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クローバーに想いを込めて  作者: ユキキ
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クローバーに込めた約束

 低い唸り声が私に目掛けて迫ってくる。

 大きな雑草の中を掻き分けて進んでいく1人と1匹の細長い影が後方へ伸びていく。

 気がつけば周囲に逃げ場がなく、目の前には大きな崖が口を開けていた。

「だっ…誰かぁ…。」

 必死で助けを呼ぼうにも、喉の奥でつっかえ、掠れた声だけがこだまする。

 辺りを見回すと、徐々に暗くなり、私を恐怖に包んでいく。

 私よりも大きい犬が、鋭い眼光でこちらへ近づいてくる。

 私は決意した。

 もう、ここまでだと…。

 体の震えが抑えられず、ゆっくりと立ち竦んでいく。

 もう精神も身体も限界だった。

 どんなに願っても助けは来ない…。

 この海と山に囲まれた街の片隅で、私は静かに目を閉じた。

 

  「さよなら」


 ガァーガァー。

 周囲がざわめき、重いシャッターを押し上げるように目を見開くと、そこには先程の大きな犬と私の間に存在していなかったものがあった。

 おそらく私と同等の背丈の少年だろうか…。

 風でなびく黒髪。

 逆光のせいか顔は見えない。

 片手で逆光遮るが、見えるのは少年の青黒い服装と握り締めている大きな木の枝。

 少年は持っていた大きな枝を振り回し、犬に威嚇の意思を示す。

 ここから先に踏み込めば、この大きな枝で攻撃するからな!っと…。

 大きな枝を振り回す少年に遮られ、思う通りに踏み込めない犬。

 諦めたのか、それとも少年の勇姿に感服したのか。

 大きな犬は草むらの方へと足早に去っていった。


「ありがとう。」

 気がつけば、私は感謝を述べていた。

 私の言葉を耳にした瞬間、彼の体勢は崩れ落ちていく。

 息を切らせて、ゆっくりとこっちを振り返る。

 だが、空にある残り火が少年の素顔を覆い隠してしまう。

「良かった…」

 震えた声から発せられた少年の一言で、ようやく事が終わったのだと、私にも安堵が訪れた気がした…。


「ところで、何で犬に追われていたの?」

 急な彼の問いかけに意表をつかれた私は、その問いかけに素直に答える。

「前に妹から四ツ葉のクローバーをせがまれて…1つしかない四ツ葉のクローバーを渡したの。だから、私はもう1度積みに来たの。そこで、探しているうちに大きな犬と遭ってしまって…」

 話しているうちに、また終わりを迎えた恐怖が私を襲う。

 全身に悪寒が走り、身震いする。

「なるほど、大変だったね…」

 少年はそう言うだけで、そこから先は聞こくことはなかった。

 何で私を助けてくれたのか、ここにいるのか、質問攻めする私を無視して、獣道を進む。

 丈の長い雑草を掻き分けて進む中、置いて行かれないように必死で少年の後ろをついていく。

 もう、あんな怖い思いはしたくない…。

 流れていきそうな思いをこらえて、今は前へ進むしかない。

 獣道を進んで先には見たことのある整理された道が見えた。

 足が道に近づくに連れて軽くなっていくように感じる。


 もう少し、もう少し…。

 町へ着くと、涙ぐんだお母さんが私を強く抱きしめてくれた。

 その後の事はあまり覚えていない。

 警察や両親が心配そうに探してくれたこと…

 その後、まもなく父親が転勤になり、引っ越すことになる。


 引っ越す準備を両親が行っているのを自動車の片隅で見守っている私は、少年に申し訳ない気持ちで満ち溢れていた。

 そんな私が座る後部座席の扉を開いて、有無を確認することなく、私の裾を引っ張って、どこかへ連れて行く少年。

 その少年を見た私は、一目であの時に助けてくれた彼であると気がつく。

「お姉ちゃん、どこいくの?」

 妹が私に問う。

「ちょっとだけお別れを言いに行ってくる。」

 そう言い残して、私はその場を離れた。

 長い草むらをかき分けた先は、凄く綺麗な夕陽が見える崖であった。

「ここは…あの時の…」

 私が口にした言葉の意味を察したのか、頷く彼。

 そして彼は、久しぶりに私に話しかけてくれた。

 その時の事だけはよく覚えている。

 彼をあの日以来、見かけなかったため、本当に久しぶりの事が立て続けに起きたように感じたから…。


「世界に一つだけのキミだけの三ツ葉…。その葉の数だけ願いが叶う」


 彼はそう言うなり、私の手を掴むなり、しっかりと落とさないように大切に渡してくれた三ツ葉のクローバー。

 渡すなり、にっこりと微笑む少年。


 あの日、私は四ツ葉のクローバーを拾いにいったが、探している間に黒い犬に遭遇してしまい、摘めずにいた。

 まさか、あの時の事を覚えていてくれていたのだろうか?

 思考を巡らせている私を他所にして、少年の話は進む。


「ごめんな…。お母さんがあの事件以降、過剰に「外出を禁止」してしまって…。中々外に出れなかった…だから、四ツ葉を摘めなかったごめん…。」


 彼は私に謝るなり、続けて

「その代わりに、コレを…。」

 私は手元を見つめる。

「コレは、ボクのおばあちゃんが願掛けしてくれたものだよ。さっきも言った通り。思いを込めると願いが叶うから…」


 願いが叶うと言われても、ピンとこなかった私は、思わず誰が願いを叶えてくれるの?と聞いてしまった。

 すると、彼は不思議そうに言う。

「願いはボクが叶える!」


 何か矛盾してないか?っと思えるような発言をする彼。

 けど、それでも良かった…。

 だって、彼から貰った初めてのプレゼントだったから。


「ありがとう。これ、大切にするね。」


 その言葉がきっかけになったのかは定かではない。

 しかし、この発言に対して、彼がそっぽを向く。

 もしかして、私は何か気に触ることを言ってしまったのだろうか?

 急に胸が苦しくなるのがわかる。

 まるで、心臓を悪魔が握りしめている様。

 そんなことにお構なしに、彼が呟く。

「 いつかまた、キミを探して会いに来るから!だから、どうかボクのこと…。この三つ葉のクローバーことを忘れずに大切にしてほしい。あの時と今日の思い出とともに…。」

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