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7話 ディディエラ・ティアラ学園

 フィン様に確保され、テラに怒られた次の日の朝、王都の門を出ようとしたら、いきなり門兵長さんに止められました。

 

「ユナ、さすがの俺も、騎士団長とテラの両方に睨まれるのは胃がもたねぇ。大人しくしといてくれねぇか?」

 心持ち頭が寒そうに見える。ふわふわと風に揺れる産毛が物悲しさを醸し出している。ユナは視線を無理やり門兵長さんの頭から剥がし、いつか育毛剤を開発しようと心に決めた。

 

「でも、薬草はいるでしょ?冬だし、少しでも多い方がいいんじゃない?」

 この世界には魔法なるものがあるから、治療師は魔法使いだ。だけど、治療師を呼ぶのはお金がかかる。だから、庶民は安い薬に頼るのよね。


「そうだが……」

 門兵長さんは心配性ね。

「困ったな……服もランプも全部燃えちゃったから、買わなきゃなんだけど……」

 

 ユナが呟くと、何故か門兵長さんは目頭を押さえながら、背中を押してくれた。

「ユナ、危ない所には行くなよ」

「うん!今日はお墓を見に行くだけだから安心して!すぐに帰って来るって約束する!」

「ユナ……!」

 何故か泣かれた。


 村に入り墓場に着くと、早速プラズマが集まってくる。

『おお!ユナ、元気しておったか?』

「うん、オレリアンおじ様!ユナがいなくて寂しくなかった?」

『ユナ――!ボトルロックは何処じゃ!勝負させい!!』

「オレビンオヤジ、ゲームは時間ないからまたね!今日はね、なんと!これを持ってきました!!」

 

 ユナがじゃじゃーんっとカバンから短剣を出すと、エリアスが出てきて、出てきたエリアスと向かい会った。

 ん?何か私、おかしな事言ってる?

『『ユナ、でかした!!』』

 

『2人のエリアスは嬉しそうに肩を並べ、意味深に微笑みながら、人目を避けるように自身の寝所へと足を運んだ。そして、ついにその時は訪れた!……合体!!2人の想いがひとつになった!!』

『アンリヘナ様……変な言い方はやめてくれ。ユナ、これでオッサンではなくなったぞ』

 

 ユナが素振りをしていると、合体したエリアスが微笑みながら帰ってきた。

『キャ――ッ!!エリアス様、めっちゃイケメンじゃない!!』

 ひとつになったエリアスは2人の中間の歳に収まったみたいで、アンリンのどストライクに入った!

 

「気にしてたのならごめん!ユナ、渋いオッサン、安心感があって好きなのよ。でも、エリアスならどんな姿でも大好きよ!」

 決してファザコンとかではないからね!!

 エリアスは少し驚いた顔をしたけど、すぐにふっと笑った。

 想いって不思議ね。こんな風に合体するの、初めてみた。

 

「で?この剣は何処に埋めればいいの?」

『ユナ、それは君に持っていて欲しい 。何かあった時には役にたつだろう』

「いいの?エリアスの宝物なんでしょ?」

『ああ。だからこそ、持っていて欲しいんだ』

「分かった!じゃ、売らずに持ってるね!」

『ユナ?』

「冗談よ!」


 これで何時でも剣術が習えるね!久しぶりに師匠の指南でも受けるか、と思っていたら……。

 村の入り口から豪華な二頭立ての馬車が入って来るのが目に入った。どうやら教会を目指しているようだ。

 村人も皆、手を止めて、その行き先を見ていた。


 教会に用事?……孤児院の視察?やだ……こっち来るわ……。

 馬車は墓地の入り口に止まる。そしてやはりと言うべきか、御者の開けた扉から出てきたのは、あの、キラキラ王太子様だった。

 

 馬車から颯爽と降り、墓地を横切ってユナの方へと歩いてきた王太子様は、今日は休みなのか、普段着で親しみのあるイケメンスタイルだ。あまりの尊さに、アンリンはまたしても昇華寸前だ。

 

「ユナ、凄いな。君の行動は全く読めない」

 フィン様がニコニコと笑いながら宣う。

 何しに来たのって聞きたいが、村人に見られてる手前、とりあえず無難にお礼を言った。

 

「ありがとうございます」

「褒めてないからね。じゃ、行こうか」

 今日もフィン様は塩対応だ。ユナの腰に回る手が、逃がさないって語ってる。担ぎあげられないだけマシだけど。

 

「何処に行くの?」

 我慢できなくて、ユナはこっそりフィン様の手をペチペチ叩いた。フィン様は苦笑しながら、またおかしな事を言う。

「ディディエラ・ティアラ学園だよ」

 

 ディディエラ・ティアラ学園?

 その学園って、この国の優秀な人材を集めた、武と知の最高峰。最も入学が難しいって学校じゃない?なんで急に?メイド、足りないの?

 

「バイト?」

「ま、そんなところだね。昨日伝えようと思ってたんだけど、あまりに衝撃的な事件があってね。報告が当日になってすまない。けど、いいよね?」

「ま、いいけど……騎士団も大変ね。あ、勝手に出かけたら、またテラに怒られない?」

「大丈夫だよ。テラも君が安全ならって許可くれたから」

「そう、ならいいけど……」

「あ、事後報告で悪いんだけど、君の保護者は今後、テラになったからね!」

「え?シスター・メイは?」

「体を壊してね。……ああ、君が心配する事なんて何もないからね」

「そう?でも、いい年だし気をつけて欲しいな」


 ここまで数分足らず。フィン様は話しながら有無を言わせずユナを豪華な馬車まで引っ張って行く。そして、御者が馬車の扉を恭しく開けて……。ユナは青くなった。

 嘘!これに乗るの?

 

「馬車にだけは乗らない」

 ユナは体をよじらせた。フィン様は益々ユナを強く抱く。

「俺と一緒は嫌?……俺が嫌い?」

「違うよ!前に乗りたいの!」

「御者席に?俺は君を安全に送りたいだけなんだ。どうしてそう駄々をこねるかなぁ……」

「嫌なものは嫌なの!!バイトは、なしでいいわ!」

 

 ユナは唖然として緩んだフィン様の手から逃れ、走って逃げた。フィン様はすぐに追ってくる。

 でも、勝負はすぐにつくの。日々鍛錬してる騎士様にかけっこでかなうはずもない。ユナは腕を取られ、ブスっと膨れた。

 

「悪かった。謝るから逃げる理由を教えて欲しい」

 フィン様は必死のご様子。なんで私に構うのかしら。

 でも、オレンジ色の瞳にじっと見つめられれば、折れない訳にはいかない。ユナは笑わないでよ、と前置きしてから理由を口にした。

 

「怖いの。魔物に襲われた事があるから」

「怖い?馬車の中の方が安全だろ。それに今日行くのは王都の中だ。散々独り歩きしていながら、よくそんな事を言えるね」

 フィン様は呆れているのか、眉をひそめている。

「分かってるよ。でも、父さんが死んだ時、ユナだけが馬車の中にいて助かったから怖いの!」

 

 矛盾しているのは分かってる。でも、乗ろうとしたら足が竦むんだから仕方がない。

「じゃ、そういう事で!誘ってくれてありがとう!」

 ユナは手を振った。

 

 でも、そそくさと去ろうとするユナの腕は、フィン様によってガシリと掴まれたままだ。

「悪かった。御者席なら大丈夫か?」

 くるりと回され、綺麗な顔で正面から覗き込まれてユナは怯んだ。だってフィン様の勢いが地味に怖いんだもん。

 

「そこまでして私、行かなくていいんだけど……」

「いや、連れて行くよ!俺も覚悟を決めたよ。多少目立つけど、我慢してくれ」

 何の覚悟ですかぁ!?

 

 それからは地獄だった。視線に焼かれるってこんな感じなのね。

 

 困惑する御者を乗せて、二頭立ての豪華な馬車は王都の街中を走る。ユナは馬なんて扱えないから、馬車を操っているのはユナの横に座る王太子フィン様だ。

 道行く人々が皆、豪華な馬車に振り向いては、目を見開き、御者席に座るフィン様を2度見していた。

 

「私、馬車に乗る練習をするね……」

 御者って資格いるのかなぁ。女性でも取れる?

「あははっ、ご令嬢なら必須だね。頑張って乗れる様にならないとだな」

「世の中のお嬢様って馬車操れるの?凄いのね」

 素晴らしい手さばきで馬車を操りながら、フィン様は何処かスッキリした表情でずっと笑っていた。

 て言うか、一緒に前に乗る必要なくない!?

 


 地獄の数十分の後には、天国が……いや、これ、拷問じゃない?

 

「ユナ・ブラヴォー様。お待ちしておりましたわ。ようこそ当学園へ!」

 灰色の地味なワンピースに寸分の狂いもないまとめ髪。目の前の、いかにも学園長って感じの女性は、ユナが貴賓室に入るなり、鼻の穴を広げてソファーへと促し座らせた。

 

 何このVIP待遇!怖いわ!!

 王太子が一緒だから?って思ったけど、学園長様はフィン様には興味がない様子。フィン様は学園長サイドで、腕を組んで一緒になってユナを見下ろしていた。学園長様は興奮気味に部屋の隅に控えていたメイドを急かす。


「何をしているの!?早くお飲み物をお出しして!!」

 これにはユナを連れて来た王太子も驚いている。

 そしてすぐに持ってこられた飲み物とお菓子を囲み、学園長は身を乗り出した。

「ユナ・ブラヴォーさん。率直に伺います。あなたは見えざるものが見えるのですか?」


 ああ、なるほど。フィン様は危険な私の手網をしっかりと握る為にここに連れて来たのね。っていうか、モルモット?ユナは即座に悟った。

 この学園の学園長様は実力主義で、変わった能力を持つ者が大好きだと聞いた事がある。だから、学園内には力自慢のマッチョから、よく分からない物を追い求める怪しい研究者まで、様々な生徒がいるのだそうだ。

 

「……まあ、見えると言えばみえるわ」

 ブスっとした顔でフィン様を見れば、変わりに答えてくれる。

「ユナにはボトルロックという影がついているらしいのです。それが命の危機を感じた時に出てきて、ユナの身を守ってくれる、と。間違いないね?」

 ユナは渋々頷いた。

 

「影ですか……興味深いですね。では、その影とやらがどんな風に見えるのか、ここに書いて下さる?」

 そうよね。気になるわよね……。ユナは頷いた。

 まあ、絵は普通に描けるからね。見せてあげよう!ユナの実力を!

 ユナは渡された紙に、スラスラとボトルロックの絵を書いた。

 

「……これはどちらが上でしょうか」

 学園長が首を傾げている。興味があるのか、その横でフィン様も覗き込んだ。

「ふっ……」

 あ、フィン様、今笑ったわね!!

 

 ボトルロックって、簡単過ぎて逆にムズいのよ!なんて言うの?簡単なキャラほど、ちょっと配置間違えただけで、偽物感半端なくなる、みたいな?

 

 耳を赤くするユナに、学園長は明らかにガッカリとしていた。

「分かりました。ちゃんとした絵が描けるまで、美術の方も受けるように」

 必修教科が増えたの!?って……。

 

「……私、ここの生徒になるの?」

「そうですよ。フィンから聞いてなかったのですか?フィンがいきなり入学を許可して欲しい人がいると、貴方の履歴を持ち込んだのですよ?」

 ギンっと睨めば、フィン様は楽しそうに笑った。


「ユナは高等部1年、特別専門学科でいいですね?」

 フィン様が言う。何、そのいきなりな飛び級!!

「年齢的には中等部ですが、仕方ありません。許可しましょう。ミーアさんと一緒に学べて、ちょうど良いかと」

 許可するの!?しかも……!

「ミーアと一緒なの?」

「そうですよ。しかし、その話し方、マナーについても教育すべきのようですね」

 また科目が増える予感にユナは口を噤んだ。

 

「それは大丈夫ですよ。母が是非とも力になりたいと申しておりますので」

 フィン様が助け舟を出してくれる。

「エレが?……分かりました。では、マナー講習はエレに任せましょう」

 結局増えるんじゃん。

 

「さて、ユナさん。あなたの戸惑いは痛いほど伝わっておりますので、入学を許可した経緯をお伝え致しましょう。実は貴方の父上である、ルカ・ブラヴォー様は生前、我が夫、アルビーの親友であられました。私がアルビーの妻となれたのはあなたのお父上の口添えがあったからだと聞いております。ですから、私は恩返しがしたくてあなたをこの学園への入学を許可致しました」

 お父さんと学園長様の旦那様が親友?首を傾げたのはユナだけではなかった。

 

「それは初耳だな。私はてっきり、テラ様のお口添えで許可がおりたのかと思ってましたよ」

 フィン様が言うと、学園長様は無表情で答える。

「いくら親友でも、そこまでは出来ませんわ」

「学園長様とテラが親友?」

 ユナが言うと、学園長様はあまり笑う事がないのか、頬を引きつらせてうっすらと微笑み、答えてくれた。

「ええ。彼女とは趣味を同じくしておりましてね。今度またお邪魔しますよ」

 趣味……なるほど、あの大量の本の出処がわかったわ。

 

「ですが……アルビーは何故、親友の娘のこのような境遇を許していたのでしょうか。まさかメイドになっていたとは!」

 ユナを見る学園長様の眼差しは優しげだ。いや、メイドじゃないんだけどね。

 

「ああ、それは私が答えられると思いますよ。ユナのいた孤児院の院長が虚偽の申告をしていたのでしょう。彼女は寄せられた多額の寄付金においても着服していたとの報告があります。ああ、そうか。寄付金の出処も、これで検討がつきましたね」

「そうですか。確認を怠るとは、アルビーらしからぬヘマをしたものですね。ユナさん。という訳で、あなたはこれまでも分も含めて、大人しく恩返しされる事。よろしいですね?」

 

 ユナをおいてどんどん話は進んでいく。でも、ユナの聞きたい事はただ1つだ。

「あの……学園長様は私のお父さんを知ってるの?どんな人だった?」

 ユナはほとんどお父さんと出かけた事がなかった。だから、外でお父さんがどうしていたのか、いつも知りたくてたまらなかった。なんていうの?職場参観みたいな?

 

 ユナの目を見た学園長はハッとし、微笑んだ。

「ええ。と言いたい所ですが、私は残念ながらルカ様とは図書館で少しお話した程度です。図書館で独り言を呟かれる、青い髪のルカ様はとても楽しそうで、お声をかけるのもはばかれましてね」

 あ……それ、お父さん、図書館にいる想いの欠片と話してただけだから。でも、学園長様は恍惚とした表情で思い出を語る。

「ああ!ルカ様は薄暗い図書室に瞬く蒼い星のようでしたわ。あんなに笑顔の似合うお方は、他に見た事がございません!」

 良かったわね、お父さん!

 

「……コホン、失礼。ルカ様の事なら、アルビーに聞くといいでしょう。そのうち顔合わせができるよう手配致しましょう……ユナさん?」

「あれ?」

 不思議と涙が出てきてた。シスター・メイからは散々お父さんが盗人だったって話を聞いた。でも、ここで聞いたお父さんの姿は全然違ってて、それだけでなんだか嬉しくて。

 

「ユナ……」

 フィン様が私の横に座って、肩を抱き寄せてくれた。

「ユナさん。お父様の死はさぞかしお辛いものでしたでしょう。しかし、これからは安心なさい。もうアルビーには任せられません。私がしっかりとあなたを見守らせて頂きますわ!」

 ありがとう……と目をこすり、ユナは顔を上げ微笑んだ。

 

 しかし、その顔を見て学園長様は、ぐっと眉をひそめた。

「ユナさん……いえ、もう他人ではございませんね、ユナと呼ばせていただきます。ユナ、まずはその酷い顔からどうにか致しましょう」

 

 ユナは真っ黒になった自分の手を見て悟った。きっと今、自分の顔はパンダになっている事だろう。

「ふっ……失礼」

 フィン様!?また笑ったわね!

 

「ブレネリー!風呂を用意しなさい!!今すぐに、です!!」

 学園長様が叫ぶ。すると、すぐにショッカーの様にメイド軍団が部屋に入ってきて……!!

 ユナはあれよあれよという間に学園長様の自室に連れ去られ、隅々まで丁寧に磨きまくられる事になったのだった。

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