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違和感


 ウォルターはまっすぐディアナを見た。その目には強い意志がみなぎっていた。

「なぜ我々が魔法少女に攻撃され『消滅』しなければならないか、をだ!」

 しかし、ディアナは首をかしげた。

「ちょっと……待ってください。先に攻撃してきたのって、あっち、なんですか?」

 ウォルタ―はドンと壁を叩いた。

「その通り!我々は何も、悪い事などしていない!!」

「そうなんですか!?」

 なんだそれは。初耳だった。

「ディアナ、ライデンから何も聞いてないのか?!」

 ディアナは憮然と言った。

「だって私、まだ女幹部になってそんなたってないし、彼とはあんまりそういう話していなくて…。私もよくわかんないままに幹部候補生に入れられちゃって」

するとウォルターは、がっくりとため息をついた。―ボスなどと呼ばれているが、けっこう抜けている所がある。

「そうか…それは、すまなかったな」

「そもそも最初、アンゲンストを始めたのは誰だったんですか?教えてください」

 わかった。そううなずいて、ウォルターは語りだした。

――私は昔、街で暮らしていた。町工場で働く、平凡な人間だった。けれど何をしていても、頭の中に常に、白い靄のような疑問が漂っていた。「今のこの生活は、本当に自分の生活なのだろうか」と。なんの不足もない穏やかな生活だったが、かえってそれに違和感を感じてしまう。自分はなにか、とんでもない事を忘れているんじゃないか。そんな焦燥感が募ったある日、家を飛び出して電車に乗ろうと駅へと向かった。すると突然魔法少女が現れて攻撃されて、気が付いたらアンゲストの、この建物にいた。そこには私と同じように、魔法少女たちに襲われて逃げ惑う人々が隠れ住んでいた―…

「私は彼らをまとめあげた。一人であの力に対抗することなどできない。皆で協力しあって魔法少女を倒し、この世界を変えたいと…。」

「そう……だったのですか」

「ディアナ。お前もこのアンゲストのアジトに現われたんだ。同じように魔法少女に攻撃を受けて逃げてきたのだろう? 街にいたら、彼女らに攻撃をされるから」

 そう言われて、輝羽は首をひねった。そんな事はなかった。輝羽は物心ついた時からこの「アンゲスト」のアジトにいて、メンバーとなっていたのだ。魔法少女に攻撃されて、逃げてきたわけではない。ウォルターやライデンのように、『絶対に魔法少女を倒す』という強い気持ちがあるわけでもない。しかし、ウォルターが今言っていた『この生活に感じる違和感』には身に覚えがあった。輝羽は戦いが嫌いなのに、なぜかこのアンゲストにいた。しかしそれがいつ、どうしてなのか、物心つく前、どこにいて何をしていたのか、思い出せない。過去の事を思い出そうとすると、頭はギアを落としたように、ちゃんと働かなくなる。

「ボス。実は私は、魔法少女の方から攻撃された事はないんです。気が付いたら、このアンゲストにいた。だけど……今ボスが言っていた『本当の自分の生活じゃない』という気持ちは、身に覚えがあります。」

 そう、輝羽はこのアンゲストに入りたくて入っているわけではない。本当なら、もっと平和に暮らしたい。だけど、自分に対する違和感を感じるというところは、同じだ。

「ボス、この違和感って……何なんでしょう」

 ディアナは思わず聞いていた。するとボスは少し迷ったあと、言った。

「我々はもしかしたら――魔法少女たちに、操作されているのかもしれない」

「え? 操作?」

「『アンゲスト』だけではない。この街のすべてが、彼女に操られている可能性がある。その根拠は二つある。ディアナ、君は、この街に来る前の事を思い出せるか? そして、この街を出れた事が、あるか? どちらも不可能だろう」

 唐突にそう聞かれて、輝羽は考えてみた。このアンゲストに来る前の事は、たしかにぼんやりとしていて思い出せない。気が付いたらここに居て、居心地の悪さを感じながらも「女幹部」としての役割をこなしたていた。街の外に出る事についても、考えた事もなかった。

「――確かに、ここに来る前の事を思い出せないし、外へ出た事もありません」

「そうだよな。ほとんどの人は、何の疑問も持たず、この街を出ないで生活している。だが過去を思い出せないのも、移動をしないのも、不自然な事だ。私はそれに気が付いて、街から出ようとしたら、魔法少女に攻撃をされた。彼女らに攻撃をされたせいで、我々はこの街の『悪』として生きていかざるをえなくなった。」

「……なんで魔法少女たちは、私たちを出したくないんでしょう? 外に出られると、都合が悪い事があるの……?」

 ウォルターはうなずいた。

「私はそうだと思っている。だからとにかく、魔法少女を倒せば、外に出れるのではないかと思っていた。だが、我々がどうあがいても、戦闘で彼女らに勝つのは不可能だと言う事がわかってきた」

 そこまで説明されて、輝羽はやっとウォルターの真意がわかった。

「…だから、魔法少女そのものを倒すより、その背後の存在を―という事なのですね」

「そうだ。黒幕を探し出して問う。私たちをここから出さないのはどういうつもりなのか。なぜ魔法少女に、我々を攻撃させるのか。そして自由を勝ち取るんだ」

 あまりに強いその眼光に、輝羽は思わずうなずいていた。

 だが、ウォルターの説には、少しの違和感も感じるのだ。無意識に、ディアナは拳を握っていた。ミルキーを切ったこの感触を、きっとずっと、自分は忘れられないだろう。

(あの子…私にわざと負けた)

 そう、ミルキーは明らかに攻撃をためらっていた。今までも手加減しているのは感じていたが、今日は一切、輝羽に向けて攻撃をしなかったのだ。つまりミルキーは、いつきは―…

(私の事を、本当に、傷つけたくないって思っていたんだ)

 ミルキーが敵とわかって輝羽に近づき、好意を演じているかもしれないという疑念は、そう気が付いた瞬間綺麗に消えてしまった。

もしもウォルターの言うように、魔法少女たちは黒幕の手先で、この街を支配しているのだとしたら――輝羽との戦いに手を抜くような事は、考えられないだろう。ましてや敵に情を移すなど―…

(そうよ、感情。私にも彼女にもあるこの気持ち。これのせいで私、なんだか最近おかしいんだわ)

 ミルキーの事を考えていると、輝羽の「この世界に対する違和感」はますます強くなるのだ。

 最初一目見た時から、理屈抜きでディアナはミルキーが気に入らなかった。それには理由がある。

(あの子が、あんまり可愛い姿をしていたから。私の…理想の女の子だったから)

その子は輝く髪の色の持ち主で、薔薇色の頬に、うっすらはかなげな笑みを浮かべている。この世の可愛いものが、何もかも似合う。そんな容姿の子で。

過去の事はすべてぼんやりしていて、曖昧な自分の脳内に、そんなイメージがあるとは気が付いていなかった。けれどミルキーを見た瞬間に気が付いたのだ。その子はずっと自分の脳内にいたのだと言う事に。

 彼女のイメージは、一体どこからやってきたのだ?

 輝羽はどこで、「理想の女の子」を脳内に刻み込んでいたのだろう?もっと簡潔に言えば。

(私は、あの子のイメージをどこで見たの…?)


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