10話:元剣聖、姉妹対決を見守る
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シャルロットは幼少の頃から何度も姉セシリアと同じ大人たちが参加する王国で一番の大会に出場していた。
だがシャルロットは初戦どころか予選敗退を何度も味わってきた。
それに比べセシリアはそんな大会を連続優勝という、王国始まって以来の快挙を成したのだ。
シャルロットはともにセシリアの隣で剣を振るってきた。強い姉を尊敬していた。
そんな姉セシリアはハーヴェスト王立学院に首席で入学し、そのまま首席で学院を卒業し騎士団に入隊した。
パーティーに出席しても、「セシリア様はあんなに優秀なのに」と何度も言われてきた。
それで付いた名は『出来損ない』。その名が一気に広まったのだ。
エトワールさんとアイーシャさんは優秀だ、人一倍頑張っていると言い張ったが、周りは聞く耳を持たない。
一度実家に帰ってきたセシリアからは、「そんなに頑張らなくてもいいんだ。他にも才能はあるさ」と言われてしまった。
セシリアはそんながむしゃらに頑張っているシャルロットを憐れんでの言葉だった。
それから努力するシャルロットを見てはセシリアは、「頑張らなくてもいいんだ」と言ってきたが、シャルロットはセシリアの言葉を無視してひたすら剣を振ってきた。
終いにはセシリアとの手合わせで、「シャルに剣の才能はないわ。止めるべきよ」と言い放った。
そうエトワールさんは話してくれた。
「セシリアのやつ、どうしてシャルにそんなことを」
「分からないわ。でも、何か理由があるのだと思う」
「そうだといいが……まあアルス君、そういう理由なんだ。それだけは覚えておいて欲しい」
「分かりました。では失礼します」
成る程な。それは頑張りたくなるわけだ。
俺はそのまま食堂を後にし、シャルロットの部屋の前に来ていた。
扉をノックし声をかける。
「アルスです。入ってもよろしいですか?」
「……いいわ」
「失礼します」
部屋に入ると、シャルロットは布団にくるまっていた。
「セシリア様に会いたくないのですか?」
「うん。また剣を止めろって言われる……」
「そんなことありません」
その言葉にシャルロットは顔を出して俺の方を見た。
「そうしてそう言えるの……?」
「だって強くなったじゃないですか。見返してやればいんですよ」
「……見返す?」
「はい。『弱いと言われた自分はここまで強くなったんだ』って」
シャルロットは一瞬俯くが顔を横に振って俺を見て強く言った。
「そうよ! 強くなったんだもん! 絶対見返して『強くなったね』って言ってもらうんだから!」
「その調子です」
「ありがとう。元気が出たわ。流石私の騎士ね」
「お褒めにあずかり光栄です」
――翌日。
屋敷の前に一台の馬車が停車した。
そこから降りてきたのは、長い金髪にエトワールさんと同じ澄んだ青い瞳をした、美女だった。だが目付きは鋭い。
実力もそれなりに高いのが見てわかる。
「お父様お母様、お久しぶりです」
「おかえりセシリア」
「おかえりセシリア。噂は聞きますよ」
「それは光栄です。それでシャルは?」
見当たらいと思ったのか辺りを見渡すと。
「おかえりなさいセシリア姉様」
「ああ、ただいま。ずいぶん大きくなったようだね」
「ありがとうございます」
一瞬俺を見たようだがすぐに視線をシャルロットに戻した。
「それで、剣はまだ続けているのか?」
セシリアの問いに、シャルロットはその目を見て頷き答えた。
「はい」
「……そうですか。それでは模擬戦をやりましょうか」
「セシリア、帰ってきて早々にそれは」
エトワールさんが「ゆっくりしてはどうだ?」と言うのだが……
「いえ。どうやら少しは強くなったみたいですので、確認しないとですから」
「……そうか。庭を使うと良い」
「ありがとうございます。シャルロットもいいね?」
「はい。構いません」
「では移動しようか」
帰ってきて早々に、シャルロット対セシリアの姉妹対決が始まるのだった。