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この場所は

 人生には、空模様がある。いいときはずっと晴れが続くし、逆に雪や嵐の日もある―…

 そういったのは、誰だったか。輝羽はアジトの自室で一人、そんな事を考えていた。

 ここ数日の状況を空模様に例えるなら、嵐の前、暗雲たちこめる、といった所だろうか。

(いつきの姿を見ないわ。学校でも、家でも。それにライデンが―…)

 回復しかけていたライデンは、先日輝羽と一緒に戦闘に出た。それが、彼の最後の戦いになってしまった。魔法少女の攻撃を受けて消滅する際、彼は輝羽の手を握って言った。

「ああ、俺どうなるんだろう、消えてなくなるんかな―…。」

 輝羽はライデンを抱き起して言った。

「なくならないわ!言ったでしょ、外の世界があるのよ!だから本当に消えるわけじゃなくって…」

「でも、もうお前とこうしてしゃべったり動いたりできないわけだろ。俺はこの世界からは消えるんだ――それって、死ぬのと同じだよな」

 輝羽の顔が歪んだのを見て、ライデンはへへっと笑った。

「ごめんな。こんなこと言われても困るよな。でもお前は―…やりたいこと、あるんだろ」

「…ええ」

「外の世界に、行けるといいな」

「あなたも、きっとそこへ行くのよ!だから―私、ライデンを探しにいくから。あなただけじゃない、今まで消えていった仲間、皆をよ」

「へへっ…頼もしいな…じゃあ、待ってるから…俺も、ラミアも…」

 ライデンはそう言って目を閉じて、消えた。

 意気消沈して輝羽はアジトに戻った。すると、消えたのはライデンだけではないという報告を受けた。

 アンゲンストは、ボスと輝羽、そしてあと数人しか残っていなかった。

「…これは、相手は総攻撃を仕掛けてきているとみていいだろう。我々を全滅させる気なのだ」

 人数の少なくなった会議で、ウォルターは重々しくそう述べた。

「ディアナ、博士の事について新しくわかったことはあるか」

 輝羽は重い口を開いた。

「数日観察していますが、彼自身が観測できないのはもちろん、数日前からミルキーも姿を消してしまいました。」

「ミルキーもか?たしか博士は、彼女に執着していただろう」

「ええ。なので姿が見えないのは―…博士が彼女を見えない場所に監禁しているのか、もしくは―彼女の活動を停止させてしまったのか。消したと言うことも考えられます」

 輝羽は考えうる可能性を一つ一つ口にしたあと、意を決して言った。

「実は、ミルキーの姿が見えなくなった理由には、心あたりがあります―…。」

 事態はさしせまっている。明日は自分が、どこかの魔法少女に負けて消されてしまうかもしれない。輝羽は禁を破る事にした。

「私はミルキーと、密かに同盟を結びました。彼女もまた、この世界に、自分の存在に、疑問を持っていたのです。私は彼女に、博士の弱点をさぐるように言いました。」

 ウォルタ―は少し驚いた様子だったが、すぐにうなずいて意見を言った。

「なるほど…つまりは博士にそれがばれてしまって、ミルキーは捕まっている可能性があるということか。もう君と接触しないようにと。で、ミルキーから博士の情報はとれたか?」

「いいえ。それを聞く前に、彼女は行方不明となってしまいました。ですが一つ、不思議な事が―…」

 輝羽はとうとう、誰にも言ったことのない『エル』の事を、残り少ないメンバーに話した。ウォルターの目には驚愕の色が浮かんでいた。

「地球―…この外の世界は、地球、というのか。そして、この世界は嘘だ、と…?」

「はい。彼女はそういっていました。…彼女が本当の事を言っているという保証は、ありませんが」

「もし、それが事実だと仮定して―…ならばなぜ、外で生きているはずの我々は、以前の記憶を一切持たずここで意味もない戦闘に明け暮れているのだろう?」

「わかりません―…でも何か理由があるのだと思います。ここが架空の街でも、地球の内側でも関係ない、と。みなさん…」

 ここで輝羽は言葉を切って、メンバーたちを見た。

「地球、って言葉…何か、感じませんか?私は思い出せそうで思い出せないんです」

 輝羽のその言葉に、全員が何かしら考えるような顔つきになった。

「地球…地球…ああ、ディアナのいう通りだ。知らないのに、知っている気がする」

「懐かしい感じがするなぁ」

 皆次々とそういって首をひねった。

「とすると―…このゲームの外の世界の『地球』というのは…ただの名称ではなくて、何か重要な意味を持つ言葉だったのかもしれないな」

 ウォルタ―がそう言った。たしかあのときエルは、地球は「太陽系第三惑星」なのだと言っていた。意味はようわからない。だけど「太陽」―…それもまた、輝羽の中でひっかかる言葉だ。

「はい。そして彼女は『早く目覚めて』と言っていました。きっと目ざめなければ、何か取返しのつかない事が起こってしまうのではないでしょうか」

 ウォルターの額に、深い皺がよった。

「そこが不可解だ。我々はすでに目覚めている。これ以上どうすれば、目を覚ますことになるんだ。」

「いえ、多分…彼女はこの世界から出ることを、『目覚める』と言っているのだと思います」

 言いながらも、輝羽の肩は落ちていった。そんな方法は、ここにいる誰も知らないのだ。だから博士の弱点を洗い出して、吐かせるつもりだったのに―…

(いつきまで…犠牲になってしまった。私のせいだ)

 自責の念に、輝羽の胸はみしみし痛んだ。もういつきに会えないのかもしれないと思うと、胸はさらに潰れそうになった。自分は、彼女を失ってしまったのだろうか。ライデンの気持ちが、今となったらよくわかる。

(彼も助けると、言ったのに―…)

 ただただ唇をかみしめる輝羽に、ふとウォルターが問いかけた。

「またその『エル』に、接触できないだろうか」

「私も…そう思いました。ですが彼女はミルキーを通して現れたのです。他の方法は…見当もつきません」

 ウォルタ―はじっと宙をにらみつけ、しばし沈黙してから―その口を開いた。

「となれば、ミルキーを探しにいくのが最善手か」

「ですが…」

「このままアジトに籠っていても、一人、また一人とつぶされるだけだ。それならば、まだ多少なりとも人が残っているうちに、打って出たほうが成功率が上がる」

 それは最もだった。だが輝羽は素直にうなずけなかった。胸がぎゅうと痛むのを無視して、輝羽は最悪の可能性を口にした。

「でも、ミルキーがこの世界にすでにいない可能性もあります。そうなれば、我々は無意味に危険に身を晒しにいくことになります。だから―…」

 輝羽はぐるりと回りを見渡した。

「私が一人で行きます」

 しかしウォルターは首を振った。

「それは効率が悪い。あの博士はきっと手ごわい相手だろう。ミルキーを操って君を攻撃してくるかもしれない。君ひとりでは、何も聞き出せないまま終わってしまう可能性が高い。そうなれば、我々は『エル』とのパイプを失うことになる。彼女は君に会いに来た、と言ったのだろう」

「そうですが―…」

「ならば我々皆の、最大戦力でいったほうがいいだろう。」

 今度はウォルターがメンバーを見渡した。どのメンバーも、覚悟はできているという目で彼を見返した。

 それを見て輝羽は、一人で行くのをあきらめた。

「わかりました。ではみんな…よろしくお願いします」


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