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20話 決意

 ユナ、今日はちゃんとベッドの上で目が覚めました!でも天井は洞窟っぽいです。ここは……?

「ユナ。お気付きになりましたか?ご気分はいかがですか?」

 この声、ラディズ隊長だ!超安心感!

 

「隊長こそ、毒、大丈夫だった?」

「よく毒だと、お分かりで……ええ。ミーア様のポーションのおかげで、ご覧の通り、事なきを得ましたよ」

「良かったぁ――」

 ミーアって最強のヒーラーね!

 

 体を起こし、クルクル見渡せば、牢屋のあった、あの心地よい部屋の中。誰のか分からないベッドの上よ。ゲヘヘのベッドだったら……最悪!

 ユナは急いでベッドから飛び降り、近くにあるテーブルについた。目の前には何故か、小心者チョーだか、チョンだかが座ってるし、その後ろにはアレン王子の爺やが立っていた……なんで!?

 

 驚くユナを見て、ラディズ隊長は苦笑いしながらユナの横に座った。すぐに爺やが水と謎の液体を渡してくれる。

「ありがとう!」

 嬉しい!!久しぶりの飲み物よ!ユナは水を手に取った。

 

「隊長……フィン様は?やっぱり怒ってた?」

 ユナ、一応ダメ元で聞いて見ます。少しでも機嫌が治ってたらいいなぁって。ラディズ隊長は微笑みながら答えてくれる。

 

「フィン様はアルスリッド様との繋がりを内々に確約する為、1度城に戻りました。ユナも一緒にお連れしたかった様ですが、人質ですので動かす訳にもいかず、この場所で休ませる事を、断腸の思いで決断されたようですよ」

 そっか。ユナが人質じゃないと、デッセシュバームに文句言われた時、困るんだったよね!

 

「って事は、交渉成立?アルとフィン様は手を組んだんだね!フィン様、普通じゃない感じだったし、ユナ、心配してたの」

 ユナは暴れん坊王子フィン様を思い出し、眉をひそめた。この野蛮人!とか言っちゃってたし?いきなりワイルドになったから、何か悪い物でも食べたんじゃないのかな?って。

 

「私としては、ユナのお体の方が心配なのですが……。しかし、先程のフィン様の様子を心配されているのでしたら、大丈夫ですよ。我々の報告が遅れてしまったせいで、フィン様は勘違いをされていたようでして。……その、ユナを攫った相手が、アルスという名のならず者だと……」

 ゲヘヘ=アルって勘違いした訳ね。

 

「ユナが樽に詰められ、酷い状態で攫われていった、と聞いていただけに、怒りが抑えられなかったのでしょう。アルスリッド様の名前を耳にして、間違いに気が付かれた様ですが……。まあ我々としては、あの様な人間らしいフィン様を見れて、少し嬉しかったのですが。ユナ様、あまりご無理はされないで下さい」

 あ、それ分かる。フィン様ってポーカーフェイスだから、怒ったりしないイメージ……ん?おかしいな。ユナにはいつも怒ってるんですけど?

 

「ともあれ、ユナ様。フィン様を、御身を呈してまで止めて下さって、本当にありがとうございました。我々の言葉では、あの状態のフィン様を止めることは叶わなかったでしょう。我々の不手際のせいで、アルスリッド様の命が奪われるところでした」

「そんな事ないよ。ユナのせいでアルが怪我したし、危ない事しちゃったって、反省してるんだから」

 ユナがしゅんとすると、ラディズ隊長は微笑んでくれる。

 

「人質作戦はアルスリッド様の策だと、ご本人が仰ってましたが、違うのですか?」

「ユナがするって言ったの。だって、ドルバの人たちが酷い目にあってるって聞いたから」

「そうですか……。ですが、どうか、次は自身の御身を大事にされて下さいね。心臓が止まるかと思いましたよ」

「大袈裟ね。ユナ、悪運が強いから大丈夫なのに」

 ……って!!

 

 ボトルロックが出てこなくて良かったぁ!!

 ユナ、今頃ドキドキしてきました!フィン様の頭が飛ばされる所だったよ!!怖っ!!

 

「ユナ様?……思い出されて怖くなったのですね」

 真っ青になったユナを、ラディズ隊長は心配そうに覗き込み、頭を撫でてくれた。でも、もうユナ、絶対しません!!

 

「みんな、忙しかったのに、わざわざ来てくれたんだね。なのにユナ、迷惑かけちゃって、ほんとごめんなさい!」

 ユナは泣きながらテーブルにひれ伏した。

 

「ユナ、謝らないで下さい、そもそもユナが攫われたのはこちらの落ち度ですから。しかも、アルスリッド様を冒険者と間違え、ユナを探す手伝いをお願いしたのも、我が部下ですし、報告が遅れたのも我々の落ち度。まさかメイリーン様が大した用事もないのにフィン様を屋敷に呼び付けているとは思わず……ユナ、見つけるの遅れて、申し訳ありませんでした!」

 何故かラディズ隊長はオロオロしてる。

 

 そっか、フィン様、メイリーンん家に行ってたんだね。朝早くから……。いいなぁ――。ユナ、またしても涙腺が緩みます。

 でも、ユナ、知っています!しつこすぎるファンは嫌われるって。ユナ、今度から迷惑はかけません!推しは遠くから尊ばせて頂きます!

 

『わざとらしく引き離しよって……余程、ユナが邪魔なようじゃな』

『これで雇い主が確定したな。しかし、ユナの居場所が読まれていた様だ。あまりいい状況ではないが、何らかの期限が迫っているのかもしれない。敵もなりふり構ってられなくなったって訳だ』

 オレリアンおじ様に、エリアスまで……何の話?


「ところでユナ、少し食べ物を口にされませんか?また倒れられては大変です」

「ごめん。ユナ、寝てただけなの」

 ……ん?爺やがどこからかバスケットを取り出したわ!ピクニック!?

 

 でも、ユナ、気になってる事は全て聞くまで落ち着きません!

「ねえ、隊長。アルは何処に行ったの?」

「えっと……ですね」

 ユナの問いに隊長は頭を搔く。あ、あからさまに言葉を濁そうとしてる!

 

「アルスリッド様なら、準備しに行ったぞ。今からユタン精錬所を襲うんだ、激戦になるだろうからな!」

「え!?激戦?」

 チョンの言葉に、ユナ、心臓が跳ね上がりました。

 

 ユナが人質になったのは、ドルバの民を助ける為。でもユナ、そこに(いくさ)があるなんて事、思ってもみなかったの。

 

 顔を青くするユナに、隊長が焦った様にユナに食事を勧めてくる。

「ユナ、大丈夫ですよ。フィン様は勝ち目のない(いくさ)に手を貸したり致しません。それよりユナ、何か口にしましょう!お腹がすいたでしょう?」

 

 目の前には、いつの間にかサンドイッチらしきものがセッティングされてる。

 でもユナは首を振った。なんだか食欲がわかなくて。……爺やごめん。

 ラディズ隊長はため息をつき、チョンを睨みつた。ほら、いただきますの前に手を出すから!


「しかしユナ……。はぁ、仕方ありませんね。せめてしっかりとお休み下さい。残念ですが私はそろそろ出なくては行けません」

 そう言い、隊長は渋々といった表情で立ち上がると、ユナの頭をもう一度撫でた。

 

「ラディズ隊長は何処に行くの?……あ、そっか。ユナなら大丈夫よ!隊長、気をつけてね!」

 ユナは慌てて手を振った。多分、戦闘に行くのだ。隊長がいないと、もっと激戦になっちゃうから。

 

『1人の戦士も無駄に出来ないという訳か。厳しい戦いになるだろう』

「ありがとうございます。またすぐに戻ってまいりますよ」

 ユナの胸は、締め付けられたみたいに痛かった。


 隊長は部屋から出て行き、鍵をかけた。ん?外から?おかしくない?

「よーし!ユナ。これで、全てが終わるまで俺たちは自由……待機だ。これ、食っていいか?」

 途端に元気になるチョン。サンドイッチに手を出し、爺やに手を叩かれてた。ユナは両手を組んでお祈りポーズ。ユナ、何も出来ないの?


『ねぇ、ユナ。お兄たま、大丈夫よね?』

「大丈夫よ……ティアラ王国の騎士様はむちゃくちゃ強いんだから」

 ユナ、自分に言い聞かせます!

 ユナの呟きに、爺やも頷いてくれます。

 

「そうですよ、ユナ様。我が国の騎士団の強さは世界いち!爺やが保証致しま……」

 ……と、ここで爺やは急に機能を停止。カクカクと動き出したかと思うと、自動的に椅子に腰掛け、目を閉じた。……え?爺や、よく出来たロボットなの!?

 

「爺や!スイッチは何処!?」

 駆け寄るユナに、チョンが笑う。

「年寄りなんだからそっとしといてやれよ。そろそろ20時か……」

 よく分かるわね!ここ、地下なのに!!

「なあ、これ、食ってもいいよな?」

 チョンは早速サンドイッチに手を伸ばしてる。

 ユナも分かんないし!こっちに聞かないで!この小心者!!……ってチョンは、大きなパンをひと口でパクリ。


「うっ……」

 途端に口の中の水分を奪われ、苦しそうな表情を浮かべた。慌てて食べるから……。

「何詰まらせてんのよ、はい」

 ユナは目の前にある、謎の液体を差し出した。確かこれ、アレン様と会った時に飲んだよね。恐ろしく癖のあるお味だった気が……。

 

「ん――!!!!」

 ゴクリと飲んだチョンは、口を押さえ悶え始めた。

 あ……飲まなくて正解!じゃなくて!!

 

「大丈夫!?どうしよう!水……水!!」

 爺や!!……は、スイッチが分からないし、水、どこ!!

 

 チョンは悶えながら立ち上がり、部屋の隅に駆け込んだ。そこには重たそうな木箱が積み上げられているだけよ?でもチョンは、凄い力で木箱を動かし始めた。

「火事場の馬鹿力……」

 関心している場合ではない。ユナも手を貸し、木箱を動かす。

 すると、後ろの壁に小さな穴があるではないか!!

 

『ワフッ!!』

 マロン様が穴の中に嬉しそうに入って行った。きっと何処かに繋がってるのね。チョンも四つん這いで突入!すぐに暗がりに消えた。

 抜け道なの!?ユナも心配だから穴に突進します!!ちょっと腰をかがめれば余裕ね!

 

 ……どのくらい進んだのか、そんなに長い距離ではなかったはず。ユナはムギュってチョンにぶつかった。手探りで何かしてる?あ、カンテラね!

 ユナは手に明かりを灯し、火をつけてあげた。目の前には扉。開ければそこは、オクトパスゾーンよ!!


 チョンは凄い勢いで下まで降りて行って、その辺にカンテラを放ると、地下水路に手を突っ込み、水を飲み始めた。うわ、その水、大丈夫?流れ止まってて、ヤバそうよ。

 

「ふあ……助かった。てめぇ!なんてもん、飲ませるんだよ!!」

「凄いね、チョン!抜け道だったの?」

 ユナ、ちょっとワクワクしました!

 

「ん?ああ、まあな。出来る男は、逃亡経路も確認しとくもんなんだぜ」

 何故か照れるチョン。

「おお!さすが小心者!!」

「慎重と言えよ!!ってか、お前、魔法使えるんじゃん!」

 

 ユナは胸を張る。

「ん?まあね。出来る女は逃亡手段も用意してるものよ」

「ケッ!……まあいい、さて、戻るか」

 ケッ!ってなによ。

「ねえ、もうちょっと見て行こうよ……」

 

 ユナはみんなが気になって仕方ありません。もしかしたら、ユナにも出来ることがあるかもしれないし?水汲みとか、剣磨いたりとか?

「いやいや、俺が殺されるから。あの王子に!これでもお前の監視役として残されたんだぜ?」

「え?」

 もっと適役いなかったの?

 

 その時!……ユナは背後に気配を感じた!

「……お心の内はお察しします」

 消え入るようなかすれ声に首筋が粟立つ。

「うあああ!!」

 チョンが腰を抜かした。


 振り向けばユナのすぐ後ろに、ホラーチックに下から魔法の明かりを当てた、爺やが立っていた。爺や!再起動?って、どうやってついてきてたの?

 

「ユナ様は人質。ティアラの兵を部屋に置く事が出来ず、戦力外の害のなさそうな、この男を監視に置くしかなかったのでございます。先程、ラディズ隊長は人質の確認という名目でいらっしゃっておられ、私は、非戦闘員のお世話役として、入室を承認されました」

「なるほど……」

 ユナ、心臓ドキドキで会話が頭に入って来ません。

 

「ですが爺、まだ枯れてはおりません。ユナ様が逃げたいと仰るのでしたら……」

 ユナは慌てた。

 

「爺や、違うの!その……ユナのせいで騎士様達を戦闘に巻き込んじゃう事になっちゃったから……」

 ユナ、下を向く。でも……。

「ユナ、ドルバの人たちを助けたい!何も出来ないの、分かってるけど、じっとしてられなかったの!」

 無力なのは分かってる。でも、ただ蹲ってる事も出来なくて。

 ユナは何故か溢れてきそうな涙を隠す為に、グッと上を向いた。

 

「なんと、また……」

 爺やはハンカチを取り出し、目に当てた。歳をとると涙もろくなるって言うけど、そんなに!?

 

 その時、ドゴーン!って音と共に、ブルルと地面が揺れた。

 

「始まった様でございます。少々早い様ですが……」

 爺やがユナを庇う様に抱きしめた。年をとっていても真摯なのね。

『敵に気付かれたな。あの王子が戻って来るまで、持ちこたえられるといいのだが……』

 

 エリアスの呟きにオロオロし始めるユナ。でも爺やは、いきなりキッと顔を引き結び、何処か遠くを見つめた。思わずドキリとしちゃうほど凛々しいです!

『壮年の紳士も素敵ね……』

 さすがアンリン、ストライクゾーンが広い!!

 

「ユナ様。貴方様の心意気はしっかりと爺やの心に伝わりました」

 そう言うと爺やは、ユナの両肩を掴み、正面からしっかりと見つめる。

「爺や、心まで枯れかかっていたようです。遅ればせながら、参戦させて頂くと致します!さあ、ユナ様。爺やについて来て下さいませ!」

 え?爺や?いきなり若返ったんじゃない?

 

 爺やはオクトパスゾーンの奥へと、足場の悪い広い坑道内をスタスタと移動し始めました。その間にも、戦闘の音が坑道内に反響して、風のうねる音の様に聞こえてきます。ユナはゾッとするも、目の前を颯爽と歩く爺や背中に勇気を貰います!

 爺やは歩きながらも、ユナの心を読んだかの様に、声をかけてくれます。

 

「実は爺や、若き頃はこの、ドス・アンゼロ鉱山で働いておりました。誰よりも構造が分かっておると自負しております故、御安心を!」

「え?爺や、鉱山労働者だったの?」

「はい。ですが爺やの仕事は少しばかり変わっておりましてね……」

 

 奥まで行くと、爺やはニッと口の端を上げ、両手をおもむろに上げた。

「月に最も近き土よ。我が意思に従いたまえ」


 ドゴゴゴゴゴ…………。


 うおぉぉぉ――!!地面が盛り上がった!しかもこれ、階段じゃない?

「うわぁ!土魔法かよ!初めて見た!」

 ユナに縋り付きながら、チョンが叫んだ。何でこっち来んのよ!

 

 あっという間に上方向へと向かう階段を作り上げた爺やは、少し得意げにユナに手を差し伸べました。

「この術のおかげで、アルビー様に拾って頂きましてね。アルビー様の魔法の指南役に抜擢された事が、爺やの誇りです」

「爺や、先生だったのね、素敵!!」

「ふぉっふぉっ。ではユナ様、こちらへ。皆のお手伝いを致したいのであれば!」

 爺やは期待に満ちた顔でユナに手を伸ばしてます。

 

「うん!ユナ、みんなを手伝いたい!!頑張るからよろしくお願いします!」

 ユナは微笑む爺やの手をしっかりと握った。

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