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19話 王子様の本気

 ユナは人質になりました!でもドルバの皆さんは優しいです!

 

「おいおい、本当にこんな、か細い腕にロープ巻くのか?折れちまうよ……」

「もっと柔らかい布はないか?跡が残ったら可哀想だ」

「猿轡はやめとこう。あれは苦しいからな」

 至れり尽くせりです。

 

「ユナは俺が運ぶ。お前達は手筈通りオクトパスゾーンに待機。危ないと感じたら、迷わず逃げるぞ」

 攻撃に出ない!これが今回の作戦だ。ユナも覚悟を決めます。

「もし騎士団が攻撃してきたら、すぐにユナを置いて逃げてね!ユナ、頑張って騎士様を説得するから!」

 

 

 ユナはオレビンオヤジの本が、ティアラ王国の貴族の不正取引の証拠だって事をアルに話していた。ティアラ王国の貴族のせいで、ドルバの民が強制労働をさせられているのよ?解放のお手伝いをするのは当然じゃない?

 

 だけど、エリアスはうーんと唸っていたのよね。

『あの本だけで騎士団を……ティアラ王国を動かすのは無理でしょう。確かにドルバの民が働かされているのはティアラ王国の貴族の横流しした金鉱石を精錬する精錬所です。ですが、ドルバは友好的な国ではなく、ティアラ王国とはほぼ交流がありません。しかも、今のドルバはデッセシュバームの従属国。ドルバの民を助けるとなると、デッセシュバームを敵にする覚悟が必要です。果たしてあの騎士団長が首を縦に振るか……』

 

 でも、ユナが人質になれば必ず騎士団は動くって、エリアスは確信してるみたい。後はアルの交渉次第だって言ってた。

『騎士団があの精錬所を潰したとしても、ティアラ王国は、国の要人を助ける為、仕方なくドルバの指示に従ったって事になるだろう?ティアラ王国にとっても悪い提案では無いはずだ』

 ……って。ユナ、要人じゃなけど大丈夫?

 

 

「ありがとう。俺たちも頑張ってみるが、いざとなったら頼む!坑道は俺たちの庭。ギリギリまで粘ってみせるさ」

『早々に降伏する訳にはいかない。自国の民の命がかかっているから!……デッセシュバームだけでなく、ティアラ王国も敵に回すと言うのに、アルは飄々としてて……はぁ……。かっこいい。最高……』

 アンリン、勝手にナレーション入れないでくれる?

 

『なかなか度胸が据わってるな。アルスリッド王子か……楽しみになってきた。これは、あの王子の本気が見れるかもしれないな』

 エリアスもなんかワクワクしてるし。

 

 アルの言葉にしっかりと頷きながら、ユナもドキドキがとまりません。みんな手を貸してね!

 

「アルスリッド様!ティアラ王国の使者に接触出来ました。現在、オクトパスゾーンに遠回りさせながら誘導させております!」

「デッセシュバームの兵は見なかったか?」

「今のところは!」

「よし!行くぞ!」


 ユナは心地よさそうな部屋を、アルに抱えられて出発した。手を拘束されてるから、歩きづらいだろうってね。過保護すぎじゃない?

 

 入り組んだ坑道を進みながら聞けば、その精錬所はユタンと呼ばれてて、地上にある建物こそ小さいが、アリの巣の様に伸びる地下の採掘場まで含めれば、かなり広大なものだという。

 働かされているのはドルバの民の中でも、体力のある若者が多いと言う事だ。足枷をつけられ、鞭を打たれながらの作業を強いられている者もいて、その扱いは家畜以下らしい。

 

「ドルバの民を使い捨てにする事で、我が国の新たなる芽を根絶させるつもりのようだ。この数ヶ月の間にどれだけの若者が犠牲になったか……」

 アルの話に、後ろからついて来ているボランマッチョ様も頷く。

「ワシの息子もそこにおる。頼む、嬢ちゃん。ワシらに何かあっても、ティアラの加勢を取り付けてくれ」

 何かってなによ!


 すぐに通ってきた坑道は大きな洞窟へと突き当たった。オクトパスゾーンと呼ばれる場所なのだろう。

 広い洞窟内はカンテラの明かりが届かないくらい天井が高い。様々な高さに沢山の横穴が空いていて、古い採掘場の後って感じ。朽ちたハシゴとか足場が散らばってるし、日本なら絶対、立ち入り禁止区域に指定されてると思う。

 

 ユナたちがオクトパスゾーンに入ると、沢山の横穴からアルの仲間たちが明かりを灯して顔を出した。準備完了の合図だ。アルの仲間は、他にもまだいたみたいで、明かりの数は少なくない。明かりは魔法の火で、バラバラに配置されているおかげで洞窟内は一瞬、星空の様に見えた。


「来ます!」

 横穴から、マッチョ様の声が響き、アルの仲間が暗がりに消える。

 

 洞窟の底辺。坑道の前にいるユナ達よりも更に低い場所。地下水脈に沿うように開けられた洞穴から、ティアラ王国の騎士団が姿を現した。

 ぞろぞろぞろぞろ……。多くない!?50人以上いるよ?

 先頭に見えるのはラディズ隊長。無事みたいでよかった!そして、その後ろに、綺麗な金髪が見えた。

 

 ちょっと――!!生フィン様よ!素敵ィ――!!

 フィン様が好きだと自覚してから初めてのフィン様に、ユナ、テンションが爆上がりです。


「ユナ、失礼します」

 アルはコソリとユナの耳に告げると、ユナを前に出し、首に腕を回した。もう一方の手にはナイフが握られていた。

 途端に何故か不思議な感覚が……。あれ?風、吹いてない?地下なのに。


「アルスと言ったな、この野蛮人が!何故、彼女にナイフを当てているのか、理由を聞かせて貰おうか」

 フィン様の冷静さを欠いた切出しに、ユナだけでなく、騎士様たちも驚いてる。

 

「あんたらには俺の話をちゃんと聞いて欲しくてね。安全策を取らせてもらった。ティアラ王国騎士団隊長、フィン・ティアラ殿。交渉をしたいんだが、応じてはくれないか?」

「それは報酬が欲しいという事か?何だ?言ってみろ!」


 フィン様はとても不機嫌だ。まあ、ユナはそこそこ見慣れてるけどね。

「ならば端的に述べよう。この先、ドルバにあるユタン精錬所は知ってるか?そこに、半年程前からありえない量の金鉱石が送り込まれる様になった。ドルバの民がそこで、奴隷としてそこで働かされている。原因はお前の国の貴族だと、ある者から聞いてな。俺たちはドルバの民の解放を要求する!」

 そう言うとアルは胸元を開け、オレビンオヤジの本をチラつかせた。この人、筋肉を収納に使い過ぎじゃない?

 

「ああ、その事か。その本の内容については既に掌握しているよ」

 フィン様はそう言い、懐からピンク色の布を取りだした。


 のぉぉぉぉ――!!それ、ユナの下着よ!!なんて所に仕舞ってたの!?

 更にピラリと開かれ、ユナ爆死寸前。


「なるほど、証拠である本は、もういらないって訳か……」

「確かに我が国から奪われた金鉱石がドルバに持ち込まれている様だ。貴族は罰する。お前の言うユタン精錬所は閉鎖される事になるだろう。それでは納得しないのか?」

「今、この間にもドルバの民は苦しんでいる。死人も確認されているんだぞ!そんな悠長な事は言ってられないんだよ!」

 ユナの首がちょっと持ち上げられます。ちょっと苦しいですが、まだ大丈夫よ!!

 あれ?また風が……。強くなってない?

 

「腕を緩めろ!……お前、ユナを尋問したのか?ユナに何をした。その汚い手を退けろ!!」

「フィン様、お気を静めて下さい……」

 ラディズ隊長が焦った様子でフィン様を宥めてます。

 土埃が舞い上がる。つむじ風よ!!

 

「まあ、ちょっと脅したが……うっ!!」

 ユナ、いきなり押しやられました!途端、耳元でキーンと音が!!

 

 ユナは手が使えず地面が間近に見えた所で、ボランマッチョ様に救われました。ほっとして見上げれば、すぐ近くに金髪が見えます。なんと、フィン様はアルに斬りかかっていたのです!


「ちょっ、ユナ!話が違うじゃねぇか!!」

 そう言いながらも、アルはフィン様の切込みを器用になぎ払う。耳障りな金属音で、ユナ、ゾクゾクしちゃってます。

 

『おお、強いな!互角ってとこか?』

 エリアスは観戦モードだけど、めっちゃ怖いです!!ユナにはアルの方が押されて見えますが!?さすがフィン様!って、なんだかビュンビュンと風が吹いてて飛ばされそう!

 

『ほぉ!魔力を暴走させておるぞ。これは中々の威力。無意識にこれだけの風魔法を放出させる者など、見た事がないぞ!さすが我が孫息子!』

 え?これ、フィン様の風魔法の暴走なの?オレリアンおじ様、止め方は!?ヤバい!


 2人は風なんか気にもとめずに、恐ろしい勢いで打ち合ってる。ぎゃぁぁ――!やめてよ!!

「ちょっ!お前、話、聞けよ!!頼むから!っクソっ!」

 アルは埒が明かないと思ったのか、剣だけじゃなくて、足とか体とかを使って、フィン様を押し始めた。

 

『さすが戦闘に慣れているな。これはフィン王太子の負けだな』

 え!?エリアス?嘘っ……フィン様、負けるの?やられちゃうの?

 剣は本物よ!それってヤバいじゃん!!

 

 嫌ァァァ――!!

 ユナは自分でも驚くくらい俊敏に立ち上がった。

 ユナ、止めます!

 ボランマッチョ様が慌ててたけど、ユナに任せて!突進には自信があるんだから!!

 

「アルスリッド様!!ユナ様が!!」

 とうっ!!

「「!!」」


 あれ?

 次の瞬間、2人の間に飛び込んだと思ったのに、ユナは何故かアルの腕の中に、抱き込まれてました。


「……っ痛――」

 おっふっ!血が――!!

 アルの腕がガッツリ切れてます!!ユナを庇ったの?

 

「ユナ!!なんて事を!!」

 フィン様の手が肩にかかるけど、ユナ、それどころではありません!

 

「アル!!ごめんなさい――!!」

 ユナは、アワアワとエプロンをとろうともがきます。……うう、手が縛られてて上手くいきません。

 アルが気づき、ユナのエプロンを取ると、リボンの端をに口咥え、器用に腕に巻き始めました。すぐにボランマッチョが駆け寄ります。

「アルスリッド様。皆を!!」

 

 その言葉にアルはユナを振り払い、ぽたぽたと血を流しながら立ち上がった。そして、上に向かって叫んだ。

「俺は大丈夫だ!皆、逸るなっ!!」

 ユナも上を向く。そこには満天の星空……ではなく、火魔法を手に掲げた、アルの仲間たちが!


「……罠にはめたな!野蛮人め!」

 ジャキッっと騎士団が動くのが分かる。でも、アルは落ち着いた様子でフィン様を正面から見据えた。

「……冷静になれ、フィン騎士団長。お前が感情的になってどうする!見ろ!」


 アルが顎を上にしゃくれば、魔法の火は消えていた。

「剣を引け。本当に話がしたいだけなんだ。ユナにもお前たちにも手を出すつもりはない!」

 アルが声を張り上げる。

 

 フィン様は上を見、そして、アルに縋り付くユナに目を移す。その顔は泣きそうに歪んでいた。

 そして……。

 フィン様は剣を落とした。

 

「ユナ、大丈夫なのか?」

 フィン様は震え声。

 それはこっちのセリフよ!

 ユナは頑張ってフィン様の頬に、括られたままの手を伸ばした。血だらけだけど、許してね!

 すぐにボランマッチョ様がユナの拘束を解いてくれるけど、そのナイフにすら、フィン様は過剰に反応して、ユナを庇おうとしてた。ユナごときに大袈裟な!

 

「ユナ、良かった……無事で……」

 拘束の解けたユナに、フィン様はようやく落ち着いた感じだけど、泣くの?泣いちゃうの!?……と、ここでユナ、思い出しました!!

 

「あ、そうだ!ユナ、ポーション持ってるんだった!!」

 ユナはいつかの飲みかけのポーションを探そうと、バッグの中を慌てて覗いた。

 フィン様の両腕がユナの頭の上で虚しく空を抱く。


「フッ……」

 ん?フィン様、何、空振りしてるの?アルに笑われてんじゃん。……あった――!!

「アル、これを飲んで!!ポーションなの!!」


 ユナは瓶の栓を抜き、ゴリゴリとアルの口に押し付けた。何で避けるのよ!

「ユナ……まだ交渉中……うっ!」

 観念したアルの口にポーションを流し込めば、あら不思議。傷が見るまに良くなって……。

「凄い効き目だな……ありがとう、ユナ」

 アルに撫でられて、ユナ、満足です。

 

「ユナ?これはどういう事かな?」

 フィン様の声が間近でする。何か怖いです。

 ユナ、背後から腰に腕を回され、そのまま、グイッと持ち上げられました!そして。


 フィン様は、焦って振り向いたユナに、そのまま掠めるだけのキスをしたのです!!

「うきゃっ!?」

 何するのよぉぉぉ!恥ずかしいじゃない!

 

「おいおい、何だ、そういう事なら先に言えよ、ユナ」

 どういう事でしょうか?

 振り向けばフィン様はものすごく怒っている様子。……あ、不機嫌モードだ。ユナ、フィン様の沸点が分かりません。


「フィン騎士団長殿、遅くなったが名乗らせて欲しい。俺は……」

「分かってるよ、アルスリッド殿下。ここは場所が悪い。どこか落ち着いて話せる場所はないか?」

 フィン様はアルの提案に答える気になったみたい。一安心です。

「それなら案内させて貰おう。……決してあんたらに危害は加えないと誓うが?」

 アルはフィン様の後ろのラディズ隊長を見てた。

 

「分かってる。ユナを助けてくれた事には感謝するが、謝罪はしない。だが、ユナの事を身を呈して庇ってくれた貴方を、俺は信じるとするよ。……ラディズ!後を頼む」

 フィン様の答えに、隊長もホッとしてるみたい。

「お2人とも、急いで下さい。先程、2人が打ち合っている時、見慣れぬ兵が混ざっていたので縛ったところ、デッセシュバームの兵だと吐きましてね」

「なるほど不味いな……すぐに移動しよう」


 何だかどんどん話が進んで、ユナ、キョトンです。

 フィン様に抱えあげられ、来た道?を戻ります。どうしてみんな、そんなに過保護かなぁ。でも、フィン様の機嫌が戻ったみたいだから、ユナ、大人しくフィン様の首を腕を回します。はぁ……幸せ。ユナ、クラクラ。


「おい、そいつは大丈夫か?無理はさせたつもりはないんだが……」

「あまり大丈夫じゃないね……ここの所、色々あったし、ポーションだけじゃ体力は戻らないからね。大人しくしててくれればいいんだけど……」

 そう?ユナ、めっちゃ大人しいと思うんだけど?

 

「そんなに大切なら囲っとけばいいんじゃないか?攫われる程、騎士団もザルじゃないんだろ?」

「王宮から逃げられたんだよね。ユナの行動力には泣かされる……もう、どうしたらいいのか……。やはり敵の方を片っ端から叩いていくしかないのか……?」

「お前も苦労してるんだな……」


 ゆらゆら揺れながら、ユナは夢心地。

 今日の夢はきっとモグラ叩きゲーム。ユナ、穴から出てくる敵をピコピコ叩きます!!

 

 でも、今日は1人じゃないのよねっ!ユナの家族に加え、ウーラにトーラ。そして、何よりフィン様がいるんだもの!

 ちょっと――!ユナって最強じゃない!?

 

 気分良く目を閉じれば、何故か力が抜ける。

「おやすみ――」

 ユナは睡魔に抗えず、目を閉じた。

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