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16話 暗号解読

 ユナは翌日、早朝にもかかわらずスッキリと目が覚めた。窓を開け、伸びをする。

 昨日は結局、本を開いただけで寝ちゃったんだよね……あ、もしかして?


「デンデン!この本、魔法かかってない?」

 突然呼ばれても反応してくれる律儀なデンデン。眠そうに目を擦ってた。何時まで遊んでたの?

『デンデ、挟まれたのはつい最近の事。その時は魔法など……そういえば、何やら文字や数字を、インクのついてないペン先でなぞっていた様子。原本に傷をつけるなど言語道断!デンデ、激しく怒りを覚えました』

「それって、どのページとか……さすがに覚えてないよね?」

『 1562ページです』

「即答!さすがデンデン!」

 

 最近気がついたんだけど、デンデンは褒めるとちょっと薄くなる。デンデンがいなくなるのは寂しいけど、デンデンが嬉しいとユナも嬉しい。

 ユナはちょっと複雑な気持ちで1562ページを開いた。でもそのページも他のページと変わった様子はない。

 

「どの辺りを、なぞってたの?」

『全ては覚えておりませんが……この文字とこれと……』

 デンデの指さす文字を指でなぞると、確かに少し窪んでる。あ!これってもしかして、事件現場で探偵がよくやるやつじゃない?次のページを鉛筆で優しく擦れば、筆圧で凹んだ部分が浮き出てくるやつよ!!

 うーん。でも、本を直接黒く塗るなんてダメ!そうでしょ?デンデン!

 

「そうだ!これだけボコってるなら、裏側に紙を乗せて炭とかで擦れば、浮き出た文字だけ濃く浮き出るんじゃない?」

『面白い考えですね、ユナ様、素晴らしい』

 デンデンに褒められて、でへへとデレるユナ。もっと褒めて!

 

「そうね、でも紙……紙って、ないじゃん!?」

 ってか、この世界の紙ってめっちゃ分厚いから、でこぼこに干渉しそうもない。

「薄い紙とか存在してるのかなぁ……」

 

『デッセシュバームの紙は上質でかなり薄いですね』

 ユナの呟きに答えてくれたのはオレリアンおじ様だった。さすが商売人!

「ユナでも買える?」

 薬草クエストでお金なら少しはある。食事制限しなきゃだけど。

『残念ながら、私の指輪でも数枚買えるかどうか……』

 レベルが違った。

「仕方ない……アレを使うか……」

 

 そう、ユナは知っていた。この世界に、薄くてビラビラしたモノが存在するのを!薄桃色のそれは……!

 

 ユナはバッグの中から昨日着ていたペチコートを引っ張り出した。

 あの王子、下着までもピンクのビラビラで揃えていたのだ!なんか怖くて、寝る前に速攻着替えたけどね!

 でもこのビラビラ、分解すれば紙の代用品になると思うの!

 

「せめて、洗濯してから使用したかったな……」

 ユナは涙を飲んで、ピンクのビラビラにエリアスのナイフを入れ、フリルの縫い目を解いた。

 この世界の衣服は職人さんの手縫いだから、解くのは簡単。下着なのに、無駄にフリルがついてたから、5センチ幅くらいの包帯状の生地が、かなりの長さ回収出来た。


 ユナはその布を1562ページの裏面の上の方に当てると、暖炉から取ってきた墨で優しくなぞった。さすが王室御用達の下着、生地が薄くていい感じ!

『ユナ様、何やら怪しげな物を作り始めたと思えば……字が浮き出てきました。成功ですね!デンデ、感服!』

 

 オレビンオヤジの本の紙質は厚くてしっかりしてるから、予想以上にしっかりと文字が浮き出てきた。ただ、布は長い。上から順に、左から右へとなぞっては、段を替えていく巻物スタイルだ。文字を布の裏から透かして見れば……。

「N.Y=10K1500G……L.A=10K1700G……?」

 為替市場みたい!見た事ないけど。

 

『これはゴールドの買い付け金額では?相場よりかなり安価ですが』

 オレリアンおじ様が難しい顔で眺めていた。

『横流しって事か?金は国によって厳密に管理されている。金鉱の管理者がグルって事か?』

 エリアスも関心を持ったか、腕を組み眺めていた。

 ユナは自分の下着を眺められると言う羞恥に耐えながら作業を進めていく。

 

『 N.Yは恐らくニーク・ヨルバドールでしょうな。ヨルバドール家は古くから西の金鉱の管理を任されていたからの』

『そうだったのですか。知りませんでした。しかしオレリアン様。現在西側の金鉱は廃坑となっております。……ん?ですが、現在使われている南西のアンゼロ金鉱と中で繋がっているやもしれません。あの辺りの地下は坑道だらけなので。……と、すると、L.Sはロイス・アンゼロでしょう』

『これは、大変な事ですぞ、ユナ』

 

 話している間にもユナ、どんどん作業を進めております。何だかハマっちゃって。

「そうなの?ユナ、どんどんコピるよ!」

 見れば、前の方のページにも何か書かれているみたい。……あ、でも布、なくなっちゃった!ペチパンツのフリフリも使っちゃおっと!


『採掘された金鉱石を、そのまま隣の坑道に送ったとして、何処で製錬しているのでしょうか?』

『南西と言えば、国境が近いはずですな。確かその先は……』

『ドルバ国!先月デッセシュバームに落とされた……これは偶然なのか?』

『ドルバとの国境にも、古い坑道がありますぞ。廃坑になったのはかなり昔の事ですが』

『オレリアン様、さすがお詳しい。調べれば、面白い者が出てきそうですね』

 お、スパイの出番かしら?

 

「ね、そこって、歩いて行ける?」

 ユナが顔をあげると、エリアスに真剣な顔を向けられた。

『ユナ、この本は素直にアレン王子に渡した方が良いでしょう。恐らく部屋の外に護衛がいるはずですから、まずは声をかけて……』

『ワフッ!』

 マロン様がピクリと耳を立て、吠えた。

『客か?』


 コンコン……。

 扉が叩かれてユナは手を止めた。

「ユナ様。お迎えに上がりました」

「お迎えだって!?はーい!」

 ちょっとクセのある喋り方の騎士様だ。でもユナは、いそいそと身支度を始めた。

 

「ユナ、また学園に行ってもいいのかな?」

 離れてみて分かった事がある。ユナはフィン様やミーアやルービー様のいる学園に行けるって事が、この上なく嬉しかった。

 

 でもユナ、問題ばかり起こして、授業サボってばかりだし、昨日も置いて行かれちゃったから……もう、学園に席なんてないのかもしれない。でも、迎えに来てくれたのなら、まだ望みがあるのかな?

 そう思うと、体が勝手に動く。

 

 続きはまた帰ってからやろう。

 ユナは本を閉じ、ピンクの布を丸めてポイッと置き、エリアスの剣を腰につけると、バッグを肩にかけ、満面の笑みで立ち上がった。

『ユナ、扉を開ける前に相手の確認を!』

 

 でも、エリアスの注意が飛んだ時には遅かった。ユナは口を塞がれ、後ろから羽交い締めにされていた。

「げへへ……チョロいな。大人しく城にいれば良かったものを……くく」

 げへへ?……それ、流行ってるの?


「おい!これ、兄貴の探してた本じゃねぇか?」

 ユナを羽交い締めにしてる、げへへ野郎とは別にも、男が2人、ユナの部屋に入って来てた。

 しまった!!と、思っても遅い。そいつらはオレビンオヤジの本に飛びついていた。


「何!?こいつ、そんなもんまで隠してやがったのか。クソっ、依頼じゃなきゃ殺してるとこだぜ。だが運がいい。本を渡しゃぁ、兄貴を逃がしてもらえるかもしれねぇ。なんてったって、相手は貴族様だからな。……行くぞ!」

 じたばたするユナを引き摺って、男らは部屋から出た。


 部屋の前には2人の騎士様が床に転がっていた。慌ててエリアスとモルト爺が慌てて出てくる。

『音がしなかったな、まだ生きているが……毒か?』

『そうじゃ!すぐに治療が必要じゃ』

『よくもまあ、白昼堂々と……こいつらプロの暗殺集団だろ?ボトルロック、殺れないか?』

 男達はユナを軽々と抱えたまま、階段へと向かう。

 

『殺気が感じられません。ですので私は、手を出す事が出来ません』

 ボトルロックの声だ。ボトルロック、人は殺さないで!

 階段を降りると更に3人の騎士様が転がっていた。中にはチコが!!嘘……みんな死んでないよね……?

 

『ボトルロック!ユナがどんな酷い目に遭っても、あんたはそう言って、手をこまねくのか?』

『ユナがお前さんの事をどれだけ大切に思っておるか、分からない訳じゃなかろうに!』

 オレリアンおじ様とオレビンオヤジが、ボトルロックに必死に何かを訴えている。

 開け放たれた裏口には5人以上の騎士様が倒れてて……。

 みんなピクリとも動かない。ユナは、鼻の奥がツンとしてきた。喉の奥から何かが込み上げてくるのを感じる。

 

 外に出た途端、目に入ってきたのは馬車だ。馬蹄の泥亭によく出入りするような、ごく普通の馬車の荷台に、ユナは抱えられたまま乗せられた。

 すぐに猿轡を噛まされ、両手両足が括られる。そしてバッグを取り上げられ、ミノムシ並にぐるぐる巻にされてから酒樽に放り込まれた。めっちゃお尻を打った。

 すぐに馬車が走り出す。踏ん張れないせいで、今度は頭をガンガン打つ。更に揺れを感じれば、ユナは気分が悪くなってきた。


 ユナは真っ暗で息苦しい樽の中で、くたぁ――ってしながら、何か楽しい事を考えようと必死に頭を巡らせた。だって吐きそうなんだもん。

 でも……思い出すのは綺麗な金髪ばかり。

 

 昨日、フィン様はユナに、どこにも行かないでって泣きついたのよね。そして、キスを……。きゃぁぁぁ――!

 ユナはミノムシのまま、悶え……力尽きた。


 ユナ、どこにも行かないでって言われたばかりなのに、また、離れちゃった。

 

 フィン様はユナの事、探してくれるだろうか?……自信が無い。

 きっと、今日もメイリーンと学園に行って、放課後には買い物にも、付き合っちゃったり?しちゃうかもしれない。

 

 助けて欲しいなんて贅沢は言わない。でも……メイリーンとのデートの後でも……ちょっとでも、ユナの事、思い出してくれるといいなぁ。


 フィン様がユナと過ごした時間は、ほんのちょっとだけしかないの。だから、このくらいの妄想は許して欲しい。

 ユナは急に泣きたくなった。

 

 ……ん?あれ?これって……。

 ユナ、もしかしてフィン様、好きなのかも。

 そうか……そうだったんだ……。

 気付いてしまえば、暗号が解けたみたいに頭の中がスッキリとした。


 ガタゴトと馬車に揺らされながら、気分は最悪だ。もうフィン様には会えないかもしれないって、怖い想いが頭をよぎったりもする。

 

 でもユナ、次の目標が決まりました!好きな人がいるって素敵ね!

 どうにかして、ここから逃げ出して、この気持ちを伝えたい!フィン様にも、みんなにも!

 みんなは……?

 

 馬蹄の泥亭は大丈夫かしら?テラは寝ているから大丈夫だろう。でも騎士様たちは……。

 ユナは鼻をすすると、楽な姿勢を探して体を動かした。

 

 でもそうよ……うんっ!王都の騎士様がげへへな奴らなんかに殺られる訳ない!マッチョだし!!

 ……と、急に馬車が降下し始め、ユナの入った樽は横になってしまった。


 ユナ、前に後ろにぐるぐる回りま――す!

 嫌あぁぁぁ――!!

 心の叫びは誰にも届かず、ユナは意識は暗闇に落ちていく……。

 

『ユナ……すまない……』

 暗闇の中、ボトルロックの謝罪が聞こえ……。

 ユナは何かに優しく包まれた気がした。

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