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17 レイル士官学校⑤

 ――アリアがレイル士官学校に入校してから3ヶ月が経過し、7月となった。レイル士官学校では、制服が夏用の制服に変わっていた。あと、1ヶ月で夏季休暇ということもあり、入校生達には、どこか浮ついた雰囲気があった。


 3ヶ月が経過したこともあり、レイル士官学校の教育内容も訓練が多くなってきていた。アリアはというと、1日の流れ自体は変化せず、週末、ハルド家でサラと一緒に、剣の修行をしていた。レイル士官学校の生活にも慣れて、アリアには、少し、余裕が生まれていた。1組の入校生も同様に、生活に慣れて、余裕がある様子であった。


 2組の入校生は、相変わらず、1組よりも、忙しい毎日を送っており、アリアが見ている様子では、余裕など微塵もないという感じであった。だが、1組よりも厳しいだけあって、2組の入校生達の武術の技量は、レイル士官学校に入った時よりも、飛躍的に伸びているとアリアは思った。


 そんなこんなで、レイル士官学校の生活に慣れたアリアであったが、最近、困ったことがあった。


「アリア! この僕、ブルーノ・アシューとともに朝食を食べないかい?」


「いえ、結構です」


「そんな、つれないことを言わずに、僕と朝食を食べようではないか!」


「いいえ、本当に結構ですので!」


 アリアは、ブルーノにそう言うと、走って、食堂へ向かった。あまりの速さに、ブルーノはついていけていない様子であった。


 そう、アリアの最近の困っていることは、ブルーノ・アシューがどこへ行っても、ついてくることであった。このブルーノ・アシューという男は、ダモン・アシュ―の次男であった。どうやら、ダモンが1年前に、アリアに縁談を持ってきた相手が、このブルーノ・アシューだったようだ。ダモンと違い、普通に美男子であった。もしかすると、ダモンも昔は美男子だったのかもしれないとアリアは思った。


 そして、ブルーノは1組だったため、嫌でも、毎日、顔を合わさなければならなかった。5月までは、アリアに対して、話しかけもしてこなかった。だが、6月から、いきなり、頻繁に話しかけ、そして、アリアについてくるようになった。


 アリアも最初こそ、丁寧な対応を心掛けていたが、あまりにもしつこいので、最近は、おざなりな対応になっている。レイル士官学校の1日の生活の中で、食堂で食べる時も、目の前の席に座り、朝と夜の自主練習の時も、積極的にアリアと一緒に訓練をしようとし、普段の訓練も、アリアと組もうとしてくるので、アリアはうんざりしていた。


 その果てには、週末、サラとアリアがハルド家で修行していると、馬車に乗って、ハルド家に現れ、ハルド家のメイドが止めているにも関わらず、ハルド家の訓練場に勝手に入って行き、『僕も混ぜて欲しい!』と言ってきたりした。


 その時は、レリフがブルーノの首をつかんで、ブルーノが乗って来た馬車に放り投げ、『次、ハルド家に来たら、君の屋敷を切り刻むからね!」と言って、事なきを得た。それから、ブルーノが、週末に来ることはなくなっため、アリアは週末にブルーノの顔を見なくて済んだ。


 そして、ブルーノにつきまとわれて困っていることをレリフに相談した。


「まぁ、彼の家のアシュ―家は、アスール王国の文官の中では、最も影響力を持っているからね。それは、つまり、アスール王国の中でも指折りの影響力を持っているってことなんだよね。そして、僕の弟子であるアリアちゃんと彼が結婚すれば、アスール王国軍にも、アリアを通じて影響を与えることが出来るって、ダモン殿は考えたんだろうね。だから、アシュ―家の空いている敷地に、アリアの屋敷を建てて、自分の影響力の範囲にアリアがいるぞってアピールしたかったんだろうね。まぁ、僕がその構想はぶち壊したけどね」


「そうなんですか。ということは、ブルーノさんは、ダモンさんに言われて、私に近付こうとしているということですか?」


「おそらく、そうだろうね。しかも、ブルーノは次男だから、アシュ―家を継げないし、ここで自分が役に立つことを、ダモン殿に見せないと、将来的に、アシュ―家で冷遇されると思っているんじゃないかな? まぁ、ハルド家は、父上が結構、優しいから、当主である僕が何をしても、基本的に文句は言わないし、当主じゃないルビエがハルド家で冷遇されるってこともないからね。アリアには、ちょっと、分かりづらいかな? でも、大体の貴族って、そんなもんだよ。だから、レイル士官学校には、長男が文官になるから、仕方がなく行って、軍人になるっていう貴族の次男が多いよ。ブルーノもそうなんだろうね」


「そうなんですか。貴族って、大変ですね」


「ちなみに、アリアちゃんも貴族だからね。実感はあまりないと思うけど。だから、世継ぎを作るか、どこかから、養子をとらないと、アリアちゃんが死んだ時点で、貴族としてのロード家は消滅するよ」


「じゃあ、問題ないですね。私は、アルテリオ帝国に復讐出来れば、それで良いですから。それで、ブルーノさんが私につきまとう理由は分かりました。でも、私はブルーノさんと結婚するつもりは一切ありません。何とかして、ブルーノさんが私につきまとってくるのを何とかしたいです。何か良い案はありませんか、師匠?」


「実際に、ダモン殿に僕が言ったとしても、効果ないと思うんだよね。ブルーノも、一緒だと思うし。そうだね、じゃあ、もういっそのこと、付き合ってみたら?」


「……師匠に聞いた私が馬鹿でした。自分で何とかします」


「ごめんね。力になれなくて」


 アリアは、レリフに聞いたことを後悔するとともに、とりあえず、ブルーノに塩対応をし続けようと考えた。そうすれば、ブルーノも諦めてくれるだろうとアリアは考えた。


 そして、ブルーノに塩対応を続けて、結構な時間が経ったが、未だに、ブルーノがアリアを諦める気配はなかった。ルビエにも相談したが、『色恋沙汰を自分に聞くな!』と怒られてしまった。そうじゃないが、ルビエに相談するのをアリアは諦めた。次に、サラに相談したが、『殿方に迫られるなんて、羨ましいですわ!』と、全然、聞く耳を持ってくれなかった。


 最後に、リールに相談したが、『自分で何とかしなさい』と笑顔で言われてしまった。






 そんなこんなで、ブルーノに悩まされながら、アリアは試験期間を迎えた。レイル士官学校では、7月と12月、最後に3月に卒業試験がある。7月の試験の内容は、大きく分けて武術試験と筆記試験であった。武術試験の内容は、実際に、入校生同士でトーナメント形式で、戦って、その順位が成績の点数になるというものであった。つまり、優勝すれば、満点である。


 筆記試験の内容は、今までに講義で習ったことを科目別に、試験するという内容であった。そして、武術試験が3日間、筆記試験が1日間の計4日間で、7月の最後の週に行われるものであった。この期間は、2組もさすがに、朝と夜の訓練場での訓練はなかった。そうでないと、物理的に勉強する時間がないためである。8月から9月までの夏季休暇に入る前の最後の週ということもあり、入校生は気合いが入っていた。


 アリアもさすがに、朝と夜の自主練習を休んで、筆記試験に向けて、勉強をしていた。一部の入校生は、武術試験のために、自主練習をしていたが、アリアはその必要を感じなかった。


 そして、試験期間が始まった。まずは、武術試験である。1組と2組に関係なく、トーナメントは組まれるが、ある程度、入校生の実力は、考慮されるようであった。そして、張り出されたトーナメント表を見ると、当然、アリアは第1シードであった。そして、何気にサラが第3シードであった。サラは意外と強かったようだ。


 アリアにつきまとっているブルーノは何と、第2シードであった。そんなに強いんだとアリアは思った。実際に、つきまとわれているが、ブルーノと手合わせしたことはなかったので、意外であった。そして、戦術試験の1日目が始まった。今日は、100人ほどいる入校生の1回戦が行われた。ちなみに、敗退すると、敗者同士で順位を決める日まで、入校生が試合をしている場所から少し離れた場所で、朝8時から、昼食を挟んで、夕方17時まで、素振りをしなければならなくなる。


 逆に、勝ち続ければ、自分の試合の時間以外は、自由時間であるので、勉強しても良いし、他の入校生の試合を見ても良かった。そのため、素振りが嫌か、自由時間に勉強をしたい一部の入校生が、武術試験のために、自主練習をしていたのである。


 そして、アリアの武術試験が始まった。第1シードであったので、武術試験の最初であった。訓練場で教官の立ち合いの下、自分の好きな武器で戦うので、アリアは木剣を選んだ。事前にリールに、『相手にケガをさせないように勝ちなさい』と言われていたので、試合が始まると、相手の木剣をさっさと弾いて、試合に勝利した。敗北条件は、自分の手から、武器が離れるか、試合続行不可能になるかのどちらかであった。


 そして、余った時間は、自分の部屋で勉強をしていた。自分の部屋に戻る前に、訓練場の隅を見ると、アリアに秒殺された相手が、泣きそうな顔で素振りをしていたのが印象的であった。少し悪いことをしたなとアリアは思いながら、自分の部屋に戻った。


 2日目も、アリアは相手の剣をさっさと弾いて勝利した後、自分の部屋に戻って、勉強していた。訓練場では、昨日負けた入校生同士が、自分の順位を確定させるために、試合を行っていた。サラは、順調に勝っているらしい。アリアと訓練場で会うと、『楽勝ですわ!』と言っていた。会いたくなかったブルーノに会うと、『僕の華麗な戦いを見てくれたかい?』と言われた。『見ていないです』と言うとアリアはさっさと自分の部屋に戻った。


 3日目は、最終的なトーナメントの優勝者を決めるので、試合の間隔が短く、アリアは自分の部屋に戻れなかった。アリアは、しょうがないので、自分の試合相手の剣を弾いて、秒殺した後、訓練場で教科書を読んでいた。そして、準々決勝まで終わり、準決勝に進んだ入校生、4人が決まった。その4人は、アリア、サラ、ブルーノ、2組の入校生であった。基本的に、1組の入校生が、上位を占めていたが、何人か2組の入校生も上位に入っていた。


 そして、準決勝が始まった。アリアは、さっさと終わらせようと、2組の入校生の木剣を弾こうと、剣を振るった。だが、アリアの木剣は避けられ、逆に攻撃をされた。どうやら、アリアの動きを読んでいたようであった。


(意外とやるな。真面目にやろう)


 そう思ったアリアは、2組の入校生の木剣を避けると、そのまま、木剣を相手の木剣に打ちつけ、弾き飛ばした。それで、試合が終了した。アリアは、決勝に進んだ。次に、サラとブルーノの試合が行われた。30分の長丁場の末、ブルーノが勝利をした。『キー! 悔しいですわ!」とサラが悔しがっているのが、見えた。というか、サラとブルーノ、お互い、満身創痍であった。


 次に、サラと2組の入校生で、3位決定戦が行われた。これまた、40分の長丁場となり、結果的にサラが勝利した。『何とか、勝てましたわ……』とぐったりした様子で、サラは言っていた。


 そして、決勝戦となった。アリアは木剣を持つと、試合会場に入った。


「アリア! この勝負は運命だと、僕は感じるよ! そこで、この試合に勝った方が、敗者のお願いを一つ聞き入れるというのは、どうだろう?」


「一応、聞いておきますけど、どんなお願いですか?」


「それは、もちろん、アリアと僕が結婚するというお願いさ!」


「そうですか。ちなみに、ブルーノさんが勝っても、私は結婚するつもりはありませんよ」


「いや、これだけの入校生の目があるから、アリアは約束を守らざる得なくなるよ。それが、貴族というものだよ。アリアには、すまないが、この勝負、勝たせてもらうよ!」


 ブルーノはそう言うと、木槍を構えた。意外と良い構えだなと思った。さすがに、第2シードは伊達ではないらしい。しかも、アリアに勝つつもりらしい。さっきのサラとブルーノとの試合を見た感じだと、普通にアリアは、勝てそうだと感じたが、万が一、負けて、貴族のよく分からない慣習で、ブルーノと結婚するなんて、嫌だったので、木剣を握る手に力が入ってしまっていた。


「それでは、始め!」


 教官の声とともに、アリアは本気でブルーノの懐に飛び込み、木剣を振り抜いた。あまりの速さに、ブルーノは反応出来ず、ブルーノの持っている木槍もろとも、ブルーノが訓練場の壁へ向かって、弾き飛ばされた。そして、ドン!という音とともに、ブルーノが壁に叩きつけられ、動かなくなった。



 アリアは、その後、教官室でリールに2時間にわたって、説教をされた。どうやら、ブルーノは、命に別条はないが、布で全身をグルグル巻きにされているらしい。リールの説教が終わった頃には、もう20時になっており、食堂は閉まっていたため、夕食を食べることは出来なかった。


 そして、お腹を空かせながら、アリアは夜道を、自分の寮の部屋まで戻っていた。


 

 次の日、筆記試験が行われた。アリアにとって、苦戦する内容でもなかった。そして、夏季休暇前の最後の日に、教室に成績が貼り出された。武術試験、筆記試験の両方で満点であったアリアがぶっちぎりの1位であった。2位はサラであり、3位はブルーノであった。どうやら、ブルーノは、筆記試験を受けられたようだ。昨日は、医務室で筆記試験を解いたらしい。


 そして、夏季休暇の間の注意事項をリールが1組の入校生に話した後、レイル士官学校は、夏季休暇に入った。入校生達は、レイル士官学校の門に停まっている馬車に乗り込むと、各々の屋敷へ帰って行った。

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