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21 レイル軍大会

 ――アリアが士官学校を卒業して、4ヶ月が経過した。レイル士官学校での名目上の首席はサラであったが、実質的な総合成績は、アリアが首席であったので、アリアは近衛騎士団に配属となった。レイル士官学校を卒業すると、少尉に任命されるため、アリアは少尉になっていた。通常、近衛騎士団には、その年のレイル士官学校の首席一人しか入隊を許されないのだが、総合成績がレイル士官学校の例年の首席と比較して遜色ない場合は、近衛騎士団に配属されることが多かった。


 そのため、武術試験の準決勝で毎回、アリアと試合をしていた2組の入校生こと、マグヌス・ブリッツとブルーノが近衛騎士団に配属されていた。マグヌスは、北部出身の貴族であった。貴族といっても、ほとんど平民と変わらない貧乏貴族であったので、軍人になり、武功を重ね、ブリッツ家を盛り立てていこうと考え、レイル士官学校に入校したらしい。


 だから、2組で凄い努力をしていたのかとアリアは思った。その努力は、無駄にならなかったようだ。ブルーノはというと、近衛騎士団に、配属が決まったと聞かされた時に、涙を流して喜んでいた。『アリアと一緒の部隊になれるなんて、僕は幸せ者だ!』と言っていた。


 ブルーノには悪いが、全然、結婚する気がないので、アリアはちょっと、困ったなと思った。もちろん、ブルーノが良い人なのは分かるが、冷静に考えると、やっぱり結婚は無理だなという結論に至った。


 そんなこんなで、レイル士官学校を卒業してから、4ヶ月が経過し、レイル軍大会の時期となった。


「アリアちゃん、レイル軍大会に出るの?」


 相変わらずハルド家に住んでいたアリアにレリフが尋ねた。一緒に夕食を食べているルビエも聞き耳を立てていた。


「出た方が良いんですか?」


「いや、僕、レイル軍大会に出たことがないんだよね。すぐに軍を辞めちゃったからね。そういうことは、ルビエに聞いた方が良いよ」


 レリフが手を上にあげて、分からないという仕草をした。そして、アリアはルビエの方に顔を向けた。


「一応、レイル軍大会で、個人戦と団体戦のどちらかで優勝すれば、軍内での自分の希望とかが通り易くはなるな。レイル軍大会の個人戦は、優勝を目指して、切磋琢磨することでアスール王国軍全体の兵士の質を上げようという目的がある。対して、団体戦は、少尉と中尉の指揮能力向上を目的とするから、基本的に、レイル軍大会の各方面ごとの予備選考は、少尉と中尉だったら、全員出るぞ」


「じゃあ、私は少尉なので、出ないといけませんね」


「そうだな。まぁ、アリアが出ないと言ったとしても、団長命令で強制的に出場させたがな」


「……どちらにしも、出ることには変わりないですね」


 アリアは諦めた顔で、レイル軍大会への出場を決めた。そんなアリアを見ていたレリフが、慰めてくれた。


「アリアちゃん、大丈夫だよ! レイル軍大会で優勝した人は、それっきり出場出来ないから、少なくとも、ルビエと個人戦で当たることはないよ! ねぇ、ルビエ?」


「そうですね。私は出場出来ないので、アリアと当たることはないですね。ただ、王都の中央軍から、レイル軍大会に出る者は、ほとんど近衛騎士団ですので、最終的には近衛騎士団の者と当たることになります。現状、アリアより強い者は、少ないですが、何人かいます。だから、その者に勝てないと、優勝は難しいですね」


「何で、そんなアリアちゃんのやる気を奪うようなことを言うの!?」


「事実ですので。ただ、近衛騎士団の中でアリアより強い者は、レイル軍大会の個人戦に何回も出ているので、後進の者にレイル軍大会の出場権を譲るために、出場しないことも多いですね。だから、まだ、優勝出来ないと決まった訳ではありませんよ」


「お! 何か希望が見えてきた! アリアちゃん、優勝出来る可能性はまだ、あるよ! よし、夕食を食べたら、さっそくレイル軍大会対策に特訓しよう!」


「分かりました、師匠」


 この後、レリフとアリアは夕食を急いで食べると、ハルド家の訓練場で特訓を開始した。ルビエは、今のアリアには兄上が剣を教えた方が良いなと考え、訓練場には行かなかった。


 そして、ハルド家の訓練場での特訓が終わり、アリアは汗を流した後、アリアの屋敷へ向かった。目的は、フルーレとお茶会をするためであった。アリアは、アリアの屋敷に到着すると、扉を開けた。そのまま、扉を閉めると、居間に向かった。そこには、既にフルーレが椅子に座り、机の上に置かれた紅茶を飲んでいた。


 フルーレの傍には、いつも通りエリゴルと、見たことがない女性が立っていた。服装からして、メイドのようだが、まとっている服が高級なものだと一目で分かった。


「アリア、紹介するわね。エイルよ。エイル、アリアに挨拶しなさい」


「アリア様、初めまして。エイルと申します。フルーレ様の屋敷でメイドをしております。今後、この屋敷で働かせていただきますので、何かご用があれば、気軽にお申し付け下さい」


「アリアです。よろしくお願いします」


 アリアはそう言うと、お辞儀をした後、フルーレと対面する形で椅子に座った。そして、エリゴルの謎の力で出現した紅茶に口をつけた。さわかな風味が口の中に広がった。


「エイルはね、私が地獄の屋敷に帰って来ないから、心配で人間界に来たのよ。まぁ、別に何か悪さするとかはないから、気にしないでね」


「分かりました、フルーレさん」


 アリアがフルーレにそう言った。その後、楽しいお茶会を二人は過ごした。






 ――レイル軍大会の中央軍の予備選考が始まった。個人戦は、トーナメント形式で出場者を決めるようだ。中央軍の中で、上位70人に入れば、レイル軍大会の本選に進めるようであった。どうやら、近衛騎士団の中で、アリアよりも強い者は今回、出ないようであった。何やら、サラ王女のアスール王国内の視察について行ったようであった。ただ、レイル士官学校は、管轄として、中央軍の管轄なので、リールが出場していた。


 そして、アリアは、中央軍の予備選考を勝ち抜き、決勝戦まで進んでいた。マグヌスとブルーノも何とか、中央軍の中で、上位70人に入ったようで、予備選考を突破したようであった。決勝戦の相手は、予想通り、リールであった。


「意外と早い再会でしたね、アリア」


「はい、私もこんなに早く再会するとは思っていませんでした、リール教官」


「もう、アリアはレイル士官学校を卒業しているので、私を呼ぶときは、リール大尉と呼ばなければいけませんよ」


「分かりました、リール大尉」


 個人戦の予備選考の決勝戦の場で、アリアとリールが剣を構えながら、そんなやり取りをした。木剣とは違い、刃引きをしてはいるが、実際に戦場などで使う金属製の剣であった。


「それでは、始め!」


 審判の掛け声とともに、アリアは飛び出した。最初から、全力である。下段から、リールの胸を目掛けて、剣を斬りつけた。それを、リールは剣を当てて、受け流した。そして、体勢が崩れたアリアに剣を振り下ろした。アリアは、それを剣で受け止め、弾くと、後方に下がった。


(……やっぱり、受け流されるか)


 アリアは、距離を取って、剣を構え直しながら、そう思った。レイル士官学校から、リールと剣を合わせる度に思っていたのだが、リールは相手の攻撃を受け流すのが上手いとアリアは感じていた。おそらく力自体は、アリアの方が上だと思うが、攻撃を受け流した後の反撃でアリアがやられてしまうことが多かった。


 かといって、こちらが攻撃をしないで防御をして、隙を狙っていると、それを見透かして、わざと隙を作り、そこに攻撃したところを反撃で倒すという戦法をとってくる。それも、嫌がって、防御に徹してしまうと、反撃でやられはしないが、ジリ貧になってしまい、結局、負けてしまうという結果になる。


 アリアは、そのため、一撃で勝負を決めようと、足に力を入れ、一気に踏み込み、リールの胸を目掛けて、剣を斬りつけた。この踏み込んでの攻撃の速さに、反応出来る者はほとんどおらず、アリアの必殺の一撃であった。だが、リールはそれを受け流すと、凄まじい速さで剣を上段から振ってきていた。アリアは、体勢が崩れていたため、受けきれず、剣を弾き飛ばされてしまった。


「勝者、リール大尉!」


 審判の声が、予備選考の会場に響きわたった。






 アリアは、個人戦の予備選考で、リールに負け、結果は2位であった。一応、中央軍の予備選考は突破した。次に、団体戦の予備選考があったが、相手は、中央軍の中でも、かなり若手の少尉、中尉であったため、戦場に出たことがほとんどないような者ばかりであった。そのため、アリアは、ほとんど苦労せず、団体戦の予備選考を1位で突破した。


 マグヌスとブルーノも無事に団体戦の予備選考を、突破したようであった。そして、中央軍の予備選考が終了した。アリアは、武器などを片付け、近衛騎士団の終礼に出た後、ハルド家へ帰宅した。


「へぇ~、リール殿に負けたんだ。彼、強いよね」


「はい、強かったです」


 アリアとレリフとルビエはハルド家の食事をする部屋で夕食を食べていた。話題が、今日の個人戦の話になった。


「リール殿の何が強いかというと、攻撃を受け流した後の、返しの攻撃だよね。この前、僕と手合わせした時も、僕の初撃を受け流したのは驚いたよ。アリアも分かっていると思うけど、僕の初撃って、ほとんど避けられないからね」


「この前の手合わせでは、師匠が勝ったみたいですけど、どうやって勝ったんですか?」


「いや、普通に、リール殿が反撃出来ない速度で、攻撃し続けて、リール殿の握力がなくなってきたところに、剣を横から当てて、弾き飛ばして、勝ったね」


「少し、師匠の真似をするのは難しそうですね」


「そうだね。アリアちゃんの剣の振りの速さも中々だけど、リール殿の反応速度だと防がれてしまうね。ルビエだったら、リール殿と、どうやって戦う?」


 アリアとレリフの話を、夕食を食べながら、聞いていたルビエの方にアリアは顔を向けた。


「もし、リールと戦うのだったら、始まった瞬間に、突きの一撃で倒しますね。時間をかけると、リールが慣れてきて、反撃してきますからね」


「やっぱり、そうだよね」


「アリアも今日やっていた、始まった瞬間に放つ一撃の速度を速く、鋭く出来れば、勝てる可能性はあると思いますよ」


「僕も初撃に賭けるしかないと思うな。それじゃ、アリアちゃん、夕食を急いで食べて、必殺の一撃の特訓をしよう!」


「分かりました、師匠!」


 アリアとレリフが急いで夕食を食べるのを、ルビエは眺めながら、夕食を食べていた。






 ――アリアが必殺の一撃の特訓を始めて、1週間が経過した。とうとう、レイル軍大会の本選が始まった。レイル軍大会の本選の個人戦は、王都レイルの闘技場で行われ、団体戦は、王都レイルの近くの平原で行われることになっていた。個人戦が行われる闘技場には、王国中の貴族が観客席に集まっていた。


 その中には、アスール王メギドの姿もあった。そして、荘厳な音楽とともに、レイル軍大会が始まった。まずは、個人戦からであった。トーナメント表を確認すると、リールと当たるのは決勝戦までなさそうであった。


 そして、アリアの初戦の相手は、南方軍の者であった。その試合に、危なげなく勝ったアリアは、他の試合を見るために観客席に行った。そこには、レリフがいた。


「アリアちゃん、初戦突破おめでとう!」


「ありがとうございます、師匠」


 アリアはそう言って、レリフの隣に座った。ルビエはメギドの傍に立っているのが見えた。


 そんなこんなで、何回か危ない場面があったが、アリアは決勝戦まで進んだ。ちなみに、マグヌスは、3回戦で敗退し、ブルーノはリールと当たるまで勝ち進んだが、リールに負けてしまった。決勝戦の相手は、リールであった。


「リール大尉、今度こそ勝たせてもらいます!」


「いや、それは阻止させてもらうよ」


 アリアとリールは、そう言って、剣を構えた。王国中の貴族の視線が集まる中、審判が始まりを告げた。


「ただ今より、レイル軍大会個人戦の決勝戦を始めます! 双方、構え! それでは、始め!」


 審判の声とともに、アリアは、地面を踏み込むと、一直線にリールに斬りかかった。リールは、前回戦った時とは、明らかに違うアリアの動きに、反応が一瞬、遅れた。そして、アリアの剣が、リールの剣に当たると、リールの剣がガキン!という音とともに、弾き飛ばされた。


「勝者、アリア・ロード少尉!」


 審判の声とともに、観客席から惜しみない拍手が送られた。『さすがだ、我が愛しのアリア!』と、観客席から聞こえた気がしたが、気にしないことにした。そして、リールが近付いて来た。


「僕の完敗ですね。レイル士官学校にいた時よりも、強くなりましたね」


 リールは、そう言うと、手をアリアに差し出してきた。アリアはその手を握った。


「ありがとうございました、リール大尉」


 こうして、アリアは個人戦を優勝することが出来た。アリアは、未だに、優勝の実感が湧かなかったが、惜しみない拍手に少し、恥ずかしい思いであった。


 結局、アリアは、団体戦も圧倒的な指揮能力で優勝し、個人戦と団体戦で優勝した。個人戦と団体戦で優勝するのは、ルビエ・ハルド以来、史上2人目のことであった。

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