27話 舞踏会
目覚めたら……これは新しい!
ユナ、お風呂の中でした!いい香りのする薔薇の花に囲まれ、まるでお姫様のようです。
「ユナ様。お目覚めになられましたか?」
ユナの周りには学園長さまの3人のメイドさんがいて、ユナの体を綺麗に洗ってくれていた。ユナは驚いたのと、恥ずかしいのとで、お風呂に沈んだ。……ブクブク。
「きゃぁぁぁ――!誰かァァ――!ユナ様が!!」
結果、ユナは更に大量のメイドさん達によって救出される事になり、真っ赤になりホカホカのままベッドに寝かされました。……恥ずい。
「ユナ、大丈夫か?舞踏会なんて、この先何回でも行けるんだ。休んでも構わないんだぞ?」
フェリベール先生が、昼食と共にユナの部屋に入って来て、ユナのおでこに手を置いた。冷たくて気持ちがいい。
先生は今日は魔法使いのローブ姿ではなく、貴族風コーデで、ひとつに括られた真っ直ぐな黒髪も似合ってて、とてもカッコイイ。
でも、先生。ユナは休む訳にはいかないのです!今日の舞踏会で盛り上がっているのは、テラと学園長様のメイド軍団だけではないからです!
「今日はユナ、王様の首を見張らないといけないの。だから頑張る!」
「ん?首?……そうか、頑張れ?」
「魔王様。そろそろユナを整えたいの。ほら!出て行って!!」
さすがテラ。魔王を捌く姿は勇者の様。フェリベール様は、背中を押され、扉へとグイグイ押された。
「あ……ああ。では、ごゆっくり」
魔王、退出。
でも、先生は何かを思い出した様に、入り口で踏みとどまり、ユナを手招きした。
「そういえばユナ、お前にこれをやろう」
「え?何なに?」
ベッドから出るタイミングを失っていたユナは、喜んで先生の方に走って行った。
先生はユナの手を持ち上げ、何かをシャラリと置いた。
これは……ピアス?
広げた手の平に置かれたのは、可愛らしいピアス。大きな石じゃなくて、キラキラと透明度の高い青い石を、綺麗な金の鎖で幾つも連ねた豪華な物で、とても精緻で綺麗だった。
「私からの贈り物だ。ユナは既にオレンジダイヤのネックレスを持っているようだから、私はピアスにした。これはかつてのサウスティアラ王国の王妃が代々受け継いでいた物で、今のユナにこそ相応しい。我が娘よ。思い切りオシャレを楽しむがいい」
先生は嬉しそうにウンウンと頷いている。
先生。ユナ、何かスゴすぎてよく分かりません。
ポカンとするユナの頭にポンと手を置くと、先生……お父様は踵を返した。ユナはその暖かい手に、ようやく嬉しさが込み上げてきて、慌ててその背中に抱きついた。
「父様!ありがとう!!」
「あ……ああ」
フェリベール父様は、ちょっと照れたように微笑むと、後ろ手に手を振り、部屋を後にした。
「きゃぁぁぁ――!渋くて素敵!」
「フェリベール様のデレ顔を拝めて、幸せです!!」
扉が閉まるなり、はしゃぎ始めるメイドさん達。
メイドさん達の評価も然る事乍ら、振り向けば、ブレネリーさんが涙目で、文字通り拝んでいた。
テラも嬉しそうに、腕まくりをする。
「ふふっ。夫を褒められるのも悪くないわね。さあ、ユナ。仕上げるわよ!」
何をですか!?
舞踏会に行くって大変なのね。
それからユナは、足の爪先から髪の毛の先まで磨かれ、整えられた。
髪を結いドレスを気付ける頃には、辺りは暗くなり始め、膨らみかけたお月様が、星たちに明かりをともしていた。
鏡の前に立ったユナは、本当のお姫様みたいに綺麗でびっくり!
水色の髪はハーフアップにされ、扇情的に魅せた肩に優しくかかっている。ネックレスはフィン様の瞳の色の小さな石とオレリアンおじ様の小さい指輪。耳にはシャナリと煌めくピアス。金色のドレスはユナの華奢な体型を際立たせるように、体に添っていたけど、とても大人っぽく見える様に工夫されてるし、エリアスの飾り剣を磨いて腰の飾り帯に下げてるから、異国のお姫様風でとっても素敵なの!勿論、ユナの家族たちも絶賛してくれて、ユナ、満足です。
馬車に乗れないユナは、学園長様のメイドさん達の荷物を乗せた半分オープンな幌馬車に一緒に乗せて貰って、近衛兵さん達に囲まれながら、もの凄い厳戒体制の中、お城へと出発した。
兵士さん?ユナより、お城の方が大変なんじゃ……謎警備だ。
爆弾でも運んでいるかの様な警備に、注目を浴びながら街中を少し走れば、ティアラ王国のお城が見えてきた。今日のお城はライトアップされててとても綺麗だ。
城門を顔パスでスルーした幌馬車は、そのまま舞踏会の会場となるホールのエントランスへと向かった。
豪華な馬車が並ぶ会場前の広場に入り、更に注目を浴びながら幌馬車は停まった。会場の正面に停める、空気の読めない御者のチョンに、好意を通り越して殺意を感じる中、すかさず足場を用意し始める近衛兵さん。おおぅ……ユナ、ここで降りるんだ。
でもユナ、用意してくれた近衛兵さんに申し訳ないから、めっちゃ気合いを入れて、足を踏み出します!
「こんな馬車で、よくもまあ、お城の舞踏会に参加出来たものね!」
「あら、あの子。例の聖女様の偽物じゃなくて?恥ずかしくないのかしら」
幌馬車から降り立ったユナを見て、きらびやかな衣装を纏ったご令嬢や紳士たちが、遠回しに集まってきた。俯いたユナの耳には色々と入ってくるけど、その辺は自己責任だから仕方ない。
ユナの事を綺麗にしてくれたみんなの為にも、ユナ、頑張ります!
……と、その時、ご令嬢達の視線がユナからそれた。魔王様だ……って囁きが聞こえ、ユナは顔を上げた。
「ユナ!すまない、少し遅れた」
先生は外からでなく、会場の中から駆けてきた。
焦ったように駆けつけた先生……フェリベール父様は、ユナの横に立ち、腕を差し出した。ユナは満面の笑みで新しい父様の腕に手を回す。
「大丈夫よ!お父様。ユナも今着いたとこなの!」
まるで初めてのデート。あ、ユナはまだ、デート未経験だけどね!
「「お父様!?」」
途端、人垣が割れ、会場への道が開けた。その様子に、父様は声を上げて笑った。
「とても綺麗だよ、我が娘よ。私は鼻が高い」
「いやぁ。そうかな?ユナ、照れるぅー」
ユナの緊張は一気に解け、2人は仲良く会場へと入って行った。
会場の大きな扉を抜けると、中には更に立派な扉があり、その前で城の執事様たちが招待客を待たせ、招待状のチェックをしていた。
正面を見れば、ラディズラーオ隊長と見た事のある騎士様数人がカッコイイ正装で警備にあたっている。騎士様たちはユナ達を見つけると、示し合わせたかのように、あの、剣を立ててビシッ!ってのをやった。
おかげで、待たされていたご令嬢達が驚き、腰を抜かしそうになってた。
「ユナ、お前はいつから騎士団を従えるようになったんだ?あれは忠義の証だろ?」
父様がユナに耳打ちする。
「騎士様、ユナが寄宿舎に遊びに行った時から、何故か、こんななんだよ……」
「寄宿舎?……何をやったんだ?」
父様は必死に笑いを堪えていた。
「恐れ入ります、猊下!こちらから来訪されるとは思わず、大変失礼致しました!こちらへ!」
執事様が慌てて駆けて来て、ユナたちは速攻会場に入れられた。
舞踏会会場は、高い天井から吊るされた豪華なシャンデリアが瞬く中、色とりどりの衣装で着飾った人々の集う別世界だった。右手にはご馳走が用意してあり、お酒を片手に会話を楽しむ人々が。左手には演奏者が待機しているのが見えた。そして、入口付近にはご令嬢達が集まり、入場者を隅々までチェックしていて……ユナは漏れなく全員とバッチリと目が合った。
「ユナ、どうやら先に挨拶をする様だ」
ご令嬢達の向こう側に1段高い場所があって、背の低いユナにはよく見えないけど、正面に異様に大きな椅子の背もたれっぽいのが2つ見えた。その前に、挨拶を待つ長い列が出来ていて、父様と一緒にユナも最後尾に並んだ。
王様とか王子様とかがそこに座っているに違いないけど、ユナの身長では見えない。
諦めて左右のきらびやかな世界を見て楽しむ。すると、エリアスがこっちだと言わんばかりに、アピールしているのが見えた。エリアスが指さすのは、割と近くにいる成金風のオッサン2人。大きな声で会話していた。
「アンゼロ公爵殿、聞いて下され!昨日、私の大切な酒蔵に、いきなり冒険者が押し入ってきおっての、近日中に領土に返す予定の私兵が約100名。使い物にならなくなった!冒険者どもめ!好き勝手しおってからに」
「ほお。ヨルバドール公爵殿も不運な事で。実は我が鉱山にも、ドルバの民が流れ込んで来ておってな。今朝1番に陛下に取り締まりを申し出たところじゃ。だが陛下もお忙しい。今の腑抜けた騎士団長様では話にならんしのぉ……」
この人達、アロイス派よ――!見れば2人の後ろには、影のように爺やが立っていた。見張りね、きっと。
……と、ここでユナの前の貴族様が1歩前に出てお辞儀し、ユナも前に出た。
……ん?
正面に座ってる人って、王様よね?
ユナは目を擦った。
「……アルビーおじ様?」
何だかゴテゴテした衣装を着てるけど、間違いありません。前の貴族様が横にずれ、ユナの声に反応する様に、アルビーおじ様が立ち上がった!
「ユナ――!!」
両手を大きく広げ、満面の笑みでユナに向かって来ます!
のぉぉぉぉ――!!
ぎゅう――っ!
筋肉との邂逅です!
「アルビー。せっかく着飾ったユナを潰してしまうおつもりですか?」
隣に座っていた、学園長で王妃様のディディエラ様が慌てておじ様を止めて、ユナはどうにか解放された。でもユナ、息も絶え絶えです。
「ユナ、よく来たな。今日は……」
渋々といった表情で、デカ過ぎる椅子に戻ったアルビーおじ様に、隣の豪華な椅子に座ったディディエラ様が顔を寄せる。
「ユナは、本日は社交とダンスの実習として、勉強の為に参加させました。構いませんよね?」
ほう、と、アルビーおじ様が頷く。
「構わんが……なるほど、フェリベールが消えたのはそういう訳か。しかしフェリベール。貴族らは貴殿にも挨拶したかろう。あまり席は外せぬぞ?」
アルビーおじ様はもうひとつのどデカい椅子をトントンと叩いた。父様?そっち側の人だったの?
「分かっておる。だが、ユナを1人にはさせられんだろ?」
父様の言い訳に、ううむとアルビーおじ様が唸る。
「テラはどうした」
「ドレスが間に合わんでな」
「なるほど……ドレス……」
ここでアルビーおじ様の視線は、ユナのドレスに釘付けになった。目を見開いて、信じられないって顔をしております。来る!?また来るの!?
「ユナ……そのドレスは?」
構えるユナ。でも、ディディエラ様が立ち上がって、ユナの肩を取って助けて下さいました。
「アルビー。これは私とエレからのサプライズですわ。エレの気持ちをどうか、汲み取って下さいませ」
とんだサプライズプレゼントだ!!
「エレ……?ディディエラ、お前はエレと仲直りしたのか?」
アルビーおじ様は呆気に取られた表情。
「ええ。今では親友と言える仲ですよ。ずっと言ってるでしょ?あなた達の仲をどうこう言うほど、私は子供ではないのですって。まあ、心が通じたのは全て、ユナのおかげですけどね」
ディディエラ様は綺麗に微笑んだ。
アルビーおじ様はディディエラ様の笑顔を見て、慌てて口を覆った。その瞳からは、涙が溢れてくる。
仕方ないわね……。
本当によく泣くオッサンだ。ユナは渋々、おじ様の頭を撫でに行った。
「よしよし」
「ユナ……ありがとう。わしは嬉しい……。この日をどれだけ待ち望んだか……」
ユナ、ガバリ!と抱きしめられるけど、もう慣れたものよ!ポンポンと背中を叩いてあげます。
「ハハッ!これはいい!」
父様はアルビーおじ様の隣の席に座って、ニヤニヤ笑っていた。でも、突然立ち上がって、言い放った。
「さあ、皆の者!今日の良き日を楽しむがいい!」
そうだった。今日は舞踏会だったね!
後頭部に視線を痛いほど浴びながら、ユナの舞踏会演習は始まった。




