12話:元剣聖、試合する
静寂が場を支配する。
エトワールさんとアイーシャさんは事の成り行きを静かに見守っていた。
使用人たちはどうなってしまうのか、ハラハラしているようだ。
この試合に合図などありはしない。だって剣を構えたその時には始まっていたのだから。
「……来ないの?」
いつまでたっても向かって来ない俺に、セシリアがそう尋ねてきた。
「いいのですか? お先にお譲りしますよ?」
「生意気ね。でもいいわ、それに乗ってあげる」
そう言ってすぐ、セシリアの姿が物凄い速さで俺に接近してくる。そして剣が振られた。この世界に転生してから見た一番の剣速だろう。どうやら魔力で体を強化しているようだ。
キンッと甲高い音が鳴り響き、セシリアは驚いた表情をしていた。
「驚いたわ。まさか私の初手を防ぐなんてね。あなたを馬鹿にしたことは謝るわ」
「お褒めにあずかり光栄です。ですが謝るのは私にではなくていいのですがね……」
「そう、後悔しないことね」
◇ ◇ ◇
セシリアがアルスと打ち合うこと数分。
(驚いた。こんな子が私の剣速に付いてこれるなんて……)
セシリアは素で驚いていた。騎士団長となり剣では負けを知らないでいた。
そんなセシリアは自分との剣での打ち合いに、誰一人付いてこれる者はいなく伸びしろに悩んでいた。
(もう少し早くしても大丈夫そうね)
そう思い剣を振るう速度を一段上げた。
それに反応しアルスもさらに剣速を一段早くした。
この速度に付いてこれるなら、とセシリアはどんどんと剣速を早める。
もう常人からは何が起こっているのかわからないレベルだ。見えるのは打ち合いの時に発生する火花のみ。
アルスはここまで高い実力の持ち主だったのかと驚いていたが、セシリアは違った。
(まさかこの速度まで付いてこれるとは……面白い!)
セシリアはすでにアルスとの戦闘に夢中となっていた。まわりの騎士達が付いてこれなかった速度での戦い。それに燃えていた。
そんな異次元の戦いに、シャルロットはポツリと呟いた。
「凄い……」
その戦いは剣の高みにいる人の試合。それを見たシャルロットは感嘆の声を漏らした。
自分もあんな風な戦いをしてみたい。そう思いながら見ていた。
エトワールさんとアイーシャさんは二人の戦いを見ながら話していた。
「アルス君、まさかここまでやるとは」
「そうね。セシリアも成長したようだけど」
「ああ」
「アルス君。君は一体何者なんだ」
「でも」とアイーシャさんは続ける。
「それでもシャルを守ってくれるなら、私はアルス君が何者でもいいわ」
「そうだな」
そうして二人はアルスとセシリアの試合へと目を向けるのだった。
剣を交えて戦うこと数十分。アルスはさらに剣を振るう速度を上げた。
負けじとセシリアも剣を振るう速度を上げた。
だが……
(まだ上がるっていうの!?)
セシリアはアルスの剣速に付いていけないでいた。
◇ ◇ ◇
剣の速度を上げたアルスは、セシリアがこれ以上上がらないと分かると、一度距離を取った。
「まさか私以上に速い剣を振るうとはね。一体何者よ?」
セシリアの問いにアルスは答えた。
「私はシャルロット様の騎士であって、そして剣士です。それ以上でもそれ以下でもありません」
「そう。あなたには本気を出しても大丈夫そうね」
そしてセシリアの雰囲気が一変し、纏う雰囲気が変わりプレッシャーが俺に叩きつけられる。
だがそんなプレッシャーを俺は柳に風と受け流し、剣を構えた。