第4話 草
〈ラフレシア・ガーデン〉
-ツクバネの街近郊-
▼民家
「私の名前は恋耳うさぎ。よろしくピョン!」
俺のベッドから突如として現れた女は清々しいくらい快活な声で答えた。全く聞き覚えのない名前だ。それにこんな女見たこともねぇ。一体全体どこのどいつなんだ。そもそもこいつが人間なのか自体も怪しく思えてきやがった。姿形は確かに人間の女だが、髪の色が〈ホワイト・ラビット〉みてぇに異常なくらい真っ白な上に、きわめつけは奴の頭の上から生えてる耳。ラビット族特有の長い耳が横からではなく上から生えてやがる。おまけに右耳の先がハート形になっている。これはどう見たって人間じゃねぇだろ。まさか、昨日のクランドとかいう奴の仲間で、こいつもモンスターなんじゃないか。それなら服を着てない理由も頷け……
「っていうか、早く服を着ろ!」
こいつが人間だろうがモンスターだろうが、どっちにしろ目のやり場に困るんだよ。
「え〜〜。私、服着るの嫌いピョン」
「なんでだよ!とりあえずこの布でも羽織ってろ!」
「い・や・ピョン」
「しのごの言うな!」
さすがに頭に来た俺は強行手段に出ることにした。ベッドの上でふんぞり返ってるこの聞き分けのない女めがけて布をかぶせようとした。だが俺の目論見はあっさりと崩れた。女は俺が布をかぶせようとした瞬間ベッドから勢いよくジャンプし、気付いた時には俺の背後に着地していた。とんでもねぇ身体能力だ。
「ははっ!鬼ごっこ?捕まらないピョン」
「こいつ……」
そっちがその気ならどうやら俺も本気を出さないといかねぇようだな。相手が女だろうと手加減なんかしねぇぞ。
「食らえ!」
「ピョン」
かわされた!?
「どりゃ!」
「ピョンピョン」
また!?
「おらっ!」
「ピョンピョンピョン」
なんだこいつ。俺の攻撃を全部かわしやがって。くそっ。それにしてもこの感じ、前にもあったような……
「ちょっとサブロウ、さっきからあんたなに騒いでんの。起きてるなら早く朝ごはん食べ」
「わ〜い!」
「お、おい。ちょっと待て!」
扉が開くと女はその隙に部屋の外に飛び出していた。俺もすかさず奴を追いかけようとしたが、部屋の中に入ろうとしていた母ちゃんが俺の行く手を遮った。あの全裸女が俺の部屋から出て行く瞬間を間違いなく目にした母ちゃんの顔は明らかに混乱しているものだった。
「サブロウ、今のは……」
「なんでもねぇからな!今見たのは全部幻覚だからな!」
こんな適当な言い訳で誤魔化せるとは思えなかったが、そんことよりもまず俺は奴を捕まえなくてはならなかった。あいつ正気かよ。全裸のまま外に出やがって。さすがに色々とヤベェだろ。
「捕まえれるなら捕まえてみるピョン」
「これは鬼ごっこじゃねぇぞ!」
「ピョンピョピョン。はははははははっ!」
とうとう家の外にまで飛び出した女はとんでもない速さで瞬く間に離れていった。くそっ。とにかくこれ以上誰かに見られる前にあいつを捕まえねぇと。そう決心し、同じように家を飛び出した俺だったが、またしても邪魔者が俺の行く手を遮った。
「サブロウくん?」
「なっ」
俺を呼び止めたそいつの顔を見て一瞬焦りを感じた。見たくもねぇ顔だ。どうしてこんなところまで来てんだ。よりにもよってこいつに見られるなんて。
「サブロウくん、今目の前を裸の女の人が通り過ぎって行ったような気がしたんだけど」
「それは……」
「それにどうしてそんな布を持ってるの?も、もしかして……」
「待て。早とちりするんじゃねぇ」
「でも……」
「いいか、お前が見たのは幻覚だ。いいな分かったな。お前は今幻覚を見たんだ」
「そ、そうなんだ」
これだけ言っておけばこいつなら大丈夫だろ。そもそも俺の知ってるこいつはいつもおどおどしていて、他のやつと喋ってるとこなんて見たことねぇしな。
「それじゃ俺は用があるから。それと俺をサブロウと呼ぶな。俺のことはハデス様と呼べ。いいな」
「ま、待って。サブロ……えっと……ハデス……くん」
「なんだよ。俺は忙しんだ」
「その…...今日こそ学校に来ない?みんな待ってるよ」
そんなことを言うためにここに来たってのか。馬鹿馬鹿しい。みんなが待ってるだと。そんなの嘘に決まってんだろ。
「誰がそんなとこ行くかよ。ふざけてんじゃねぇぞ!」
「あっ……」
これ以上あんな奴の馬鹿話に付き合ってられるか。ったく、嫌なこと思い出させやがって。そんなことよりさっさと奴を捕まえるぞ。
***
「はぁ……はぁ……はぁ……」
疲れた。もう走れねぇ。
「まったくサブロウはだらしないピョン」
「俺のことを……はぁ……サブロウと……呼ぶな……」
「でも楽しかったからいいや。さっ家に帰ろ。私、お腹空いちゃったピョン」
こいつ、勝手なこと言いやがって。こっちは5分近くも全力で追いかけてヘトヘトだってのに、何が楽しかっただ。ふざけやがって。それにいつの間にかちゃんと服を着てやがる。ただし服というにはあまりにも肌の露出が多すぎて、余計に目のやり場に困る有様だ。どこで手に入れたんだよ。それによくこんな服着てられんな。そもそも服着るのは嫌いとか言ってたじゃねぇか。だから俺がこうしてヘトヘトになるまで追いかけてやったってのに、俺の体力を返しやがれ。
「ところでさっきの子はいいピョン?」
「さっきの子?」
「家の前でサブロウに話しかけてた子だピョン。もしかしてサブロウの彼女ピョン?そうだとしたらサブロウも隅に置けないピョン」
「そんなわけねぇだろ!ふざけたこと言ってんじゃねぇ」
「否定するところが怪しいピョン。それなら誰ピョン」
「お前には関係ねぇだろ!」
初対面のくせにどうしてこいつはこうも馴れ馴れしいんだ。やっぱ前にも同じようなことがあったな。
「教えてほしいピョン」
「うっせぇ!」
おまけにしつこい。結局、帰るまでひたすら質問され続けた俺の心身は朝からすでに疲れ切っていた。最悪だ。どうしてこんなめんどくさい奴の相手なんかしなくちゃならないんだ。
「ただいまピョン」
「お、おい」
女は家の中に入ると母ちゃんに向かって堂々と挨拶しやがった。
「サブロウ、この子はいったい……」
「いや、こいつは……」
明らかに怪しんでる。それもそうだ。こんな見知らぬ女が何の前触れもなく現れたんだからな。しかも全裸で。今は服を着てるが、その服が逆にこいつの印象を悪化させている。これはどうなるんだ。まぁ、どうなろうと俺は関係ねぇからな。こんな奴知るか。
「いやだピョン。お母さん。私は恋耳うさぎ。忘れちゃったピョン?」
「忘れたも何も、母ちゃんはお前のことなんて最初から」
「……あぁ!うさぎちゃんか。ごめんね。すっかり忘れてたよ。さっ、こっちに来て。朝ごはんあるからね」
「わ〜い!」
「なっ、なんで!?」
どうしてこうなった。こんなやばい女、さっさと追い出せよ。おかしすぎだろ。あのラビットといい、この女といい、母ちゃんはどうしてこうも簡単に受け入れてんだ。あいつはモンスターで、こいつはただの変態だぞ。
「このスープとっても美味しいピョン」
「ありがとう。昨日の残り物だけど、ラビットのもも肉は時間が経つと味がしみて美味しくなるからね」
「ピョンピョン。おかわりがほしいピョン」
相変わらず今回の居候も図々しい奴だ。よほどスープを気に入ったのか喜びのあまり耳までピクピクと動き始めた。マジであの耳本物なのか。まるでドッグ族の尻尾みてぇだな。そんなにうまいか。まぁ、この俺が狩ってきた肉だからな。うまいのも当たり前か……って、和んでる場合じゃねぇ。危うく俺までこいつを受け入れちまうところだった。
「おいお前。そろそろ正体を現したらどうだ」
「正体?私は恋耳うさぎだピョン」
「だからそれだけじゃわけ分かんねぇんだよ。その耳、あのラビットのと同じだろ。なんか関係があるんじゃねぇのか」
「う〜ん……私は恋耳うさぎで、恋耳うさぎは私だピョン」
「説明する気あんのか!」
「怒鳴らないでほしいピョン。サブロウの短気、短気!」
「サブロウって呼ぶな!」
ダメだこいつ。俺のことをバカにするだけで全く説明する気がねぇ。だがこの人をおちょくるような話し方が特にあいつとそっくりだ。見た目は違うがほとんどあいつと会話してるみてぇだ。こいつの方がよりめんどくさい気はするが…...そういえばあのラビット、実は雌だとか言ってたな。てことは、まさか!?
「お前、あのラビットなのか!?」
「それは違うピョン。私はうさぎであって、ラビットじゃないピョン。サブロウと同じ人間ピョン」
こいつが人間?どこの世界にこんな頭から耳が生えてるような人間があるか。全く説得力がねぇ。それに、さっきから語尾に意味不明な言葉付け足しやがって。うざったいからやめろってんだ。
「はぁ。めんどくせぇ」
「まぁまぁ。細かいことは気にしないのが得策ピョン」
ちくしょう。俺にとっては細くねぇってのに、こんなことで頭を悩ませるのがバカらしくなってきた。こいつがあのラビットだろうとなかろうと、人間だろうとなかろうと俺には関係ねぇか。そんなことよりも俺にはもっと大事なことがあるじゃねぇか。
「俺はもう行くからな」
「私も行くピョン」
「…...勝手にしろ」
うざったい限りだがどうせあいつと同じで無理矢理にでもついてくんだろ。もういちいち気にしてられるか。
「ところで今日は何をするピョン」
「そんなの狩に決まってんだろ」
今日の狩は楽しみでしょうがないぜ。なんたって、ついにこの俺が本物の武器を手に入れたんだからな。ふふっ。
「サブロウ、とってもうれしそうだピョン」
「まぁな」
そろそろお披露目といくか。こいつにも俺の偉大さを見せつけてやるぜ。アイテム欄を確認すれば昨日ゲットした二つのアイテムがちゃんとストックされている。よし。まずは〈漆黒の装束・一揆〉だ。選択した瞬間、服装がガラッと変化する。これは……名前の通り全体が暗闇のような漆黒を基調としている。俺好みの色だ。それに防具とは思えないくらい軽くて動きやすそうだ。
「サブロウかっこいいピョン」
「あ、当たり前だろ」
いずれ魔王となる俺にはどんな防具も似合うに決まってんだろ。だがこいつは特別に気に入ったぜ。さぁ、次はいよいよ本命だ。〈魔界新参の刀〉。長らく求めていた本物の武器。ついにそれが俺の手に来たんだ。これさえあれば魔王になるのもそう遠くはない。破滅の時は近いな。
「見てろよ。これが俺の新しい武器だ」
「おぉ〜」
アイテム欄に表示された俺の新たな相棒を選択した。すると俺の手元に刀と呼ばれる長い刃が出現する。とうとうお目にかかれたな。胸が高鳴るぜ。これが俺の新しい武器……
「……って重っ!?」
刀が完全に俺の手の上に乗った瞬間、予想もしなかったような重量感が襲いかかってきた。あまりの重さに俺の腕が耐えられず、刀は地面へと激突した。
「サブロウかっこ悪いピョン」
「くそっ……どうして…...持ち上がらないんだ……」
俺はなんとか地面に落ちた刀を持ち上げようとしたが、まるで地面に引っ付いちまったかのようにビクともしなかった。どうなってんだ。こんな細い武器がこんな重いわけねぇだろ。くそっ。
「きっとサブロウはその武器を装備するためのレベルが足りてないピョン」
「はっ!?」
「その武器のステータスを確認してみるピョン」
武器のステータスだと?そんなもん見てどうするんだよ。それに俺のレベルが足りてないってどういうことだ。武器のステータス…...まさかこれか?適正レベル?適正レベルは……7。
「なんだ大丈夫じゃねぇか。おどかすんじゃねぇよ」
「本当ピョン?」
「馬鹿にすんなよ。俺は昨日レベル8まで上がったんだぞ。見ろ!これがその証拠だ!」
俺の言葉を全く信じようとしないこいつにステータス画面を突きつけてやった。これでぐうの音も出ないだろ。
「どうだ」
「えーと……ぷぷっ」
「な、何がおかしいんだよ!」
「だって〜。自分で見てみるピョン」
自分でだと。ステータス画面なら昨日散々確認しただろ。ってまさか…...また俺のレベルが下がってんのか。あれだけの死闘を繰り広げて、二つもレベルが上がったってのに、そんなバカなことがあってたまるか。絶対に大丈夫だよな。絶対に大丈夫………………
「なんじゃこりゃ!?!?!?!?!?!?!?」
ステータス画面に表示された俺のレベルは……1。どうしてレベルが1になってんだ!?おかしすぎだろ!1ってなんだ、1って。どうなったら昨日まで8あったレベルが1まで下がるんだよ!
「どうなってんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「まぁまぁ。まずは落ち着いたほうがいいピョン」
「落ち着いてられるか!俺の大事なレベルが完全になくなったんだぞ!も、もうわけ分かんねぇよ」
はぁ、はぁ、はぁ。興奮しすぎてなにがなんだかわかんなくなってきやがった。
「大事って言ってもどうせ8だったんだピョン。あってもなくても同じピョン」
「同じじゃねぇ!あそこまでレベル上げるのにどれだけ苦労したと思ってんだ!」
この俺が16年もの歳月をかけてモンスターと戦いまくってようやくここまでレベルを上げたんだぞ。その努力が一瞬にして失われる辛さがこいつに分かるわけがねぇ。
「大丈夫ピョン。人の価値はレベルじゃ測れないと思うピョン」
「バカにしてんのか。そういうお前は何レベなんだよ」
「えっと…...本当に知りたいピョン?」
「とっとと見せやがれ。俺を散々バカにしてんだからな。さぞかし立派なレベルを持ってんだろうな」
「見ないほうがいいと思うピョン」
「いいから見せろ!」
「きゅぅ」
急にしおらしくなってんじゃねぇよ。さっきまでの態度はどこに行った。そんなに俺に見せたくないのか。元から怪しいこいつだが、ますます怪しいな。
「そこまで言うならしょうがないピョン」
ようやく観念してステータス画面を俺に見せてきた。遅いっつうの。さてさて、こいつのレベルは……20!?
「ど、どうしてお前なんかがレベル20もあるんだよ!?」
こんなレベル見たこともねぇ。俺とそんな歳も変わらないくらいの見た目してるってのに、どんなレベル上げをしてきたってんだ。
「他のステータスはどうなんだよ」
レベル以外の情報にもくまなく目を通したが、体力や筋力、素早さなど諸々のステータスがあまりにも俺とかけ離れすぎていて全く参考にならない。これがレベル20の世界だってのか。くそっ。どうしてこいつはこんなにレベルが上がってのに俺のレベルが下がるばっかりなんだよ。しかも1にまで下がりやがってよ……
「…...ん?このスキル……【勇者見習い】じゃねぇか!?」
ステータス画面のさらに細部にまで目を通してこいつのスキルを発見した。【勇者見習い】。間違いなく俺と同じスキルだ。どうなってんだ。こんな偶然があるのか?そもそもこのスキルはかなり特別なはずだぞ。
「まさか、お前も勇者の子孫なのかよ」
「う〜ん。そういうことじゃないピョン」
「ならどういうことなんだよ」
「きゅぅ」
「ちゃんと答えろ」
「近いピョン」
絶対に何か隠してるなこいつ。それもかなり後ろめたいと見た。今度という今度は言い逃れさせてやるものか。これまで俺を散々バカにしてきた仕返しだ。
「何か言えない事情でもあるのか」
「…...言っても怒らない?」
「何を怒れってんだよ……って、あれ?お前、さっきまでのピョンピョン言ってたのはどうした」
「あっ…...言っても怒らないピョン?」
「いやいや。なに言い直してんだよ。まさか、その変な語尾はわざとやってたのか」
「バレちゃったか。てへへ。これをつけた方がキャラが立ってていいかと思ったピョン」
「うざったいからさっさとやめろ」
「そんなこと言わないでほしいピョン。これは恋耳うさぎとしての個性ピョン」
なにが個性だ。お前にはそのラビットみてぇなわけのわかんねぇ耳がついてるじゃねぇか。それで十分だろ。
「はぁ。まぁいいか。そんなことより、早く俺の質問に答えてもらおうか。忘れたとは言わせねぇぞ」
「えっと……」
「とぼけるな。お前のスキルのことを聞いてんだよ」
「きゅぅ……その……サブロウのステータスを確認してみるピョン」
俺のステータス?そんなのさっき確認しただろ。俺のステータス画面を開けば嫌でもレベルが1になってるのが分かるだけだ。レベルが下がってるせいで他のステータスも軒並み下がってやがる。こんなんじゃ赤ん坊と同じじゃねぇか。これを見て何が分かるんだ。他に確認するとこといえばスキルくらいだが……っ!?ちょっと待て。俺の目がおかしいのか。そうに決まってる。昨日派手に戦って疲れてるからな。ふぅ。落ち着け。こういう時こそ冷静に行くのが俺だろ。そんじゃ改めて確認して……
「……」
「大丈夫ピョン?」
「……」
「サブロ」
「ガッ◯ム!!!!!!」
「きゅぅ!」
「どうなってんだよおぉぉぉおぉ!!?!?!?!?!?!?!?」
「急にどうしたピョン」
「どうしたもこうしたもあるか!!なんだよこのスキル!!」
スキル:
(^O^)www(^O^)
「どうして俺のスキルがこんなわけの分かんねぇのになってんだよ!!」
「可愛くて私はいいと思うピョン」
「いいわけあるか!!しかもなんだこの効果は!」
効果:
特に何もない(笑)
「何もないってなんだ!何もないって!これのどこがスキルだ!」
「スキルというより……ぷぷっ。サブロウそのものみたいな感じピョン。ぷぷっ」
「なに笑ってんだ!!しかも二回!?」
全く笑いごとじゃねぇよ。こんなスキルでこれからどうやってモンスターと戦えってんだ。そもそもこんな何の役にも立たないようなスキルが存在していいのか。
「何か?これはあれか?世界に張り巡らされた情報網的な何かか?実はとんでもないスキルなのか?」
「いやぁ〜、それはただの草だピョン」
「だから何!?」
「ほら、うさぎってベジタリアンだピョン」
「嘘つけ!お前さっき堂々と朝飯で肉食ってたじゃねぇか!」
「細かいことは気にしないピョン」
ったく。こいつの言うことはどれも適当だな。聞いてるこっちの頭が痛くなりそうだ。
「それより説明しろよ。どうしてこうなった。俺のスキル【勇者見習い】が消えた代わりにお前がそのスキルを持ってるって。偶然なわけねぇよな。そうだよな」
「近いピョン」
「答えるまで逃がさないからな」
「サブロウ、怒らないって言ったピョン」
「それはつまりお前は俺に怒られるようなことをしたんだな」
「きゅぅ。そもそもサブロウは勇者になりたかったわけじゃないからこのスキルはいらないはずピョン」
それは……確かに俺様はいずれ魔王になる男だが…...しょうがねぇだろ。このスキルは生まれつき持ってたんだし…...レベル上げする上で役に立ってたし……それに……ていうか、どうして俺の方がこんなに悩んでんだ。今はこいつから話を聞いてんだろ。あぶねぇ。
「それとこれとは話が別だろ。話をそらすな」
「むむっ」
「それとレベルのこともそうだ。俺のレベルが1になったのも関係あるのか」
「…...分かったピョン。答えるピョン」
ようやく観念したか。最初からそうしろってんだ。
「実は……サブロウのレベルとスキルは私がもらっちゃったピョン」
「はぁ!?もらっただと!?なら早く返せよ!」
「それはできないピョン。もらうことはできても返す方法は知らないピョン」
「ふざけんな!!」
「わぁ〜。目が回るピョン」
まじでどうなってんだよ。レベルとスキルをもらっただと。そんなことができんのか。つまりこれまでレベルが下がってたのは全部こいつが奪ってたからかよ。こんなのモンスターどころじゃねぇ。ただの泥棒じゃねぇか。
「どうしてこんなことしたんだ!」
「私はよく分からないピョン」
「私はってなんだよ。お前がやったんだろ」
「正確には私じゃなくて、恋耳うさぎがやったんだピョン」
「それがお前なんだろ!さっき自分でそう言ってたじゃねぇか!ばっくれるつもりか!」
「だから、もう一人の恋耳うさぎピョン」
「もう一人って……どういうことだよ。モンスターのあいつと人間のお前はまるっきりの別人てことか」
「そんな感じピョン」
余計にわけが分かんなくなってきた。それになんだかさっきと言ってることが違くないか。くそっ。
「まぁいい。なら、あいつを出せ」
「あいつ?」
「モンスターの方のお前だよ」
「モンスター、モンスターって言わないでほしいピョン。恋耳うさぎはモンスターじゃなくて純情な乙女なんだピョン」
「他人のレベルやスキルを奪う奴のどこが純情だ!さっさとあいつを出しやがれ!」
「それは無理ピョン」
「どうして」
「今は他にすることがあってここには来れないピョン」
「モンスターのくせに生意気だな」
「ご主人様は忙しい人なんだピョン」
「ご主人様?あいつはお前のご主人様なのかよ」
「しまった。私は何も言ってないよ。ピョンピョンピョン」
いまさら何を誤魔化そうとしてんのか知らねぇが聞いたもんは聞いたからな。こうなったら次に奴と会った時にどっかに縛り付けて拷問でもして吐かせるとするか。ふふっ。我ながら極悪非道な発想だ。さすがいずれ魔王になる男だ。容赦しねぇからな。覚悟しとけよ。
「なんかサブロウ怖い顔してるピョン」
そうと決まればあいつが現れる前に少しでもレベル上げしとくか。こいつの言ってることが正しいとしたら、今ならレベルが奪われないってことだから。だが……
「はぁ」
「ため息ついてどうしたピョン。悩みがあるなら聞いてあげるピョン」
「全部お前らのせいなんだからな!分かってんのか!【勇者見習い】がなくなったせいで魔剣が装備できねぇんだよ。レベルも下がってこの新しい武器も装備できねぇしよ。こんなんでどうやって戦えってんだ!」
「それなら武器を買いに行くのがいいと思うピョン」
「そう簡単に言うけどな、武器を買うにはめちゃくちゃ金がいるんだぞ。そんな金があるならとっくに買ってるわ」
「う〜ん。ならお金を稼ぐピョン!」
「はぁ?」
いきなり何を言い出すかと思えば、こいつにしてはまともな案だがそう簡単に金を稼げるなら誰も苦労しねぇての。当たり前だろ。
「さぁ早速行くピョン」
「行くってどこに行くんだよ」
「それはサブロウが考えるピョン」
「俺かよ!」
「冗談ピョン。確かギルドっていう場所があるピョン。そこで働けばお金が稼げるらしいピョン」
「ギルドだぁ。お前、あそこが今どんな状態なのか知ってんのかよ」
「いいから行くピョン」
「お、おい!引っ張るんじゃねぇ!」