表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/33

9話 聖女が街にやって来た

 次の日の朝、ユナは荷物をしっかり纏めてから、眠ってるテラにキスをして、こっそり馬蹄の泥亭を出た。

 今日からユナの家は学園だ。昨日の夜テラは、頑張っておいでって言いながらも、あなたの家はここよって言ってくれた。やっぱりテラは最高ね!

 

 ユナは学園に行く前におじ様たちに報告したくて、開門を待つ雑踏にまぎれていた。今日は何だか警備が厳密だ。何かあったのかな?と思いながらも、出ていく方はあっさりと通してくれたので、ユナは村へと急いだ。

 

『ユナ――!!聞いてくれ!オレビンが誘拐された!』

「何ですって!!」


 墓場に着くなり、オレリアンおじ様がシルクハットを振り回し、ユナを呼んでいた。

 聞けば、昨晩この墓場に盗賊が入り、墓を荒して行ったらしい。見渡せば墓石は転がり、穴まで見える。エリアスは掘り返された墓の調査に早速のりだし、ユナは興奮してるおじ様の調書を取る事にした。

 

「盗賊かしら。何人いたの?」

『3人じゃ。奴ら、その辺ほじくり返して、何でもかんでも持って行きおった!……墓守はいねぇが、これはこれでおいしいぜ。げへへへ……と、話しておったよ』

 オレリアンおじ様。品格が下がるから、完全再現しなくて大丈夫よ!

 

「墓守とかいたの?知らなかったわ。ねぇ、オレビンオヤジって何に宿ってたのか知らない?」

『分からんのぉ……』

 これが想いの欠片と、人との違いだ。想いは新しい事にチャレンジしたり、新たな知識を入れる事が苦手なのだ。

「そう。だけど、オレリアンおじ様だけでも無事で良かった!」

『運が良かったんじゃよ。ユナ、ここを見てくれ』


 オレリアンおじ様はステッキを出して、必死に草むらをつついている。草むらをかき分けて見れば、そこに小さな指輪が落ちていた。

「これ、おじ様の?」

『そうですぞ。頼む、ユナが持っていてくれ。他のもんに拾われとうない』

「……分かった。預かっとく。オレビンオヤジの事は、兵士さんに頼んでみるよ!」

 ユナは指輪をネックレスに通して首にかけた。落としたら大変だからね。

 小さな指輪はベビーリングっていうの?フィン様の石と同じ色の石がついてた。2つはまるで最初からセットみたいに並んで、とても可愛いかった。

 

 今は明るいからプラズマは良く見えない。けど、墓場に漂うプラズマはかなり減ってる気がする。

 盗賊、許さまじ!ユナはグッと拳を握りしめると、門兵さんに報告する為に急いで王都に戻った。


 だけど、門の前には長蛇の列が出来てて、しばらく入れそうもない。検問って言うの?いつもは、入国審査ゆるゆるなのに、今日は何故か厳密に調査してから入れてる感じ?ユナは列の近くでウロウロしている騎士様に駆け寄った。

「ちょっと、事件よ!こっちに来て!!」

 

 だけど、騎士様はユナを見るなり、いきなり腕を掴んできた。

「見つけたぞ!隊長――!!」

「ええ!?私、犯人じゃないわ!!」

 

 騎士様は、え?ってユナを見た。列に並んでいる人たちもユナに注目する。

 ザワつき始める人々に、騎士様は慌ててユナを門へと連れて行き、門兵さんの詰所小屋に押し込んだ。

 

 すぐに隊長なる者が現れる。あ、キラキラした金髪の方じゃないわよ。あれは騎士団長、団長とか総長って言われてるからね。

 でも、隊長って呼ばれたこの人も、見た事がある。多分、最近ね……昨日だわ。


「ユナ様、何処に行ってらっしゃったのですか?探しましたよ」

「私、何もしてないわよ?」

 茶色の綺麗に整えた短髪に、緩く優さをたたえた目元。人の良さそうな隊長さんは苦笑した。

「ご心配なさらなくても大丈夫です。我々は護衛ですから。ですが、ユナ様を少々甘く見ていたようです。申し訳ありません」

 なんか謝られたわ!誤認逮捕かしら?

 

「じゃ、隊長さん。ちゃんと墓地を調査してくれる?」

「え?」

「こっちよ!早く!!」

 ユナは隊長さんの手を引いて詰所を飛び出した。

「いや、ユナ様……我々は……。分かりました、どちらに行かれるので?」

「墓地よ!きまってるじゃない」

 何故か戸惑う隊長さんの馬に乗せてもらい、ユナは隊長さんと、数人の騎士様を墓地へと案内した。


「これは……酷い有様ですね。すぐに調査致しましょう」

「隊長、しかし今は要人警護もあります。ここに人手を割く余裕などありませんよ」

「だが、彼女の安全を第一にとの思し召しだ。憂いを取り除かねば、再びお姿を見失うような事態になりかねない。それによく見ろ、この墓地に埋葬されているのは王に近しい者ばかり。何か裏があるやもしれぬ」

「分かりました。では、至急調査隊を結成いたします」

 

 うんうん。よく分からないけど、調べてくれるみたいね。隊長さんはテキパキと部下に指示を与えてから、ユナを馬の方へと促した。

「ではユナ様。学園に向かいましょう。時間があまりございませんので、少々急がせて頂きます」

「え?送ってくれるの?ラッキー!」


 今日は、隊長さんの立派な栗毛馬に乗せてもらい、学園まではあっという間だ。

「ユナ様、早駆けは……お気に召したようですね。では、舌を噛まないよう、お気を付け下さい」

 乗馬って最高!!

 

 

 どうにか始業前に学園に着いたユナは、隊長さんの手によって学園長様のメイドさん達に引き渡された。

「また、終業時に迎えに参ります」

 隊長さんはとても律儀だ。

「え?大丈夫よ。ユナ、ここに住むから」

「そうですか。ブレネリーさん、頼みましたよ?」

 隊長さんの視線はユナを通り越し、ブレネリーさんが大きく頷いた。


 制服を着て綺麗にしてもらってから、ユナはミーアと一緒に講義室に向かった。水色の髪は可愛く結われてて、コスプレ気分で何だか嬉しい。

 今日はエリアスが威嚇してくれてるおかげで、プラズマたちはとても静か。マロン様がミーアにくっついてて癒されるぅ。アンリンがエリアスにくっついてるのはどうかと思うけどね。

 

「ふふっ。皆様、蒼い彗星の如く現れた美しいユナ様に見惚れていらっしゃいますわ」

 私、何か強そう!!でも昨日より視線を感じるのは何故かしら?

 

「まるで聖女様の偽物ね……」

 そんな声が聞こえ、ユナは首を傾げた。

「聖女様?」

「ユナ様、お気になさらずに。今、隣国の聖女様が王都にいらしているのですが……彼女、ユナ様と同じ髪色をしてますのよ」

 プンプンとミーアが怒ってる。

 

「なるほど、生暖かい視線を感じるとおもったわ。残念な子認定されてるのね」

「残念な子だなんて!ミーアはユナ様がどんなお姿でも、素敵だと思いますわ!」

 ミーアは頬を膨らませた。

 なんていい子なの!!そして怒った顔がマジ神!!

 ユナはご機嫌で講義室に入った。……んだけど。

 

 最初の授業は学力テストでした。

 広い講義室でミーアと2人きりで受けた。ユナの横には3人目がいたけどね。デンデンがブツブツと答えを先に言っちゃうから、凄い点、取りそうで怖いわ。

 

 地獄のテストが終わった後は自習。聞けば先生が来るのは不定期だと言う。

「ミーアはいつもは何してるの?」

「色々な授業に飛び入り参加させていただいてますわ。わたくしも最近学園に入ったばかりですので、学園長様はゆっくり慣れるようにと言って下さいましたの」

「病気だったとか?」

「ええ。でも今はとても元気なのですわ。ですからユナ様。良ければミーアの初めてのお友達になって下さらない?」

「もちろんよ!!」

 ユナはミーアを抱きしめ、ユナと呼ぶように、脅迫した。



 のんびりとした学園1日目が過ぎ、ユナは放課後、メイド服に着替え、植物園にいた。ブレネリーさんは寄宿舎まで案内してくれたんだけど、確実に手違いでしょ?って感じの豪華絢爛部屋だったから、怖くなって逃げてきた。

 

 ――さてここで、現在のユナの財産をお教え致しましょう。

 メイド服に着替えの服。古びた皮の栞に折れたガラス棒。短剣と金のネックレスと指輪に……フィン様の宝石。これは内緒ね。カバンの中はパンパン。全部着替えだけど。

 結構増えたのよ!ちなみに、デンデンの栞はテラの部屋のゴミ箱に捨てられてたので救出しました!

 

 何故ここで宣言するかと言うと、ユナを捕まえた2人連れの騎士様に、荷物はどこだよ!って聞かれたからです。


「お前……ふざけてんのか?」

 隊長さんとは違い、ユナを迎えに来たと言う騎士様はちょっと乱暴なお方でした。

「どうされたのですか?かなりお疲れのようですわね。もう帰っても、よろしくてよ?」

 今日1日、ミーアと一緒に居たユナは、ミーア口調が移って、お嬢様モードだ。

「てめぇをずっと探してたんだよ!クソっ!話し方がムカつく」

 不評ね。

 ユナは今からここに引っ越す事にしたから、今日はもう大丈夫よって言っただけなんだけど?

 

「て、訳で……」

 ユナが植物園の中に入ろうとすると、騎士様は慌て始めた。

「待て待て待て。何処に行く」

「え?寝る所を作らないといけないし?暗くなる前に、せめて床は作ろうと思うの」

 あ、ランプ買う暇なかったな……。今日は月あるし、ま、いっか!

 

「マジでこんな所に?……総長に報告しなきゃなんねぇんだけど……どうする?」

 どうする?は、一緒に来た同僚に向けてだ。何故か押し黙ったままのチコこと、チッコリーノはようやくここで口を開いた。


「ユナ様……大人しく寄宿舎に戻りませんか?」

「げ、何その喋り方……キモッ」

 思わず出た言葉に、何故かチコはキレた。

 

「キモッてなんだよ!だいたいお前が捕まらないから、俺らまで招集される羽目になったんじゃないか!!お前のいる場所が想像できる俺も大概だけどなっ!しかも何だよ、またこんな所に引っ越すだと!?」

「そう!ここ素敵でしょ?チコ、手伝ってくれる?」

 チコは頭を抱えて座り込んだ。


 それからユナは、まあまあとチコを宥め、植物園の温室に引っ張って行った。

「ここ、国のもんだろ?勝手に使っていいのかよ……」

「許可は貰ったよ!学園長様が、住めるものなら住んでみなさい!って言ってくれたの。学園長様って優しいよね」

「そりゃ……許可じゃなくて、諦めろって言ってんじゃねぇか?まあ、中の確認だけさせてくれ」

 チコはガチャガチャと扉の建付けを確認してから、中に入った。

 なんだかんだいってチコは手伝ってくれるのよねぇ。

 

「あのぉ……どうしてこんな所に?」

 もう1人の騎士様が困惑しながら着いてくる。ユナは待ってました!とばかりに説明を始めた。

 

「ここ、いっぱい薬草があるんだよ。冬だからよく分からないだろうけどね。でも、温室の中の子たちは元気に育ってるのよ!手入れすれば、ちょっとだけ冬の薬草不足が解消されると思わない?」

「薬草……?」

 騎士様は立ち止まって、足元を見てた。奥からはチコが何か叫んでる。

 

「まあ、確かに腐らせておくには勿体ないな。でも、だからってお前、ここに住まなくてもいいんじゃねぇか?ここ、奥に物置があるだけで、床なんてねぇよっ!」

「えー。だって、一軒家だよ?講義室、すぐそこだし、ギリギリまで庭いじれるじゃん?最高じゃない?あ、チコ、それ喉の痛みに効く薬草!踏んじゃダメぇ!やばい!お宝いっぱい!!」

 ユナはチコに駆け寄った。


 奥に行けば行くほど、貴重な薬草がある気がする。ユナはモルト爺のガラス棒を取り出して、爺を起こした。

「おお……!おお――っ!!」

 爺はゾンビみたいな奇声を発しながらウロウロと徘徊する。喜んで貰えて嬉しいわ。

 

「お宝って……そういやお前、フィン様の上着はどうした?持ってきてないのか?」

 あ、そんなのもあったわね。

「うん、何かゴテゴテして重いんだもん。テラの所に置いてきちゃった」

「お前のお宝の基準が謎だわ……」


 そして何と、学園には5人もの騎士様が隠れていらっしゃいました!外で何か喋ってるなぁって思ってたら、みんな協力してユナの寝床を、作ってくれました!

 場所は温室の中の倉庫だけど、あっという間に中を綺麗にして、ちゃんとベッドまで作ってくれたの!さすが騎士様!優しいわ!


「ユナ、このランプはどうだ?新品配給されたから要らなくなってさ。備品なんで古いが、まだ使えるぞ」

「うおぉ――ランプ!欲しかったんだよねぇ。本当にいいの?ありがとう!!」

「ユナさん、この布、何か使えませんかね?」

「おお!被って寝るよ、サンキュ!!」

「……被ってって、あんた、本当に何も持ってねぇんだな……」

 騎士様は驚愕してるけど、冒険者ってそんなものじゃない?


「ユナ様。もしかしてこの間の廃墟の中でも薬草を育てられているのですか?」

 5人の騎士様の中には勿論隊長さんもいた。

「隊長さん、様は付けないでよ、照れるからぁ――。あのね、あの屋敷の裏の薬草園は結構貴重な植物もあって凄いのよ!私、あまり行けなくなっちゃったから、たまに寄って見てくれると助かる!」

「お任せ下さい、ユナ様……ユナ。私はラディズラーオ。ラディズとお呼びください」

 

 みんなは日が陰るまで手伝ってくれた。優しい!!

「みんなありがとう!今まででダントツ1番の最高のお家よ!」

 語彙力がなくて申し訳ない。

「いやいや、このくらいで感謝されてもな……」

 騎士様達は謙虚だ。

 そして、最後にユナが温室の鍵のかけ方を習っていると、後ろから声がした。聞き覚えのあるあの声だ。


「ラディズ!声がすると来てみれば、何をしてるんだ?ユナはどうした…………ユナ!?」

 振り向けばいつものキラキラ金髪王太子様。

「あ、フィン様。ユナの家にようこそ!」

 ユナは機嫌よく手を振った。

「家……だと?」

 

 途端、フィン様の眉が寄った。昨日の甘々王子様は何処へやら。いつもの不機嫌な顔してる。

 周りを見れば騎士様達も、ピシリと固まっていた。

「ユナ……君はまたこんな場所……」

 

 だが、フィン様の嫌味は途中で遮られた。植物園に不似合いなお嬢様が、草むらを割って出てきたからだ。

「フィン様!こんなひとけのない場所に私を連れて来るなんて、積極的ね……」

 ん?んん?この人、何処かで見た事ある。

 

 まっすぐな水色の髪に濃い紫の瞳。とびきり綺麗な容姿。

 ――そう、鏡の中の自分だ。

 すぐにこのお嬢様がミーアの言っていた聖女様だって分かった。

 

 聖女様は水色の豪華なドレスを着て、煌びやかな化粧をしてて……ん?いや。やっぱ、ちょい違うわ。鏡の中の自分とか言ってごめんなさい。

 なんて言うの?エロい。全体にふくよかで甘い香りがする感じだし、なにより乳がデカい。

 キラキラと輝かんばかりに磨かれた聖女様は、癒される事間違いなしって感じの、貫禄のある美しさだった。

 

 聖女様はフィン様の腕に手を回すと、グイッと乳をくっつける。

 途端に、フィン様が明らかに焦った様に腕を引いた。きっとユナに見せたくなかったんだろうなぁって思ったら、何故かチクリと心臓が痛んだ。


「あ、紹介するよ。この方はデッセシュバームの聖女で……」

 フィン様が真顔でユナに説明を始めるも、聖女様はこちらに興味は無いご様子。

「まあ、フィンたら。使用人にまで紹介しなくていいのよ?さあ、あなたたちも、もう大丈夫ですわよ?後はフィン様と2人で見て回りますから……どうしたの?あなた、何か文句でもおあり?」

 

 動かないユナに、聖女様が眉を寄せ告げる。邪魔すんじゃねぇよ!さっさと何処かに行けや!って感じ?

 この状況……私は完全にモブよね。フィン様は青い髪の聖女に出会えてハッピーエンド!!ユナは消えるしかないじゃない?

 そう、ユナはこういう場合のやり過ごし方を知っているの。オレリアンおじ様ありがとう。

 

「失礼致しました、聖女様。直ぐに出て行きます故、お情けを」

 ユナは綺麗な挨拶をして、そろりと後ろに下がった。

 すると、フィン様がいきなり怒り始めた。

「ユナ!君がそんな事をする必要はない!」

 キッパリと言い、聖女様の腕を解いてユナの前に立ふさがる。そろりと顔を上げれば、鬼の様に怒ってるわ。こっわ――。過去一怖いわ。

 

 でも、すぐに聖女様はまたフィン様の腕を取って、猫なで声で乳をくっつける。

「ねえ、あなた?ユナって言うのね!ちょっと失礼……」

 そう言うなり、ユナのモブキャップをいきなり剥ぎ取った。

「うわっ!」

 はらりと水色の髪がこぼれ落ちた。フィン様が息を飲む音が聞こえた。

 

 見つけた……。

 誰かがそう言った気がした。

 

 顔を上げれば、みんながユナをガン見していた。あ、そうか。この髪、見た事なかったっけ?

「ユナ……その髪……」

 フィン様の手が髪に伸びる。

 バレちゃった。でも、すぐ横にあなたの理想はいるでしょ?

 

 ユナは恥ずかしくなって思わず温室の中に逃げ込み、習ったばかりの鍵をかけた。なんていうの?裸にされた気分?頭だから、スキンヘッドにされた気分?

 

「ユナ!!開けてくれ。話がしたい」

 扉越しにフィン様の声がする。めっちゃ焦ってるみたい。ズラじゃないんだから、頭見られたくらいで動揺するのもおかしいんだけど、聖女様の前で晒したくはなかった。だって、私、偽物だし?

 

「あら、どうしたのかしら?……ふふふ。ねえ、フィン。わたくし、そろそろ帰りたいわ。送って下さらない?」

「ラディズ、頼む!!」

「嫌よ。ちゃんとフィンが送って下さらないと、メイリーン、泣いちゃうから」

 

 メイリーンって名前なのね……。

「……ラディズ、ユナを頼む」

「お任せを」

 あ、フィン様、行っちゃうんだ。

 

「ねえ、フィン。私、この学園に入学したいわ。手配して下さらない?」

「……。」

 ユナは温室の中に蹲り、聖女様の声が聞こえなくなるまで動けなかった。何故か、メイリーンのその存在が、もの凄く怖かった。


 

「ユナ、フィン様は公務なんだよ。気にするな!」

「また来るよ。今度はお菓子、持ってきてやるからな!」

 

 みんながドンマイって感じで帰って行ったその晩。

 ユナはふわふわと漂う綺麗な女性のプラズマを見ながら眠りについた。

 あ、アンリンじゃないからね。アンリンはじめ、想いの欠片の方々は、温室の何処かでボトルロックと盛り上がっていたから。

 

 綺麗な女の人……今度話しかけてみよう。そう思いながらユナは目を閉じた。

 

 

 翌朝――。

 ユナは思いの外スッキリ目覚めた。何故かな?て思ったら、ユナは、暖かくていい匂いのする外套に包まれていた。


「また、ゴテゴテした上着が増えたよ……」

 この豪華な刺繍は、あの王太子様の物に違いない。あの人、何枚上着もってるんだろ……って、それより、いつ来たの!?

 

『ユナ。機嫌直って良かったわね!』

 機嫌?

 アンリンに言われて、ユナは頬を染めた。

 ユナは満面の笑みで上着を抱きしめていたの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ