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ああいう女が一番嫌いっ!

 潜入捜査を通じて、魔法少女たちに近づき、その背後にいる組織を調べよ。それが、アンゲンストのリーダー、ウォルターがディアナとライデンに下した命令だった。

(このクラスには…そう、ミルキーがいる)

 ディアナ…輝羽は斜め前の席に座っているいつきを確認して、すっと目をそらした。変身する前の彼女を見るのは初めてだった。でも、一目見て、彼女がミルキーだとわかった。ふわりとした金色の髪が、緩く2つに結われて天使の輪が浮いている。長い睫毛に、夢見るように薄くひらいた桃色の唇。小さい白い頬は小動物のように愛らしく、髪に結んだ大きな水色のリボンがその頬の横で揺れる。制服は少しサイズが大きいのか、袖口からちょこんと小さな桜貝色の爪先が覗いている。

 魔法少女ミルキーの普段の姿は、輝羽が予想していた通りに誰が見ても、守ってあげたくなるような、そんな可憐な少女だった。

(む…ムカつくのよっ!)

 輝羽はスパイであることも忘れ、ななめ後ろの席からいつきをぎろぎろと眺めた。水色のスカートの下にペチコートを履いているのか、白いフリルが裾から覗く。そこから伸びる足は細く華奢で、足元は白いレースで縁取られた短い靴下に包まれている。机の横にかけられた通学鞄には、白いうさぎのマスコットがいくつもくっついている。

(ムカつく!ムカつく!私はああいう女が一番嫌いっ!)

 なぜかというと――何を隠そう、それはどれも輝羽が喉から手が出るほど欲しいものだったからだ。

 悪の女幹部である以上、華奢な手足も白い肌も薔薇色の頬も、輝羽とは無縁のものだった。白フリルのペチコート?水色の大きなリボン?自分がそんなものを身につけたらお笑い草だ。ミスマッチすぎてホラーの登場人物になってしまうにちがいない。いや痛いお笑い芸人か。

(でもっ…嫌なのよ、私は!あんなテカテカの黒いボディコンも…!網タイツに革のブーツも、ギラギラしたでっかい戦斧バトラックスもっ…!私も本当は)

 砂糖菓子みたいな、可愛い服が着たいのに。可愛いものにかこまれて、にこにこしながら過ごしていたいのに。戦いで戦斧を誰かに振り下ろすのも、輝羽はあまり好きではなかった。

(嫌よ、私も相手も、痛いじゃない…本当は戦うなんて、私向いてないのに)

 目的のために戦ってはいるが、本当は人が傷つく所を見るのは苦手だった。同じ女幹部でも、できれば裏方の事務などがしたかった。たとえば参謀とか。

「輝羽、どうしたんだ」

 歯をギリギリとかみしめる輝羽を、雷司ことライデンが横目でチラリと見た。輝羽はとたんに、取り澄ました無表情を装って、クールにつぶやいた。

「なんでもないわ。早く仕事にとりかかりましょ。こんな場所、あなたも長くはいたくないでしょ」

 するとライデンは薄く微笑んだ。黒髪に真っ赤な目。ライデンはウォルターの一番のお気に入りのメンバーの一人だった。けんかっ早く短絡的な部分もあるが、誰とでもすぐ打ち解けることのできる性格で、戦闘の腕も良い。

「そうだな、さすが輝羽だ。ボスが見込んだだけのことはある」

 輝羽はアンゲストにやってきてからまだ日が浅いが、クールな見た目と、頼まれた事はきっちりこなしてしまう性格のせいで、ボスに過大評価されて雷司と作戦行動を組まされている。

(ああもう、なにが見込んだ、よッ。毎日切った張ったでやんなっちゃう…) 

こんなの、本当の自分じゃない。しかし、「本当の自分」がではどういうものなのかと自問自答すると、その答えはあいまいで、つかみどころがないのだった。「アンゲスト」に所属してはいるが、戦う理由はいまだによくわかっていない。

だから自分に期待される「役割」を察して、演じるしかない。輝羽は隣の雷司に向かってにやりと笑い、ぴったりの台詞を言う。内心で自分自身に突っ込みながら。

「ふん、見くびらないでほしいわね。私を誰だと思っているの」

(いやーっ!何この自信満々な感じ!?鳥肌立っちゃうッ!) 


 潜入したからには、仕事をしなくてはいけない。雷司が他のクラスの魔法少女を探している間、輝羽はいつきに対して行動を起こした。

「ごめんなさい、ちょっといいかしら」

 帰り際、輝羽はたまたま通りかかったという体でいつきを呼び止めた。

「えっ…わ、私っ?!」

いつきはかなり驚いたような顔をしていた。まさか正体がバレている?いや、そんな事はないはず。輝羽はつとめて転校生の演技を続けた。

「保健室って、どこにあるのかしら…?」

 少しお腹を押さえて問いかけた輝羽に、いつきは慌てたように早口で言った。

「えっと、一階の南側にあるよ!よかったら…案内、しようか?」

 しめた。輝羽は1も2もなくうなずいた。いつきが歩き出したので、少し歩調を緩めて、体調の悪さを装う。いつきは心配気にときどき振り返った。

「大丈夫?えっと…輝羽ちゃんって、呼んでいい?」

「いいけど」

 するといつきは、なんの屈託もなく笑顔になった。

「えへへ、すてきな名前だね、輝羽って。」

 知っていたが、いつきは聞いた。

「そうかしら。あなたの名前は?」

「いつき。ひらがなの。よろしくね」

 そういってもういちどいつきは振り返った。笑みの形に開いた口は開けっぴろげそのもので、まるで子どものように無邪気な形をしていた。

(この子…私を前にしても、何も気が付いていないのね)

 もしかしなくてもバ…いや、あまり深く考えない性質なのかもしれない。これなら簡単に騙せそうだ。実際保健室の鍵が閉まっているのを見て、いつきは簡単に罠にひっかかった。

「あれっ、先生がいない…いつもはまだ空いてる時間なのに。もう帰っちゃったのかな?」

 先にライデンと輝羽が手をまわして鍵をかけておいただけなのだが、いつきはこの怪しい状況をすっかり信じ込んで、心配げに輝羽を見上げた。輝羽よりも、いつきのほうがだいぶ身長が低い。

「大丈夫、輝羽ちゃん…帰るの辛い?家はどこ?」

 ここぞとばかりに、輝羽は壁にもたれてずるずる座り込んだ。

「どうしよう…家、遠いの…。」

 お腹を押さえる輝羽に、いつきは安心させるように手を差し出した。

「じゃあ、私の家で休んでいく?学校から近いから」

 …こんなにうまくいくとは拍子抜けだ。だけどこれで、魔法少女ミルキーの根城を調査することができる。輝羽はさしだされたいつきの手をぎゅっと握った。

「きゃっ…輝羽ちゃん、力、つよいんだね」

 いつきはなぜか少し照れたように笑い―…輝羽の手を、同じように握り返した。


登場人物たちの名前が2つあってわかりにくくてすみません。


いつき=ミルキー

輝羽=ディアナ

雷司=ライデン


です。

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