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それは無償の愛だった

作者: Silk

晴れた昼下がり

長い長いえんとつの先から

白い白い煙が空へと昇る

大好きなあの人の魂が静かに天へと旅立つ










「ごめん、やっぱり癌だったよ」


その一言に頭を殴られたような衝撃が走る

それはとても晴れた日で、高くなった空にヒグラシの声

季節の変わり目を過ぎたのに、戻ってしまったような暑さの中

いつもの会話の延長の様に、何気ない口調で伝えられた言葉はまるで、夢の中のようで

ただ、横を走る車のクラクションとざわめきが遠くから意識を引き戻す


「もう、しょうがないことだからさ、受け止めてるんだけど、ただ…」





「ただ君を遺して逝く事だけが心配だ」





そう言って困ったように笑うあなたの顔が今も鮮明に思い出される




私はいつも我儘で、あなたを頼ってばかりで、優しさに甘えてばかりいた

貰うことに慣れすぎて与えることは出来なくて

それでもあなたはいつも私の味方でいてくれた



残されたリミットは3ヶ月

治療をしたら1年前後

迷うことなく戦うことを選んだあなたは、最期まで弱音は吐かなかった




治療法は全て、あなたには合わなかった

想像を絶するだろう副作用と、身体に散らばった腫瘍の痛みでご飯も食べれず水分も摂れず

それでもあなたは、泣き言一つ言わず、怨み言も残さず静かに戦い続けた



動ける日はリハビリに励み退院する日には自力で歩くと直向きに努力を重ねたあなたは、誰も予期せぬタイミングで一人静かに逝ってしまった



告げられていたリミットは超えることのできぬまま、ひたすらに一人病院で戦った3ヶ月弱

あなたに会うことは叶わなかった



まだ暖かさが残る顔に触れる

多くて嫌だと嘆いていた髪は半分以上抜け落ちて、元々痩せていた身体は、益々細くなっていて、それでも穏やかに眠るあなたは私が泣いたら起きてくれそうで



ただあなたの身体を抱いて泣くしかできなかった












空を見上げながら、あなたのことを思う

もっと、沢山色んなことをすればよかった

沢山、大好きだと伝えればよかった

もっと大事にすればよかった




もっと、もっと、もっと






もうすぐ呼び出しのアナウンスが流れる

あなたとの最期の別れが近づく





「もう、お別れの時間だね

悲しいけれど、辛いけれど、

あなたが心配してゆっくり休めないから

だから、私は前を向くよ

無理矢理にでも歩いていくよ

それが私が最後にできる恩返しだから」




もしも来世があるのなら、また逢いましょう

その時はちゃんと伝えるから、昔みたいに抱きしめて

照れて逃げたりしないでね

大好きだよ 心から



たくさんの愛をありがとう






最愛の母

貴女の娘であることを誇りに思う


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