20 レイル士官学校⑦
――冬期休暇も終了し、アリアはレイル士官学校に戻っていた。冬期休暇中、アリアは、ハルド家でいつも通り、レリフと修行していた。14歳になっていたアリアは、腕力が上がったような気がしていた。事実、身長もルビエに近付いていた。あと、2年か、3年で、ルビエの身長を抜かしそうであった。
サラは、冬期休暇もハルド家でアリアと一緒に修行しようとしたが、『冬期休暇は帰って来なさい』という王の一言により、来れなくなってしまった。『一緒に修行したかったですわ!』と、冬期休暇に入る前にサラは、アリアにそう言っていた。
そして、冬期休暇中の夜は、フルーレとお茶会をしていた。どうやら、アンティーク訓練場でのアリアを見ていたらしく、『訓練、お疲れ様。大変だったでしょう?』とフルーレにお茶会の最中に言われた。そこからは、アンティーク訓練場での訓練のことを話した。意外と、その話題でお茶会は盛り上がった。
そんなこんなで、冬期休暇はすぐ終わった。レイル士官学校に戻ると、いつも通りの生活がまた、始まった。アリアにとって、しばらくぶりの士官学校であったが、部隊指揮試験を落第した入校生は、結局、ほとんど帰れなかったようであり、いつも通りの生活をしていた。
あと、卒業までは、3ヶ月であり、レイル士官学校の入校生は、寂しいような、嬉しいような気持ちを抱いて、日々を過ごしていた。ブルーノは、相変わらず、アリアにつきまとっていたが、アリアの態度が優しくなったため、逆に挙動不審になっていた。
そして、3月まで、月日があっという間に過ぎて行った。その間、教育内容は、講義がほとんどなく、ほぼほぼ訓練になっていた。訓練自体も、部隊を指揮するような訓練が中心になっていた。朝と夜の時間も、アリアが自主練習していると、近くで1組のほとんどの入校生が自主練習をするようになっていた。
ブルーノも、「我が愛しのアリア! 一緒に訓練をしようではないか?』と気持ち悪く、訓練に誘って来たが、アリアは断らず、サラと一緒に訓練するようになっていた。ブルーノは、アリアが優しくしてくるので、逆に挙動不審になりながら、一緒に訓練していた。
そのような日々も終わりが近付いていた。とうとう、3月の卒業試験の時期になった。卒業試験は、2回目の試験と同様に、武術試験と筆記試験、部隊指揮試験を実施する試験内容であった。そんな武術試験の前日。アリアは、ブルーノにレイル士官学校の中庭に呼び出された。
アリアが中庭に向かうと、既にブルーノがいた。ブルーノは、緊張した面持ちであった。
「ブルーノさん、何か用ですか?」
「アリア、来たか。よし、言おう! アリア、単刀直入に言うよ! 卒業試験の武術試験で、僕が勝ったら、結婚して欲しい!」
ブルーノがいつもと違い、緊張しながらも本気で言っているのがアリアに伝わった。少し、アリアは驚いていた。
「……ブルーノさんって、お父上のダモンさんに言われて、私と結婚しようとしてるんですよね?」
アリアは、直接、ブルーノに尋ねた。ブルーノの顔が瞬時に変わった。
「……確かに、僕は父上に、アリアと結婚するように言われていたさ。アリアに近付いたのも、最初はそれが目的だったのは隠しようもない事実だよ。だが、今は違う! 僕は君に、本気で恋をしたんだ! きっかけは、アンティーク訓練場での君の姿だった。君は、周りの人間が苦しんでいる時に、率先して、仲間を助けていたね。自分が苦しい状況でも、誰かを助けられる女性が、この世にどれだけいるだろうか? そんな君の姿に、僕は心を打たれ、本気で結婚したいと思ったんだ! だから、卒業試験の武術試験で僕が勝ったら、結婚して欲しい!」
ブルーノはそう言うと、アリアに向かって、頭を下げた。アリアは、男性から、告白されたのが初めてだったので、驚いた。
「……そこまで言うなら、考えても良いですよ」
「本当かい!? ありがとう、アリア!」
アリアが勢いに負けて、そう答えると、ブルーノは、アリアの手を握ると、ブンブンと上下に振った。
相当、嬉しかったようだ。そして、ひとしきり腕を振ると、ブルーノは自分の寮の部屋に帰って行った。アリアも自分の寮の部屋に戻って行った。その後ろには、頭の左右から金髪のクルクルの巻き髪を生やしている女性がついてきていた。
そして、アリアが自分の部屋に戻ると同時に、その女性も部屋に一緒に入って来た。
「アリア、こ、こ、告白されましたの!?」
サラは、アリアの部屋に入るなり、アリアにそう言った。相当、興奮しているのか、頭をブンブンと振っていた。一緒に、金髪のクルクルの巻き髪が揺れていた。
「そうみたいですね。凄く驚きました」
「……意外と、落ち着いてますわね。あぁ、羨ましいですわ! ワタクシも、レオン皇子に告白されたいですわ!」
そんな感じで、アリアは、サラの恋愛話に消灯まで付き合わされた。そして、アリアは明日の武術試験のために、消灯の音楽が鳴ると同時に寝た。
――レイル士官学校の卒業試験の武術試験が始まった。アリアは初戦の相手を速攻で倒すと、ブルーノの試合を見ることにした。そして、ブルーノが初戦のために、訓練場に現れた。そして、初戦の相手を鬼気迫る槍捌きで倒した。相当、気合が入っているのが、アリアにも分かった。ブルーノは勝利した後も、笑顔も見せずに、自分の部屋へ戻って行った。
そうして、2日が経過した。アリアとサラとブルーノは、順調に勝ち進んでいた。3日目となり、半日ほど過ぎた時点で、アリアの準決勝の相手が、決定した。それは、2度とも武術試験の準決勝で当たっている、2組の入校生であった。
午後が始まり、アリアと2組の入校生との準決勝が始まった。アリアは、初手で相手の剣を弾き飛ばそうとした。だが、それを読んでいたのか、あっさり避けると、アリアに向かって、上段から剣を振るってきた。
アリアはそれを、剣で受け止めた。明らかに、この前に戦った時よりも、強くなっていた。アリアは剣で相手の剣を弾くと、そのまま相手の胸目掛けて剣を振り抜いた。だが、それも防がれてしまった。
(少し、本気を出さないと、駄目そうだな)
アリアは、そう考え、今までより明らかに、速い速度で相手に斬りかかった。相手はアリアから、殺気を感じたのか、今までより必死な表情で、アリアの剣を防いでいた。だが、アリアは、相手に反撃を許さず、攻撃し続けた。
「うわぁ!」
5分後、ガキン!という音とともに、相手は声を上げ、剣をアリアに弾かれた。剣は宙を舞い、そのまま、地面に刺さった。相手は、アリアの熾烈な攻撃に、耐えきれず、剣を持つ手から力が抜け、剣を弾かれた様であった。
(久しぶりに、師匠との修行以外で、本気出したな)
アリアはそう思いながら、訓練場の壁の方に移動した。そして、サラとブルーノの準決勝が始まった。
「ブルーノ、今回も、勝たせてもらいますわ!」
「…………」
「あれ、ちょっと、様子がおかしいですわ?」
サラはブルーノの様子がいつもと違うので、少しとまどっていた。対して、ブルーノは集中している様子であった。サラとブルーノが構えると、教官の掛け声とともに、ブルーノが踏み込んで、サラの剣を狙って、突きを繰り出した。
カン!という音とともに、サラの剣が弾き飛ばされていた。あまりにも、一瞬のことで、サラは口をポカンと開けて、立ったままになっていた。
「勝者! ブルーノ!」
教官の声とともに、ブルーノは訓練所から少し離れた。その声で、サラの意識が戻った。
「わ、ワタクシ、負けましたの!? 悔しいですわ!」
そう言って、サラは地団駄を踏んでいた。アリアは、それを横目に見ながら、決勝戦の準備を始めた。
そして、決勝戦が始まった。アリアとブルーノがそれぞれ構えた。周りは静まりかえっていた。
「それでは、始め!」
教官の声とともに、ブルーノが突きを繰り出してきた。結構、速く、アリアはその突きを防ぐので精一杯であった。そして、ブルーノはそのまま、突きの連撃を繰り出してきた。アリアは、後退しながら、その突きを防いでいた。一瞬、ルビエの姿とブルーノの姿が重なった気がした。
(このままだと、埒が明かないな。本気を出そう)
アリアは、ブルーノの突きの一瞬の隙を見逃さず、ブルーノの槍を弾くと、一気に後退した。そして、殺気を全開にすると、ブルーノに斬りかかった。そんなアリアの様子を見ていた、アリウスとリールが、アリアを止めるために、試合をしている場に飛び込んできた。
だが、アリアの剣の方が速かった。上段から剣を振り、まったく反応出来ていないブルーノの槍の持ち手を折ると、そのまま、ブルーノの胴体に剣を叩きつけた。バン!という破裂音とともに、ブルーノが訓練場の壁に向かって吹き飛び、壁に激突した。
あまりの衝撃に、先ほどまで決勝戦が始まり賑やかだった会場が、一瞬で静まりかえった。
「早く担架を持ってこい!」
アリウスが、怒鳴り声を上げていた。そして、アリアの腕をリールがつかんでいた。
「間に合いませんでしたね。まぁ、しょうがありませんか。ブルーノも、覚悟を決めていたようですしね」
リールはそう言うと、アリアの腕を放した。アリアは急いで、ブルーノの下に向かった。
「ブルーノさん! 大丈夫ですか!」
アリアがブルーノの体を見ると、何本か、骨が折れているようであった。
「……アリアか。凄い剣だったよ。僕の完敗だ」
アリアが近付いて来たことに気がついたブルーノが、そう言うと、意識を手放した。
武術試験は、後味の悪い終わり方であった。アリアは、教官室に呼び出されていた。
「まぁ、今回は仕方がありませんよ。実際に、ブルーノの槍のキレも中々でしたしね。アリアが本気を出さないと、ブルーノには勝てなかったでしょう。気を落とさないで下さい」
「……分かりました、リール教官」
「ブルーノも骨を何本か折ったみたいですけど、普通に喋れる程度には、回復したみたいですよ。この前も、ケガしながら、筆記試験と部隊指揮試験を受験していたし、何とかなるでしょう」
「……そうですか」
アリアは、リールから、ブルーノの状況を聞いた後、医務室へ向かった。そこには、布をグルグル巻きにされていたブルーノがいた。
「ブルーノさん、大丈夫ですか?」
「ああ! アリアか! いや、君の剣は凄かったよ! 僕の完敗だ!」
「それよりも、体は大丈夫ですか?」
「体かい? 骨が何本か折れているみたいだけど、こんなので弱音を吐いてもしょうがないよ! 試験も受けるつもりだよ! 実際に、この前も受けたしね!」
「……そうですか。でも、こんなにするつもりはなかったんです! ごめんなさい!」
「アリアが謝る必要はないよ! 僕が弱かっただけだから! アリアも気にしないで! 僕は大丈夫だから、もう戻って良いよ!」
「ブルーノさん、ありがとうございます」
アリアはそう言うと、自分の部屋に戻って行った。
――筆記試験と部隊指揮試験が終了し、卒業試験が終了した。アリアの結果は、武術試験満点、筆記試験満点、部隊指揮試験5という結果であり、総合1位であった。2位は、なんと骨が折れているブルーノであった。そして、3位が2組の入校生、4位がサラであった。
そして、レイル士官学校を全体を通しての首席は、アリアだが、慣例通り、サラが首席となった。そして、アリアが次席であった。サラは、『こんなのおかしいですわ! アリアが首席に決まっていますわ!』と言って、教官室に抗議をしに行ったが、取り合ってもらえなかったようだ。
そして、レイル士官学校の卒業式が行われた。入校式と同様に、長時間、立ったままであったが、誰も貧血で倒れるものはいなかった。卒業式が終わると、1組の教室に戻り、リールが最後の言葉を話した。
その際に、泣きながら話していたので、1組の入校生は驚いていた。
こうして、長かったレイル士官学校をアリアは卒業した。




