2話:元剣聖、人助けをする
追い出された俺は近くの小さな街へと到着した。
計画通り追い出されたのは良かったが、これからどこに向かうか考えていた。
取り敢えずは冒険者になって路銀を稼ぐのが妥当だろうか?
冒険者とは、冒険者ギルドという組合に登録し、魔物や雑用を報酬さえもらえれば何でもする、いわば何でも屋みたいな職業の事だ。
街を歩いていると、いかつい冒険者みたいな店主に声をかけられた。
「そこの坊ちゃん。若鳥の串焼きはどうだい? 美味しいよ」
「え? 自分ですか?」
そう言って俺は自分を指差す。
「そうだ。どうだい?」
「いい匂いですね。一つ頂きます」
「あいよ。100イエンだ」
俺はポケットから100イエンを取り出して店主へと手渡す。
「まいどっ」
店主から受け取ってすぐに俺は串焼きを頬張った。
うん。これ美味いぞ。
「美味いですね。もう一本良いですか?」
「まいど。そうだろう? 人気だからな」
「あの、一つ質問が」
「なんだい?」
「この近くで冒険者ギルドってありませんか?」
「すまねぇが隣街にいかないと無いな。ここは街と街を繋ぐ中継地みたいな小さい街だから冒険者ギルドは無いんだ」
そうだったのか。てっきりこの街にあると思っていた。
店主は続ける。
「この先にエーラルっていう大きな街がある。そこに行くといい。あそこなら冒険者ギルドがある」
「助かります。結構詳しいですね?」
「こう見えても元冒険者だからな」
見た目通り元ではあるが、冒険者だったようだ。
「あ、お礼と言っては何ですが、あと5本追加で」
「まいど!」
俺は店主から串焼きを受け取り宿を探した。
手持ちの金、10万イエンが全財産となっているため、無駄遣いが出来ない。
殆どが宿と食事で消えるだろう。
気が付けば空が茜色に染まっており、露店や飲食店が賑わいをみせてきた。
串焼きを食べながら宿を見つける。
そして俺は一泊1万イエン宿を見つけ、そこで一夜を明かすのだった。
翌日、俺は朝食を済ませ早めに宿を出た。
一日も早くお金を稼ぐためだ。
街道を歩きながら俺は考える。
このまま目的も無い旅を続けるのもいいだろう。だが、前世ではこの剣を捧げる人がいなかった。そんな人を見つけるのも良いだろう。
「まあ、そんなに早く見つかるわけないか……」
そんなことを考えていたら、俺はとある気配を捉えた。
それなりに強い魔物の気配だ。距離からしておおよそ2キロといったところだろうか。
その気配に、数人の人の気配が混じっていた。
「戦闘中、なのか……? 確認して見るか」
俺は身体強化を発動し、現場へと向かう。この速度なら数分で到着するだろう。
一人、人の気配が消えた。魔物にやられたのだ。
これは不味いかもしれない。
さらに強化を強め急行した。
到着すると、三人の騎士だろう人が一台の馬車を守るようにして、一体の背丈3メートルはある熊の魔物と戦っていた。
これは助けた方が良いだろう。
「加勢します!」
そう言って俺は腰に付けている剣を抜き、参戦した。
俺は一瞬で熊の懐へと接近し、剣を振った。
すると熊の首はズレ落ち、その巨体は大きな音を響かせて地面に崩れ落ちた。
剣に付着した血を振り払って納刀すると、騎士達から声をかけられる。
「助かりました。このままでは全滅していたかもしれません」
「私からも感謝を。ですがグリスグリズリーを一瞬で……」
「あなたは命の恩人です」
三者三様に感謝の言葉を俺に言ってくる。
「いえ、たまたま戦闘の音が聞こえたものですから。駆けつけて見れば危ない様でしたので加勢させていただきました。ですがもう少し私が早く駆けつけていれば犠牲はもう少し減らせたのに……すみません」
俺は思ったことをそのままに伝えた。
「確かにそうかもしれません。ですがあなたが来なければ私達のみならず、この馬車に乗っているお方にも……」
「あの、誰が馬車に乗っておられるので?」
結構身分の高い人の馬車だろう。
レーヴェン家でもここまでの馬車を見たことは無い。
その時馬車の扉が開き、一人の少女と一人のおっさんが下りてきた。
「先程は助けていただきありがとうございます。馬車の中からでしたが、戦いを見ていました」
そう言って少女は綺麗なお辞儀をして見せた。
「私からもお礼を言う。ありがとう」
そうして一緒に降りてきたダンディーなおっさんも軽く頭を下げた。
少女の方は金髪のツーサイドアップに、ぱっちりとした緋色の瞳が特徴的な美少女だった。
「いえ、それほどのことはしておりません。では私はこれで――」
「待ちたまえ」
早々に立ち去ろうとした俺をおっさんが引き留めた。
「何処に向かっているのかね?」
「え? はい。エーラルって街に向かってます」
「そうか。なら丁度良い。私達もそこに向かっているところなんだ。良かったら一緒にどうかね?」
俺はもう一人の少女の方を確認する。
「是非一緒に」
「分かりました。ご迷惑でなければお願いします」
それから、先の戦闘で亡くなった騎士の遺体を荷台に乗せ、一同は出発した。
俺は馬車の外かと思ったのだが……
「あの、私も中で良いのでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。そうだ。自己紹介がまだだった。私はエトワール・ルスキニア。ここの領主をしている」
「私は次女のシャルロット。お見知りおきを」
ここの領主、それにルスキニアという家名、つまりはこの国の――公爵家だ。
エトワールさんが俺を見て名前を尋ねてくる。
俺はもうレーヴェン家の家名を名乗ることはできない。
「アルスといいます」
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