死んじゃうかも、でも
(もーーーっ!!何で今なのぉ!!!)
戦闘命令に、いつきは地団駄をふみたいほど悔しかったが、無視する事もできない。
(だって…魔法少女、だから…)
お互い携帯に連絡が入ったので、2人はいそいそと急用ができてしまったと嘘をついて、見事に反対方向へと別れた。いつきはため息をつきながら変身し、指定された場所へとアイテムを使って転移した。
「って、うそ…!?」
転移されたのは、なんと自宅だった。うちの建物の前に、雷司―いや、ライデンが立っていた。ミルキーは家に何かされる前に、すばやくコンパクトを取り出した…が、ライデンのレイピアが一閃し、コンパクトはミルキーの手から叩き落された。
「あっ!」
慌てて掴もうとしたが、すでに遅かった。
「かえしてっ!」
「これは我々がしばらく預からせてもらおう」
「そうはさせない!」
コンパクトがなければ転移も回復もできない。ミルキーはステッキを鋭くふった。
「ミルキースパークッ!」
白い火花が、ステッキから炸裂する。しかしライデンはひらりとそれをよけた。
「狙いが外れているよ!君らしくもない」
その通りだ。慌てて短絡的な攻撃をしてしまった。家の前で、コンパクトを相手に奪われ…その動揺を、相手に見透かされている。
しかし次の瞬間、ミルキーはさらに動揺していた。
「輝…ディ、ディアナ」
たったいまやってきたディアナが、ライデンの隣に並んだからだ。急いで支度をしてきたのか、その息は弾んでいる。
「遅いぞディアナ。もう済んだ」
ライデンが手にしたコンパクトを見て、ディアナは目を丸くした。
「あら、手に入れたの」
ディアナはちらりとミルキーを見たあと、これ以上目を合わせるのは嫌だといわんばかりに背をむけた。
「なら帰りましょ」
「そうだな」
しかしミルキーとしてはこのまま彼らを帰すわけにはいかない。なんとかコンパクトを取り戻さなければ。
「待ちなさいッ!」
ミルキーは立て続けにライデンに先ほどの火花を放った。
「ふっ、無駄さ」
ミルキーの予想通り、彼は左に横跳びし、それを華麗によけた。あらかじめ滞空させていたミルキーボムが、その場所で炸裂した。
「っく…!」
ボムはライデンの背中を焼いた。ダメージを負った彼は、体を支えきれず地面に手をついた。倒すつもりはない。ただコンパクトを取り返せれば…。でも、焦ってあまり手加減ができなかった。駆け寄ろうとしたミルキーの前に、ディアナが立ちふさがる。
「よくもやってくれたわね…私たちは、魔法少女と違って一度消滅したら元に戻らないのよ!」
その目は、悲しみと怒りに揺れていた。ミルキーはその視線に、刺し貫かれたような痛みを感じた。
さきほどまで会話をかわしていた輝羽―…ディアナに、憎悪を向けられている。その事がショックだった。
(…なかよく、なれたのに…)
ディアナはミルキーの正体を知っているのだろうか?知っていて今怒っているのか。それとも知らないでいつも通り戦っているのか。
(どうか…どうかばれていませんように…!)
卑怯だとしても、ミルキーはそう祈らずにはいられなかった。さきほどつないだ手の感触が、まだ手に残っている。顔をこわばらせ、唇をぎゅっと結んでミルキーは言った。
「コンパクトを…返して!返してくれれば、戦わないから!」
ディアナの手がぴくっと動いた。ライデンは地面に手をついたまま、ディアナを見上げた。
「戦って…時間を稼いでくれ!そのあいだに俺は回復の方法を、調べるから」
ディアナはうなずいて、戦斧を持ち上げた。
「あなたを…倒すわ」
ディアナと、まともに戦えるわけがなかった。
(だって、輝羽ちゃんなんだもん…!)
しかしミルキーの胸中を知る由もないディアナの方は、容赦なかった。ミルキーは技を出さず、ロッドでその斧の攻撃をがっきと受け止める。
「…なんで技を出さないの…?ライデンにしたように」
斧の衝撃に、ミルキーのロッドが震える。もう一撃くらえば、きっと折れて消滅してしまうだろう。
「ほらほら…もう限界よ!この可愛いロッドとやら」
皮肉な台詞でミルキーを追い詰めつつも、ディアナの目は不安げに揺れていた。そのさだまらないまなざしに、ミルキーはつい考えてしまう。
(なんで私を睨まないで…すぐ目をそらすの?やっぱり私がいつきだって、知っているの…?)
それならなおさら、攻撃なんてできない。ライデンはできたけど、ディアナを痛めつけるなんて。
ミルキーは諦めて、手の力を抜いた。銀色の斧の輝きが、ミルキーの目に映る。その直後、体に衝撃がやってくる。
ここまで強い一撃を体に受けるのは、初めてだった。
(コンパクトをとられたから、死んじゃうかも―――でも)
ディアナの手によって、倒されてしまうのは、思ったよりも―――
(悪くない…ううん、すてき)
そして、ミルキーは目を閉じた。