14 レイル士官学校②
――アリアがレイル士官学校で、筆記試験と武術試験を受けてから、1週間が経過した。そして、とうとう、アリアがレイル士官学校に入校する日となった。ハルド家の屋敷から出てきたアリアはレイル士官学校の制服を着ていた。
「それじゃ、アリアちゃん! 行ってらっしゃい!」
「アリア、頑張るのだ! とはいっても、週末には帰って来れると思うけどな!」
レリフとルビエが、屋敷の門を出たアリアにそう言って、手を振っていた。
レイル士官学校は、基本的に週末は休みである。一部、日をまたぐ訓練などで、週末がない場合があるが、その分、その訓練が終わった後に休みとなる。それは、1組と2組で変わらない。そして、王都レイルに屋敷を構える中央出身の貴族は、週末帰ることが出来るが、それ以外の貴族は、物理的に帰るのに時間がかかるため、週末は士官学校で過ごしたり、王都レイルで遊ぶといった具合であった。
ちなみに、休みの終わりの夜の人員が居るかどうかを確認する点呼で、居なかった場合、レイル士官学校の教官、入校生を問わず、全員で探すことになる。そのため、夜の点呼には帰らなければならなかった。
「はい、週末には帰ってきます。それでは、行ってきます」
アリアはそう言うと、レイル士官学校に行くためにハルド家の馬車に乗り込んだ
そして、馬車に揺られること30分。レイル士官学校の校門に到着した。そして、受付の人に、自分の名前を告げると、入校生が生活する寮へ案内された。寮は、一人につき一部屋であった。これが、新兵の訓練所の場合、一部屋に十人が押し込まれていたりする。それと、比べると破格の待遇であった。
アリアは案内された部屋に自分の荷物を置いた。広さは、ハルド家のアリアの部屋より、少し、狭いといった感じであった。そして、ある程度、荷解きを済ますと、自分が所属することになる組の入校生が集まり、講義などを受けることになる教室に、向かった。受付の人に場所を教えられていたため、あまり迷うことなく、到着した。アリアは、1組であった。2組の教室は、1組の隣の教室であった。
教室の扉を開けると、アリアは1組の教室に入った。そして、指定されている席に座った。どうやら、椅子と机の数からして、30人ほどが1組に所属しているようであった。また、アリアを見てヒソヒソと周りにいる同じ組の入校生が話していたので、またも気分が悪かった。だが、暴れてもしょうがないので、この組の担当教官が来るのを待った。
待つこと、20分後。ガラガラと教室の扉を開けて、二人の教官が入って来た。それと同時に、教室に散らばっていた入校生が即座に自分の席についた。
「……どうやら、全員居るみたいですね。それでは、自己紹介をしたいと思います。私が1組の担当教官をするリール・ハサインです。階級は大尉です。これから、一年間、よろしくお願いします。それで、私の横にいるのが私を補佐してくれる教官のミル・ロンド中尉です」
「……ミル・ロンドだ。よろしく」
『よろしくお願いします!』
リールとミルに向かって、1組の入校生が一斉に挨拶をした。アリアに、入校生の気合が伝わってきた。リールは、見た目からして優しそうだと分かる顔をしていた。レリフとルビエとそう変わらない年齢なのではないかとアリアは思った。逆に、ミルは身長が2m近くあり、顔も相当怖かった。
「うん、元気があって良いね。今日は、レイル士官学校の入校式を午前中に行うので、この後、大講堂に移動してもらいます。そして、午後は、レイル士官学校の説明と生活上の注意を説明しますので、そのつもりで」
『はい!』
リールの言葉に、1組の入校生が元気のある返事をした。アリアも、周りの雰囲気を読んで、元気良く返事をした。そして、リールが説明を終えると、1組の入校生は、大講堂へ移動した。
大講堂は、200人が入れるのではないかと思うほど、広かった。アリア達の1組が大講堂に入ると、既に2組の入校生が入っていた。2組の入校生は、1組の倍以上いるようにアリアには見えた。その2組の入校生の後ろには、アリウスと4名の教官らしき人が立っていた。どうやら、アリウスは2組の担当教官らしい。
1組が大講堂に入り、落ち着いた後、入校式が始まった。
「これより、レイル士官学校の入校式を始めます! 学校長、訓示!」
壇上の横にいる司会と思われる教官がそう言った。そして、立派な髭を蓄えたおじさんが壇上に登場した。
「まず、この歴史あるレイル士官学校への入校、おめでとう! これから、1年間、この士官学校で、同じく入校した者達とともに、切磋琢磨し、将来のアスール王国軍を担う人材となることを望む。士官学校での教育は、厳しいことが多いかもしれない。だが、決してくじけずに頑張って欲しい。それでは、レイル士官学校での諸君達の成長を願って、訓示を終わるとする」
学校長は、そう言うと、壇上の奥から降りて行った。意外と、短いなとアリアは思った。だが、それが間違いだったことをアリアはこの後、思い知らされたのであった。
学校長の訓示が終わると、司会が、アスール王国の王や主要な将官の祝電を読み上げ始めたのだ。その中には、西方軍司令官のハリルや、西方軍司令部の参謀長となったリカルド、近衛騎士団長のルビエ、剣聖レリフが含まれていた。
ルビエの祝電は、真面目なルビエの性格が出て、良い内容ではあったが、長かった。逆に、レリフの祝電は、『まぁ、キツイと思うけど頑張って』の一言だけであった。それだけであったので、少し大講堂がざわついた。
そんなこんなで、祝電の読み上げが3時間ほど、続いた。大講堂にいる入校生は、その間、立ったままであったので、何人か貧血で倒れていた。アリアはというと、貧血になりはしなかったが、何回か立ったまま寝そうになった。話の内容が途中から入ってこなくなり、眠気と戦うのにアリアは必死であった。
そして、祝電が終わり、最後に入校生代表が謝辞を述べようとしていた。壇上には、クルクル巻いた金髪を頭の左右から生やしている女性が立っていた。そして、謝辞を述べていた。約1時間の間。その間にも、どんどんと入校生が貧血で倒れていった。
アリアはというと、やはり、眠気と戦っていたため、謝辞の内容がまったく頭に入ってこない状態であった。しかも、いつまで経っても終わらなかったため、アリアは少し、壇上で謝辞を述べている女性に殺意を覚えた。
――そして、入校式から約4時間後。やっと入校式が終わった。アリアは、レリフやルビエと修行した訳でもないのに、凄い疲れたと思った。1組の教室に戻る道中、他の入校生を見ると、何人かいなくなっており、一様に疲れた表情をしていた。
そして、1組の教室に戻り、リールから午後の説明の概要を説明された後、午前中の終わりを告げる音楽が鳴った。
食事は、各自で食堂に赴き、食べるようであったため、レイル士官学校内の標識を頼りに、昼食を食べるために一人で食堂に向かった。
アリアが食堂に着くと、既に食堂には人が結構いた。自分で、食べたいものを、料理が乗っている大皿から、自分の小皿に移して、持っていくようであったので、アリアは小皿を木のおぼんに載せると列に並んだ。
アリアが珍しかったのか、列に並んでいる間、他の入校生からジロジロと見られた。その視線に、少しいら立ちながら、アリアは食べたいものを皿に載せ、座れる場所を探した。ほとんどの机に人が座っており、食堂の端にしか、空いている机がなかった。そのため、アリアはその机の席に座った。
「いただきます」
アリアはそう言うと、昼食を食べ始めた。味は普通に美味しかった。ハルド家と比べると、さすがにハルド家の食事の方が美味しいとアリアは思った。そんなことを思いながら、アリアは黙々と食事を続けていると、一人の女性がアリアに近付いて来た。
「ちょっと、よろしくて、そこの貴方?」
「……誰ですか?」
「まぁ! ワタクシを知らないなんて、そんな人間がこの国にいるとは思いませんでしたわ!?」
キンキンする声に、左右から生やしている金髪のクルクルの巻き髪が特徴的な女性がアリアの反応に驚いていた。
「……すいません。それで、どちら様ですか?」
「本当にワタクシのことを知らないようですわね! 良いでしょう! 聞いて驚きなさい! ワタクシの名前は、サラ・アスールと言いますわ! どう、驚いたでしょう!?」
「サラさんと言うのですね。私は、アリア・ロードと言います。それで、そのサラさんは、私に何か用事でもあるのでしょうか? 時間がないので、昼食を食べたいのですが」
「全然、驚いてませんわ!? 名前を聞いても、ワタクシが誰だか、分かりませんの!?」
「すいません、貴族の方の顔は全然覚えていないので、貴方の名前を聞いても、誰だか分かりません。もう用がないなら、昼食を食べますので」
アリアはそう言うと、愕然としているサラと呼ばれた女性を無視して、昼食を食べ始めた。アリアの予想外の態度に、サラは口を開けたまま固まっていた。そんなサラを、アリアは無視して、黙々と昼食を食べ、食べ終わると、小皿とおぼんを食堂に返して、1組の教室へ戻った。サラは、その間、魂が抜けたかのように、ボヘーと口を開けたまま立っていた。
――アリアが教室に戻ってから、10分後。もうそろそろ、午後の開始の音楽が鳴ろうかという時に。廊下をバタバタ!と走ってくる音が聞こえた。そして、1組の教室の扉を乱暴に開けると、急いで、教室の空いている席に座った。アリアが、誰かと見たら、先ほど食堂であったサラであった。
アリアの耳に、『ふぅ~、間に合いましたわ!』という声が聞こえた。相当、急いで戻って来たらしい。そして、午後の開始の音楽が鳴ると同時に、リールとミルが教室に入って来た。
「皆さん、揃っているみたいですね。それでは、レイル士官学校の成り立ちから説明しますね。このレイル士官学校は、アスール王国が建国されてから、まもなくして、設立されました。王族の方々を始め、現在、将官となっている方々は、このレイル士官学校の卒業生です。皆さんの中からも、将来、元帥となる者がいるかもしれませんね。このレイル士官学校では……」
というように、リールは、レイル士官学校の成り立つや主要な施設を説明していた。アリアは、内容を頭に入れながらも、何とか寝ないように話を聞いていた。午前中の入校式の疲れに加え、昼食を食べた後であったため、凄まじい眠気がアリアを襲っていた。
アリアが教室の様子を観察すると、アリアと同じように、眠気と戦っている者達が多くいることが分かった。というより、教室にいる入校生、全員がそうであった。
そして、リールが話始めてから、1時間が経過した。未だに、アリアは凄まじい眠気に襲われていた。
そのような状態で、リールがいきなり話すのを止め、完全に寝てしまっている入校生の前まで歩いて近付いた。そして、その入校生の首を片手でつかむと、そのまま上に持ち上げた。どこにそんな力があるのかとアリアは思った。
「……この程度の疲れで、眠気に負けて眠ってしまうとは。自分の欲求を抑えられないものが、どうして軍の指揮官が務まると思えるのか、私には分かりませんよ」
リールは笑いながら、そう言うと、バタバタともがいている男の入校生を教室の空いている窓から投げ捨てた。入校生の教室は、2階にある。うわぁ!という声とともにドスン!という音が外から聞こえた。
「ミル。下に落ちた者を、この教室に連れてきて下さい。だけど、ケガをしているようであれば、医務室に運んで治療を受けさせて下さい」
「了解しました」
ミルはそう言うと、教室の黒板の前に戻って行った。そして、目が覚めたであろう、教室の入校生に向かって、笑顔を浮かべながら、こう言った。
「君達は、アスール王国の軍の軍人、それも指揮官となる人間です。自分の欲求に負けるような人間を、私は許さないので、良く覚えておくように」
「ハイッ!!」
一段と気合の入った声で、入校生達は返事をした。アリアも、気合の入った声で返事をした。




