは、相当、大変だなとアリアは思った。


 こうして、皇都アスローンへの初日の攻撃は、まったく成果の出ないまま終了した。大地には、レファリア解放軍の兵士の死体が、多数、横たわっていた。






 ――皇都アスローンへの攻撃を開始した、その日の夜。レファリア解放軍の指揮所がある天幕に、各部隊の指揮官が全員、集められていた。普段の軍議では、基本的に各部隊の将官のみが参加していたが、今回は、全部隊の指揮官が集められていた。そのため、天幕の中には、多くの人が集まっていた。


 アリアも一応、小部隊ではあるが、近衛騎士団の指揮官であったので、天幕の中にいた。レファリア解放軍内でアリアは、ミナスを奇襲した部隊の指揮官として、有名になっていたので、様々な部隊の指揮官がアリアに話しかけてきた。アリアは、多くの人に注目されたので、少し、恥ずかしかった。


 そうして、天幕の中に、各部隊の指揮官が全て集まるとレオンが口を開いた。


「今日の軍議には、各部隊の指揮官を全て集めさせてもらった。その理由は、意見を聞きたいと私が考えたからだ。今日、私が、レファリア帝国軍に投降を求めたが、それが受け入れられなかったのは、ここにいる者であるならば、知っていることと思う。そして、今日、皇都アスローンへ攻撃を開始したが、レファリア帝国軍の防御の前に、なすすべなくやられてしまったのは、ここにいる者が良く知っていると思う」


 レオンの言葉に、天幕の中が静まりかえった。そして、レオンは、天幕の中を見渡して、続けた。


「現状、このまま攻め続ければ、いつかは皇都アスローンといえども、陥落するだろう。だが、それは今日、明日という話ではない。1ヶ月後かもしれないし、半年後かもしれない。だが、長期間、戦えば、それだけ、お互いに損耗し、戦争によって、帝国臣民も困窮し、結果として、レファリア帝国自体が大幅に弱体化してしまうということは避けられないだろう。当然、弱ったレファリア帝国を倒そうと、周辺諸国が攻め込んでくるであろう。私はどうしても、そうなることだけは、避けたい。そこで、ここにいる全ての者に、短期で皇都アスローンを陥落させることが出来る方法を考えてもらいたい」


 どうやら、レオンの目的は、実際に戦場で戦っている指揮官から、何か、良い案があるかどうかを確認するということであったようだ。そのために、レファリア解放軍の全ての指揮官を指揮所に集めたのかとアリアは思った。


 レオンの言葉を聞いて、指揮官達は考えこんでしまった。そのため、天幕の中は静かであった。アリアは、現実的ではない案が一つ、思い浮かんだが、言うのはやめておこうと思った。レオンの隣にサラ王女がいるので、レリフもこの天幕の中にいたが、なぜかサラ王女の近くではなく、アリアの隣にいた。アリアが隣に立っているレリフの顔を見ると、レリフは何か案があるような顔をしていた。


「本当に、どんな些細な意見でも良いんだ! 誰か、ないか?」


 レオンは静かになってしまった天幕にいる指揮官達にそう言った。だが、答える者は一人もいなかった。


「確かに、無理難題であると、私も思う。ここは、アンティーク奇襲戦で活躍したリカルド殿に意見を聞きたい。どんな些細な意見でも良いので私に言って欲しい!」


 レオンは、リカルドの方を向いて、そう言った。リカルドも黙っている訳にはいかず、口を開いた。


「……短期で皇都アスローンを陥落させることは、やはり難しいと思います。今日、皇都アスローンを攻撃した際に、籠城戦の指揮をしている敵の司令官は優秀だと感じました。実際に、今日、あれだけ攻めたにも関わらず、誰一人として、皇都アスローンの城壁にすら到達出来なかったのが、良い例です。皇都アスローンの地下まで穴を掘り進め、そこから侵入して、皇都アスローンの内部から攻撃する坑道戦術も考えてみましたが、今日の敵の動きを見た限り、敵の司令官は、坑道戦術に対しても、何らかの対策をしていると考えられます。そのため、やはり、力押しで陥落させるしかないと思います」


「……リカルド殿、ありがとう。やはり、難しいか」


 レオンはリカルドの返答を聞くと、険しい顔になってしまった。そして、天幕の中は誰も話さず、無言のまま、時間だけが過ぎていた。そんな中、ロナルドが手を上げた。


「ロナルド殿! 何か、良い案があるのか!?」


 レオンが驚きの声を上げながら、ロナルドに問いかけた。天幕に集まった指揮官達の視線が一斉に、ロナルドに集まった。


「一応、案自体はあります。ただ、これは現実的に考えて、難しいと思います。加えて、この案をレオン皇子にお話しするのは、どうなのかという思いがあります」


 いつも陽気な雰囲気を出しているロナルドが、真面目な雰囲気でそう言った。あまり、良い案ではないようだとアリアは思った。


「それでも、私は聞きたい! ロナルド殿、話してくれないか?」


「分かりました。私が考えた案というのは、フィン皇子の暗殺です。この案は、まず、皇都アスローンのアスローン城に忍び込むことが難しいと考えます。また、たとえ、忍び込めたとしても、レファリア帝国皇帝親衛隊が守っているはずなので、彼らを倒しながら、フィン皇子を暗殺するのは至難の業だと思います。ただ、フィン皇子さえ暗殺出来れば、敵が皇都アスローンで籠城戦をしている意味がなくなりますので、レファリア帝国軍はすぐにレオン皇子に降伏すると思います」


 ロナルドがそう言い終わると、レオンは黙ってしまった。ロナルドの案を考えているようであった。アリアも、ロナルドと同じ案を考えていたので、驚きはしなかった。レリフの顔を見ると、どうやら、レリフも同じ案を考えていたようであった。


 ただ、天幕の中にいる指揮官達は、ロナルドの言葉を聞いた後、騒ぎ始めた。『不可能だ!』という声を上げる指揮官も多かった。指揮官達がそう言うのも、もっともだと、アリアは思った。ロナルドも提案自体はしたが、難しいと思っているのか、険しい顔をしていた。


 そして、数分後、レオンの考えがまとまったらしい。レオンが顔を上げ、天幕の中の指揮官達を見た。それを察したのか、天幕の中の指揮官達が静かになった。


「……母親が違うとはいえ、私は兄上を慕っていた。だから、皇都アスローンで即座に兄上を捕縛するつもりであったが、それを兄上の側近に読まれ、逆に捕まってしまった。そして、皇都アスローンの手前までレファリア解放軍を進めたは良いが、帝国臣民に、大きな負担をかけてしまっている。全て、私の甘さが原因だ。だから、この戦争を早期に終わらせられるのなら、兄上を暗殺する覚悟がある!」


 レオンの言葉を天幕の中の指揮官達が黙って聞いていた。レオンの覚悟は、伝わっているようだ。そして、レオンが言葉を続けた。


「だが、実際に皇都アスローンのアスローン城に潜入して、兄上を討つのは至難の業だ。アスローン城に潜入するのも難しいが、ロナルド殿の言う通り、レファリア帝国皇帝親衛隊が兄上を守っている。レファリア帝国の中でも、精鋭中の精鋭である彼らを倒すのも、相当、難しい。加えて、皇帝親衛隊の隊長のダリルは、魔槍ゲイボルグの所有を認められるほどの実力者だ。並大抵の強さでは、返り討ちになって終わりだろう。そこで、剣聖と名高い、レリフ殿にお願いしたい!」


 レオンはそう言うと、レリフに顔を向けた。指揮官達も、一斉にレリフに注目した。


「いや、普通に嫌だよ。暗殺なんて趣味じゃないし」


 レリフは即答した。まさか、断られると思っていなかったレオンは、口を開けたまま、固まっていた。指揮官達も、レリフの言葉に呆然としていた。


「いや、レリフ殿しか、ダリルを含め皇帝親衛隊を相手に出来る人間はいない! 頼む、受けてくれ!」


 レオンはそう言うと、頭を下げた。対して、レリフの表情は変化していなかった。


「そう言われても、困るな。というか、そもそも、この戦いって、レオン皇子とフィン皇子の次期皇帝争いでしょう? アスローン城に潜入して暗殺するにしても、レオン皇子が直接、フィン皇子と戦って、決着をつけるのが筋じゃないの? 僕はそう思うけどね」


 レリフの言葉にレオンはしばしの間、黙ってしまった。そして、レリフの方を見ると、口を開いた。


「……レリフ殿の言われることももっともだ。よし、私も覚悟を決めよう! 私が兄上と直接、戦って、決着をつける! そこで、レリフ殿には、ダリルを含めた皇帝親衛隊の足止めをお願いしたい!」


「それだったら、良いよ。ただ、僕、一人で足止めするのは、さすがに、キツイから、アリアちゃんが率いている近衛騎士団と道案内でカレンさんを連れて行くけど大丈夫?」


「……カレンとアリアが了承してくれれば、大丈夫だが。カレン、大丈夫?」


「はい、大丈夫です」


「アリアも大丈夫かい?」


「……大丈夫です」


 カレンが即答しているのを、さすがだなとアリアは思った。アリアの本音は、嫌であった。どう考えても、死ぬとしか考えられなかったからである。せっかく、ミナスを焼き払う任務を成功させて、生き残ったのに、こんなところで死ぬのはゴメンだとアリアは思っていた。


 だが、この状況で断れる訳もなく、渋々、アリアはレオンにそう答えた。そして、元凶となったレリフの顔を、アリアはにらみつけた。


「大丈夫! 最悪、アリアちゃんだけでも、連れて逃げるから!」


 アリアの視線に気づいたレリフは、アリアにそう答えた。いや、レオン皇子を助けて下さいよとアリアは思ったが、言っても、面倒なことにしかならないと思い、黙っていた。そして、アリアとアリアが率いる近衛騎士団は、再び、死地に向かうこととなった。


(今度こそ、死ぬかもしれない)


 アリアはそんなことを思いながら、レファリア解放軍の指揮所のある天幕を出て行った。これから、近衛騎士団に与えられた任務を説明すると思うと、アリアは気が重かった。

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