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24話 友情

 閉門ギリギリで王都に滑り込んだユナたちは、緊張した面持ちの門兵さん達に敬礼をされ、検問を顔パスでスルー。そのままテラの買った家に向かった。


「俺、相当ヤバいところに雇われたような気がしてきたぜ」

 チョンが何故かビビっている。そう?アットホームな職場じゃない?

 

 久しぶりの王都は、宵のうちだというのに相変わらずの賑わい。楽しく眺めていると、正面に大きな屋敷が見えてきた。屋敷の門を見れば、テラの店でよく見る冒険者さんが、自前のゴツい装備で警備している。道行く人が何事かと振り返っては冒険者に睨まれ、いそいそと逃げてた。

 でも、ユナの乗る馬車が近づくと、冒険者さんがにこやかに手を振り、門を開けてくれる。どうやらここが、魔王様の御屋敷のようだ。

 広いお庭を馬車で進み、馬車は止まる。

 

「うわぁぁぁ――!立派な御屋敷だね!」

 屋敷の入口で馬車から降りたユナは、屋敷を見上げ感嘆の声をあげた。白を基調とした、清楚な屋敷だ。テラも降りてきて、そうでしょ?って胸を張る。

「魔王が住むには物足りないけど、急ぎだから仕方ないわね」

 確かに、普通に豪華な屋敷だから、おどろおどろしい迫力に欠けてる気がします。

 

「ユナ、探検してきていい?」

「ええ、3階の1番奥がユナの部屋よ」

「ユナの部屋?あるの?」

「何言ってるの。ここは貴方の家でもあるのよ?」

 そうか!ここはユナの家だ!ふわふわと嬉しさが湧いてくる。

「見てくるね――!!」

 ユナは屋敷へと駆け込んだ。


 1階……2階と次々に部屋を開けて中を見ていく。家具はほとんどなく、ガランとした空間です。何部屋かベッドがある部屋があったから、そこがそれぞれの部屋なのだろう。

 そして、3階の奥!ユナはワクワクと扉を開けた。

 

 ガチャ!……ん?

 先客がいました!それも沢山です!

「失礼しましたぁ!」

 ユナは頭を下げると、1度は開けた扉を閉め、首を傾げる。

「ユナ様!!」

 慌てて部屋から出てきたのは、学園長様のメイド頭のブレネリーさんだった。


「本日到着されるとは思わず、大変失礼致しました。しかしこれで、仕上げに余裕が出来ます!」

 ブレネリーさんとメイド軍団は再会の挨拶もそこそこに、すぐにその、仕上げとやらに取り掛かった。

 

 のぉぉぉぉ――!!

 ユナのメイド服は、速攻引っペがされ、あれよあれよという間に服を着せ付けられる。1枚2枚とペチコートを重ね、最後は金に近いオレンジ色のちょっと大人っぽい豪華なドレスでフィニッシュ!

 ユナ、思い出しました。これ、いわく付きのエレ様のドレスよね?

 

「これでも余りますね。相当詰めたのですが……」

 盛モリです。想像を超える極小っぷりだったらしい。ユナはエレ様のお姿を思い浮かべる。

 ごめんなさい。ユナ、最終形態に進化しても、あの様な可憐なお姿にはなれないと思います。

 

「しかし本当に良くお似合いですね、ユナ様。このドレスをお召になっていれば、下手な殿方から声をかけられる事はございませんよ」

 それは困る!!ユナのミッションは、殿方にチヤホヤされて、フィン様に見せつける事だったはず!!


「あらユナ、とっても似合うわよ!別人みたい!」

 テラも部屋に入って来て褒めてくれる。……褒めてる?

「こんなに素敵な髪をしているのに、いつも隠してるなんて、本当にもったいないわよね」

 テラの不満に、うんうんとブレネリーさんが頷く。

「テラ様。……しかし、あの聖女と張り合うには、今ひとつ不十分な点が……」

 ブレネリーさんが何かを言い淀む。張り合うの!?ユナがメイリーンと!?

「大丈夫よ!今、フェリベールが研磨職人を呼んだから」

 何の職人でしょう?

 

 それから髪型とか、化粧まで思案し始めるテラとメイドさん達。ユナはお人形さんの様にイスに座ってぼーっとして……。

「ユナ様!?これはいけませんね。至急、飲み物をお持ちして!!」


 その夜ユナは、メイド軍団のいなくなった静かな部屋の、出窓で寝ることにした。広すぎて落ち着かなかったのだ。枕と毛布を持ってきて丸くなり、近くに見えるお城の明かりを眺めた。もうすぐフィン様に会えると思うと、とてもドキドキする。

 

『モルト爺様、凄い。……ウーラ、詰みました』

『うぬ、さすが大先輩。その頭を薬の調合だけに使うのはもったいないと思っておりました』

 ウーラとオレビンオヤジが感嘆の声をあげた。

『何を言いなさる。たまたまじゃよ』

 どうやらモルト爺がウーラを打ち負かした様です。大穴でした!


 その時、微かな音と共に、扉の向こうに人の気配がした。

『ユナ、手紙だ。持ってきたのはチョーンだ』

 エリアスが教えてくれる。

 え?チョン、字が書けるの?ユナ、負けちゃった!


 でも、扉の下の隙間から差し入れられたその手紙は、きちんと封蝋された物で、宛名はユナだけど差出人には知らない人の名前。

「ローズブレイド?」

『我が部下ですね。ユナ、開けて見ましょう』


 エリアスに見守られ、手紙を開ける。中々に分厚い手紙です!でもユナ、難しい字は読めないんだけど……と、思ったら?

「ラブレター?」

 突然、この様な手紙を渡してしまい、ごめんなさい的な感じで始まった手紙は、エリアスとの別れを悲しむ、切ない系の言葉で綴られていて、ユナ、キュンキュンです。

 

『お恥ずかしい。昔からローズブレイドの気持ちには気がついていたのですが、応える事が出来んでな』

「どうして?」

『ミハイル・ローズブレイド。彼は男です』

『キャァァァ――!!どんな殿方なのぉぉぉ!?』

 アンリンが飛びついて来た!落ち着いて!!


『ああ、ユナ。ここからは冷静に読める内容ですよ』

 アンリンを押しのけて、エリアスが手紙を指でなぞる。なになに?

 3枚目……急に肩苦しい言葉になってて、ユナ、意味不です。エリアスが翻訳してくれる。

 

『此度の、アルスリッド王太子によるユタン精錬所解放により、我が組織は二極化したようだ。ミハイルは、三国統一に反対する姿勢を見せた為、組織を脱退。同様の考えを持つ仲間と、新たに三国の平和的共存を支持する組織を立ち上げたそうです。同時にアルスリッド王太子の働きにより、ドルバ勢力の巻き返しが加速したため、ミハイル達はそれを情報操作で支援。無事、ドルバ国民による首都奪回が成功したようですよ』

 

 今度はウーラとトーラが手紙に飛びついて来た。とても嬉しそう!

『お兄たま!凄い!!』

「ウーラ!トーラ!良かったね!」

 でも、喜ぶユナ達の横で、エリアスは眉をひそめている。

 

『ん?しかし、解放した当の本人は現在行方不明との事。部下には支援協力要請の為、ティアラ王国に行くと……解放間もない国を置いて、アルスリッドは一体何をしてるやら……』

『多分、お兄さまは、聖女がいるからティアラ王国に来てるのだと思う。きっと放っておけないのよ』

 アルは責任感が強そうだし、トーラが言うなら、きっとその通りなんだろう。

 

『……確かに。簡単にドルバが解放されたのには、聖女がティアラ王国にいる事が大きな要因なのかもしれん。まさか、報復を考えている訳では……と、ここ。ユナ、サインをくれと書いてあるぞ』

 4枚目。手紙の最後の空白をエリアスが指さしている。


「サイン?」

『形だけで構わんだろう。ペンはあるか?』

「あるよ!」

 そう!ユナの部屋にはちゃんと筆記具が用意されてるの!勉強しろと言う意志を暗に感じたけど、こういう使い道もあるんだ!ユナはいそいそと机に着いた。

 

 ユナ、サインなら書けるんだよね。小学生の時にいっぱい練習したから!もちろんハートは使ってるし、筆記体の最後は輝く星よ!

『実に複雑なサインだな。何と書いているか分からんが、まあいいだろう』

 サラサラっと書き終えたユナのサインを見て、エリアスは満足そうに頷いた。

 

『よし、これでユナも我が組織の一員だ。まあ、象徴的存在ではあるがな』

 エリアスはとても嬉しそう。でも、象徴的存在って何ですか?

『扉の下に出しておけば、チョーンがすぐに回収するだろう』

 直接渡しちゃダメなの?謎の組織だから?


 ユナはちょっとワクワクしながら、元の封筒に手紙を戻すと、扉の下に差し込んだ。そして立ち上がった途端……!

 バンッ!と扉がフルオープン!ユナは開いた扉に押されて、そのまま壁に押し付けられた。

 

『シッ!ユナ、そのまま動くな!賊だ!』

 エリアスの声に、極薄のユナ、扉と壁の間に挟まったまま、カチンと固まる。

 

「おい!誰も居ねぇぞ!」

「最悪だ……ここで間違いないのか?」

「間違いねぇ!3階の奥だって、外で話してるのを聞いたんだよ!探せ!!」

 こっそり覗けば、怪しい3人の男たちが、ベッドの下と、机の下と、引き出しの中を覗いている。ユナ、さすがに引き出しには入りません。

 

 その時、廊下の方から足音がしてきた。警備員さんが階段を登って来ている様だ。

「クソっ!追いつかれた!!」

 男たちは慌てて廊下に出て行く。程なく慌ただしい足音がして……。

 

 ギャッ!!

 ドカッ!ボコッ!

 確実にフルボッコにされています!!ユナは震えた。


「ユナ!!何処だ!?」

 今度は先生の声だ!ユナは扉の影から出て、部屋に駆け込んで来た先生にタックルした。

「うぉ!ユナ……そんな所に隠れておったか」

 先生はしっかりとユナを受け止めてくれる。

「よくやった。もう大丈夫だ」

 ユナには、みんなとボトルロックがいるから大丈夫だけど……。ユナは先生の優しく落ち着いた声に、涙が出そうになった。


 その時、警備員さんらしき冒険者が、開けっ放しの扉を叩いた。

「捕まえたぜ。どうする?」

 ユナはちょっと照れちゃって、先生の影に隠れた。こっそり覗けば見た事のない冒険者さんだ。

「窓から吊るしといてくれ。明日、騎士団に回収をしてもらう」

 先生、地味にキレてますね!


「ハハッ!了――解!」

 明るく手を振った長髪綺麗系冒険者さんは、ユナと目を合わせると、自分の胸のポケットをポンポンと叩いて部屋から出て行った。扉付近の床を見れば、手紙が無くなっている。

『あれがローズブレイドだ』

『嘘ォ――最高ォ――!!』

 何が!?アンリン、落ち着いて!!


 

 翌朝。ユナの家には、てるてる坊主がぶら下がっていました。3つもです!明日も晴れるに違いありません!

 

「金に目がくらみやがって。噂を鵜呑みにするからだ」

 外からてるてる坊主を見上げていたユナの横で、警備の冒険者さんが腕を組んで眉をひそめてた。

「噂?どんなの?」

「ティアラもドルバの二の舞になるってな。聖女に取り憑かれた王太子は国民の信用を奪われ、国王は首を取られるのさ」


「さあ、吐きなさい!誰に雇われたの?」

 ユナ達が見上げる先、白く清楚なバルコニーにテラが現れた。その手には細く長い剣が握られている。テラはその剣で、てるてる坊主の頭の布を、ツ――っと引き裂いた。昨日の賊が引き攣った顔を出す。

 

「よく切れる剣だな……」

 冒険者が縮み上がってる。だんだん魔王様の屋敷らしくなってきました!


「だから知らねぇって!俺たちはただ、メイドを連れて来るだけの簡単な仕事だって言われて、乗っただけなんだ!」

 そうだ、そうだと、てるてる坊主が必死に叫ぶ。

 

「メイド?」

 首を傾げるユナに、冒険者さんは微笑みを返す。

「あんただな」

「ユナか!」

 ユナは手をうった。


「なるほど、じゃあ、そのメイドが魔王の子だって事も知らなかったのね?」

「え?」

「よーく分かったわ。なら仕方ないわね。騎士団には言わないでおいであげる。この件は忘れる事にするわ。……いい?皆にもそう伝えてちょうだい!」

 テラは下で眺めている冒険者さん達にウインクをした。冒険者さん達は、震えながら頷いた。

 

「おお!分かってくれたか!!」

 てるてる坊主たちは、テラの慈悲が嬉しいのか、ゆらゆらと揺れている。でも、その後ずっと、下ろしてくれ――!って悲鳴が屋敷に響き渡っていた。

 テラをあまり怒らせないようにしよう。ユナは固く心に誓った。


 そして次の日の午後。ユナが自分の名前の練習という地味なミッションをこなしていると、外から声が聞こえてきた。

「おい!そこのあんた!騎士団を呼んでくれ!俺たちを雇った男は、デッセシュバームのお偉いさんだったんだよ!!俺ら、どっちに転んでも殺されちまうんだ!頼む!助けてくれ……げっ。ルービー様!?」

 ユナの家のてるてる坊主は意外に役に立つ。え?ルービー様!?

 ユナは慌てて玄関を目指した。

 

 外に出て馬車に駆け寄れば、ルービー様が先生と一緒に黒塗りの馬車から降りて来ていた。深い色のローブを着た魔術師2人が並ぶとファンタジー感が半端ない。

 そしてルービー様が、おもむろに馬車の中へと手を差し伸べた。

 

「ミーア!!」

 そう、ミーアです!!馬車から降りて来たのは、白いふわふわの髪に小さなお顔。世界一可愛いミーアでした!マロン様のテンションもマックスです!

 

「ユナ!!」

 ミーアは、馬車から降りるなり、ユナに抱きついた。

「突然ごめんなさい!でも、会いたくて。フェリベール先生にお願いしましたの!」

「ミーア!会いたかったよぉ――!ポーションいっぱいありがとう!!」

 ユナはふわふわでいい匂いのするミーアを心ゆくまで堪能する。


 学園には行けないけど、ユナには友達がいる!そう思うと、とても嬉しくてユナはちょっと泣いた。ミーアはうんうんってユナの頭を撫でてくれた。


「さあ、ユナ。お土産があるのですわよ!ユナのお部屋にお邪魔してもいいかしら?」

 ミーアが後ろを振り返ると、ルービー様が沢山の箱を抱えて待っていた。この国一番の魔術師を荷物持ちに使うなんて……さすがミーア!

「もちろんよ!!」

 ユナはミーアの手を引いた。


 さあ、女子会の始まりです!ユナの部屋にティーセットを用意して貰って、大量の箱に向き合う。

 ミーアに急かされ開けて見れば……!

「服?こんなに沢山?」

 中身は全て衣料品でした!どれもうっとりするほど可愛い!

 

「実は購入したのはフェリベール先生ですのよ。ミーアは選んだだけですの!ミーアとユナは体型が似ているからって、お話を頂いて、最速で仕上げて貰いましたの。さあ、早速着て見ましょう!」

 先生、大好き!!

 

 ふっふっふっ!とうとうユナも、メイド服から卒業する時が来たようです!

 

 普段着に、ちょっとした外出用のドレス。それに合わせた靴にバッグと、ものすごい量です!!ミーアチョイスのドレスは、薄いブルーのちょっと大人っぽい清楚系。ユナのイメージだそう。てれるぅ――。

 その日ユナは、ミーアと一緒に、キャッキャウフフと心ゆくまでコスプレ……お着替えを楽しんだ。


 

 明日はとうとう舞踏会の日。

 夜になり、ユナは出窓の前に立つと、会議を始める事にしました!凄く気になる事があったからです!

 

「あのね、冒険者さんがね、ティアラ王国もドルバみたいになるって噂してたの。それって、ティアラ王国がデッセシュバームに狙われてるって事でしょ?ユナ、どうにかして止めたいの!みんな、お願い!ユナに色々と教えて!」

 プラズマの皆さんが出てきて、思い思いの格好で頷いてくれた。


『では、皆の知っている事を共有しよう。まずはドルバ王国の惨事について……ウーラ、トーラ。すまないが少し我慢してくれ』

 エリアスが出窓に軽く腰掛け、話し始める。ユナは真剣な顔で頷くウーラとトーラの間で体育座りをした。

 

『ドルバのアルスリッド王子は聖女と懇意にする事で、デッセシュバームとの友好を築こうとしてたんだよな。今のフィン王太子と同じ様な立場だったと見受けられるが?』

『お兄さまはとても人気があったの。特に貴族たちは、我が娘を婚約者にしようと躍起になってたわ。そこに他国の聖女との婚約の噂が流れて、お兄さまの人気は一気に急落。私たちもお兄さまに裏切られた気分だったのよね、ウーラ』

『お兄たま、聖女の我儘ばかり聞くから、大嫌いだった』

 ウーラとトーラが頷きあった。

 

『なるほど。その頃のドルバは、デッセシュバームに一方的に攻め入られていた事もあり、とてもじゃないが、デッセシュバームと仲良くする様な空気ではなかっただろう。その中での婚約騒ぎだ。国民が聖女に反発するのも仕方ない。そして、王は聖女に刃を向け、首が……すまない。その事については恐らくユナも、もう気がついているのだろ?』

「うん、ボトルロックだよね?」

 ユナは頷いた。

 

『『ボトルロック!?』』

 後から家族になった、ウーラたちとフォルトル様が驚いている。ほかの皆は気付いてたのね。

 ユナはみんなに2つの魂の事を話した。

 16歳になるまではボトルロックが2つの魂を守る為に、動いてしまう事。そしてその後、ユナが裁かれる事も。

 

「ボトルロックはね、ユナだけじゃなくて、ユナの前世で一緒に死んじゃった子にも、同時に着いてるって言ってた。メイリーンは、前世でユナと一緒に死んじゃったユナの双子の姉だったと思うの。だから、ボトルロックはメイリーンに剣を向けたドルバの王様を……」

『『なるほど、分かったわ』』

 言い淀むユナの顔を、2人は両方から覗き込む。

『これでユナが狙われ続けている訳が分かったわ。あの女、前世だけじゃなくて、今世でもユナを一緒に……。ユナはドルバを助けてくれた。だから、私たちもユナを助けたい。協力させて!』

 2人は頷き合い、話し始めた。

 

『あのね、私たち、王宮の地下道を通ってティアラまで逃げる予定だったの。王宮の地下には緊急脱出用の地下道があるっていうのは知ってたけど、それが迷宮の様な、ティアラの坑道に繋がっていたってのは知らなかった』

『ウーラたち、見つかって捕まっちゃったけど……』

 

 エリアスが眉をひそめる。

『待ち構えられていたと言う事か?デッセシュバームの兵に?』

『うん。聖女は王宮に滞在していたわ。そして、お兄さまにベッタリ。だから、お兄さまは私たちに手紙で脱出した後の集合場所を教えてくれた。多分、その時に心を読まれたのね。私たちは護衛を連れてたけど、それも読まれていたみたい。30人は下らない数のデッセシュバーム兵が待っていたわ』

 トーラが何かに耐えるように、ギュッと拳を握った。


『 2人共、思い出すのは辛かっただろう。貴重な話を本当にありがとう。王宮はその緊急脱出口から兵を入れる事で、簡単に落とされたのだろう。……と言う事は、同じ手口で来るとすれば、現在、このティアラの地下にも兵が隠れているって事か……。ドルバの王宮が落ちた速さからして、かなりの数が潜んでいると考えていいだろう。それだけの兵を瞬時に送り込める場所がティアラの王都にあるだろうか』

 エリアスはみんなに目を向けた。

 

『ユナを坑道に連れ去った時に使った入口があるじゃろ?見えはせんかったが、傾斜の角度から言って、昔、トロッコを通していた道なのじゃろう』

 オレビンオヤジが角度の話をし始めた。

「ユナが樽の中でゴロゴロしていた所ね!」

『ああ、その通りじゃ』


『確かに馬車のまま地下へと下りて行ったが……すまない。場所が分かる者は……』

 エリアスは挙手を促した。

 

『独特なカビの匂いに穀物や芳醇な果物の香り。間違いなく、酒を置いとったな』

 モルト爺の言葉にオレリアンおじ様が手を挙げた。

『ああ、それならヨルバドール公爵家の酒蔵でしょう。何度も商談に行ったので覚えておるよ。地下に向かって傾斜のある酒蔵だったが、トロッコの道だと言われれば、納得のいく造りでしたな』

 なるほど、と、エリアスが顎に手をやった。

『ヨルバドールか。西の金鉱の管理者にして、アロイス派。デッセシュバームとアロイス派は繋がっているというのは間違いない』

 

『じゃ、ユナはデッセシュバームに狙われてるって事?』

 アンリンがプンスカ怒ってる。エリアスは頷いた。

『王や王子の大切な者を人質に取れば、その分、メイリーンへの憎しみが増す。メイリーンに刃を向けさせる事が目的ではないだろうか』


『ウーラとトーラが捕まったみたいにね?許せない!』

 ウーラとトーラもご立腹です。

『ああ。ユナは王族ではないから、すぐに捕るとでも思ったのだろう。ユナが無事でよかった』

 うんうんとみんなが頷く。


『では、これからだが……』

 会議が終わる予感に、ユナは立ち上がった!

「出発ね!ユナ、酒蔵を見に行くよ!!」

『危ないが、頼む!ボトルロック、ユナを守ってくれ』

 エリアスの声に、ズ……ッと黒い影がユナの下から現れる。ボトルロックだ!

 

『天界から切り離された私が、2人の純度を決める事は出来ない。だが、全力でユナを守るとここに誓おう』

 ボトルロックはまるで騎士の様にユナの前に膝をついた。

 えこひいきは出来ないって事よね?でもボトルロックはユナの事、絶対に助けてくれるって、信じられる。


「ボトルロックは公平な所が素敵なのよ!」

 ユナが言うと、ボトルロックが赤い目を見開いた気がした。

 

 ユナはメイド服を引っ張り出し着替えると、みんなを入れたバッグを肩にかけ、エリアスの剣とフォルトル様の杖を腰に刺した。

 みんながいれば、夜だって怖くない!

 ユナは気合いを入れて、扉に手をかけた。

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