決意の夜
眼前に広がる荒野。
俺を取り囲む無数の魔術師達。
隊長格と思われる一人の魔術師が腕を振り下ろしたのを合図に、周囲の魔術師達が一斉に攻撃を開始する。
標的は俺だ。
当然だ、他に立っている者など存在していない。
炎、水、土、様々な元素が混ざり合い、巨大な渦となって迫る。
そこで目が覚めた。
あれはもう半年も前になるのか。
時間の速さに多少驚きながらも、当時のことを思い出した。
半年前のあの日、魔王討伐の旅に出ていた勇者一行から報せが入った。
「魔王の討伐に成功した」というものだった。
その報せは王国全土を駆け巡り、人々は世界平和の訪れを喜び、魔王討伐を成し遂げた勇者一行に惜しみない賛辞を送った。
これがお伽噺であればめでたしめでたしとなるところだが、現実はそうもいかない。
勇者による魔王討伐には様々な障壁が立ちはだかっていた。
それは何も敵対する魔族との間だけの話ではない。
人間達も一致団結して魔王という脅威に立ち向かったとは言えず、勇者に反発する者・国の方針に従わない者はいくらでもいた。
人にはそれぞれの思想があり、それを否定することはできない。
多少の反発等であれば目を瞑れば済むが、規模を大きくなれば見て見ぬふりをするわけにもいかない。
しかし、そこで勇者一行や国が動けば事が大きくなり余計な問題を生む原因にもなりかねない。
勇者という”光”の存在を維持するため、汚れ仕事を引き受ける”影”が必要とされていたのだ。
各国間の工作活動、国内外の敵の排除、それらを解決するには「表に出せない対処」が必要だった。
そこで白羽の矢が立てられたのが俺だった。
俺には生まれついて他者の魔力を感知する能力が備わっていた。
長じるにつれ、魔力を感知するだけではなく、それを通じて他者の思考についても読み取ることが可能になっていた。
この世界では誰も彼もが魔力を有し魔法を使う。
そんな中で俺の能力は王の連中にとってこれ以上無い便利な物だったようだ。
散々酷使されたわけだが、今回の魔王討伐によって用済みと判断され投獄されている。
勇者・国家の”光”を守り維持する為、俺の口から情報が漏れては不味いということだ。
俺自身、国家の為という大義が嫌いだったわけではない。
自分の行動によって国がいくらかでも良い方向に向かうのであれば、という意識ももっていた。
しかし、魔王討伐が成った今でもこの国は何も変わっていない。
魔王という共通の敵が消え、別の敵を見つけただけ。
俺はようやく、自分がただ都合の良いように使われていることに気がつくことができた。
手足に嵌められた枷を見ながら思う。
この国は一度、破壊しなければまともにはなるまい。
そしては誰もいない牢獄の中で1人呟く。
さあ、革命を開始する。