4話:元剣聖、令嬢に挑まれる
――翌日
朝食を食べた俺は昨日エトワールさんに言われた事を考えながら、鍛錬しようと中庭に向かっていた。
どうして突然、俺にシャルロットの騎士になれと言ったのだろうか?
無能と言われる俺にそんなことを頼んでも、無意味だと思うのに。
そんなことを考えていると中庭に着いていた。
自分も始めようとしたが、そこにいたのは――シャルロットであった。
「シャルロット様?」
彼女は一心で素振りを行っていた。
真剣に真っすぐ。だがそんな彼女の剣には信念というよりも、何か他の想いが剣に宿っているように感じた。
だがそんな彼女の剣が俺には美しく、そして眩しく見えたのだ。
「アルス? どうしてここに?」
「動かないと体が鈍ってしまいますからね」
「そう」
シャルロットは中断し近くのベンチに座り水分を取り、俺は休憩をするシャルロット様の下へと向かう。
「お隣に座っても?」
「ええ、いいわ」
「では失礼します」
「ねえ、ちょっといい?」
「何でしょうか?」
座った俺にシャルロットは尋ねてきた。
「あなたは『無能』と言われて悔しくなかったの?」
「そうですね。悔しくはなかったですね」
「理由を聞いても?」
「もちろんです」
「なら聞かせてちょうだい」
俺は理由を語った。とは言っても大した理由ではない。
「昨日も言いましたが、ただ――自分の思うがままに自由に生きたい、それだけですよ」
「そう。自由に、ね……」
「何かあったのですか? 悩みくらいなら聞きますが?」
「どうして私に悩みがあると?」
「剣から信念とはまた別に、何か他の想いが伝わってきましたから」
俺の言葉にシャルロットは驚いたような顔をしていた。
当てられたことに驚いているのだろうか?
「私に姉がいるのは知っているわよね?」
突然シャルロットがそう切り出した。
「はい。セシリア様、ですよね? たしか剣では王国最強と噂の」
「そうよ。そんな姉様と私はいつも比べられてきた」
それだけ聞けば嫌でもわかってしまう。
シャルロットがどんな人生を送ってきたのかを。
「努力してもしてもいつも姉様と比べられて、誰も私の努力を見てくれない。見てくれるのはいつもお父様とお母様のみ……」
どんどんと意気消沈していくシャルロットに、俺は何て声をかけようか迷っていた。
「剣を止めようにも止められなくて……そんな中あなたの噂を耳に挟んだわ」
「噂?」
「そう。レーヴェン家には剣もまともに振るえない無能がいると」
シャルロットが言った言葉に俺は思わず笑ってしまった。
「なんで笑うのよ?」
「だってそれは周りが勝手に決め付けただけでしょう? なら私は気にしませんよ。それにその人の努力と実力を見抜けない時点で剣士として、騎士として三流以下です。私の相手にもなりませんね」
俺はそう切って捨て、「失礼」と言ってシャルロットの手を取り手の平を見た。
「あなたはこんなにも努力してるじゃないですか。鍛錬で出来たこの手の傷が全てを証明してくれます」
「――ッ! ありがとう……」
シャルロットは若干頬を染めたまま立ち上がり、俺に剣を向けた。
「私と勝負しなさい」
「……分かりました」
俺は何も聞かずにその申し出入りを受けたのだった。
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