第6話 聖女、バトル
〈ラフレシア・ガーデン〉
-ツクバネの街-
今、俺の目の前で二人の女が対峙している。片や俺のレベルとスキルを根こそぎ奪ったラビットもどきの変態女、片や何もないところで顔面から転ぶようなドジ女。かなり異様な組み合わせだ。しかもこんな街のど真ん中で決闘をおっぱじめるなんて正気の沙汰とは思えねぇ。せめて街の外でやれよ。
『なんだなんだ』
『何か始まるのか』
気づけば街の連中どもが俺たちの周りに集まっていた。俺たちが何か大道芸でも始めるつもりだとでも思ってるようだ。そりゃこんな目立つところでやってればこうなるか。しかもあいつらの格好がやたらと目を引くからな。だから街の外でやればよかったんだ。恥ずかしくてしょうがねぇ。だがあいつらときたらそんな周りの目も気にすることなく今にも戦いの火蓋が切って落とされそうな剣幕で睨み合っている。ただしどちらも手元にはなんの武器も構えられていない。まさか殴り合いでも始めるってのか。一体どうなるのやら。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったピョン。ちなみに私は恋耳うさぎって言うピョン」
「申し遅れました。私の名前はシェルラ。カセンドラルにて大聖人様にお仕えする聖女の一人です」
こいつが聖女!?聖女なんて初めて見たぜ。確か聖女は勇者と同じように魔王がいなくなってから姿を見せなくなったって聞いたことがあるが、まさか今でも実在するとはな。そんな聖女がどうして俺たちの前に、しかもこいつを狙ってやってきたんだ。
「私にはあなたをカセンドラルまで連れて行くという使命が与えられています。ですから、あなたが抵抗する以上容赦はできません」
そう言うと、突然シェルラとかいう女の手元に武器のようなものが現れた。なんだあれは。どう見ても剣ではないよな。あれは剣っていうより杖って感じだ。それも太陽の日差しを受けて銀色に輝くその杖は戦場には似つかわしくないくらい精巧な作りをしている。あんなもん持ってるってことは、ただ者じゃねぇぞあいつ。
「武器を使うなんて卑怯ピョン」
「これは武器などという野蛮なものではありません。これは聖女である私に与えられた大聖人様の加護なのです」
なんだか言い訳がましいが、物は言いようだな。あの杖がどんな効力を持ってるかはまだ分からないが、あれだけ自信満々てことは相当やばい代物なんだろうな。
「そっちがその気なら私にも考えがあるピョン」
「何をするつもりですか?」
「ちょっと待つピョン」
なんかこっち来たぞ。おい、来るな。俺までお前らの同類だって思われるだろ。
「サブロウ、武器を貸してほしいピョン」
「なんで俺がお前に武器を貸さないといけないんだよ」
「私、武器持ってないピョン」
「そんなの知るか。お前に貸せる武器なんかねぇよ」
「あれがあるピョン。あの武器貸してほしいピョン」
あの武器って……〈魔界新参の刀〉のことか。俺が初めて手に入れた武器。やっと本物の武器を装備できると思ってたのに、レベルが足りなくて装備できなったあれだ。
「どうせサブロウには使えないからいいピョン」
「どうせとはなんだ!俺にだっていつか使える日が来るんだよ!」
「じゃあそれまで貸してほしいピョン」
「嫌だよ」
いずれ俺の相棒になる武器を他のやつに触らせてたまるか。しかもよりによって俺が装備できなくなった直接の原因であるこいつなんかに。
「もし貸してくれたら、サブロウにはその武器よりもいい武器をあげるピョン」
「お前そんなもん持ってるのかよ。ならそれを使えよ」
「今はないピョン。でも近いうちに手に入るピョン。きっとサブロウはすっごく気にいると思うピョン」
「そんなの信じられるか。そもそも俺が気にいるってどういうことだよ」
「強くてかっこいいやつピョン」
「…...これよりもか」
「そうピョン」
この武器よりも強くてかっこいいやつか…...そんなもんがあるならほしいに決まってるが、こいつを信用していいのか。こいつには散々酷い目に遭わされてきたからな。
「……本当だろうな」
「約束するピョン」
「…...しょうがねぇな。今回だけだからな」
「ありがとうピョン」
まぁ貸すだけならいいか。どうせ所有権は俺にあるんだ。取り返そうと思えばいつでもできるからな。俺はアイテム欄を開き、〈魔界新参の刀〉を出現させた。俺が持とうとした時には腕がちぎれそうなくらい重かったが、こいつはそれを易々と持ちやがった。これがレベルの差か。ちくしょう。本当は俺が装備するはずだったのによ。
「これで準備完了ピョン。待たせてごめんピョン」
「そ、そんな武器を使うなんて反則です!」
シェルラは明らかに動揺していた。それに野次馬連中もかなりざわついてやがる。それもそうだ。あいつが手にしている武器はそんじょそこらじゃお目にかかれないような業物だからな。腕の二倍近くある刀身は鏡のように銀色に輝いている。あんなのに切られたらひとたまりもないだろうな。さすがのあいつも殺すつもりはないと思いたいが、相手が可哀想になってきた。
「これは武器じゃないピョン。この決闘に勝てるようお願いしたお守りピョン」
「そんなの屁理屈ですよ!」
確かにそうだが、まぁどっちもどっちってことだな。こうなるなら最初からお互いに武器をありにすればよかったじゃねぇか。めんどくせぇ奴らだ。
「それじゃ始めるピョン」
「ま、待ってくだい!まだ心の準備が」
「戦いに待ったはないピョン」
そう言うと同時にシェルラに向かって一直線に走り出していた。せこいな。あいつ、さっき自分で待てって言ってたじゃねぇか。もはやせこいを通り越して卑怯だな。
「そ、そんな!?」
これは早々に決着がつきそうだ。あいつは尋常じゃない速さで斬りかかろうとしてるが、シェルラの方は完全に不意を突かれて動きが遅れている。今からかわそうとしてもあの長い刃はそれを許さない。この俺が実際に経験したからな。
「もらったピョン」
あいつの大きく振り上げた刀がシェルラの体に届きそうになった瞬間だった、ガシャーンというガラスが割れるような大きな音が響いた。そして刀はギリギリかわされ、空を切り裂いていた。なんだ?一体何が起きたんだ。
「あ、危ないところでした」
「何をしたピョン?」
「今のは私の防御魔法〈ホーリーヴェール〉です」
やっぱりあいつ魔法が使えるのか。聖女だけのことはあるな。それにしてもいつ魔法を使ったんだ。全く分からなかった。完全に不意を突かれて魔法を使ってる余裕なんてなかっただろうに。魔法を使うにはそれなりの手順があるって聞いたことがあるが。
「いつ魔法を使ったピョン。そんな時間はなかったはずピョン」
「あなたが襲いかかってくる前にすでに使っていたのです」
「始まる前から魔法を使うなんて卑怯ピョン。フライングピョン」
「いきなり襲いかかってきたあなたに言われたくありません!」
結果的にお互いに出鼻をくじかれた二人は再び距離をとった。にしてもあのシェルラって女なかなかやるな。魔法が使えるのにも驚いたが、オドオドしてるように見えて案外狡猾なやつなのかもな。
「次はさっきみたいにいかないピョン」
「望むところです」
互いに武器を構えて臨戦態勢に入る。かなり本気のようだ。次はどんな攻防になるか見ものだな。
「行くピョン」
「大いなる光の精霊、我に加護を与えよ。〈ホーリーヴェール〉!」
シェルラが呪文のようなものを唱えた瞬間、杖の先が光り輝いた。と同時にシェルラの周りを薄っすらとした何かが覆ったのが見えた。あれが防御魔法の正体か。にしてもやっぱあの杖が魔法を使うのに必要な武器ってことか。
「う〜。攻撃が当たらないピョン」
刀による攻撃はシェルラに届くよりも前に見えない壁によってことごとく弾かれている。かなり強力な防御魔法みたいだ。あんなのを使われ続けたら一生攻撃が当たらないじゃねぇか。あれこそ反則だろ。
「あなたの刃は決して私に届きません。降参するなら今のうちですよ」
「そんなのしないピョン」
あいつは諦めないみたいだが、何度刀を打ち込んでも結果は変わらない。全ての攻撃が弾かれていく。さすがのあいつも焦りを感じているのか、表情がだんだんと曇り始めた。あいつのあんな顔初めて見たぜ。ざまぁ見ろ。俺を散々バカにしてきたバチが当たったんだ。
「そろそろですね。私も本気でいかせてもらいます」
「ピョン?」
「大いなる水の精霊、敵に天誅を下せ。〈アクアパンツァー〉!」
シェルラの杖が今まで以上の光を放った。すると突然、杖の先から勢いよく水が飛び出してきた。
「きゅぅ!」
攻撃は見事に命中したようだ。あいつは後方に吹っ飛ばされ、そのまま地面に落っこちた。かなりのダメージが入ったに違いない。あれが魔法の力か。ヤベェな。防御もできて攻撃もできるなんて。無敵すぎだろ。
「はぁ、はぁ。ど、どうですか。参りましたか」
今のところ優勢と思われるシェルラだったが、ほとんど動いていないにもかかわらず、すでにかなり息があがっているようだ。なるほどな。魔法を使うにも多少のリスクがあるってことか。
「まだまだいけるピョン」
あいつもなかなかしぶといな。あれだけの攻撃を受けてまだ立てるなんて、さすがレベル20ってところか。しかしそんなあいつ対して優位に戦ってるあの女、どれだけレベルが高いんだ。俺とそんな歳も変わらないだろうに。くそっ。上には上がいるってことかよ。所詮俺たち程度の奴なんていくらでもいるのか。なんだかコツコツとレベル上げしてきた俺が馬鹿みてぇだ。
「降参して下さい。あなたでは私に勝てません。ただダメージを受けるだけですよ」
「…...そういうわけにはいかないピョン」
「どうしてですか」
「サブロウのためにも負けるわけにはいかないピョン」
……ん?俺?どうして俺のためなんだ?
「私も本気を出すピョン。強化魔法〈アタックフォース〉」
「そんな!?あなたも魔法が使えるなんて!?」
あれは、あのラビット野郎が俺に使った強化魔法じゃねぇか。全身が赤みがかった光に包まれて身体能力が向上するやつだ。
「食らえピョン!」
「大いなる光の精霊、我に加護を与えよ。〈ホーリーヴェール〉!」
強化魔法のおかげであいつもかなりの勢いで突進したが、それよりもシェルラの方がほんの少し速かった。刀が届く前に防御魔法が展開されてしまった。そして攻撃は防がれる。
「何度やっても結果は同じです。あなたの攻撃は届かな」
「同じ失敗はしないピョン」
一度弾かれた刀を一瞬で返し、連続攻撃を仕掛けると、ガシャーンと大きな音が響くと同時にシェルラの周りを覆っていたものがガラスのように粉々に四散した。
「そんな!?」
シェルラはかなり驚いてるようだ。おそらく強化魔法によって攻撃の威力が上がったからだろう。
「隙ありピョン」
シェルラにはもうあいつの攻撃をかわす手段が残されていなかった。高く振り上げられた刀が小さな体を切り裂こうとする。まずい。あんな攻撃がまともに当たったら一発で死んじまうだろ。あいつ分かってんのか。
「きゃっ!」
俺が止めに入ろうとするよりも前にシェルラの体は後ろに吹っ飛ばされていた。シェルラはとっさに杖を前に出してなんとか攻撃を防ごうとしたようだ。あぶねぇ。
「おい。お前殺す気じゃないだろうな」
「そんなことしないピョン。ちょっと痛い目にあってもらうだけピョン」
本当に大丈夫だろうな。さっきの攻撃を見るにあいつ、相当頭に血が上ってるだろ。うっかり殺しちゃったなんてことになりかねねぇ。さすがにそれはまずいって。シェルラの方もほとんど戦闘不能に近いし、この辺で切り上げろよ。
「降参するピョン?」
「うぅぅぅぅぅぅぅ〜。私だって、負けられないんです」
シェルラはフラフラしながらもなんとか立ち上がった。その根性には感心するが、もう戦う力が残されているようには見えない。
「それなら容赦はしないピョン」
「おい待て!」
あれ以上ダメージ受けたら本当にやばいことになるって。
「…...大いなる光の精霊、敵に天誅を下せ」
「ピョン?」
「〈ホーリーシャインバースト〉!」
シェルラの握る杖が今までで一番の強烈な光を発した瞬間、二人の間に目を覆いたくなるほど光り輝く球体が出現した。あれは明らかにやばいやつだ。それでもあいつは攻撃を止めようとせずそのままの勢いで球体を切り裂きにかかった。その瞬間、とんでもない衝撃波が辺りを襲った。周りに群がっていた野次馬連中が次々と吹っ飛ばされていく。
「くそっ」
俺はなんとか衝撃に耐えたが、二、三秒の間にあたりはめちゃくちゃなことになっていた。道路の舗装は剥がされ、周りの建物は今にも倒壊しそうなほど崩れかかっていた。なんてことだ。
「それよりあいつらは!」
魔法を撃った本人であるシェルラは気絶しているのか地面にぐったりと倒れていた。一方であいつは…...姿がない。どこにもいない。まさかどっかに吹っ飛ばされたのか。俺は何度か近くを見回したが、あいつらしき姿を見つけられなかった。だがそのまま諦めようとしたその時、あいつを見つけた。あいつと言っても人間の方ではない。〈ホワイト・ラビット〉の形をしたあいつだった。どうしてこのタイミングで出てきた。
「おい、お前」
「……ん?どうして僕がここに……………って、痛っ、いたたたたたたっ!!!!」
「だ、大丈夫かよ」
「む、無理!」
「どこ行くんだ!」
俺が見つけたのも束の間、地面の上で悶え始めたかと思えば、とんでもない勢いで走り出した。街の外へ向かったようだ。一瞬で姿が見えなくなった。なんだあいつ。いきなり出てきたと思えばすぐにいなくなりやがって。
「それにしても、結局この勝負はどうなったんだ」
あいつの姿は見つからねぇし、シェルラは完全に伸び上がっている。引き分けってことでいいのか?しかしこいつ、改めてとんでもないやつだったな。あんなふざけた魔法が使えるなんて。一つ間違えばこの辺り一帯が吹き飛んでてもおかしくなかったぞ。
「おいお前、大丈夫か」
俺には一切関係のないことだが、さすがにこのまま放置というわけにもいかねぇよな。とりあえず意識が戻るまでは見ててやるか。
「……ぅ……うっ……」
「起きれるか」
「うぅぅぅぅ。あなたは確か…………はっ!あの人はどこですか!」
「落ち着け。まずは休憩しろよ」
意識を取り戻したばかりだってのにいきなり元気なやつだ。
「そういうわけには…...まだ決着がついてませんから」
「決闘はお前の勝ちじゃないのか。あいつの姿が見あたらねぇからな。逃げたってことだろ」
「あなたは…...あの人の仲間じゃないんですか?」
「そんなんじゃねぇよ」
あいつのことを仲間なんて思ったことは一度もねぇ。むしろ敵だ。俺からレベルとスキルを奪った泥棒だ。
「しかし、逃げたからには捕まえないと」
「無理じゃないか。あいつの逃げ足は尋常じゃないからな」
俺ですら捕まえられなかったんだ。ましてこのドジ女にできるとは到底思えない。
「だとしても追いかけます。それで…...あの……あの人が行きそうな場所を知りませんか」
「どうして俺が」
「いえ、お二人の仲がよさそうだったので」
「どう見たらそう見えたんだよ!」
「す、すみません」
俺とあいつの仲がいいなんてまっぴらごめんだぜ。あいつが俺に対して馴れ馴れしいだけだ。
「とにかく、あいつの行きそうな場所は知らねぇ」
「そうですか…...分かりました。私一人で探してみます」
シェルラはそう言って立ち上がろうとしたが、足に力が入らないのか全く立ち上がれそうになかった。それもそうだ。あんだけの衝撃波を近距離から受けたらそうなって当然だな。強力すぎる魔法があだになったってわけだ。
「そんなんで大丈夫なのかよ」
「だ、大丈夫です。これくらいなんとかなります」
しかし何度挑戦しても立ち上がれる様子はない。杖を支えにしようともしてるが腕の力も入ってないようだ。これじゃ日が暮れちまう。ったく、見てられねぇな。
「ほら、手ぐらい貸してやるよ」
「…...ありがとうございます」
「お前はどこかで休んだ方がいいな。その状態であいつを見つけても返り討ちにあうだろうしな」
「……そう、みたいですね。ここは素直にあなたの助言を聞きたいと思います」
やっと言う事を聞いたか。こいつもなかなか頑固なやつだ。
「それで、行くあてはあるのか」
「それは……」
「ないんだな」
「私はさっきこの街に着いたばかりで、右も左も分からない状態で……」
本当に大丈夫かこいつ。行き当たりばったりすぎだろ。聖女ってのはみんなこんな奴ばっかなのか?
「近くに宿がある。そこまで案内してやるよ」
「ありがとうございます!」
はぁ。どうしてこの俺がこんなめんどくさいこと引き受けちまったんだか。全部あいつのせいだ。どう責任取ってくれんだ。
「歩けるか」
「なんとか」
シェルラは必死に歩こうとしてるみたいだが、さっきから足をブルブル震わせるだけで一向に前に進む気配がない。これなら素直に歩けないって言えばいいのによ。
「しょうがねぇな。俺がかついでやるよ」
「えっ。えっと……」
「ほら。乗るのか、乗らねぇのか」
「……では、お言葉に甘えて」
少しだけためらいながらもシェルラは俺の背中に体を預けてきた。なんだか妙に重量感のあるものが背中に押し付けられてる気がするが、まぁいいか。
「しっかり捕まれよ。行くぞ」
「はい」
落ちない事を確認した俺はその場で立ち上がろうとした。女一人ぐらい余裕で持ち上げられるだろうと確信していた俺だったが…...なぜかそうはいかなかった。重い。
「あの……大丈夫ですか」
「だ、大丈夫に決まってんだろ!」
くそっ。別にこいつが重いわけじゃねぇのに、どうしてこんなに重く感じるんだ。
「わ、私、重くないですよね!?」
「当たり前だろ!」
そう言えば。今更思い出したが、俺のレベル下がってるんだった。俺の筋力はレベル1相当。ほとんど赤ん坊みてぇな力しかないってことだ。だが、レベルがどうした。こんなの気合いでどうとでもしてやる。
「行くぞ」
「は、はい」
「おりゃぁぁぁ!」
今にも腕がもげそうだが、〈魔界新参の刀〉を持ち上げようとした時に比べれば屁でもねぇぜ。これならなんとかもちそうだな。確か宿屋はあの辺だったか。
「あそこが宿屋だ……って!?やべぇ!?衛兵だ!」
「ん?お前たち!止まれ!」
宿屋を目の前にして二人の男に見つかった。この街の衛兵だ。軽く武装していて、右手には長い槍を持っている。今の状態でまともに戦ったらまず勝てないだろう。
「衛兵に見つかっちまった。逃げるぞ!」
「どうしてですか?」
「そんなの捕まるからに決まってんだろ!」
「えぇぇぇぇ!?」
「走るからな。落とされるなよ」
そりゃあれだけ派手に街を壊したんだ。衛兵が飛んでくるのも無理はねぇか。しかしこの街がデカくて助かったぜ。衛兵がやってくるのにも時間がかかったみたいだな。
「下ろしてください。街を壊してしまったのは私なんですから、私が事情を説明しないと」
「本当にそれでいいのか。ありゃかなり怒ってるぞ」
「きちんと事情を説明して、誠意を込めて謝れば……」
「言っとくが、あいつら全員が全員話がわかるやつらとは限らねぇからな。話をする前に逮捕されて、最悪そのまま処刑なんてこともあるかもな」
「そんな……」
「大人なんてそんなもんだ。あいつらは所詮自分たちの都合しか考えてねぇんだからよ」
「待て!」
あいつらもしつこく追いかけてくんな。だが足はそこまで速くないみたいだ。情けねぇ奴らだぜ。だがおかげでこのまま走れば逃げ切れそうだ。あとはこいつがどうするかだが。
「で、どうするんだ。逃げるのか、逃げないのか」
「……」
「早く決めろ!」
「…...逃げます!」
「分かった」
「ごめんなさい大聖人様。私、大変な罪を犯してしまいました」
ようやく覚悟を決めたシェルラを抱えて俺は走り続けた。衛兵たちとの距離は次第に離れていき、どうにか街を脱出することに成功した。あいつらもさすがに外までは追ってこないだろう。あとはこのままどこに逃げるかだが。
「とりあえず家まで帰るか」
「いいんですか。ご迷惑をかけることになってしまいます」
「もう十分かけられてんだよ」
「…...すみません」
「別に責めてるわけじゃねぇよ。まぁ家に帰ってゆっくり休んで行けよ。飯くらい出してやるからよ」
一つめんどくさいことがあるとすれば家には母ちゃんがいるってことか。この状況をどう説明したものか。まぁなんとかなんだろ。
「えっと…...サブロウさんでしたっけ。サブロウさんは優しいんですね」
「俺をサブロウって呼ぶな!俺のことはハデス様と呼べ!」
「す、すみません!」
※公開情報※
・〈ホーリーヴェール〉…防御魔法。光属性。一定時間、一定のダメージ量の攻撃を完全に防ぐ。
・〈アクアパンツァー〉…攻撃魔法。水属性。高圧の水流を放出する。
・〈アタックフォース〉…強化魔法。無属性。一定時間、体力、筋力、素早さのステータスを底上げする。