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14話 オレビン・デ・ロンツィの救出

 ユナはスパイになりました。

「騎士様たちの部屋って何処かしら?」

 でも、まずはオレビンオヤジを救出したい。ユナは押収品を持って行った騎士様がいる場所を探す事にした。

 

『こちらです。恐らく押収品ならば1度、騎士団の事務所に持ち込まれているでしょう』

 エリアスも同じ気持ちなのか、率先して先導してくれる。エリアスがお城に詳しくて良かった!だって、お城ってめっちゃ広いんだもの。

 

 お城の中にはいくつかの建物が建っていて、それぞれがかなり立派だった。ユナのいた建物が1番大きくて、きっとここが王様とかフィン様が住んでいる建物なんだろう。その他にも教会っぽいのや、舞踏会ホールみたいのもあって、ちょっとしたテーマパーク位の広さがあるんじゃないかな?

 途中、何度か近衛兵に止められたけど、アレン様の書を見せると皆、訝しげな表情をするも、剣士の礼をして通してくれた。凄い効果ね!

 

 エリアスが向かうのはその中の建物のひとつ。学園の寄宿舎みたいな場所で、鍛錬するための広場を囲むように幾つかの建物が建っていた。ユナは朝練中の騎士様に見つからない様にそっと建物に近づいた。でも、隠れる所がなくて……騎士様が1人、汗を拭きながら向こうから寄って来た。

 

「何用だ?」

 ユナはアレン様の書を差し出した。でも、騎士様は眉を潜めて突き返してきた。

「ここは子供の遊び場じゃない。見学したけりゃ、フィン様のサインを持って来るんだな」

 推しが違ったらしい。仕方ない。貰いにいくか。

 

「フィン様っていつ帰るの?」

「もうじき戻られるだろう。今日は審問会が開かれるからな。だがなぁ……お前さん。相当コネを持った新人メイドみたいだが、フィン様には、おいそれと会える訳じゃないんだぞ?」

「そうなの?」

 どうしよう……。オレビンオヤジが厳重に保管庫とかに入れられちゃったら……。

 それはそれで喜びそうだけど、ゲームが出来ない環境だと、ボケそうで心配だわ。

 

「一応聞くけど、フィン様に何か用事があるのか?お前可愛いし、ただ見るだけなら、ベストポイントを教えてやってもいいぞ」

 あなたもなかなかのファンみたいね。でも、今は時間がないの。この後、本を取りに行かなきゃだからね!

「フィン様に特に用なんてないわ。中を見たいだけよ。サイン、いるんでしょ?」

「……お前、目的がおかしくないか?」

 

「ユナ様――!?」

 ここで救世主登場だ。慌てて駆け寄って来たのはラディズラーオ隊長だった。

「ユナ様だって!?」

 何故か突然、地面に膝をつき頭を下げる騎士様。ユナも慌てて横に並んで膝をついた。騎士様がギョッ!とユナを見た。

 

「ユナ、何をされているのです?」

 顔をあげると、ラディズ隊長が必死に笑いを堪えていた。

「え?こうするんじゃないの?」

「彼の為にも、立って差し上げてください」

 横を見れば、騎士様が地面に這いつくばっていた。どうしたの?


「予想外でした。まさかこんな場所に現れるとは……私もまだまだですね。フィン様の予測も見事、裏切られましたか……」

 ラディズ隊長はユナの手を引き、立たせながら笑った。

「お怪我をしていれば、少しはじっとしているだろうと仰っていたのですが……。お加減は如何ですか?」

 

 言われてみれば、凄く元気になってる気がする。そうか、あの飲み物、薬草の味がした!

「めっちゃ元気よ!アレン様の執事様のドリンクが効いたのかも!」

 今度配合を聞かなきゃって、感動するユナを見て、ラディズ隊長は眉を顰める。

 

「アレン様の……なるほど。アレン様が貴賓室に来られたのですね。何か仰っておられましたか?」

「うーん、何か難しい事を話してた気が……。それより、ラディズ隊長!騎士団の事務室にちょっと行きたいのだけど、ダメかな?」

「事務所?それはまた、どうして……あ、押収品を?もしかして……ユナの御両親の物も、あの中にあったのですね」

 ん?ユナの両親はあの墓地にはいなかったけど?

「なるほど、昨晩もそれで、あの様な危険な場所に1人で乗り込んでしまわれたのですね。気付かず、申し訳ありません」

 ラディズ隊長は悲痛な表情でユナを見つめると、集まって来た騎士様を背にピシリと頭を下げた。

 

「ユナ様が聡い事は分かってはおりましたが、まさか犯人を見つけてらっしゃるとは思わずに、見失うばかりか、お怪我までさせてしまいました。申し訳ございませんでした。此度の盗賊団逮捕に至っては、騎士団一同、ユナ様の勇気に頭の下がる思いでございます。ありがとうございました!」

 後ろの騎士様たちもみな、一様に膝を折り頭を下げた。その統制された動きに、ユナはビクリと震えた。それを見たラディズ隊長はすぐに微笑み、ユナを安心させるように、ポンと肩に手を置いた。

 

「さ、こちらです。ご案内致しますよ」

「……ありがとう?でも、様は付けられると嫌だな」

 みなに見られて緊張し、ギコギコと隊長の後ろを歩きながらユナはボソッと呟いた。

「大衆の面前でそれはご勘弁を。皆がいない所ではいつも通り呼ばせていただきますから……」

 

 何やら仰々しくなってきた。

 ユナが歩けば騎士様が近付き膝を折る。これは拷問か何かかしら?ラディズ隊長は騎士様の社宅的な建物にユナを招き入れてくれた。

 ホッとするのも束の間。何故か建物内のエントランスには、騎士様たちが中央の階段までズラリと整列し、剣を掲げていた。レッドカーペットなの!?これ、王様とかが来る時にやるやつじゃない!?

「さ、こちらに」

 ラディズ隊長はユナを2階に先導する。ユナが前を通ると、ビシッ!と動く騎士様。怖いわ!!

 

「実はあの墓地は、貴族でも特に国王陛下縁の者が多く埋葬されておりまして、その副葬品はかなり高価なものばかりでした。なのに、教会は管理を怠っており、いつ盗賊に入られてもおかしくない状況だったのです。今まで墓が護られていたのは、ユナ様があの場所に住んでおられたからですよ」

「そうなの?」

 

 ラディズ隊長は建物の中でも1番奥に行くと、厳重そうな扉の鍵を開け始めた。

「ええ。墓荒らしにあった事を、墓の所持者である貴族に伝えた所、思いの外、多くの非難が寄せられまして……」

 大変だったのね。ラディズ隊長の苦笑い、とても哀愁が漂ってるわ。

「しかし、ユナ様のご活躍により副葬品が戻り、我々騎士団は、どうにか首が繋がりそうです」

 

 ガチャリと扉が開けられ、真っ暗な部屋に光が入った。いつの間にか用意されてたランプを持って隊長が侵入する。

「さあ、ユナ様。ご自由にご覧下さい」

 

 部屋の中央に置かれた大きなテーブルの上には、沢山の財宝が綺麗に並べられていた。かべの棚にも沢山置かれてある。指輪にネックレスに飾り剣……あれ?洞窟にあったのより、増えてない?


「盗賊団頭首逮捕により、そのアジトごと押さえる事が出来ました。これは全てユナ様のご活躍の成果だと言えるでしょう。ただ、あまりに押収品が多く、持ち主をどうやって探すかが今後の課題ですね」

 何だか息苦しい……プラズマが溢れ出てる。ギュウギュウ詰め状態だわ。皆さん帰りたいのね。

 

『ユナ――!!』

 オレビンオヤジの声だ!!どこ!?

『ワフッ!』

 マロン様の飛びつく先に目をやると、部屋の隅に小さなカゴが置かれてあった。急いで駆け寄り覗けば、紙くずとか木の枝とかが入っている。いわゆるゴミ箱ってやつだ。

 ユナはカゴの中から、碁盤の目の書かれた羊皮紙を引っ張り出した。絶対これだ!

 

「これ!これが欲しかったの!!」

 ユナが羊皮紙を掲げると、隊長は驚くも、すぐにポンと手を打った。

「ああ、なるほど。ユナのお宝も盗難にあっていたのですね。ゲームの駒が落ちているのを見つけて、それであの場所に……。ははっ!これで全て疑問が解けました。それはお持ちになって結構ですよ」

 隊長は珍しく楽しそうに笑った。その目は子供を見るようだった。

 

 でもユナ、それ所ではありません。見えるとバレてしまったからか、めっちゃプラズマが、自分のお宝アピールし始めちゃって……。

 

「あ――ちょっと隊長聞いて――!これ、オリバー家の物ですよぉ――。それに、これはサンサドール家の物でぇ――。えっとぉ――これは――」

 ユナ、これは、隊長にみんなを送って貰うしかないと判断致しました!

 

 途端に隊長の笑顔が引っ込む。

「ちょっとお待ち下さい!ユナ、分かるので?」

「ん?紋様が着いてるの。これは街1番の鍛冶師、ラトルの刀で1品ものよ。これは名家のサインをデザインに組み込んだ指輪で……」

「誰か!メモを――!!」

 隊長が叫んだ。


 ユナはお宝鑑定士の資格を頂きました。

 とりあえず煩いプラズマの主張だけを教えてから、後は後日立会人を交えて慎重に持ち主を探す事になりました。

 だってユナには急いでやらなきゃいけない事があったから!


「ユナ、貴賓室に戻られませんか?城内の位置関係を熟知していらっしゃるのは素晴らしいですが……あの場所にいない事が分かればまた……」

 エリアス先導のもと、王城の門へと急ぐユナの後を、ラディズ隊長が何か言いながらついてくる。

 

「あそこにいるとね、ピンクのビラビラを着せられるんだよ?ユナ、恥ずかしいから家に帰る!」

「ピンクのビラビラ、ですか?……フィン様の趣味ではなさそうですね。もしや、アレン様がドレスを!?……分かりました。学園までお送りしましょう。これは、なんとしてでも時間を稼ぎ、フィン様に頑張って頂かないと!」


 でも、王城の門に着いた途端、ユナは凍りついた。門の外に見覚えのある馬車が止まったからだ。

 慌てて、ユナは門の横に立つ衛兵さんの後ろに隠れた。

「お前……!!」

 叫びそうになった衛兵さんには、アレン様の書を見せて黙らせる。そして、周りの衛兵もユナの後ろで腰を低くする隊長を見て、何かを悟った様に空々しく通常業務に戻った。

 ユナは困惑する衛兵さんの股の間からそっと馬車の方を見る。


「フィン様。今日はメイリーンの屋敷には来て下さらないのですね。早いお帰りだったから、私の買い物に付き合って下さるとばかり思っていたのに……そのまま王城で過ごされるの?」

 馬車から降りて来たのはフィン様だ。馬車の戸を外から閉め、窓から名残惜しそうに出されたご婦人、メイリーンの綺麗な手を軽く握った。ユナは原因不明の胸の痛みを覚えた。

 

「済まない、今日はここで失礼するよ。仕事が溜まっていてね」

 フィン様はユナの見た事のない、綺麗な笑顔を返した。

「メイリーン、今日はフィン様から頂いたドレスを試着してお見せしたかったのに……」

 何故か後ろでラディズ隊長が息を飲んだ。

「当日の楽しみに取っておきますよ。では、失礼します」

 やばい!こっちに来る!

 

 ユナの行動は早かった。フィン様がメイリーンに礼をして振り返り、門の中に入った瞬間を狙って駆け出した。フィン様の後ろを通り、馬車の下に潜り込む。

 フィン様が一瞬、辺りを見回した。

「ユナ!」

 隊長の焦ったような声がする。

「ユナ!?」

 フィン様も気が付いたみたい。でも、ユナは何故かフィン様に会いたくなくて……。


 王城の門の外は沢山の馬車が行き交っていた。小柄ですばしこいユナならスルスルとくぐり抜けられる。少し走って街の路地に紛れ込めば、それから先は、ユナ、お得意のモブ作戦だ。

 

 すぐに隊長だけじゃなく、てワラワラと騎士様だか、近衛兵だかが後を追ってきた、でも、今日はフィン様の声はしない。

 ユナは安心するも、ちょっと寂しく感じながら、街の裏路地を隠れながらさまよった。


 王城からテラの馬蹄の泥亭まではかなり距離がある。でも、平気よ!マロン様が案内してくれるからね!

『ユナ、右方向から騎士団が来ます!急いで!後ろにも!!』

 エリアスが教えてくれるし、隠れるのはとても楽だ。

 

『ユナ、そこの店に入っとくれ。ちょっと見たい本があるんじゃ』

『ユナ!イケメンよ!!そこ、左に行ってちょうだい!!』

『おお、懐かしい。うちの支店ではないか!ちょっと視察を』

『ユナ、この草は毒だから食ってはならんぞ』

『デンデ、髪を切ろうと思います』

 突然のイメチェン宣言はともかくとして、みんなもとっても協力的だ。何だかユナも楽しい!

 ユナは寄り道をしながらも、頑張って歩き続けた。


 ユナが馬蹄の泥亭に着いたのは翌日、昼も過ぎた頃だった。

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