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11 アンティーク奇襲戦③

「おい、アリア! 突っ込むな!」


 アリウス大尉が何か言っているが、アリアは気にせずにアルテリオ軍の前線に突っ込んで行った。そして、馬から降りると、警戒のために巡回していたであろうアルテリオ軍の兵士を斬りつけた。


「グワァ!」


 そんな声を上げながら、首を斬りつけられた兵士は倒れた。その兵士の声が聞こえたであろうアルテリオ軍の前線の天幕が、にわかに騒ぎ始めた。そして、その騒ぎは次第に大きくなっていった。アリアは、手当たり次第に、目についた兵士を斬りつけていった。


 もはやアリアを止めるのは不可能と判断したアリウスは、自分の部下に命じて、アルテリオ軍の天幕に火をつけ始めた。そして、出た来た兵士を倒し始めた。最初は、逃げ惑っていた兵士達であったが、そのうちに、周辺の部隊を搔き集めアルテリオ軍の指揮官が指揮する部隊が組織的に攻撃を仕掛けてきた。


 アリアは、そのような状況に気付かずに、目についた兵士を斬り捨てていた。たまに、反撃をしてくる兵士もいたが、あまりに遅過ぎて、アリアの敵ではなかった。そうこうしているうちに、アリアの周りをアルテリオ軍が囲んでいた。


「邪魔だぁぁ!!」


 アリアは、そう叫びながら、アルテリオ軍の包囲を崩そうとしたが、幾重にも包囲されており、倒しても倒しても、切りがなかった。アリアは自分が完全に包囲されたことを認識した。


(このままでは、マズい! 何とかして、包囲を突破しないと!)


 アリアはそう思い、目の前の兵士を斬り伏せながら、何とか包囲の穴を探したが見つからなかった。そのような時に、アリアを呼び声が聞こえた。


「アリア! こっちだ!」


 呼び声の方向に顔を向けると、アリウスが包囲を崩しているのが見えた。アリアは迷わず、アリウスのいる方向へ駆け出した。そして、差し伸ばされたアリウスの手をつかむと、その手を握り、そのまま馬に騎乗しているアリウスとともに包囲を抜けて行った。


 そして、包囲から抜けるとアリウスは手を放した。


「アリア、突っ込むな! 遊撃に徹しろ!」


 アリアが地面に着地したことを確認したアリウスは、アリアに向かってそう言った。


「分かりました!」


 アリアがそう叫んだのを聞いたアリウスは、改めて、敵に向かって攻撃を始めた。アリアも先ほどの反省を活かし、包囲されない程度に攻撃をすることにした。



 ――それから、2時間後。アルテリオ軍の数が目に見えて減って来た。アリウス達が、奇襲され逃げ惑っている敵兵を各個撃破しているというのもあるが、混乱しているアルテリオ軍が同士討ちをしているのも大きかった。


 そのような状況で、アリアは、一際、立派な鎧を着ている人間を見つけた。


(おそらく、あれが、第2皇子ルーク・アルテリオに違いない!)


 そう考えたアリアは、その人間に向かって行った。アリアに気付いたその人間は、恐怖に顔を歪ませながら、逃げ始めたのが見えた。


「待てぇぇ!!」


 アリアはそう叫びながら、その人間を守ろうとして立ち塞がる兵士を、斬り続けた。

 そんなアリアの傍には、アリウス大尉が率いる国境警備隊第1中隊がアリアが討ち漏らした兵士を討ち取るために、援護の態勢を取っていた。


 そして、アリアは、立ち塞がる兵士を斬り捨てていったが、アスール王国とアルテリオ帝国の国境に到着する頃には、ルークと思われる人間は、見えなくなっていた。


「クソッ!! 次は絶対に殺してやる!!」


 見えなくなってしまっては、どうしようもないので、アリアはそう叫ぶと、アリウス達と合流して、次の戦闘に向かった。その道中で、アリアの馬が、奇跡的に見つかったので、アリアは騎乗して、アリウス達と移動した。






 ――アリウス達が、ルークの率いる軍勢に奇襲を仕掛けていた頃。リカルド率いる西方軍8千は、アルテリオ皇帝ルイス・アルテリオがいる敵陣に奇襲を加えていた。


「さすがに、皇帝親衛隊を抜くのは難しいか」


 アルテリオ帝国の中でも、随一の実力を持っている皇帝親衛隊は、並みの兵士では、相手にならなかった。加えて、夜間に奇襲を仕掛けたにも関わらず、まったく動じることなく、反撃に転じたのは、リカルドを驚愕させた。


 だが、皇帝親衛隊は2千ほどであり、戦闘自体は西方軍の有利に進んだ。だが、皇帝親衛隊の士気は凄まじく、自分が死ぬことに対して、全く躊躇がなかったため、リカルドの軍は、相当、足止めをされた。皇帝自体は、寝たまま馬車に移され、皇帝親衛隊に守られながら、アルテリオ帝国に引き返して行った。


 リカルド率いる西方軍は必死で追撃をしたが、皇帝親衛隊に阻まれ、結局、皇帝親衛隊のほとんどを討ち取ったが、皇帝自体は逃がしてしまった。


「……皇帝を逃がしたか。だが、アンティークに向かった中央軍の報告では、アルテリオ軍は総崩れとなっているようだ。あと、ルークの軍勢に対しての奇襲も成功したようだ。我々は、中央軍と合流して、一気にアルテリオ軍を撃滅するぞ!」


 リカルドはそう言うと、西方軍の進路をアンティークに向け、進軍を開始した。






 ――リカルド率いる西方軍が、ルイスがいる敵陣に奇襲をした少し後。ロナルド率いる中央軍1万は、アンティークを包囲しているアルテリオ軍に向かって、奇襲を仕掛けた。

 夜になっていたが、未だに、アンティークの城壁をアルテリオ軍は攻撃し続けていた。

 アンティークの城壁を見ると、何とか、アンティークの守備隊が、城壁に取り付いているアルテリオ軍を弓や石を用いて、落としていた。


「さぁ、奇襲の始まりだ! 思いっきり、突っ込めぇぇ!」


 ロナルドの叫び声とともに、中央軍1万が、アルテリオ軍の横っ腹に突っ込んだ。いきなり、現れた中央軍に、アルテリオ軍は大混乱となった。そのまま、中央軍は、アルテリオ軍の陣を一気に通過した。そして、他の門を攻めているアルテリオ軍の陣を横から突撃をするというのを繰り返した。


 何回か中央軍がアルテリオ軍の陣を突撃していると、さすがに、突撃に対処するためにアルテリオ軍が動き出した。


「突っ込んでくるぞ! 槍隊構え! 串刺しにして……」


 声を張り上げて指揮をしていた指揮官と思われる人物の言葉が途切れた。兵士の目の前で、指揮官と思われた人物の頭と胴が別れた状態になっていた。そして、頭がボトリという音を立てながら、地面に落ちた。それを行った人物は、白い服に白い髪をしていた。


「別に恨みはないんだけどね! まぁ、運が悪かったと思ってよ!」


 そう言いながら、レリフは魔剣ルービアスに付いた血を剣を振って落とした。辺りに一瞬の静寂が広がる。


「……剣聖レリフ・ハルド」


 誰かが、ボソッと呟いた。それと同時に、アルテリオ軍にさらなる、混乱が広がった。

 ある者は、持っていた槍でレリフを突こうとした。だが、その槍は穂先から両断され、その兵士の首も斬り飛ばされていた。

 ある者は、弓でレリフを射ろうとした。だが、射った矢は、弾き飛ばされ、弓を射った兵士の首は空に飛んでいた。

 また、集団で包囲して、レリフを押しつぶそうとした。だが、その包囲を成している一角の兵士が丸ごと、斬られていた。そして、その指揮をしていた者の首は、体と別たれていた。


 レリフは、部隊を指揮している人間に当たりをつけて、斬っていった。いきなり、指揮官を失った部隊は、大混乱に陥っていた。加えて、中央軍が何度も突っ込んでくるので、アルテリオ軍は、アンティークの城壁を攻撃している場合では、なくなっていた。


 そこに、中央軍が突撃していない方面に、アンティークの城壁から矢を降り注いだ。さらに、アルテリオ軍は混乱に陥った。


 混乱しているアルテリオ軍は、脆く、組織的な防御や攻撃が一切出来なくなっていた。そこを、中央軍に狙われ、各個撃破の的になっていた。






 ――ロメールは、アンティークの城壁を攻めていたアルテリオ軍が、奇襲を受け、組織的な攻撃も防御も出来なくなっている様子に激怒していた。


「いったいどこから、あの軍は現れた!?」


「分かりません! ただ、アンティークの北の森林地帯からいきなり現れたので、おそらく、事前に兵を伏せていたのではないかと考えられます!」


「斥候でも、探しきれなかったか! だが、なぜ、あのように簡単に突撃を許しているのだ! そこまで、我が軍の将兵は惰弱ではないはずだ!」


「先ほど、剣聖レリフ・ハルドが、我が軍の指揮官を倒して回っているという報告がありました!」


「剣聖だと!? あれは、アスール王国が、国威発揚のために作り上げた偶像ではないのか!? 一人でレファリア帝国の指揮官を倒して回っていたというのは、本当であったのか!?」


「ロメール大将、あちらをご覧下さい! おそらくあれが、剣聖だと思われます!」


 ロメールは、副官が指差した方向を見た。そこには、白い服を纏い、白い髪を後ろに結んだ男が、アルテリオ軍の陣の中を縦横無尽に切り刻んでいた。そして、指揮をしていた人間の、首を斬り飛ばしていた。周りの兵士も、何とかレリフを止めようとしているが、まったく止められていなかった。


「……どうやら、剣聖の実力は本物のようだ。あれほど、強い人間を私は見たことがない」


 ロメールはそう言った後、黙ってしまった。そんなところに、馬に騎乗した者が、指揮所に急いでやって来たのが見えた。そして、ロメールの近くに、馬を乗ったまま、近づいて来た。


「ロメール大将! 報告があります!」


 ロメールがその者を見ると、皇帝親衛隊の者であった。鎧は傷付き、激戦を繰り広げた後であるのは見てとれた。ロメールは、嫌な予感がした。


「報告せよ!」


「陛下の居られる陣が、アスール軍に奇襲されました! 敵の数は、不明ですが、5千以上はいると思われます! 何とか皇帝親衛隊が、陛下を守りながら、アルテリオ帝国に引き返している状態です! 急ぎ救援をお願いいたします!」


 報告を聞いたロメールの時間が止まった。同様に、指揮所全体の空気が凍った。

 アンティークの周辺では、アルテリオ軍が、アスール軍に、いいようにやられてしまっている。しかも、陛下の陣が奇襲を受けている。この調子では、ルーク皇子の展開している場所にも、アスール軍が奇襲をしており、陛下の救援に向かえる状態ではないだろうとロメールは考えた。


「全軍にアルテリオ帝国まで退却命令を出せ! そして、動ける部隊は、すぐに陛下の救援へ向かえ!」


「ロメール大将、ここまで来て諦めるのですか!?」


 副官が驚きの表情とともに、ロメールに尋ねた。ロメールの表情は、苦渋に満ちていた。


「我が軍は、現状、戦える状態ではない! それに、陛下とルーク皇子を失う訳にはいかない! 即座に先ほどの命令を伝えよ!」


「……了解しました!」


 副官は、悔しそうな顔で、指揮所にいる指揮官にロメールの言葉を伝えた。そして、撤退のドラの音が各所から聞こえ始めた。その音を聞いた、アルテリオ軍が一斉に後退を始めたのが見えた。

 また、指揮所近くに控えていた部隊は、即座に皇帝を救援するために、動き出した。


「殿は、私が指揮する! お前は、陛下とルーク皇子を守りながら、アルテリオ帝国へ引き返せ!」


「了解しました!」


 副官は、ロメールの言葉を聞くと、即座に動き始めた。一人残されたロメールに近付く影があった。その影の頭は、松明の光を浴びて反射していた、


「ロメール大将、その殿、俺の部隊を使って下さいや」


「スザリオか。お前は、本当についていないな。分かった! お前の部隊を殿として使う! 生きて帰れたら、屋敷にある酒を浴びるほど、飲ませてやろう!」


「それじゃ、ますます死ねませんな! ロメール大将の屋敷にある酒を楽しみに頑張りますよ!」


 ロメールとスザリオは、そう言うと、準備を始めた。

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