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21話 解放

 ユナは爺やに手を引かれ、どんどん坑道内の壁にくっついた階段を登った。階段はオクトパスゾーンをぐるりと回るように、上へと勾配を付け造られ、爺やは時折立ち止まっては、先を造ってくれた。チョンの持つ後ろからのカンテラの明かりだけが頼りです。チョン、絶対に落とさないでよ!!

 高くなるにつれ、手摺の無い階段を登るのは怖くなったけど、ユナはただひたすら前を向いて登った。


「ユナ様、金の精錬には水が欠かせないのはご存知で?」

 恐怖を紛らわせてくれるように、爺やが話しかけてくれる。

「ううん。知らない」

「火を使う場所には必ず水は必要です。更に、この地方ではその動力や輸送にも水力を使用していた為、ティアラ王国では山から水を引き、地下まで流すといった方法をとっていました。しかし、ドン・アンゼロ鉱山の閉鎖と共に、その水門は閉ざされました。今から行く場所はその水門です」


 そろりそろりと階段を登りながらユナは想像する。水車的なカラクリかな?周りには朽ちた樋が沢山あるから、ここに水を流していたのだろう。

「今からこの坑道に水を流すの?」

「はい。そうですが、実はその水門、昔は近くの小さな精錬所にも水を送っていた事を、爺や、思い出しまして……。今は閉ざされた精錬所、ユタン。これを動かすのには、ティアラ王国の水が不可欠なはず。なのに、オクトパスゾーンを見る限り、使用された形跡がございません」

『なるほど。ユタンの民は水力の代わりをさせられていたって訳か。確かに不正に取り引きされた金鉱石の精錬に使う水を、ティアラ王国から引くってのは、国交があったとしても、手続きはまず無理だろうし、勝手に使えばすぐにバレるって訳か』

 ほうほう。

 

「爺やは水を流せば、戦闘が有利になると思うのね!」

「それは分かりませんが、少なくとも、フィン様が戻られるまでの時間稼ぎにはなりましょう」

「なるほど、フィン様は強いし、策士だからね!」

 フィン様は前の魔物との戦いでも、もの凄い数の魔物を王都から追い払うっていう、不可能を可能にしたお人なのだ。きっと何かいい方法を持って戻って来てくれるはず!

「ユナ、頑張って登るね!!」


 ユナはそれから、ガンガン登って登りまくった。これは筋トレよ!でも、そろそろ脚がヤバいって思った頃。

「ユナ様。よく頑張りましたね」

 爺やの前に木の扉が見えました!!

 でも爺やは、淡い光の漏れる扉の前で首を傾げている。

「鍵がかかっている様子ですね。昔はなかったのですが……」

 マジですか?ここまで来て、それは辛いかも!!

 

「お、俺が開けるよ!」

 すると、ユナの後を息を切らしながらついてきていたチョンが、いそいそとユナを壁へと押しやり、扉に張り付いた。その顔はなんだか青い。汗だくだし?

「任せろ……すぐに開ける。……う……俺、この戦いが終わったら、トイレに行くんだ……」

 何と戦ってるの?それ、死亡フラグよ!

「やっぱりあの水……?」

「言うな……」


 でもチョン、いい仕事しました。何処に隠していたのか、細い、火かき棒の様な物で、あっという間に扉を壊しました!

 途端に何処かに駆けていくチョン。カンテラ置いていってよぉぉぉ――。

 でもま、そっとしておいてあげようとユナは思います。割と明るいから。

 

 扉の先は小屋で、とても狭く荷物置き場の様で、ロープやら箱やらが雑多に置かれていた。

 漏れていた光は月明かり。チョンの開け放った扉の向こうに綺麗な月が見えた。

 ここ、地上よ!!近くでする水音に、頬にあたる風。ユナは大きく息を吸った。

 

『外よ……お月様、綺麗ね。嬉しい……トーラ』

『本当に……ありがとう、ユナ』

 うんうん。2人共、良かったね!でも、ユナ、グッとくるも、感動に浸る余裕がありません。

「ユナ様、こちらです」

 爺やは外に出るとユナを水音のする方へと誘った。


「ウーラ、トーラ。後でガッツリお月見パーティするから」

 ユナがこっそり呟くと、2人の笑い声が聞こえた。

『全部終わったら、お兄さまと4人でお月見ね!ユナ、絶対よ!』

 

 小屋は鬱蒼とした森の中にひっそりと建っていた。周りには何もない?って思ったのに、近くに人の気配がします!そっと覗けば薪を囲んで2人の男が何か話していました。

 爺やが腕を引き、ユナたちは暗がりに潜む。


「始まったようだな。どうする?加勢に行くか?」

「どっちのだ?上の指示だと俺たちはここを動いてはいけない事になっている。理由も言わず、ただ守れ、とな。どういう事だか……」

「最近上は後継者争いで忙しい。互いを牽制し合ってて、情報が滞る事も多くなった。要は、俺たちを単なる駒としか見てないという事だろう」

「三国統一だとか?大層な理念を掲げてはいるが、その為にどれだけ犠牲が出ると思ってるのか……いや、弱い者の命など勘定にも入れていないのかもしれない」

「ガルシア様なら絶対にこんな事、許しはしなかっただろう……」

 

 ガルシア様?

『私の部下だ。ゴッディとデデ。2人共、若いがよく出来た部下だ。恐らく脱走兵の監視だろうが、勿体ない配置だ』

 それって、国際警察!?エリアスが男たちを懐かしそうに眺めていた。

 爺やは悔しそうに唇を噛む。

「行きましょう……。水門はすぐそこでございます。見つからぬよう、留意致しますが……」

 厳しいのね。


「おい!怪しい者を見つけたぞ!!」

 その時、正面の茂みから、もう1人、男が現れた。3人はパーティだったみたい。最後の1人はチョンと同じ位若く、手には剣と……。

「チョーン殿……」

 チョン、覗かれたの?お気の毒に。


「ドルバの民みたいだ。耳に印がある。だけど、逃げてきたにしては綺麗過ぎると思わないか?」

 ちゃんと手は洗ったようね。

「ちょっ、離せよ!」

 チョンが縄でぐるぐる巻きにされております!助けなきゃ!!

 

「お前、ポケット団じゃないだろうな?」

 厳つい顔した男が言う。多分、こっちがゴッディだ。そんな顔をしている。

「ポケット団は全員、ティアラの騎士団がひっ捕らえて連れて行くのを見たな。おい、お前!こんな場所で何してたんだ?言え!!」

 

 男たちの問いに、チョンは体を捩らせながら叫ぶ。

「だから言ってんだろ!?俺はただ用を足しに来ただけだって!!」

 間違いない。ユナが保証します。

「こんな所にか?お前のトイレは、どんなところにあるんだよ!!」

 ナイスツッコミ!

 

「まあ待て、時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり話を聞かせて貰おうじゃないか」

 まさにゴッディって感じの男がそう言い、チョンの持っていた火かき棒を薪につけ、丁寧に炙り始めた。転がされたチョンがギャーギャーと騒ぐ。

 

「おい。こいつ、左手はもう使用済みだぞ」

 デデっぽい優男がチョンの左手を掴んでいる。あ。それ、ユナがやりました。ごめんなさい。

『何と下劣な事を!我が組織の者がここまで落ちぶれるとは……』

 そうよ!エリアスが悲しんでるじゃない!!

 よし!ここはユナが立ち上がります!

 

「爺や!ユナが時間稼ぐから、水門開いてくれる?」

「ユナ様……。分かりました、開いたらすぐに助けに参ります」

 爺やが離脱するのを確認し、ユナは男たちの方へと向かった。

 

「ちょっと!!あなた方、何、してるの?まさか、拷問なんて野蛮な真似、してるんじゃないでしょうね?」

 ユナ、テラをリスペクトさせて頂きます!もちろん、両手を腰に当てた、仁王立ちスタイルです!

 でも、敵もなかなかだ。剣を持った男が3人、腰に手をやり、構えていた。さすがエリアスの部下、速い!……あ。

 

 ユナ、武器構えてませんでした。

『ユナ……』

 エリアスのガッカリした声が聞こえます。ごめんなさい、師匠。ユナ、迂闊でした。

 男たちはキョトンとしている。


「メイドがこんな所に何の用だ?迷子?……って訳じゃなそうだな」

 ふっと男の1人がチョンを見る。

「駆け落ち?」

 

「違――っう!!」

 話を合わせた方が得策だとも分かってる。……でもユナ、嫌なものは嫌なの!!

「そうか?……なら、捕まえろ!!」

 

 その指示に、いちばん若い男がニヤけながらユナに近づいてきた。嫌ァぁぁぁ――!!

「ユナ!逃げろ!!」

 チョンが足技で男を必死に止めようとしてる。素敵ィ!!

 ユナはその隙にエリアスの短剣を手に構え、若者を見据えた。後ろで、ゴッディアンドデデがチョンに向かって火かき棒を構えているのが見える。

 

「ほぉ、メイド、いい物を持ってるな。でも、それは飾りの剣だ。切れないぞ?」

 若者がユナの隙を狙うように剣先を向けてきます。ボトルロック、切っちゃだめよ!!……と、その時、ゴッディらしき男が叫んだ。

 

「ちょっと待て!!その剣をみせろ!!」

 一瞬、その場が硬直した。叫んだ男が火かき棒を置き、ユナの方にやって来る。途端、エリアスの指示が飛んだ。

『ユナ、名乗れ!お前は私の弟子だと見せつけてやれ!』

 りょ!!


 ユナはきっと顔を引締め、短剣をエリアスに教わった型に構えた。

「私はユナ・ブラヴォーよ!剣を置きなさい!!」

 言葉はすんなり出てくる。だって、弟子だってぇ――キャッ!嬉しい。

『ユナ、顔』

 はい。締めます。

 

「ユナ・ブラヴォー?」

 若者が首を傾げた。

「そうよ!エリアス・ガルシアの弟子、ユナ・ブラヴォーよ。エリアスの部下が、そんな残念な事しないでよ!武器も持たない相手を時間つぶしに拷問するなんて、エリアスが悲しむじゃない!!」

「何、勝手な事を。亡くなったガルシア様の名を呼び捨てするなんて、許されない行為だぞ!」

 

 若者は、ますますユナに剣を突きつけた。エリアス?ダメみたい。

「ドル!剣を置け!」

 カチャン……。

 でもゴッディアンドデデの2人は、突然剣を投げ捨て、膝を着いた。

 お?


「大変失礼致しました、ブラヴォー様。恐れ入りますが、貴方様はルカ・ブラヴォー様のご息女で間違いございませんか?」

「うん、そうだけど……お父さんの事、知ってるの?」

 ユナは小首をかしげる。

『ユナ、言葉遣いは……ま、ユナらしくていいでしょう』

 そうなの?やったー!

 

「ええ勿論、存じております。ブラヴォー様はガルシア様の補佐をされていたお方。娘がいらっしゃるとは聞いておりましたが……まさか」

 その先は想像できるよ。メイドとは!って言うんでしょ?……ん?お父さんが何だって?

「ウソ!?マジで?お父さんってエリアスの補佐してたの?ヤバくない?エリアス、何で教えてくれなかったのよー!」

『ユナ、その話は後だ。今はすべき事があるだろ?』

 そうよね!任せて!!

 

「コホン。ゴッディ様にデデ様?ユナね、水門を開けて、ユタン精錬所に水を流したいの!だからお願い。手を貸してくれない?」

 ユナ、剣を手にしたまま、両手を組んでお願いします。決して脅迫ではありません。

 

「それは……ガルシア様の指示でしょうか?」

 ゴッディ様が眉をひそめて言う。

「違うよ。ユナがしたいからお願いしてるの。この下にあるユタン精錬所ではね、沢山のドルバの人たちが酷い目にあってるの!今、それを助けようと、みんなが動いてるの。ユナ、じっとしてる事なんて出来ない!そうでしょ?」

 

「え?どういう事だよ!」

 若者が1人で困惑しております。ゴッディアンドデデは若者にコソコソと耳打ちし、共に思案し始めた。不思議な力があるとか何とか?あ、お父さんの事ね!

 

 でも、そうよね……。この人たちは社畜。命令違反は出来ないのかもしれない。それにユナ、もう待てません!

「ごめん。無理ならいいの!じゃ、ユナ、急ぐから行くね。せめてチョンは放してあげてね――!」

 多分、もうチョンは大丈夫。酷い事はされないと思う。助けられなくてごめん!

 ユナはチョンから目を離すと、水音のする方に駆け出した。

 

 水門が開いたような音はしない。きっと爺やは1人で難儀しているに違いない。

 木立を縫うように走れば、すぐに川に突き当たった。大きくはないけど、中々水量のある川だ。

 川に沿って行けば爺やの姿が見えて来た。川を塞ぐ様に造られた水門の上で大きなバルブと奮闘している。

 

「ユナ様、申し訳ございません。こちらの流れを塞き止める必要があるのですが、こいつが動きませんでの」

 爺やが水音に負けないよう、声を張り上げた。

 見れば、川は分岐されていて、分岐された方の水門は既に開かれている。これがユタンに流れていくのだと思うけど、水がチロチロで、勢いがない。

 なるほど、本流の流れを変えないといけないのね!

 

 爺やは必死に体重をかけて、水門を閉じるバルブを回そうとしてる。ユナも飛び乗って反対側から手を掛けて引っ張った。でも、長い間使われる事がなかったバルブは錆び付いてて、ビクともしない。

 

『ユナ、ロープがあればどうにかなるかもしれんぞ。滑車の原理じゃ』

 オレビンオヤジが教えてくれる。でも、ロープないよ?木を叩いて説明してくれてるけど!

『これとこれを通して、この丸太を括り付けてこの崖から落とすのじゃ』

 丸太、太いよ?ユナでも動くかな?

 

「ユナ!置いてくなよぉぉぉ――!」

 ちょうどその時、いい感じのロープを巻き付け、チョンが走って来た。逃げて来たのね!

「チョン!グッジョブ!!」

「え?」

 

 ユナは急いでチョンに繋がるロープをバルブに括り付け、チョンを木に回すと、崖の上に立たせた。

「チョン、ここからダイブよ!!」

「ヤダよ。……お前、ひでぇな」

「アトラクションよ?楽しいよ?」

「楽しくねぇよ!!」

 チッ。

 

「ユナ様、お手伝いさせて下さい」

「お?」

 その声に振り向けば、デデ様が微笑みながらユナの持ってるロープに手を掛けてくれました。見れば、ゴッディ様と若者も水門のバルブに手を掛けているじゃない?ユナ、めっちゃ嬉しいです!!

 

「いくぞ!!」

 ゴッディ様の合図で一斉に皆が動いた!!

 

 ザァァァ――!!

 アァァァ――!!

 水門が凄い勢いで閉まり始めました!!どうやらバルブがぶっ壊れたみたい。

 水が分岐路に流れます!!……ん?今、悲鳴が聞こえた気が?

「チョ――ン!!」



 崖にぶら下がるチョンを回収したユナたちは、バレる前にあの部屋に戻る事にしました。残念だけど、ユナのお手伝いはここまでだ。

 ユナがゴッディ様達に御礼を言うと、3人は揃ってユナの前に膝を着きました。エリアスの部下はやっぱりかっこいいです!アンリン?鑑賞はもういい?

 

「ユナ様、ありがとうございます。貴方様のおかげで心が決まりました。ゆっくりお話をしたい所ですが、今は自分の心に従い、ユタン解放の手助けをして参りたいと思います」

 エリアスが腕を組んで嬉しそうに頷いてる。良かった!

 

「うん、ありがとう!嬉しいけど、ユナって呼んで欲しいな。ユナ、何も出来ないけど、みんなの無事をいっぱいお祈りするからね!!」

 ユナがしゃがむと、3人は顔を見合わせ笑った。

「はい!必ずや良い知らせを持って、伺わせて頂きますよ!ユナ!」

 

 ゴッディアンドデデは、爺やに有志を募るって話をしてからどこかに駆けて行った。窓口は爺やだって。……窓口って何?

 若者もユナに手を振ってくれて、ユナ、満足です。


 ユナたちはあの小さい物置小屋に戻り、坑道へと戻った。

 ウーラ、トーラ、ちょっと我慢してね。終わったらすぐにまたお外に連れて行くからね!……って、坑道内は水音が凄いです!

 

 その時、ちょうど真上に月が差し掛かったのか、真っ暗だったオクトパスゾーンが明るく照らされた。

 朽ちた樋からは、いくつもの小さな滝が落ちていた。その水飛沫に月光が反射し、銀色にキラキラと光を放つ。濡れた壁に滴る飛沫と合間って、それは宝石みたいに輝いてて、息を飲むほど美しい光景だった。

 

「綺麗……」

『本当に綺麗。坑道、大嫌いな筈なのに……』

 トーラが呟いた。そうね、少しでも2人の心が癒されてくれたなら、それだけで、ユナ、頑張った甲斐があったよ!

 

 帰りは下り階段だ。行きよりも怖いなって思ってたら、爺やが魔法で、見事な滑り台へと作りかえてくれました!

「濡れてしまいますが、怪我は少なくなるでしょう。ユナ様、少し怖いかと思いますが……」

「ユナ、ウォータースライダー大好きなの!!」

 

 ユナは濡れてもいいようにメイド服をカバンに詰め、下履き姿で思い切り滑り降りた!!

 ヒャッハ――!!最高――!!


 ウォータースライダーはオクトパスゾーンの壁をクルクルと回ります!登るのはあんなに大変なのに、あっという間にゴールイン!ユナは見事に地下水路に飛び込んだ。

 続けて爺やとチョンもドボン!!爺やって、本当に凄い。びしょ濡れで寒いけど、気分は最高!って思っていたら。

 

「ユナ様、急ぎましょう!!」

 戦闘音が近づいて来た。水音にも負けない大音響で、ユナは焦る。敵は近いみたい。

「こちらが 帰路です」

 爺やはユナを引っ張って、坑道の1つに押し込めた。チョンが入るのを確認してから、坑道を魔法で埋めると、ちょっとだけ覗き穴を作ってくれる。


「どうやら敵はユタンから押し出されて来た様でございますね」

 結構な数の兵が、剣を手に、後ろを気にしながらオクトパスゾーンに駆け込んで来ていた。それを追うのはアルと、アルの仲間たちだ。これだけ見るとアル達が有利。だけど、見れば、アルたちの背後にもしっかりと武装した敵が!

『お兄たま!!危ない!!』

『デッセシュバーム兵だな。増援の様だ』

 

 人数的にも装備的にも不利。アル達がどんどん囲まれていく。

 でもその時、坑道の1つから、ティアラの騎士様が飛び出してきた。いや、1つじゃない。あちらこちらから騎士様が飛び出し、敵をどんどん打ち崩し始めた。中にラディズ隊長らしき姿が見え、ユナは祈る。

 騎士様は強い。敵が必然的にオクトパスゾーンの中央に集められていった。でも、敵兵はかなりの数。全然減らないの。

 

 ギャァ!!

 ……と、突然、地面が広範囲に渡って凍り、十数人の敵兵の足をいっきに縫い付けた。

『見て、あそこ!!ルービー様よ!!』

 

 アンリンの声に指さす方を見れば、地下水路のすぐ近くの坑道から、ティアラの騎士様の増援が入って来るのが見えた。先頭には、魔法を詠唱してるルービー様と綺麗な金髪……フィン様だ!でも、連れてる騎士様の数は少なく頼りない。

 

 魔法だ!逃げろ!!って声と、いける!打て――!って声が入り交じる。敵兵が散り、騎士団は押し戻され始めた。フィン様も交戦し、ユナは手に汗を握る。強いのは分かってるけど……。

『見て!また増えたよ!……あ!あれは!』

 

 トーラの声に恐る恐るユタン側の坑道をみる。敵の増援!?……と思ったら?

「これは!ドルバの仲間じゃないか!!」

 チョンが叫んだ。

 

 その人たち、服はボロボロだし、そこから伸びる手足はとても痩せて見えた。だけど、彼らは若く、俊敏な動きで倒れた兵たちから剣を奪うと、デッセシュバームの兵へと突撃していった!なんて屈強な精神なんだろう!!みんな頑張って――!!


 働かされていたであろうドルバの若者の数は、敵兵よりも、ティアラの騎士よりも遥かに多かった。あっという間に戦局が変わる。

 

『あの王子、即効性のポーションを用意した様だな。しかもご丁寧に敵兵の剣まで用意してあったようだぞ。オクトパスゾーンはティアラの領土だ。これならデッセシュバーム兵を攻撃しても文句は言われんだろう。アルスリッドを囮に使うとは!くっ……面白い』

 エリアスが関心してる。ミーアのポーションなの?フィン様はドルバの若者にそれを配ってた?いつの間に!?

 

『凄い……ユナ。これ、ドルバの完全勝利よ』

 トーラが呟き、ウーラを抱きしめた。

「良かった……。本当に良かったよ……」

 ウーラとトーラの泣き声を聞きながら、ユナは頷く。涙が勝手に流れてた。

 そしてほっとした途端、不意に体が重くなって。


「チョーン殿!ユナ様を!!」

 爺やの焦る声を聞きながら、ユナは暗闇に落ちていった。

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