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30話 ミュージカル

 さて、皆様。

 ここでハッピーエンドだと思ったでしょ?

 でもフィン様は、ただではユナを解放してはくれませんでした。


「ところでユナ、このドレスはどうしたのかな?」

 ビクリ。

 音楽か静かなものに変わり、まったりとした会場内は、とても楽しげな雰囲気だ。なのに、この王子様は、いつだってユナにだけ厳しい。

 

「えっとぉ――これはぁ――」

 ユナは長椅子の端まで逃げた。助けを求めてディディエラ様の方を見れば、ディディエラ様はきまり悪そうに目を逸らす。


「ユナの最初のドレスは俺がプレゼントするはずだったのに……エスコートだって……」

 フィン様はギロリとフェリベール父様を見た。父様は、王座の隣の席に大人しく座り、居心地悪そうに足を揃えた。

 

「俺が無心で聖女を孤立させている間、一体何があったのかな?ユナは勝手に舞踏会に参加してるし……まあ、とはいえ、君がここにいてくれなければ、メイリーンを抑える事は出来なかっただろう。メイリーンのボトルロックが発動すれば、全軍でかかっても犠牲は出ただろうから」

 

 やっぱり!

「ねえ、フィン様はボトルロックがメイリーンにも着いてるって知ってたのね!」

 フィン様は頷く。

「ああ。君の存在がそれを教えてくれたからね」

 

 ここでフィン様はユナに体を寄せて来た。ユナは椅子の端に押し付けられ、縮こまった。フィン様は少し怖い顔をしてた。

 

「ねえユナ。君とメイリーンは、出会う前から互いを知っていたね?性格は違えど、姿形は酷似しているし、言動にも繋がりがあるとしか思えない共通点が多い。なのに、どう調べても、垢の他人だという結果しか出てこないのは、何故だい?」

 フィン様に抜け目はない。しっかりと調査済みだって事だ。

 ここでフィン様はユナに向かって顔を寄せ、そのオレンジの瞳で真っ直ぐにユナを見つめた。

 

「ユナ。君は一体、何者なんだ?」

 

 ユナはとうとうこの時が来たのを悟った。

 フィン様はボトルロックの事を信じてくれた。でもそれは、ボトルロックが魔物を倒したって実績……証拠が残っていたからだ。でも、ユナの前世諸々の話には根拠がない。ユナが神様の話をしても、フィン様がすんなり信じてくれるとは思えなかった。

 

「うっ……」

 ユナは呻いた。すると、ユナを助ける様に、会話を近くで聞いていたアルビーおじさんが、何を言い出すんだ?って様子で立ち上がった。

「フィン、今その話はいいだろ?舞踏会の後で席を設け、ゆっくりユナから話を聞けば……」

 それはそれで嫌。

 

 フィン様は立ち上がり、2人は顔を突合せる。

「父上、貴方がそんな事でどうするんですか!メイリーンと同じくボトルロックを操るユナは、明らかにこの世界では異質。この国にとって、天使なのか悪魔なのか、早急に見極める責任が我々にはあるのではないですか?」

 

 なに何?どうしたの?って感じで、皆の関心がこちらへと集まって来た。どうやら魔女裁判が始まったようです。勿論、被験者はユナ。……最悪。


 でも……そうだよね。

 フィン様は次期国王。この国を守らなくてはいけない立場なのだ。ユナのような不穏分子は排除した方が安全だって思うのも仕方ないよね。

 

 そう、ユナの初恋は叶わなかったのだ。

 フィン様は納得のいかない説明しか出来ないユナを、この国に置いてはくれないだろう。

 ユナはボトルロックと冒険者になってこの国を離れ、放浪するしかないのかも……。

 ユナの頭の中は真っ白になった。

 ショックで黙り込むユナの前では、大きなジェスチャーを交えての親子喧嘩が勃発していた。


「メイリーンを倒したのは俺じゃない。ユナだ。すぐ近くで父上も見ていたはず!その力には畏怖の念すら覚える程……恐らくユナ・ブラヴォーはこの世界で唯一無二の存在。それを我々はこのまま放置していていいものでしょうか」

 ユナは恐怖の大魔王です。

 

「確かにユナの存在は奇異なるものだ。しかしユナは儂の親友の娘だ!しかも可愛い!たとえ悪魔だとしても、手放すつもりはないぞ!」

 アルビーおじさんが、可愛いは正義!みたいな事を言い出した。

 

「フィン様!申し上げます!」

 ここで、ユナの後ろで警備を続けていたラディズラーオ隊長が、半ば怒った顔で前に出てきた。

「ユナ様は此度の襲撃において、情報収集の為、自らの命の危険も顧みず、潜伏する敵兵の中へと潜入して下さいました!そんな御方が悪魔な訳が御座いません!」


 アレン様も、いつの間にか出来上がってた人垣を割って、フィン様に詰め寄ってきた。

「兄上!ユナを疑うとは何たる事!たとえ兄上であろうと許しませんよ!此度の襲撃を手引きしていた者共を捕らえられたのは、ユナが身を呈して、その汚職の証拠を奪って来てくれたお陰です!ユナは天使です!!疑う余地もありません!」

 後ろにはアルスリッド王子が続く。

 

「フィン王太子よ、我が国ドルバを救うきっかけとなった、あの戦いを忘れた訳じゃないだろ?俺がここに立っているのは、ユナの導きがあったからこそ。ユナを糾弾するなら、先程の友好の話はなかった事にしてくれていい!」

 アルの訴えに、人々が不安そうにザワザワし始めた。

 

 その時、静観していたフェリベール父様がユナの後ろに立ち、優しく肩に手を置いてくれた。まるでミュージカルの様な展開に、ユナは戸惑う。ユナ、歌う?


「フィン、ユナが天使である事はお前が1番よく知っているのではないか?」

 振り向けば、父様は優しい眼差しを返してくれる。何だかユナもノってきました。

 

「ユナはボトルロックを悪事に使おうとした事など1度もない。それどころか、ボトルロックが不意に他人を傷つける事がないように、1人で生きる方を選んだ。まだ、幼い子供の頃からずっとだ。そんな優しい子が天使でなくて、何だと言うのだ?」

 いつからユナは天使になったの?天使はボトルロックなのに!ユナは慌てた。

 

「父様、ごめんなさい。ユナは天使じゃないの!」

 観客がユナを見てる。

「でもユナ、天使になれるように頑張るから!お願いフィン様。ユナをこの国に置いて」

 ユナは両手を組んで、ノリノリでフィン様を見詰めた。

 

 ……でも思えば、フィン様に出会ってから、ユナの生活は劇的に変わった。勿論、ユナにはずっと一緒にいてくれるボトルロックや大切なプラズマな家族がいる。

 でもユナは、テラやお父さんの温かい手を知ってしまった。

 居心地のいいお家も。ユナを心配してくれる大切な人達も。

 それに、フィン様の嫌味も、その後の優しさも。

 みんなと離れるなんて……悲しすぎる!

 ユナの目に、涙が溢れた。


 するとどうでしょう。フィン様は頬を染め、たまらない……とか呟きながら、フラフラとユナの前に膝を着いた。そして、ユナの手を取り、うっとりとユナを見詰めた。

「ユナ・ブラヴォー、君は何と可愛い人なんだろう。正に天使だ。どうか、俺の無礼を許して欲しい」

 フィン様はそう言い、ユナに頭を下げた。ちょっと芝居じみてない?そうは思ったけど、ユナはただただ不安で、フィン様に涙目を向ける。

 

「ユナ、ここにいていいの?」

「どうだろう、皆……」

 フィン様は観客をあおるように振り向いた。ユナも顔を向けると、みんな、優しい眼差しでユナを見ていた。拍手がパラパラと沸き起こり、やがて会場を埋めつくした。フィン様は満足した様に、ニコリと微笑んだ。

 

「良かった……。では、改めて御礼を言わせてくれ。ユナ、この国を救ってくれて、本当にありがとう!どうか、これからもどうかこのティアラ王国を、私と一緒に守ってくれ!」

 そう言い、フィン様はユナの手の甲にキスを落としました。

 

 ……ん?

 まるで告白の様な場面に、会場が一瞬凍りついた。でも、パラパラとまた拍手が沸き上がってきて、よく分からないまま会場は大歓迎モードに。

 

 その後ユナは、天使のような扱いを受け、モテモテのまま、舞踏会はお開きとなった。

 


「昨日はフィン様、何かわざとらしかったよね……」

 舞踏会で疲れきって家に帰るなり寝コケてしまったユナは、翌朝ベッドの上で目が覚めた。一瞬、ここどこ!?って、思うのは仕方がない。まだベッドのある生活に慣れてないの。


『ユナも気付くようになったのぉ。フィンは、自分の評価を下げてまで、ユナを引き上げる必要があったんだろうて』

 ユナの呟きに答えてくれたのは、フィン様のおじいちゃんにあたる、オレリアンおじ様だ。何故か今日は超ご機嫌で、朝日を浴びながら昇華しちゃいそうな勢い。

 オレリアンおじ様、気をつけて!孫に指輪を渡すんでしょ?

 

「ユナを引き上げるって?どうして?」

『さあ、どうしてでしょうな。ふふっ』


 ユナが、オレリアンおじ様の謎の含み笑いに眉をひそめていると、扉がガンガン叩かれた。

「ユナ!飯だってよ!そろそろ起きろ!」

 チョンの声だ。ユナは慌ててベッドから飛び降り、扉を開けた。

 

「あ、ユナ様って言わなきゃかな?お前、フィン王太子の婚約者だったんだって?何で教えてくんなかったんだよ!めっちゃ俺、無礼じゃん?」

 チョンもイラッとするニヤケ顔だ。

 ……ん?今、何て言った?

 

「婚約者?誰が誰の?」

「ハハッ!謙遜するなよ。未来の王妃様っ!俺、マジでヤバい所に雇われてたんだな!」

 チョンは執事みたいに丁寧なお辞儀をすると、ニヤニヤしながら駆けて行った。

「むう?」


 ユナは嫌な予感に、慌てて着替えると食堂まで降りた。食堂ではフェリベール父様がテーブルに着いていて、新聞を読むみたいに大仰な手紙を広げていた。見れば、王家の蝋封付きだ。

 父様は駆け込んで来たユナを見ると、なんとも言えない顔で、おはようと言った。そして、ユナを隣に座らせた。


「ユナ。この手紙だが……お前の居場所が分からず、漂流していた手紙が先程届いたんだ。保護者でもいいとの事で開けさせて貰ったよ。……急ぎ、返事が欲しいらしくてな」

 父様の視線の先には、ユナのよく知る騎士様が立っていた。

「チコ……?」

 気配消すの上手くなった?

 

「悪い、ユナ。お前、手紙はあの廃墟に送れって言ったからさっ。俺……まさか、こんな重要な手紙だなんて思わなくて……」

 チコは頭をワシワシと掻いた。

 

 ユナは慌てて父様の横から手紙を覗いた。それは、フィン様の公式的な……?

「ユナ、婚約おめでとう……で、いいか?この文章を読む限り、期限切れで断れない仕様になってる様だぞ。嵌められたな、ユナ」

 のぉぉぉぉ――!!

 

 両手で頭を抱えるユナに、父様はなるほど、と手を打つ。

「そうか、昨日はユナのお披露目だったって訳か。全く……のせられたよ。ユナを国民に認めさせる為に、敵の襲撃でさえも利用するとは恐れ入った!ユナ、頑張れよ!」

 ガックリと項垂れるユナに、父様が、ファイト!みたいな感じで、軽く言い渡した。

 

「それで?フィン様はいつ挨拶に見えるの?」

 テラが朝食と一緒に入ってきた。給仕は、いつかの冒険者さんだ。きっとそのうち執事服を着せられるに違いない。

 

「それがですね、フィン総長も一緒に来る予定だったのですが、体調がすこぶる悪い様子で、陛下に止められてしまいまして。逃げられる前に引き止めよ!と、わたくし、アルベルト・チッコリーノが遣わされました!」

 なに頬を染めてアピールしてるのよ、チコ!

 

「まあ、それはお気の毒に!ユナをいじめた天罰ね。さあ、ユナ。早く食べて。学園に遅れるわよ!」

 テラが席に着くと、ユナは喜んでお手伝いに走る。

「ユナ、学園に行ってもいいの?やった――!」

 

「ユナ、勿論よ。むしろ行って……」

 冒険者さんと一緒に食事を並べ始めたユナを見て、テラは一瞬止まった。そして、ゆっくりとユナの所に来て抱きしめた。


「ユナ、学ぶ事は沢山あるわ。時には自分の考えと違う事を教えられるかもしれない。でもユナはユナらしく解決して欲しいの。フィン様はユナに、その立場を与えて下さったのよ」

 ユナは首を傾げる。

 

「そのうちに分かるだろう。ユナは間違いなくディディエラを超える王妃になるからな。まずは……魔法か?」

 フェリベール父様が口の端を上げて、ユナを見た。ユナはピョンっと跳ね上がった。

「魔法?ユナ、学園、大好きよ!!」

 

 今日はフィン様のお見舞いに行こう。ユナは心に決めた。

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