表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/35

死んじゃうかも、でも

(もーーーっ!!何で今なのぉ!!!)

 戦闘命令に、いつきは地団駄をふみたいほど悔しかったが、無視する事もできない。

(だって…魔法少女、だから…)

 お互い携帯に連絡が入ったので、2人はいそいそと急用ができてしまったと嘘をついて、見事に反対方向へと別れた。いつきはため息をつきながら変身し、指定された場所へとアイテムを使って転移した。

「って、うそ…!?」

 転移されたのは、なんと自宅だった。うちの建物の前に、雷司―いや、ライデンが立っていた。ミルキーは家に何かされる前に、すばやくコンパクトを取り出した…が、ライデンのレイピアが一閃し、コンパクトはミルキーの手から叩き落された。

「あっ!」

 慌てて掴もうとしたが、すでに遅かった。

「かえしてっ!」

「これは我々がしばらく預からせてもらおう」

「そうはさせない!」

 コンパクトがなければ転移も回復もできない。ミルキーはステッキを鋭くふった。

「ミルキースパークッ!」 

 白い火花が、ステッキから炸裂する。しかしライデンはひらりとそれをよけた。

「狙いが外れているよ!君らしくもない」

 その通りだ。慌てて短絡的な攻撃をしてしまった。家の前で、コンパクトを相手に奪われ…その動揺を、相手に見透かされている。

 しかし次の瞬間、ミルキーはさらに動揺していた。

「輝…ディ、ディアナ」

 たったいまやってきたディアナが、ライデンの隣に並んだからだ。急いで支度をしてきたのか、その息は弾んでいる。

「遅いぞディアナ。もう済んだ」

 ライデンが手にしたコンパクトを見て、ディアナは目を丸くした。

「あら、手に入れたの」

 ディアナはちらりとミルキーを見たあと、これ以上目を合わせるのは嫌だといわんばかりに背をむけた。

「なら帰りましょ」

「そうだな」

 しかしミルキーとしてはこのまま彼らを帰すわけにはいかない。なんとかコンパクトを取り戻さなければ。

「待ちなさいッ!」

 ミルキーは立て続けにライデンに先ほどの火花を放った。

「ふっ、無駄さ」

 ミルキーの予想通り、彼は左に横跳びし、それを華麗によけた。あらかじめ滞空させていたミルキーボムが、その場所で炸裂した。

「っく…!」

 ボムはライデンの背中を焼いた。ダメージを負った彼は、体を支えきれず地面に手をついた。倒すつもりはない。ただコンパクトを取り返せれば…。でも、焦ってあまり手加減ができなかった。駆け寄ろうとしたミルキーの前に、ディアナが立ちふさがる。

「よくもやってくれたわね…私たちは、魔法少女と違って一度消滅したら元に戻らないのよ!」

 その目は、悲しみと怒りに揺れていた。ミルキーはその視線に、刺し貫かれたような痛みを感じた。

 さきほどまで会話をかわしていた輝羽―…ディアナに、憎悪を向けられている。その事がショックだった。

(…なかよく、なれたのに…)

 ディアナはミルキーの正体を知っているのだろうか?知っていて今怒っているのか。それとも知らないでいつも通り戦っているのか。

(どうか…どうかばれていませんように…!)

 卑怯だとしても、ミルキーはそう祈らずにはいられなかった。さきほどつないだ手の感触が、まだ手に残っている。顔をこわばらせ、唇をぎゅっと結んでミルキーは言った。

「コンパクトを…返して!返してくれれば、戦わないから!」

 ディアナの手がぴくっと動いた。ライデンは地面に手をついたまま、ディアナを見上げた。

「戦って…時間を稼いでくれ!そのあいだに俺は回復の方法を、調べるから」

 ディアナはうなずいて、戦斧を持ち上げた。

「あなたを…倒すわ」

 

 ディアナと、まともに戦えるわけがなかった。

(だって、輝羽ちゃんなんだもん…!)

 しかしミルキーの胸中を知る由もないディアナの方は、容赦なかった。ミルキーは技を出さず、ロッドでその斧の攻撃をがっきと受け止める。

「…なんで技を出さないの…?ライデンにしたように」

 斧の衝撃に、ミルキーのロッドが震える。もう一撃くらえば、きっと折れて消滅してしまうだろう。

「ほらほら…もう限界よ!この可愛いロッドとやら」

 皮肉な台詞でミルキーを追い詰めつつも、ディアナの目は不安げに揺れていた。そのさだまらないまなざしに、ミルキーはつい考えてしまう。

(なんで私を睨まないで…すぐ目をそらすの?やっぱり私がいつきだって、知っているの…?)

 それならなおさら、攻撃なんてできない。ライデンはできたけど、ディアナを痛めつけるなんて。

 ミルキーは諦めて、手の力を抜いた。銀色の斧の輝きが、ミルキーの目に映る。その直後、体に衝撃がやってくる。

 ここまで強い一撃を体に受けるのは、初めてだった。

(コンパクトをとられたから、死んじゃうかも―――でも)

 ディアナの手によって、倒されてしまうのは、思ったよりも―――

(悪くない…ううん、すてき)

 そして、ミルキーは目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ