25話 潜入捜査
ユナがランプを片手に扉を開けると、チョンがコロンと転がって来ました。どうやらユナの部屋の扉を背に、寝ていたようです。
「何してんの?チョン」
「見張りだよ!どこ行くつもりなんだよ、お前……」
「水が欲しいの!」
「水?」
チョンは座り直し、ユナをじっと見る。
「カバン要らねぇだろ?剣も!お前は何処まで水飲みに行くつもりだ?」
「多分、チョンのトイレよりは近いと思う」
「ぷはっ!」
暗闇の中、誰かが吹き出した。ユナは恐る恐る音のした方を見てみる。
「あ!ゴッディアンドデデさん!」
2人はスーッと音もなくやって来て、ユナの前に膝を折った。……口に指を立ててる!スパイっぽくて、めっちゃかっこいい!
ユナ、ジタバタと手を動かし、再会の喜びを表現するも、あまり時間はありません。
ユナは厳つい顔をしたゴッディさんの耳に、これからしたい事を囁いた。ゴッディさんはデデさんと顔を見合わせると、すぐに階下へと降りて行った。ユナはチョンを引っ張って、テラスへと急ぐ。
「てるてる坊主さん!絶対声出しちゃダメよ!」
テラスから下を覗き込み、小声で話しかけると、てるてる坊主さんは微かに揺れた。良かった、まだ起きてる!
下にゴッディさんとデデさんがスタンバッてるのを確認して、ユナは頑張ってエリアスの剣でロープを切り始めた。すぐにチョンが変わってくれて、1人づつ落としててくれる。下の2人が受け取ったのを見たユナは、急いで水を汲みに走り、てるてる坊主さん達の所に駆けつけた。
てるてる坊主さん達はゴッディさん達にロープを切って貰って自由になってたけど、元気がない。ユナを見て、泣き出す始末よ。
「う……すまねぇ……」
ユナはすかさずその口に、ミーアから貰ってたアメ玉を突っ込んだ。
「ウグッ!」
「ほら、水だ。ユナに感謝しろよ」
チョンが柄杓を差し出す。けど、てるてる坊主さん達は、桶に飛びつき、両手で水を口へと掻き込み始めた。
「ユナ、先に外に出る事をおすすめします」
デデさんの忠告に、ユナはてるてる坊主さん達を急かす。
「ほら、逃げるよ!」
てるてる坊主さん達は必死に頷き、ゴッディさんに支えられながら、みんなで裏門目指して走った。
ユナ達は門を守る冒険者さん(多分、謎の組織の人)に見守られながら屋敷の外に出た。
「ユナお嬢様、あんたァ天使だ!ありがとうよ!!」
てるてる坊主から冒険者に戻った3人は、門の外に出るなり、ユナに土下座した。
「ユナ、怒ってるんだからね!!めっちゃ怖かったんだから!!」
ユナが仁王立ちでプンスカすると、さらにひれ伏す冒険者さん達。ん?こんな時間なのに、何処からか馬車の音がします。
「本当にすまなかった。お詫びと言っちゃあなんだが、知ってる事ァ全部話す!」
ユナはキョロキョロと辺りを見回した。
「うーん……でもユナ、忙しいんだよね。今から酒蔵に行かなきゃなの」
「え?」
冒険者さん達は顔を見合わせた。
「酒蔵?まさか、ヨルバドールのか?」
その時、図ったかのようにユナ達の後ろに、静かに荷馬車が止まった。
荷馬車に乗っていたのはローズブレイドさんで、ゴッディさんとちょっと話すと、みんなで幌のない荷馬車に乗り込み、酒蔵を目指す事になった。
ユナ、オープンカーなら平気みたい!
今日は月の細い日だ。ユナたちはダミーっぽい荷物の影に隠れて、一緒に行くと言ってくれた冒険者さん達の事情聴取に勤しむ事にした。
「じゃあ、ユナをそこに連れて行くって約束したの?」
冒険者さん達は頷く。
「ああ。依頼したのは上等な服を着た神官だった。デッセシュバームの聖女と一緒に王都に入って来た神官だ。奴と出会ったのは、俺たちが冒険の安全祈願の為に神殿に行った時でな。神殿にいたそいつらは、魔王の屋敷にいるメイドが、聖女の名を語って悪さをするから、我々の手で止めなくてはならない!って俺たちに話すのさ。そんで、神託を受けた時に丁度俺たちが現れたってんで、お前たちは選ばれし者だ!って言い出して、この仕事を頼む!って……俺ら、拝まれたんだよな」
冒険者さん達は頷きあった。
「それでこのような蛮行を?信心深いんだな」
ローズブレイドさんがユナの横の狭いスペースに無理やり入って来た。見れば、運転手は安定のチョンに変わってる。デデさんが魔法で地図を照らしながら指図してた。
「まあ、こんな家業やってるからな、神様を近くに感じる事は少なくねぇ。それに、奴は俺らに神託を受けし者の証ってのをくれたんだよ」
「証?見せてみろ」
ローズブレイドさんも、指に明かりを灯す。
冒険者さんが胸の装備を捲ると、キラリと光るペンダントが見えた。マントを留めるものだろう。無骨だけど、金みたいで、とても高価そうに見えた。
「こんなの貰ったらもう、本気にするしかないだろ?」
それを見て、ローズブレイドさんは綺麗な顔を歪め、鼻で笑った。
「ドルバでもこれを付けている者を見たぞ。その後、死体として見つかったけどな。……誰しもみな、自分自身がこの世界の中で、特別な存在であると思いたいものだ。これは、そういった心理を利用した汚い罠だよ。お前たちはユナを連れて行った時点で殺され、このペンダントは、再利用されるって訳だな」
「ゾッとする様な事を言うなよ……」
「真実を言ったまでだ」
冒険者さん達は肩を落とし、苦々しげな顔でペンダントを引き剥がした。
「……まあ、俺らに何の価値もねぇってのは良く分かったよ。命があっただけマシって事か」
ペンダントを握りしめ、何処かに投げ捨てようとする。ユナは慌ててそれを止めた。
「ユナ、価値がない人なんてこの世界にいないと思う!」
冒険者さん達は手を止め、ユナを見た。
「慰めてくれなくても大丈夫だ。自分のこたァ、自分が1番よく分かってる」
ユナは体を乗り出した。
「本当よ。ユナ、知ってるもん。この世界には色んな人がいるけど、要らない人なんて何処にもいない。家族とか仲間とか仕事が大好きな人、ゲームとかイケメンとか、本に薬草が大好きな人だっている。みんなそれぞれ違ってるけど、キラキラした強い想いを持ってて、とっても素敵なの!冒険者さん達にも何かあるでしょ?価値がないなんて思わない。ユナにとっては全部大切な想いなの!」
ユナは冒険者さんの手からペンダントを取って、胸に付けてあげた。冒険者さんはそれを見て、片手で顔を覆い、俯いた。
「そうだったな……忘れてたよ。俺たちは誰かの助けになりたくて冒険者になったんだった。なのに……」
「おお!かっこいい!」
ユナはペンダントをポンと叩いた。
「かっこいいか。久しぶりに言われたな、ありがとうよ……何だか涙が出てきちまったぜ」
出てきてるのは主に鼻水だけどね。ユナはエプロンを取って、冒険者さんに進呈した。
馬車は静かに止まる。ローズブレイドさんは、皆に動くなと言うと、建物の影に隠れながらヨルバドールの酒蔵を見に行った。スパイよ!キャー!本物よ!
「お前……ついて来なくていい。目立つので引っ込んで!」
はい。……ん?ユナはちょっと不機嫌なローズブレイドさんの服の裾を引っ張った。
「あそこにルービー様がいるよ」
マロン様が対角にある建物の影に向かって、尻尾をフル回転させながら走って行ったのだ。小さくなったアンリンが背中に乗ってるし、間違いない。
「ティアラの騎士団は抜かりがないって訳か。見つかったな……行くぞ」
「見つかった?」
首を傾げながら馬車に戻ると、冒険者さん達が騎士様に剣を向けられ両手を上げてた。
「おいおい。こんなに大っぴらに騒いじゃ、デッセシュバーム兵に見つかっちまうだろ?」
ローズブレイドさんの声に、速攻こちらも騎士様に囲まれます。
「お前達は違うというのか!……ユナ様!?」
語尾は騎士様、謎の裏声です。それを聞いた周りの騎士様たちの間にどよめきが走る。
そして突然、騎士様たちはユナの目の前で、ザッ!と一気に膝を折った。怖っ!!
「これはまた、爽快……」
ローズブレイドさんが口を押えて笑いを堪えていた。
「申し訳ありません!さすが、ユナ様。ユナ様もここに辿り着いたという訳ですね。ですが、ここはかなり危険な前線となりましょう。どうかお引取りを!」
ここの責任者っぽい騎士様がキッとユナを見上げて、申し上げました!
「前線……ここを攻撃するの?」
ユナが首を傾げると、ローズブレイドさんが腕を組んで補足してくれる。
「まだ証拠が揃わぬうちに伯爵家の持ち物に手を出していいのか?」
「いえ……その……」
騎士様は目を逸らした。手を出せないから待機してるのね!
「分かった!ユナ、見て来てあげるよ!ユナなら一般人だから、捕まっても平気よ!」
「え!?」
驚く騎士様に、ローズブレイドさんがニヤリと笑った。
「それいいな。ちょうどここに用事のある冒険者がいるんだ。使わない手はないだろう?ユナ、来い」
「いえ……あの、しかし……!」
ああああ……と、手を伸ばす騎士様を置いて、ユナは急いで馬車に戻って、冒険者さんたちに事情を話した。
「もう関わりたくねぇって気持ちは大きい。だが、ユナお嬢様がそうしたいのであれば、誠心誠意、頑張らせて貰うぜ」
冒険者さん達は腕を叩いて首を縦に振ってくれた。ユナが嬉しくて、無言でバンザイする横で、ローズブレイドさんはすぐに指示を始める。さすがエリアスの部下だ!
「お前たち3人は今からユナを連れて、デッセシュバームの神官が指定した場所に行くんだ。ああ、そっちの2人はデデ、チョンと交代しろ。体型が似てるから、ペンダントさえ付けてればバレないだろう」
「え?何で俺?」
「逃げるの、得意だろ?」
困惑するチョンを無視して、ローズブレイドさんはさらに指示を与える。
「お前たちはゴッディとテラの店に行って、ペンダントの話からこの場所の事まで、全て吹聴しまくれ。ユナが自ら退治に行ったと言えば、速攻、テラが冒険者を集めるだろ。この場所は冒険者に占拠してもらうぞ」
……ん?ちょっと待って。それだとユナ、またテラに怒られない?
「じゃ、お嬢ちゃん行くぞ。約束の時間は今日の深夜までなんだ」
ユナは冒険者さんに頷いて、両手を差し出した。
「ね?ね?ロープで括ったりしなくていい?ユナ、3回目だから、いい演技するよ?」
「しなくていい。喜ぶな」
ユナはローズブレイドさんに手を叩き落とされた。
「お前、仮にもガルシア様の弟子なんだろ?それらしい動きも出来ないのか?」
「それらしいって?」
首を傾げるユナに、ローズブレイドさんは呆れたようなため息をついた。
「ガルシア様はなんだってこんなガキを……デデ!コイツを死なすなよ。ガルシア様とコンタクトが取れなくなるのだけは避けたい」
何だか冷たいのね。は!もしかして……。ユナは酒蔵へと向かうローズブレイドさんの腕を、両手で掴んだ。
「なんだ?」
不機嫌に見下ろされる。
「ユナ、ローズブレイドさんがしたくないのなら、やらなくていいと思う」
「どう言う意味だ?」
地を這うような声に、ユナは一瞬怯んだ。でも、ちゃんと伝えないと、ローズブレイドさんはずっとユナから目を離さないだろう。きっと動きにくいに違いない。
「だって、ローズブレイドさんが今、手伝ってくれてるのは、エリアスの為でしょ?ユナ、ローズブレイドさん自身は、めんどくさいって思ってるんじゃないかと思ったの」
一瞬固まった後、ローズブレイドさんは虫けらを見るような目でユナを見た。
「分かったような口を聞くな。お前一人じゃ何も出来ない癖に」
「ちょっ、今する話じゃ……」
デデさんがちょっと焦ってる。ごめんなさい!でもちょっと聞いて!
「そうだよ。だからユナ、みんなにお願いするの!……ローズブレイドさん!ユナは絶対死なないから放っておいても大丈夫!だから思う存分、やりたい様に手腕を奮っちゃって!ユナ、この国が大好きなの。お願い、みんなを助けて!」
ローズブレイドさんの顔は引き攣っている。嫌な顔だ。
「ほぉ……自己犠牲の精神とは、崇高な志で恐れ入る。だが、そう言うからには、それなりの根拠と覚悟があるんだろうな?」
「もちろん!ユナにはチートな家族がついてるのよ。いつも守ってくれてるの!」
ユナは冒険者さんがしたように腕叩いた。すると、ローズブレイドさんはめっちゃ嫌そうに眉をひそめた。
「家族だと?そんなものが、何の役に……」
「ローズブレイド様。この酒蔵を見つけたのはユナですよ?この冒険者たちも恐らく最初からそのつもりで連れて来たかと」
デデさん、ありがとう。でも、てるてる坊主さんの事は、たまたまです。
「それはガルシア様の指示だろ?それを自分の手柄のように言われるのは気分が悪い。こんな所で言い合ってても時間の無駄だ。1つ聞かせてくれ。ガルシア様はこれでいいと仰ってるのか?」
ユナ、ぶすっと膨れます。
「知らない!冒険者さん、行くよ!」
ユナは冒険者さんとチョンの腕を組んで、酒蔵の扉の前へと急いだ。デデさんは後ろにいるけど、ローズブレイドさんは何処かに消えていた。
酒蔵の扉は馬車が入れる位大きい。でも、その扉には更に小さな扉がついていて、冒険者さんは小さい扉を叩いた。
ドンドン。
「パッ!」
冒険者さんが叫ぶとすぐに返事がある。
「パッ!」
『ユナ、気を引き締めろ』
だって可笑しいんだもん!!エリアスだってウケてるじゃん!
小さな扉が開き、ユナたちは現れた小姓によって、酒蔵へと招き入れられた。
酒蔵の中は暗く、ユナ達を招き入れた小姓の持つロウソクの光で、ユナ達の周りだけが明るかった。見られてる。それが分かるほど、人息や身動ぎの音が近くに聞こえた。
「こっちだぁ。その娘、えらく大人しいな」
小姓が奥へと足を進める。
「ああ、冒険気分だよ。な?楽しいだろ?」
デデさんのフリに、ユナ、ノります!
「うん!ユナ、ワクワクするよ!」
「そりゃ良かった……上手くやったな」
『ユナ、兵の数100ってとこだ』
エリアスの分析だ。うわっ!暑苦しい!みんなに教えてあげたい。隠れてる意味がないって!マジかぁって解散してくれれば、尚更よし!
小姓はユナたちをどんどん奥へと連れて行く。かなりの下り坂だ。人の気配が無くなったと思ったら、今度はそこら辺に片付けられちゃったのか、お酒の樽がいっぱい置いてあるのが暗がりにチラホラ見えた。
「おいおい、俺たちは連れて来るだけの仕事のはずだろ?こんな奥にゃ、用はねぇはずだ」
デデさんがふざけた素振りで言う。
「この先に司祭様がおられる。次の神託が降りたのだよ」
「それってどんな?気になるな、先に教えてくれよ」
目の前が明るくなってくる。そして……。
気が付けば、ユナはデデさんに抱えられていた。
辺りは明るく広い空間。あちこちに松明が掲げられていた。
ユナはデデさんの首に手を回す。だって、ユナたちの周りには、何人もの兵がいて、一斉にこっちに向かって槍を突き立ててたの!
「ユナ、落ち着いて」
デデさんの声は、いつも落ち着いてる。けど、いつになく緊張してる感じがした。
「よくやった、冒険者よ!ユナ・ブラヴォーをここに差し出すがいい!!」
老人の声。芝居がかった言い方だ。ユナは恐る恐る声のする方を見た。
ぎゃぁぁぁ――!!何この人だかり!!
洞窟劇場なの!?もう幕が上がっちゃってる?
ユナたちより1段低い場所に、デッセシュバームの兵士と思しき兵が、うじゃうじゃといるのが目に入った。
『思ったより人数が多いな。300ってとこか?』
エリアス、分析早っ!野鳥の会ですか?って、これ、全部敵?
武装集団の視線は、ガッツリこっちに食い付いていた。
デデさんは少し前に出るも、すぐに足を止めた。
「どうした?冒険者よ」
少し先の方にいる、何かオシャレなコック帽みたいなのを被った年老いた司祭様とやらが、棍棒みたいなのを片手に持ったまま、ユナに両手を差し出してた。
すぐ近くには、石の棺って感じの祭壇があって、使い込まれた感半端ないし。ユナ、生け贄感、漂わせてるし!
嫌ァァァァ――!!
ユナ、足も絡ませます!!
「怖がっちゃって離してくれそうもなくてな」
デデさんが苦笑いをした。
「仕方がない。では、そのままで」
司祭様は前を向くと、武装集団に向かって話し始めた。
「時は来た。長きに渡り、我がデッセシュバームの聖地を占拠しておった憎きティアラ王国。これより、この黄金の地を我らデッセシュバームの元に還す儀式を始めようではないか!」
おおおお――!!
地鳴りの様な低い唸り声だ。全体的に声を抑えてるのは、秘密の集会だから?激励会のようだけど。
『ティアラ王国がデッセシュバームだった事は、過去1度もないはず。史書に間違いがなければ』
デンデンの言葉に、フォルトル様が頷きます。
『ええ、その通り。戯言ですね。ところでユナ、この場所には見覚えがありますよ。王の絞首場。我らサウスティアラがノースティアラを落とした時に使用した場所に違いありません』
殺っちゃったのね!ネーミングセンス最悪!
その間にも、儀式っぽいのが進んでいる。何か、お酒っぽいのが、祭壇に撒かれました!
『ユナ、この先何があるか分からないので、先に説明しておきますね。右から3番目にある穴は、月海の森付近まで伸びる穴で、我々が開けました!でも、出口は埋めてますので、絶対に入ってはいけませんよ。ほら、印を覚えて!横に角、刺さってるでしょ?魔物化した狼の角ですよ!』
地下演劇場には、横穴が沢山ある。なるほど。角の方に逃げちゃダメなのね。逃げられるかどうかは別にして。
『そして、その隣り、4番目の穴。これも角ですが、ちょっと違います。あれ、同胞の角なんですよ!』
フォルトル様、明るく言ってるけどそれ、魔物化したお友達の角……ああ。お友達、嬉しそうに手を振ってるし!
『こちらが王城へと続いてまーす。元々王家の者が避難用に作ったものですが、我々が攻めやすい様、少し大きくしました!』
なんて事をしてくれたの!?
『まさか、そのまま使えるって事は……あ、出てきたな。調査隊か?使えるって話してるぞ』
マジですか!エリアス?そこ、祭壇よ。座っちゃダメ!
『まあ、大昔の穴ですしね!忘れられてしまったのでしょう』
未来に繋げて!大事な事よ!
『ちなみに何処に繋がってるんだ?』
『その当時は、調理場でしたね』
と、その時、上の方で大きな音がした。扉が破壊された様な音だ!
行けぇぇぇ――!!という鬨の声。これはきっと冒険者さん達です!!
ユナはホッとし、腕を弛めた。
途端、デデさんがユナを床に降ろし、叫んだ。
「伏せろ!」
次の瞬間、下から突き上げられる感覚。ユナはデデさんに地面へと押し付けられた。
「土魔法じゃと!?」
司祭様がどんどん下に見える。そうか、ユナ達の下の地面だけが盛り上がって、上にあがったのだ!いや、ユナ達だけじゃない。半端に降り損ねた槍兵がよじ登ってきた!
「チョーン!ユナを!」
「俺に任せろ!」
いち早く動いたのは、冒険者さん。槍兵を蹴倒して下へと落とし始めた。チョンに庇われて見えないけど、デデさんも剣を抜いて応戦してるみたい。
『きゃぁぁぁ――!』
アンリンの悲鳴は、素敵ィ――!に続く。
「皆の者!決戦は明日!今日はここまでとしようではないか!」
「急げ――!!撤収――!!」
本番は明日。今日は戦う気はないっての?
そっと下を覗けば、凄い勢いでデッセシュバーム兵たちが1番大きな穴へと吸い込まれていくのが見えた。多分これが、トロッコの通る坑道なのだろう。
『あの穴は知りませんね。後から出来たのでしょう』
今すぐ潰してやりたいわ!……ん?下の方で、司祭様が何か言ってる。
「ユナ・ブラヴォー!やってくれたのぉ。だが、王太子に捨てられた女の戯言など、誰が聞くと言うのか?くくっ……明日が楽しみよの……」
馬車に乗り、司祭様は坑道へと消えた。




