13話:元剣聖、決着を付ける
俺は気を引き締めて剣を握った。
「あなたは強い。認めましょう。ですが――王国最強はこの私!」
そしてセシリアがその場で剣を振るった。
その場でだ。そこからでは俺に剣が届くはずもない。だが俺には分かる。
セシリアの剣は俺に届く。
「やっぱり、そうできますよね」
無色透明の斬撃が飛んできた。
斬撃が放たれると空間が歪むのでわかりやすいが、初見ではまず回避は出来ないだろう。
俺は分かっていたので同じように振るって斬撃を飛ばす。
二つの斬撃が衝突し衝撃波が生まれる。
「ほう。矢張りあなたがシャルに教えたのね」
「ええ。頑張って習得してもらいました」
「そう」
そしてセシリアは剣を数回振るった。放たれた斬撃の数は3本。
俺にこの数は捌ききれないとふんでいるのだろう。
だが――
「まだ、ですね……」
「それはそういう――」
セシリアが最後まで言う前に、俺は剣を振るった。
振るわれた俺の剣から同時に3本の斬撃が放たれ、セシリアが放った斬撃と衝突した。
俺が同時に3本の斬撃を放ったことに驚いた表情を浮かべるセシリア。
「同時に3本!? 私ですら2本同時が限界なのに、だがっ!」
セシリアは斬撃を放ち俺の背後へと回り斬りつけてきたが、キンッと防がれる。
「見ないで防いだ?!」
「これくらい剣士として当然ですよ。目がやられたら耳と気配のみで戦うことになりますからね」
そう言って俺は振り返り様に身体強化し力任せに吹き飛ばす。
「ぐっ!」
そろそろ終わりにしよう。
「では行きますよ?」
立ち上がり体勢を整えたセシリア。
「――なッ!? いつの間に!」
俺は一瞬で彼女の眼前に移動していた。
使ったのは縮地。だが使ったという言葉には語弊がある。
縮地は武術における技術の一つ。瞬歩とは違い、縮地は一瞬で移動が出来るのだ。
俺はそのままセシリアの首元に剣を突き付けた。
セシリアは冷や汗を流した。
そして剣を下ろし口を開いた。
「まさかここまで強いとは……」
「お褒めにあずかり光栄です。では私の勝ちということでいいでしょうか?」
俺の言葉にセシリアは頷く。
「ええ、私の負けよ」
周りが俺とセシリアの試合に賞讃の言葉を送る。
「凄い試合だった」
「だね。まさかアルス君がセシリア様に勝つとは……」
「私にはどちらも凄すぎて良くわかりませんでしたよ」
「そうですね。でもお見事な試合でした」
剣を収めたセシリアはシャルロットの元に歩み寄り頭を下げた。
「すまないシャル。私が悪かった」
「いえ、その……」
「本当に強くなったね、シャル」
セシリアはシャルロットの頭に手を乗せて撫でながらそう言った。
シャルロットの目に涙が溜まり流れ落ちた。
「は、はい……!」
それからしばらく泣いて泣き止んだシャルロットは、セシリアに尋ねた。
「あの、何故「剣を止めろ」と?」
「それは――」
セシリアは顔を赤らめ口を開いた。
「シャルには怪我をさせたくなかったからなの。本当にごめんね」
「そんな理由で……」
エトワールさんとアイーシャさんはその理由に頬を緩め微笑んでいた。
恐らくは、そんな事だろうと思っていたのかもしれない。
俺には人の心を読むなんて芸当は出来ない。だが俺は別に知らなくてもいいのだ。
「でも、これからは頑張って。あなたは強くなれるわ。私よりも」
「セシリア姉様、私、頑張ります! 頑張って強くなります!」
「うん」
そしてセシリアは俺へと向き直り。
「アルス、と言ったわね?」
「はい。先ほどのご無礼、お許しください」
「いいのよ。でも本当に強いわね。私に勝つなんて」
「ありがとうございます」
そうして俺に歩み寄り、耳元でこう言った。
「シャルをしっかり守ってあげて」
「それは勿論です。この命に代えても」
「信じるわ。出来れば私も守ってほしいくらいよ」
「え?」
「強い人は好きよ」
「それは、ありがとうございます。でも――」
続きの言葉はセシリアによって止められた。
人差し指を俺の口に当てたのだ。
「わかってるわ。出来れば、よ」
そう言ってセシリアは俺にウィンクをしてみせた。
ま、まあ、本当に妹思いの姉だ。
そしてこの日から、シャルロットの表情にいつもより笑顔が多く現れるようになった。
これにはセシリアの想いも入っているのだろう。