18話 3人目の王子様
エリアスの言った通り、すぐに長身の男の人が牢屋の前にやって来ました。男はさっき逃げていった小心者を引き摺っていて、意識のないそいつを牢屋の前に投げ捨てた。
ユナは涙目のまま、慌てて牢屋の奥に引きこもった。
男は牢屋の前に膝を付くと、ユナに声をかけてきた。
「お前、ユナ・ブラヴォーか?……ちょっと待ってろ」
敵?味方?
困惑するユナを前に、男は小心者の服をどんどん脱がし始めたし。何をしてるのかしら?
『もしかして……アルス兄たま?』
「兄たま!?」
ウーラが呟き、ユナ、思わず反応してしまいました!チラッと兄たまと呼ばれた男を見ると、小心者のズボンのベルトに手をかけたまま、一瞬止まっていた。
「知り合い?」
ユナはコソッとウーラに聞く。
『兄よ。王城が襲われた時、女とどっかに行ってて……助かったのね。裏切り者!』
答えたのはトーラだった。
「助かったのなら良かったじゃん?」
プンスカしてるトーラとは逆に、ウーラは嬉しそうにお兄たまに近づいてた。
『お兄たまは、女好きだから、トーラは嫌い。ウーラは、かっこいいからお兄たまが好き』
ああ、なるほどよく見ると、細マッチョワイルド系イケメンでモテそうな容姿だ。まあ、完璧爽やか系イケメンボーイを見慣れてるから、ユナはどおってことないけどね。
「参ったな……鍵がない。壊すか……」
下履1枚になった小心者を前に、お兄たまはため息をついている。鍵?
「あの……よかったら、これ、どうぞ」
ユナはそっと鍵を差し出した。
「……ありがとう」
お兄たまは微妙な表情で鍵を手に取った。だけど、何故かユナを見て、険しい顔で罵ってきた。
「お前!聖女じゃないか!!また、俺の心を読もうってんじゃないだろう……な?……あ、すまん。聞き流してくれ。お前によく似た女を知っていてな……」
怖っ!!
洞窟の奥の壁と一体化を試みていたユナを見て、お兄たまは我に返った。
「メイリーンの事?ユナ、似てるけど、そんなチートスキルは持ってないの」
ユナは喋る壁です。
「だろうな。心が読めるなら、こいつを素っ裸にする前に鍵を渡しただろう……で?この鍵はどうした」
ユナは小心者を指さした。
「そいつが落としたから拾ったの」
「フッ……中々見どころのある奴だ。生かしとくか」
どこにそんな要素が!?
お兄たまは扉を開け、ユナは益々壁にくっつきます。だってこの人、一言もユナを助けるって言ってないもん。
「なぜ怖がる……ああ、俺はアルだ。お前の事はティアラ王国の騎士団に頼まれた。大丈夫だから、こっち来い」
「騎士団?」
「ああ、それだけじゃないな。近衛も混じってたな。国あげての大捜索って、お前、何を握ってるんだ?」
ユナは首を傾げる。
「ユナ、一般人だから関係ないんじゃないかな?あ……もしかして本……?」
『ユナ、迂闊に口に出してはいけない!』
突然のエリアスの警告にユナはビクリとする。ユナ、何かしくじった?
「ふぅーん、本ね。これか?」
お兄たまはシャツから覗く胸筋の間から、分厚い本を取り出した。
「なるほど。余程大切な本らしいな。ポケット団の奴らが慌てて交渉に持ち出そうとしていたしな」
あ、それは、げへへの兄弟愛です。
「いい事を聞いた。女を人質にとるのは気が向かなかったんだ、少し話を聞かせてくれないか?ユナ・ブラヴォー」
そう言うと、お兄たまは何故か扉を閉め、鍵をかけました。
『クソっ!』
『兄さま!なんて事をするの!?この人でなし!!』
エリアスの罵声。トーラもお兄たまに殴りかかってる。プラズマだから空振りだけど。
もしかしてユナ、また閉じ込められたの?
「この場所はな、坑道の地図にもない場所なんだ。坑道をの中を知り尽くした俺でも、ついさっき知ったばかりだ。もう、ここを知っている者は俺しかいない。俺がここを去れば、お前はここで野垂れ死にする事になるぞ。さあ、お前は何を知っているんだ?何故ティアラ王国の奴らは、血眼になってこの本を探してる?喋れば開けてやるよ」
「もうユナ、見つけて貰えないの?……もう、会えない?」
「ん?誰か会いたい奴でもいるのか?知ってる事なら何でもいいから話せ。そうすれば開けてやるから。……チラッと読んだがこの本には学術的なものしか書いてないようだ。何が隠されてある?……おい!泣く前に教えろ!」
ユナ、もう会えないと思ったら、切なくて涙が止まりません。
もっといっぱい、フィン様を見ていたかった。せめてデートくらいはしてから死にたかったな。
あ、それって贅沢すぎる望み?
フィン様は王太子で、あんなに素敵なんだもの。今までが夢だったのかもしれない。……ん?もしかして、今までの事、全部ユナの妄想だったの?ユナ、実はプラズマなの!?
「おい!脅して悪かった。謝るからもう泣くな。教えたら開けてやるって言ってるだろ?ああ……ックソ。嬢ちゃ――ん、こっち来い、開けたぞ?ほら、もう出れるぞ?」
えぐえぐしてるユナに、お兄たまは鍵を開け、カモーンってしてる。でもユナ、動けません。プラズマだから。
「残っててごめんなさい」
「ん?どうしたのかな?」
「ユナ、頑張ってお空に消えます」
「は?待て、早まるな!」
「ウーラ、トーラ。お外に連れて行ってあげられなくてごめんね。エリアスも、今までありがとう……ユナは昇華します」
「はあ!?何だって!?……まさか!!」
お兄たまが慌てて牢屋の中に入って来ました。
お兄たま、定員オーバーです!!ユナ、肩を掴まれ、グラグラと揺すられております!……あれ?ユナ、プラズマじゃないの?
「お前、何故ウーラとトーラを知ってる……?」
お兄たまはピタリと止まった。ユナの横にある骨に気付いたみたい。
「この骨?……嘘だろ……」
あああァァァ――!!
お兄たまは突然地面に拳を叩きつけ、思い切り叫んだ。
そして、骨を握りしめ、縋り付くようにそのまま泣き崩れました。
見れば、ウーラとトーラもお兄たまの横で泣きはじめてて。ユナもなんだか涙が出てきます。
『ユナ、今のうちに逃げるんだ』
エリアスはそう言うけど、ユナは離れたくありません。だって、今ユナが動いたら、ウーラとトーラはお兄たまと離れちゃう事になるでしょ?
ユナにはもう、血の繋がった家族はいないの。だから、2人には離れて欲しくなかった。
しばらく泣いたお兄たまは、少し落ち着いてから涙を拭き、ゆっくりと顔を上げた。そして、ユナの前に膝をつき、話しかけてきました。
その態度には、先程までの覇気はありません。
「お前、心が読めないと言ったよな。なのに、何故ウーラとトーラを知っていたんだ?こんな姿なのに……」
お兄たまは吐きそうなのか、手で口を覆いました。
「ん――なんとなく?」
そのままじっと見つめられ、ユナ、困惑。
でも……。
ユナ、今までみたいに誤魔化しちゃいけない気がしてきました。たとえ嘘だと罵られたとしても、ウーラとトーラの為に本当の事を伝えなきゃいけないって思ったの。
「あのね。ユナ、ウーラとトーラの想いの欠片と、ここで出会ったの」
「想いの欠片?幽霊ではないのか?」
「ちょっと違うと思う。魂がないから、想いの欠片なんだよってお父さんは言ってた。ユナね、想いの欠片が見えるの」
ユナはモブキャップを脱ぐと、髪を解いて2人のビーズをお兄たまに差し出した。お兄たまはじっとユナの事を見てたけど、ビーズを見た途端、ユナの手ごと握りしめ、また泣いた。
「妹たちの想いがこれに残っているのか?どんな想いなんだ?聞くのが怖いな……2人とも俺の事を憎んでいるだろうから……」
ユナは、抱きしめ合う2人に顔を向けた。
『憎んでなんてないわ。怒ってるだけ』
トーラが答えた。
「怒ってるだけだって言ってるよ?」
伝えると、お兄たまは目をカッ見開いてユナを見ていた。
「妹たちがそこにいるのか?」
ユナが頷くとお兄たまは、今度は握りしめてたユナの手を、祈る様に額に当て呟いた。
「なんて事だ……こんな機会を与えてくれて感謝する」
その声は震えていた。
「妹たちよ。まだ俺の事を少しでも愛してくれているのなら聞いてくれ。俺は決してお前達を見捨てた訳じゃないんだ。俺はお前たちを安全に逃がす為、敵を自分に引き付けておく必要があった……だから……。すまない。今となってはみっともない言い訳だ。俺は失敗したんだ。あの女……メイリーンに俺の心を読まれて……」
「メイリーン?」
反応したユナに、お兄たまは胡乱げに顔を上げた。
「そうだ。お前も関わりがあるなら知っておいた方がいい。あいつは悪魔だ」
お兄たまは眉をひそめ、これ以上ないって位、厳しい顔をした。
「そう、あれは……3ヶ月前の事だ。デッセシュバームとの戦いが泥沼化し、一時停戦状態となった時だった。ドルバにデッセシュバームから、1人の使者が送られてきたんだ。……聖女だ。この世のものとは思えない程美しい彼女は、戦いの無意味さを解き、ドルバ国王に降伏を求めてきた。平和的解決を望む俺は喜んだ。だが一方ではそうならないと分かっていた。……プライドの高い父の事だ。他国に下るくらいなら死を選ぶだろうからな。だから俺は、聖女と懇意になる事でどうにかドルバを護ろうとする一方、その隙に妹たちだけはティアラ王国へと逃がそうと考えたんだ。逆らった王族は問答無用で打首にされるから……。そして父は行動に出た。父は謁見した聖女を退けるばかりか、聖女に剣を向けたんだ!その時、何が起きたのか……父の頭が吹き飛ぶのを俺は見た。途端、予想通り俺は、敵国の兵に追われる事になった」
お兄たまは額のシワを濃くする。危険な目にあったに違いない。お兄たまは、死を覚悟しながら何ヶ月も逃げ続けたんだと分かる。そして……この先ずっと逃げ回らなければいけないのね。
「俺は運良く仲間に助けられた。……だけど、逃がす予定だった場所に妹たちの姿はなくて……」
お兄たまは胸をかき抱いた。そうか……ハッピーエンドなんて用意されていなかったのだ。
「聖女は人の心が読めるらしい。俺が坑道で身を潜めていた時に、敵兵がそう話すのを聞いた。俺は迂闊にも妹たちの居場所を読まれてしまっていたんだって……その時悟ったよ」
お兄たまは言葉を詰まらせた。メイリーンったら、なんて事に能力、使ってるのよ!
「妹たちを埋葬した後、俺も後を追うよ。妹たちに会いたい。ただそれだけを願い、坑道を探し続けていたんだ。ようやく願いが叶う」
お兄たまはくちゃくちゃな顔のまま、骨を集め始めた。
後を追うって……はあ!?どうしてそうなるの?
ユナ、なんだか納得いきません。
「ねえ、本の謎が知りたかったんじゃないの?」
やりたい事がある筈だ。お兄たまの手が止まる。
「2人が見つかったんだ。もうどうでもいい」
『ユナ、この坑道の先はドルバに繋がっていて、そこでドルバの民が強制労働を強いられているんだ。コイツは恐らく、民を解放する為の戦力をティアラ王国に求めるつもりだったんだ』
エリアスの声だ。なるほど、お兄たまはちゃんと王子様の役目を果たそうと頑張っていたのね。うん、なるほど。
ユナ、最近エリアスの考えが何となく分かってきてたんだよねぇ。エリアスは師匠。ユナをいい方に導く為に、この情報を教えてくれたに違いない。ユナ、頑張る!
「ユナを脅したのは、ドルバの民を助ける為なんでしょ?諦めるの?」
「ああ。悪かった。もう忘れてくれ。ドルバはもう終わったんだ……」
ガックリと項垂れ、丁寧に骨をバッグにつめるお兄たま。あ、それユナのバッグ……。
『兄さまが生きてるのよ!ドルバは終わってなんかないわ!』
『お兄たまの意気地無し!』
ウーラもトーラもそう思う?ユナもよ!一緒ね!!
「2人共、意気地無しって言ってるわよ?ドルバの民はどうするのよ!」
「俺には無理だったんだ。妹すら助ける事が出来なかった俺が、民を助けるなど……」
ユナ、なんかちょっとムカついてきました。何この王子様!無責任じゃない?
「おい!!何するんだ!!」
ユナ、お兄たまからバッグを引ったくりました。これは返して頂きますわ!!ユナ、悪役令嬢になります!
「これから死んじゃう人には、これあげない!!だってユナ、ウーラとトーラの事、大好きになっちゃったんだもん!2人の事、放ったりしないで、ちゃんと大切にしてくれる人じゃないと渡せない!!」
お兄たまはバックに縋り付く。
「放るなんて、そんな事する訳ないだろ?ちゃんと埋葬する!」
「埋葬?それでおしまい?2人の想いは?無視するおつもりですの?」
ちょい悪令嬢。ユナ、睨みつけます!
「想い?って……。ドルバの民を助けたいって2人がそう言ってるのか?」
ユナは大きく頷きます。
「ユナ、協力する。人質になるから、騎士様を脅して、戦力を確保するんでしょ?ドルバの人達を助けようよ!!」
お兄たまは呆気にとられております。
「ユナと言ったな。お前は誰の味方なんだ?」
ユナは胸をはります。待ってました!!
「正義の味方に決まってるじゃん!」
決まった!!ユナ、満足です!!
フッとお兄たまは笑いました。ん?ユナの事、馬鹿にしてないよね?
「……分かったよ。ありがとう。それが妹たちの意思なら、喜んでお前の命を預からせて貰う!」
そう言うと、お兄たまは膝を着き、騎士様がする誓いの様に、ユナの手をとり、額に付けた。
「我、ドルバの王サバスの息子、アルスリッドはユナ・ブラヴォーに最大限の感謝を示す。決してユナに危害を加えないとここに誓うよ」
ユナ、震えました。この人、本物の騎士様だ!
『ユナ、あなたの考えてる事は分かるわ。兄さま、素敵でしょ?』
さすが女子。図星だ。あれ?トーラ、兄さま嫌いって言ってなかった?そうか、ツンデレって訳ね!
「ウーラ、トーラ。お前たちが望むのが、謝罪でなく未来ならば、俺は全力で戦うよ。……可愛い妹たちよ、愛してる。どうか、俺のこれからを見ていて欲しい」
ん?
気がつけばユナは何故かギュッと抱きしめられていた。
どうしてユナを媒体にするのよぉぉぉ!
あわわと狼狽えるユナをよそに、ウーラとトーラは満面の笑みでお兄たまを、なでなでしておりました。
『ユナ。兄さまに、大好きだって伝えて!』
『ウーラも!お兄たまにもっとやれって伝えて』
ユナ、伝えるけどさ……もっとやれ?
「2人が、大好き、もっとやれって言ってるよ?」
「ああ。2人とも、俺も大好きだ」
ぎゅぅぅぅ――!!
のぉぉぉぉ――!!
お兄たまはすぐに、すまないと言いながら、ユナの事を離してくれたけど、謎なくらい満面の笑みでした。ユナ、何か釈然としませんが、ビーズとバッグを差し出します。きっともう大丈夫よね!
お兄たまは神妙な面持ちでバッグを受け取ったけど、ビーズはユナに返してきた。
「妹たちは恐らく君と一緒にいたいと思う。そうだろ?」
『ユナ、私たち決めたわ。ユナについていく!』
『兄さまは新しい人生を踏み出すべきだとおもうの。ユナ、お兄たまをよろしくね!』
どういう事?
「ユナ、お兄たまをよろしくって言われたんだけど……?」
ユナが首を傾げると、お兄たまは初めて声を上げて笑った。
「ハハッ、ユナ、妹たちを頼む。そして、アルだ。俺の事はアルと呼んでくれ」
とても魅力的な笑顔だと思った。
ユナ、狭い牢屋をようやく抜けました!アルはバッグを大切そうに肩にかけ、ユナはビーズをしっかり髪に結わえました。そして、下履一丁の小心者は、服を慌てて着ていました。
「ねぇアル。その剣、ユナのなの。返してくれない?」
長い坑道は狭く、アルはかがみながら進んでいる。ユナはジャストフィットだけどね!
「剣……ってこれか?俺が持ってるってよく分かったな」
「うん!それ、エリアスの剣なの。エリアスはユナの師匠で色々教えてくれるのよ!」
「エリアス?……ハハッ、まさかエリアス・ガルシアじゃないだろうな?」
アルは笑う。
「うん!そうだよ。めっちゃかっこいいの!紹介するね!」
「……本物?まさかここにいるのか?」
アルは立ち止まって、慌てて剣を腰から引き出した。そんな所に隠してたのねって場所だ……微妙。
「エリアスを知ってるの?」
恭しく渡された剣は生暖かい……微妙。ユナは急いで腰につけた。
「エリアス・ガルシア様は世界一の剣士と謳われるお方だ。その部下は、国を超えて多数存在しているらしいが、明かされておらず、国家の他国侵略行為の抑制となっていた。デッセシュバーム、ドルバ、ティアラの三国の均等が崩れ始めたのは、ガルシア様が病に伏せってからだ。……ガルシア様。お見苦しい所をお見せして申し訳ない」
「おお!国際警察って感じ?エリアス、かっこいい!」
『フッ……』
エリアス、満更でもない感じよ。
「ユナ……お前、実は凄い奴なんじゃ……」
つぶやくアルの前に明かりの灯った穴が見えて来ました。アルが屈んでその穴を覗きます。
「アルスリッド様!!ご無事で!!」
途端に聞こえてくる兵たちの声。え?アル、1人じゃないの?厳つい顔面が覗いてきます!怖っ!
ユナは思わず小心者に寄り添った。小心者もユナの手を握る。……え!?これって吊り橋効果?
その顔を見上げるとかっこよく見えたり……。
するかぁ――!!ユナは小心者の手を振り払った。
「小心者!ユナの正面は任せた!」
「俺を盾にするなよォ――!」
アルは微笑みながら、ユナ達を穴から引きずり出した。出てみるとなんて事ない。オッサンの集団だ。目の前には10人近い兵が綺麗に並んでいた。
ヒゲ……ヒゲ……ハゲ……マッチョ……。全部壮年に近いオッサンだ。顔は怖いけど、安心感があります。
「大丈夫だ、ユナ。仲間だから。ボラン、時間がかかってすまない。その……見つかってな。これを」
ボランってマッチョ様がカバンを受け取る。
見回せば、まあまあ広い洞窟部屋だ。テーブルと椅子がいくつも置いてあって、ベットや壁に掘られた飾り棚まである。まあまあ住み心地良さそう?ユナ達が出てきた穴の横に壁には棚が置かれてあって、これで穴が隠されていたみたいね。
気が付くと兵士さん達は皆、膝を折って祈っていた。ああ、そうか。お姫様だものね。涙を流す厳つい兵士さんもいて、ウーラとトーラは、また泣き笑いをしなきゃならなかった。
「で?その子どもは?騎士団の探していた例の?」
ボランマッチョ様はアルの次に偉い人みたい。
「ああ。ユナ・ブラヴォー様だ。協力してくれる事になった」
あれ、何か、ユナに様ついた。
「それと……小心者だ。お前、ドルバ出身だろ?名前は?」
小心者は小心者だ。ウケるぅ。
「俺、チョーンです!!売られてここにたどり着きました!アルスリッド様!お会い出来て光栄です!」
いきなり元気になったね、小心者!でも、チョーン……超なのか、チョンなのか……微妙。
膝を着いたチョーンにアルが頷き、チョーンは兵士さん達によって立たされ、頭をグリグリやられながら奥に連れて行かれて……おお!ユナ、みんなを見つけました!!部屋の奥で手を振っております!
『エリアスが行ったから大丈夫だろうとは思っておったが、ユナ、無事で何よりだ!』
オレリアンおじ様――!!アンリン、ハグは?何処行くのよ!!
「これよりユナを人質に、騎士団への交渉を試みる!お前たち、ついてきてくれるか?」
アンリンの見つめる先、アルが集まった兵士さん達に力強い眼差しを向けております。
「アルスリッド様、何を今更……我らは信じておりますぞ!」
「我がドルバ国民の解放の為だ!命くらいは捨ててやる!」
命はかけてナンボよ。死ぬからね!
「アルスリッド様……ですが、この娘、大丈夫でしょうか?」
何故かアルの仲間たちはみな、ユナの方を見ておりますが、ユナはその辺にあった綺麗な宝箱にウーラとトーラの骨を入れていた。バッグが必要なのよ!!
そして、必死にアルの服の裾を引っ張ってアピールします!
「ね、ね?アル!ユナの家族がいるの!集めていい?」
アルは頷いてくれる。ユナは急いで部屋の隅に駆け寄った。みんなァァァァ――!!
「ああ。人質らしくないが、大丈夫だ。……恐らく、な」