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4 敗北


 電話をかけてきたのは、最初に対応してくれた事務の担当者だった。

「市役所の人にも確認しましたが、倭市には条例がないので非常勤の方に育休はない、というのが結論です。これは最終決定です。この結論が動くことはありません」

 なんとなく、勝ち誇るような口調だと感じた。

 腹が立ったが、実際私は市の公務員の法律に従って働いている。

 市役所の職員がそう言ったのであれば、確かにそれが最終決定ということになるのだろう。


 先日の、企画調整室の女性とも、その後話すことができた。

「すみません。市役所の方にも確認したんですが、育休に関しては、この近隣の市でも対応が分かれているらしくて。例えば縦浜(たてはま)市なんかですと、条例で1年間と期間が決まっているようなんですが……。倭市の今後の課題ですね」

 悔しかった。

 なぜなら私は縦浜市民なのだ。

 この病院も、距離的には近かったからなんとなく選んでしまったが、縦浜市の病院に就職できていれば、こんな無駄な苦労はしなくて済んだし、きっちり1年間の育休が取れたのに……。


 それでも、念のため、那架川県労働局というところに電話して話を聞いてみた。

「公務員ですか……」

 私が今までの経緯を話すと、労働局の人は歯切れが悪くなった。

「そのケースですと、勤続年数は充分ですし、一般企業でしたら、継続雇用という判断になるのですが、公務員はその……、それぞれの自治体の判断なので、申し訳ないですが、うちではちょっと、どうにもできないんですよ」

「そう……なんですか……」

 弁護士に相談するべきかとも思ったが、それには費用がかかる。

 それに何より、私はもう、そこまでして今の職場にしがみつくことに疲れてしまった。

 改めて夫に相談すると、夫は私が精神的にかなり参っていることに気付いたのだろう、

「いいよいいよ、もう失業保険貰ってゆっくりしなよ。落ち着いたら新しい職場探そう」

「うん……。そうする」

 私は今の職場を辞めることに決めた。

 たとえ再就職することになっても、今の職場には戻らない。

 団塊の世代が辞めていく中、若い人手が足りなくて困ったとしても、それは病院の制度のせい。

 それを変えようとしない人達のせい。

 私にはもう関係ない。

 後から子供を産む人達、「前例」になれなくてごめんなさい。

 私は制度が整った別の職場へ行く。

 そうやってこれから先も若い世代が離れていって、病院が困ればいい、と思った。


 ……ところで、扶養に入っても失業保険は貰えるんだっけ?


 私の調べものの日々は、まだしばらく続きそうだ。


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